甘さは人の為ならず   作:ネコ削ぎ

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アナタのその甘さ……嫌いじゃないわ

 世の中は人間の手に余る事柄で満たされている。いっぱいいっぱいでどの手綱を握れているのかも分からない。

 そもそも人間のコントロールが行き届いている何かがあるのかも知らない。操っているようで実は操られていたとか言われても驚かない。

 自然現象に振り回されているだけでなく、自分の内なる感情の動きにも振り回され、自分をコントロール出来ていない人間が思い通りに事を運ぶのは無理。

 弟を養うために頑張っていたら世界最強になってたし。

 弟はテロに拉致られる経験を得てしまったし。

 私の双子の妹は酒で失敗シテシマッタシナァ。

 そして私は決勝戦を棄権して独断で弟の救出をしてしまい、ISの世界大会の開催地プラス警備を頑張っていたドイツの面目を潰したとしてドイツ軍の教官をすることになった。

 何を言ってるか分からないと思うのだけれども、私にだって分からない。

 そもそも教官のやることが判明してない。

 指導なのかな。

 何を指導すればいいのかも分からないし、受け持たされた黒兎隊からは歓迎されることはなく、いきなり荒々しい歓迎をされることになった。

 さすが軍人強かった。

 黒兎隊はIS運用を目的とした部隊なので女子しかいなかったが、並の男子では太刀打ちできないほどに強い。

 やはり国を人を守るためには強くならなければならないのだろう。弱いことは付け入る隙を与え、全てをグチャグチャにされてしまうのだから。

 私も弱いことこの上なく、新作の甘味が店に並ぶと、財布の中身と相談することなく買ってしまう。甘いものが強すぎて勝てた試しがない。いっそのこと永遠に負けっぱなしでもいいかも。だって甘いものは正義だし。

 強くて頼りになる黒兎隊に教官なんて必要ない気がするけど、約束は約束なのだから頑張らなければ。

 

「よろしくお願いします」

 

 今日も元気な挨拶からは始まる。何事も挨拶が大事だ。

 声が小さい。

 

「……織斑教官。聴き取れませんでした。大きい声でお願いします」

 

 黒兎隊副隊長クラリッサ・ハルフォーフ。彼女の言葉が痛い。熱血系教師みたくやったのは失敗。

 無理。声帯がズタズタになっちゃう。

 

「弱すぎです。鍛えましょう」

 

 そ、そんなことよりも訓練はじめるよぉ。

 

「逃げましたね」

「逃げましたよ」

「逃げてんじゃねーぞ」

「攻撃開始!!」

 

 黒兎隊ほぼ全員が一斉に襲いかかってくる。訓練なんて何すればいいか分からないから、とりあえず組み手をする。

 ドラゴンスープレックス。

 

「ギャー!?」

 

 キャメルクラッチ。

 

「裂けちゃうぅぅ!?」

 

 カナディアンバックブリーカー……クラリッサもしかして太った?

 

「なんで私だけ!? なんで私だけぇ!?」

 

 昨日、訓練終わりに皆に食べてもらおうと思ったお菓子が減ってたんだよ。

 

「間違えではないですか!?」

 

 間違えじゃないんだな。貴女が摘まみ食いしたことは隊のメンバーから聞いてるんだから。

 

「裏切り!? 仲間を、それも副隊長を売るなんて!! それでも黒兎隊か!!」

 

 言ってることが負け犬ならぬ負け兎なクラリッサを皆が白い目で見ている。私にも向けられているみたいでヘコむ。

 

「皆平等に食べたいのに」

「副隊長だけ余分に食べてる」

「ずるい」

「だから太るんだよ、デブ」

「最後の奴ぅ!! テメーは私を怒らせ……背骨がぁおれりゅうぅぅぅぅ!?」

 

 今はこっちが怒っているんだけど。

 クラリッサを処刑し終わったら、残りのメンバーと組手をして終了。

 訓練の内容が思いつかなかった結果だ。

 とにかく実践形式での訓練。黒兎隊全員で私に有効打を一撃でも与えられたら勝ち。実にシンプルである。

 毎日のように行われる訓練だけど、私からしてみればおやつの時間までの軽い運動程度の認識だったりする。

 ドイツに留め置かれ訓練なんてしなければならないなど地獄以外の何物でもなかったが、現地のお菓子を堪能できる幸せがあれば乗り切れてしまう。

 もちろん食べるだけでは満足できずにお菓子のレシピ本も購入。

 あとは作って食べるだけ。そう思ってレシピ本を開けばびっくりドイツ語しか書かれてないから解読不可能。

 そういえばドイツだね。無理だね読めないね。

 じゃあ黒兎隊の皆に解読を頼めばいい。誰もがお菓子作りなんてやったことないらしいけど、お菓子作りで隊の連携をより強固にできそうだから強行してみた。

 結論としては部隊内での距離感は一名を除いてだいぶ縮まったのだからお菓子は偉大だ。

 

「万春教官から見てボーデヴィッヒはどうですか」

 

 訓練も終わり、黒兎隊のメンバーで恒例のお菓子作りに精を出していると、一緒に作業しているクラリッサが声をかけてくれる。

 話題は隊の問題児、ラウラ・ボーデヴィッヒのことについて。

 甘いものに興味がないなんて人間としてどうかしていると思うよ。

 

「教官の超個人的な感想はいりません」

 

 酷い。聞いたから答えたのに。

 

「真面目にお願いします」

 

 はいはいはい。そうだね、力しか興味のない馬鹿かな。まさしくパワー馬鹿だと思うよ。

 

「パワー馬鹿ですか」

 

 そう。力こそが全てと勘違いしている子供さ。単純な力で敵に打ち勝つことはできるかもしれないけどね。そうやって打ち倒すことで勝利以外に何か手に入れられるかな。

 

「勝利以外ですか。あまり思いつきませんね」

 

 じゃあ、きっと何も手に入れられないんだよ。

 

「ああ、しかし最近アイツは増長してきました。千冬教官の指導を受けてめきめきと実力をつけてきているようですから」

 

 今回の騒動の原因の一人としか言いようのない千冬をドイツ軍の教官にと巻き込んだ。カッとしてやった。反省はしていない。反省することがないから。

 一夏一人を日本に残すことは忍びないが、ブラコンな千冬にはこれくらいの罰が必要だから、一夏には我慢してもらおうか。

 しかし、千冬は誰に知られてない才能を開花したみたい。教官としてラウラを指導していけば彼女は確実に強くなっていき、ついには部隊長のクラリッサにも打ち勝っていた。

 

「いいですよ。隊長じゃなくても。いいですもん」

 

 めっちゃ気にしてる。クラリッサ明らかに不貞腐れている。

 だけど、クラリッサの支持率は高い。力だけを柱に踏ん反り返り周囲を見下すラウラに好感を持つメンバーは一人としていない。

 不貞腐れるクラリッサはきっと甘未が不足している。甘いものは人生に幸せをもたらしてくれるからグミでも食べてごらんなさい。

 

「ありがとうございます。甘くて美味しいです」

 

 元気になったね。

 千冬は千冬でラウラばかりに構いっきりはよくない。最近のラウラは自分が選ばれた者だと選民的な思考回路になっていて何故か私のことを鼻で笑ってくるんだけど。

 教えようとしていることが単純な力でないことは姉として理解できるけど、まさかの全然伝わっていないから誤解なく分かりあうって難しい。

 これからが大変だよね。

 

「もぐもぐ……万春教官が一発シメればいいと思うのですが」

 

 私を戦闘大好き体罰歓迎なバーサーカーか何かと勘違いしてないかな。

 

「……カナディアンバックブリーカー」

 

 あれは訓練だからノーカン。別に訓練以外で手は上げてないでしょうが。

 

「そういえばボーデヴィッヒがお菓子なんて軟弱な奴が食べるものだと吐き捨てていた気が」

 

 久しぶりにラウラを訓練に招待しよう。腹の底から煮えくり返る想いを全て開放してでも、一度徹底的に打ち負かして天狗になった鼻をへし折って上には上があることを教えなきゃ。

 そして甘いお菓子は正義であることを物理的に説得しに行きましょうか

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