整備室は今日も賑わっている。
変わらず整備科教師として訓練で使用されたISを相手に奮闘する生徒たちの指導しているんだけど、今日はそれ以外の人間たちも顔を見せている。
楯無、ダリル、フォルテ、そして最近になって加わったサラ・ウェルキンはいつものことなので無視するとして、整備室に顔なんて出したことのないような生徒たちが集まってきているのだ。
誰もが世界最強の顔を拝んでやろうと言わんばかり。見られているこちらとしてはいい気分じゃないんだけど直接的に邪魔されているわけじゃないから無視しておく。
特別授業で実力の一端を見せてしまったのが原因だ。
名ばかりの世界最強と揶揄される私が格下と言えども元代表三人を倒したことで生徒たちの見方が変わったと思われる。
うん、こうなるなら負けときゃ良かった。
今更になって注目されても困るんだ。だったら最初から注目しろって。いいや、そもそも注目されたくないんだけどさ。
そして注目されない為であっても負けるのは無しだ。勝敗を決することのできる戦いじゃあ絶対に勝ちにいく。
私の生まれを鑑みれば勝てて当たり前なのだ。負けるなんて考えられないし考えちゃいけない。
勝てるから勝ちにいった結果が置かれている今の状況だ。何事も勝てば解決するわけではないと教訓になる。
とにかく無視だ。無視するに限る。
用もないのに整備室に集まって、せっかく放課後を使って整備の実践的な練習をしている生徒たちの集中力が乱れている。
はい、私以外に実害が出始めちゃいました。
仕方がないので千冬に連絡して引き取ってもらおうかと思ったけど、我慢しきれなくなった楯無が注意して追っ払ってくれた。
「よぉ。さすが生徒会長様。様になってんじゃねえか」
楯無の首に腕を回したダリル。普段が普段だからダリルに言われるまで楯無が生徒会長であることを忘却の彼方へと飛ばしていたな。
「様になってなきゃ一年で生徒会長できませんよ」
えへんと胸を張る楯無。そしてなぜか嫉妬混じりに目線を向けるフォルテ。
「羨ましいっス。ひっじょーに羨ましいっス」
「……望みを捨てる必要はありません。まだ大丈夫でしょう」
フォルテの視線が求めている何かに気がついたサラが真面目な顔して慰めている。
「気軽に言えるのはサラが大きいからっスよ。強者の余裕が腹立つ。半分以上分け与えてみせるっス!!」
「無理を言わないでください。そのイヤらしい手の動きをやめなさい。それにダリルは気にせずにいるんですよね。ならいいじゃないですか」
「それとこれとは話が別っスよ。少しでも大きくありたい。女の子なら誰しも抱く願望っス」
「私は抱いたことありませんが?」
「戦争っス!!」
「なぜでしょう?」
首を傾げるサラ。心底不思議そうにしているところがフォルテの導火線に火をつけたのは言わずもがな。神速の一撃と言わんばかりに殴りかかるが、体格差に抗えずサラに捕まって即終了していた。
それを見た楯無とダリルが腹を抱えて爆笑していた。フォルテの言う強者の余裕がなせる技だ。
「いひゃひゃひゃ。それにしてもよ先生。ちょっと聞きたいことあんだけどさ」
何かなダリル。
「あんとき先生は一対三の状況にも関わらずワンオフ使わなかったじゃんか」
使うほどに追い詰められていたわけじゃないから。
「言うじゃん。結果が物語っているけど。それで素朴な疑問なんだけど、先生のワンオフってどんなのなんだよ」
「あ、それ私も気になりますね。万春先生の公式戦記録のどこを探してもワンオフ発動させるシーンがなかった。他の代表のワンオフは記録されているんですけど、先生のだけないと気になります」
互いに肩を組んだまま詰め寄ってくるダリルと楯無。
ワンオフアビリティ。セカンドシフトしたISが発現する特殊技能で、普通なら不可能な事象を引き起こすことのできる一種の切り札に近い存在。
発現したワンオフはどれをとっても強力なモノが多く、戦いの流れを一気にひっくり返すのだが、残念なことにワンオフを発現させた者の数は二桁にも上らないし、そもそも最低条件でもあるセカンドシフトに至ったISすらも少ない始末。
だから、モンドグロッソで大会上位者たちがワンオフ使える奴ばかりなのは当たり前とも言える。
私もご多分に漏れずワンオフは発現させている。そりゃあもうバリバリにワンオフの使い手でもあるんだけど、楯無が言うように公式戦でワンオフを発動させたことはない。
ワンオフ使わなくても勝てちゃうからね。二回しか使ったことないよ。
「……非公式戦でってことですか」
いいや、違うよ。試しに二回かな。
一回目は発現した時に。ヒカルノが作った新装備の試し撃ちの最中だった。
二回目は改めて、どんな効果があるかをヒカルノと調べるために。
その結果、現状必要としないワンオフであることが判明した。使わなくても勝てるので。
「気になる気になる気になります!!」
「同じくだぜ。教えてくれよ」
却下。手の内晒す趣味はないよ。
あんな反則級のワンオフなんて教える必要はない。バランスブレイカー過ぎて戦うのが嫌になっちゃうだろうし。
しかし、秘密にされると気になるのが人間だ。ダリルと楯無だけではなく、サラと彼女に抱きしめられたまま身動きの取れないフォルテすらも興味津々と熱い視線を向けてくる。
そんな目をしても教えないよ。
「減るもんじゃないだろ」
「そこを曲げて」
「教えてほしいっス」
「興味がつきません」
四人の視線を受けるのも大変なので、私は整備を頑張っている生徒たちの指導を名目に逃げることにする。逃げるが勝ちだ。