一年はあっと言う間だ。
二十歳過ぎると時間の感覚が短く感じられるというけれど、確かに一年が短く感じられてしまう。
楯無が入学してきたと思えばいつの間にか生徒会長に就任し、気が付けば二年生へとシフトアップしていくのだ。
一年とはかくも短いものか。
一年が終われば次の一年に向かって準備していかなければならないのはどこの誰であっても変わりはない。
整備科教師として二年に進学し整備科の道に進む生徒たちに何を教えていくか考え、新しく入ってくるであろう一年生にいかに整備が大変かを教え込まなければならない。
次の一年に向けて自分たちも新しい教材の用意をしていかなければならない中で、私と千冬の懸念事項は弟の進路だ。
一夏の進路事態は決まっている。藍越学園なんていうところに進学。なので進路そのものはオッケーなのだが問題は一夏そのものだ。
一夏は決して頭が悪いわけじゃないのだが、若干の楽観主義的な部分が根っこにあって油断して痛い目見るタイプだから最後の最後に大ポカして台無しにしそうで心配になる。
本人は勉強を熱心に頑張って進路は確実だろうとお墨付きをもらっているそうだが、私たちからしてみれば、いざ本番で受験票を忘れてはいかないだろうかとか、道に迷って受験に間に合わないとかないだろうか心配なのだ。
特に千冬は心配が過ぎて何故か酒に溺れる始末。酒に逃げるのはやめた方がいいと何度も言っているんだけど、全然治る気配を見せない。
私としては当日受験票の確認を厳とさせ、数日前に会場の下見に行くよう口酸っぱく言うしかない。
これじゃあ中卒で就職なんて絶対にさせられない。
しかし一夏ばかりに構ってられない。
IS学園も教育機関であるからには新入生確保の為に色々と忙しくなっている時期だ。特に毎年IS学園への入港希望者が多すぎて入試試験の会場確保や日程の調整などでてんてこ舞いだ。
幸いなことに私は関係のない立場にあるんだけど、千冬の方は駆り出されてしまっているから酒に溺れている暇なんてない。
そんなわけで私はのんびりと授業を行う日々だ。
授業はのんびりだけど身内の事情に心配だけが募る。
段々と一夏の受験日が近づいてきたが、本当に一夏は緊張感がないのか平常運転そのものだ。平常運転過ぎて流れで事故を起こしそうだ。
そして来る藍越学園受験日当日。
と同時にIS学園受験日も当日。
聞けば楯無や虚の妹もIS学園を受験するみたいで二人して心配なのかここ数日オロオロしていた。意外なのは自信満々の楯無がずっとソワソワしていたことだ。それほどまでに妹のことを想っているみたいだ。まぁ、妹の話になると暴走気味に饒舌になるのだから間違いはないか。
私は私でやっぱり一夏のことが心配になってきたので手作りのチョコレートを次から次へと口に放り込んで平静を保っている最中だ。
電話もして受験票をちゃんともったことを確認したけど、試験会場は昨今のカンニング問題を受けて前日まで試験会場が分からないとかふざけたことされてしまったんで、一夏迷子になるかも問題が一切解決されていない。
聞けば試験会場は藍越学園もIS学園も同じところという偶然。
あの新進気鋭の有名デザイナーが常識を逸脱したオレのセンスが光るぜ的にデザインした複雑怪奇な建物が会場だ。あそこは初見殺しの建物だからきっと一夏は迷子になる。迷子になった挙句におかしなことになりそうだ。
姉として勘が警告してくるんだけど、これ以上はどうしようもないので何も起こらないことを祈るしかない。
というかアイツ滑り止めの高校とか決めてたっけ。
もしかして藍越学園一本だったりするか。
だとすればやばいな。滑ったらすってんころりんで取り返しがつかない。
たしか千冬の奴が男なら背水の陣で挑まんか、と変な発破をかけていた気がする。一夏のことだから真面目に捉えて滑り止め決めてない可能性がある。馬鹿な、背水の陣は敵に策がないと知っているから行うのであって、受験がそんなに甘いものではないというのに。
時既に遅しという言葉もあるのだから、諦めて一夏が無事に受験を乗り切ることを信じるしかない。それに千冬が合格祈願のお守りを大量購入して一夏に渡しているから大丈夫だと思う。
そう思っていたんだけど、暫くして千冬から電話がかかってきた。
なんでも一夏がIS学園の受験会場に間違って入ってしまいISを誤って動かしてしまったとのことだ。
ちょっと何を言っているのか全く分からなかったけど、千冬の方もかなり混乱しているようで聞き返しても有力な情報は得られず。
私に言えることは一つ。
本番でやらかすんじゃないよ。
とにかくそこからは大変だった。
何故なら動かせるはずのないISを動かすなんて前例にないことをやってのけた男を、どこの国も放っておくわけがないから。
一夏の元へとやってくる人体実験のお誘いを千冬が頑なに拒み、私も私でしつこい人たちを追い返さなくてはならなくなった。
一夏の希少性故にあちらこちらから魔の手が伸びてくる中で、上の方で色々と議論がなされた結果、一夏はIS学園にて保護されることになった。
無理な人体実験は行われないが、男性IS装着者のデータ取りに協力することになり、そのための専用機開発が始まった。
データ取りの専用機なので万能型のISを宛がうのかと思いきや、ここでまさかのブレードオンリーな超近接戦闘タイプのISだった。千冬の要望らしい。一夏の性格上あれこれと複雑に戦略を組み立てられる柄じゃないし、元々剣道をかじっていたこともあるのでこれが一番らしい。
千冬が自慢げに語っていたので、きっと姉弟でお揃いにしたかったのだろう。千冬もブレードオンリーだったし。
そんな千冬の願望を形にしようとしたISはいまだに形になってはいない。
日本のIS制作トップの企業はヒカルノのところだけど全然上手くいっていない。世界がワンオフアビリティーの再現を目的とした第三世代型の開発を行っている。そんな情勢を日本が無視することはない。それに一夏の乗るISにも注目が集まるだろうから、日本としては技術力の高さをアピールするチャンスでもある。
我が家の弟は厄介な世界に引きずりこまれたものだ。
ちょこっとだけ束の介入を感じないわけでもないが、私も千冬も更には一夏でさえも特殊な生まれであるからして、もしかしたらそれが原因でISを動かすなんて七面倒な事態を引き起こしたのかもしれない。
どちらにしても一夏の件も面倒なことに違いないが、私にはまた面倒なことが舞い込んできている。
例えば、千冬がサプライズしたくていつまでも職場がIS学園であることを隠していることよりも。
例えば、千冬がISに関する情報を一夏に与えないようにしていたのが無駄に終わったことよりも。
例えば、実はシスコンな一夏が隠れて私たちの選手時代の映像を見ていたので多少ISについて知っていたことよりも。
例えば、一夏が家の掃除の最中でIS学園から渡された大切な参考書を表紙を確認せずに捨ててしまったことよりも。
私に舞い込んだ面倒事の方が大きかった。
後進の育成に努めよ。弟子取れって無茶言うなよ。