IS学園はエリート校であると同時に女子校でもある。女尊男卑の蔓延る昨今の情勢もあって校内には男性の姿なんて学園全体の一割に過ぎない数しかいなかったりする。
ほぼほぼ女子の花園と化しているんだけど、この度私の弟が公的にIS学園に入学することが決まったので、きっと今年は面倒な騒ぎが起こるんじゃないかと考察しておこう。
救いは私が担当クラスを持たない整備科の教員でしかないことか。千冬みたいに担当クラスを受け持って四苦八苦することはない。
しかしながら、担当クラスを持たないが故に私は生徒との触れ合いがちょっぴり少なくなる。それも二年生にもなると整備科に進む生徒としか接点がなくなるので二度と会わない生徒とかも出てくる。
つまりは弟との触れ合いも少なくなってしまうし、場合によってはほぼ会わない可能性も今後出てきてしまうわけだ。
そういう意味では千冬が羨ましい。担当するクラスに一夏がいるらしいから。と言ってもあくまで厳格な千冬ならば弟だからと甘い対応はせずに他の生徒と変わらない厳しい教育を施すに決まっている。
でも公的な目に見える部分以外では案外甘いところのある千冬は、政府が用意するデータ取りも兼ねた一夏専用のISの開発に口出ししていたりする。
千冬の暮桜の後継機と言っても過言ではない高機動近接戦闘型のIS。千冬の要望がいっぱい詰まった欲に塗れ切った素敵なISは倉持研究所で開発中だ。
なので倉持研究所は鬼気迫る勢いで働いている。馬車馬のように働いているんだけど、全然カワイソーには見えない。狂気を孕んだ笑顔を見たからかな。
対して、目の前で子供みたいに目を輝かせている篝火ヒカルノは健康体そのもの。ケーキを頬張り幸せそうな笑顔を浮かべているが、彼らと違って危険性は皆無だ。違いが気になっちゃう。
「いやー。頑張ってるねぇ。私にゃあ関係のない話なんだけどにゃあ」
ホールで持ってきたケーキが一定のスピードで消化されていくんだからヒカルノの胃袋の構造が気にならないわけでもないけど、作った身としては美味しく食べてもらえるのは嬉しい。
やっぱりヒカルノが一番美味しく食べてくれる気がする。
「千冬も罪な要求をするけど、政府の奴らも厄介な注文つけてくるよ。第三世代ISの開発に力を入れたいのは分かるけど、まさか千冬の零落白夜を再現しようったって無理難題すぎるにゃあ」
確かに。というかそもそもワンオフアビリティの再現事態が無理難題だと思うよ。理論とか無視して行われる超常現象みたいなもんだから。
「確かに。それでもさ、まはにゃんのワンオフならなんとか再現できそうじゃない。要は規模の問題なんだから」
規模。塵一つ残さず消滅させられるレベルの威力と量が必要になるよ。
「むずいね。やる気なくすにゃあ。まぁ、愛しのまはにゃんの力を他の奴に使わせる気はないけど」
話しながらもケーキは切り崩されていく。
量産型打鉄の開発という功績を持つヒカルノ率いる開発チームは世俗など知らないと言いたげだ。
本来ならば職員が一丸となって行うべき男性が装着する第三世代ISの開発を、ヒカルノたちは傍観者としてノータッチ。
曰く、あくまで打鉄の為に集められたチームでしかないので、開発には参加する義務がないとのこと。
ちなみ私の打鉄をの整備やデータ取りの為に存在するようなチームだ。宝の持ち腐れだ。
この場で最高の頭脳を持つヒカルノが参加しないためか開発のテンポは驚くほど悪い。
前人未踏の第三世代ISの開発がいかに難しいものであるかを物語っている。
こりゃあ一夏が入学するまでには完成しない。厳しい現状だ。
「今ねぇ、上では篠ノ之束の手を借りようと必死にコンタクト取っているみたいだよ。正確には束と連絡が取れる可能性のある千冬に頼みこんでいるんだけど」
できませんでした、じゃあ駄目なの。
「駄目さ。世界で一人しか見つかっていないISを動かせる男子。そいつのデータは喉から手が出るほど欲しい。日本政府としては絶対に放したくない人材だよ。他国からのIS提供なんて横槍が入らないように急ぎ専用機を作る必要があるんだよ。それも他国よりも頭一つ抜きんでるような技術力を持ったISをね」
技術力と希少な男子のアピールと他国の介入を避けたいわけか。
「へぼいの作って、こっちの方がなんて言われると危ないし、ウチとしても沽券に関わる話だから。まぁ、見てもらえば分かる通り無理っぽいけどにゃあ」
ヒカルノが手伝えばいいんじゃない。
「嫌だよ。私はまはにゃんのISだけで手一杯だからにゃ」
と言っても定期的なメンテナンスとデータの解析くらいだけどね。
「苦労しております」
嘘だと分かる嘘だね。
「なぜバレたし」
なぜバレないとおもったし。分かっていってるからお互いになんもないんだけど。
一夏のISは暗礁に乗り上げてしまったし、一夏自身もせっかくの受験勉強ばパーになった挙句に今度は全く知りもしないISについて勉強しなければならなくなった。
すげー大変。
我が弟ながら苦労人だ。
ヒカルノはケーキを食べ終わって満足。私としてもホール丸ごと食べてもらえて大満足。
「でさ。一夏くんはこれからIS学園に入学するわけじゃん」
そうだね。
「異性ばかりということは選び放題遊び放題。人生最大の春がくるんじゃないかにゃあ」
爛れてるじゃない。姉としてぶっ飛ばしてでも止めなきゃならない。
「そもそも一夏くんて好きな娘とかいるのかな。ほら……ええと……篠ノ之妹とかと仲良かったって聞いたことあるけど」
仲良いけど。一夏は一片の恋愛感情を抱いたことないはずさ。箒も箒で恥ずかしがって恋心の塵すらも見せられないどころか、照れ隠しで暴力暴言三昧。
「そっか。じゃあ脈なしだ。それじゃあ、中華娘っ子はどう。チビの凰鈴音」
一夏がセカンド幼馴染と言って憚らない少女。元気いっぱいで見ていて気持ちが明るくなるけど、こっちもこっちで照れ隠しの暴力が凄すぎて進展どころかスタートにも立てていない。
そしてスタートに立てないままに帰国してしまったんだよな。お菓子喜んで食べてくれたからちょっと寂しい。
もういないよ。
「……もしかしてマズいこと聞いちゃったかにゃあ!?」
失敗。もう存在しないことにされちゃった。