甘さは人の為ならず   作:ネコ削ぎ

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私にツン甘味にはデレデレ

 何人たりも自らの生まれは選べないものだ。選べるようなら誰だって一生働かなくていい具合の金持ちパパママのところに生まれたいはずだ。

 選べる生まれにおいて、進んで貧困な家や、厄介事を抱えている家に生まれたいとは思わないだろう。

 全てが平等になど有り得ない。不平等が世界を世界らしくしている設定。平等であれば、誰も比べやしないけど自分と他人の区別すらつかなくなるんじゃないか。

 世の中は常に平等であったためしかがないのは当たり前だ。文句言うのは勝手だけど最後には受け入れていくしかない。

 私だって不平等を嘆いたことがある。酒飲まなきゃやってらんない、なんて自暴自棄になって酒飲んで全力リバースしたけど。酒はお菓子みたいに美味しくも甘くもないから嫌いだ。

 姉として頑張りたかったのに、炊事が致命的には下手で一夏に丸投げする羽目になったときは、自分の才能を呪ったものだ。

 代わりに日常のどこで発揮すればいいのか分からない戦闘能力が授けられちゃったが、ISが世に現れなきゃマジ要らない力となっていたことだろう。

 日常に役立つ能力がいい。必要なのは現代を生き抜く力だ。戦乱の世でしか使えないものは捨てたくなる。

 不平等を嘆くの終わり。家に帰ろう。

 ドイツの甘味は粗方堪能したし、レシピ本は買い揃えた。言語は分からなかったが、クラリッサたち黒兎隊の力を借りてドイツ語は読めるようになった。

 本当は日本語訳書いてもらいたかったんだけどいつの間にかドイツ語講座を受ける羽目になって読み書きは出来るようになったというわけさ。

 ちなみに会話は無理。発音が全然分からないし、流れるような会話は全く聴き取れない。

 あまりの出来なさに、しばらく黒兎隊のメンバーが私とのやりとりに限りニヤニヤしながら筆談してきたときは全員お菓子抜きにしてやりました。

 飛行機乗って日本へ。

 やることもないからお菓子のレシピでも見てる。

 しばらく時間を潰していたら、隣の席に篠ノ之束が座り込んできた。久しぶり。

「ハロー。久しぶりだね。まーちゃん元気だった」

 

 見れば分かるでしょ。束ちゃんなら盗撮か何かしてた。

 

「してたよ。文句あんの?」

 

 なぜ喧嘩腰なのかな、とかは今更か。

 束は私を好いてはいない。理由は自然物と人工物が相容れないから。

 自らをオーバースペックと恥ずかしげもなく高らかに宣言できる束を、ちょっとしたことでシメてしまったのが原因かもしれない。

 一夏や千冬の為に丹精込めて作ったチョコレートを摘まみ食いどころか全部食いしたあげくの感想が「コンビニの買って食べた方が早くない」だったことでシメてしまったのが原因かもしれない。

 それからちょくちょく人が目を離している隙に盗み食いを働いてくるために余分に用意するようにしたら、別に求めてないからと摘まみ食いしながら言われたことに、ちょっと嬉しくなって頭撫でたのが原因かもしれない。

 常に自分こそが最高で最強の存在だと豪語してやまず、他人を超が付くほどに格下扱いしちゃっている束を、フィジカル面に限って上回ったことが原因かもしれない。

 ふむむ。心当たりがありすぎて困る。

 分からないから今は結論を保留しよう。どんな事情を抱えていたところで、千冬の唯一唯一唯一の親友であることには違いないのだから。

 

「それにしてもモンド・グロッソ二連覇ならず。いや~、まーちゃん惜しかったね」

 

 あんまり惜しくはない。優先順位は圧倒的に一夏だから。

 

「ふーん。人工物のくせに変なこと言うね。ちーちゃんやいっくんが言うのなら分からないでもないけど」

 

 変わらずの辛辣。お菓子のあげるから機嫌戻してよ。

 

「もらっておくよ。別にお菓子が欲しいわけじゃないんだからね。小腹が空いていただけなんだからね」

 

 はいはい。そういうことにしておくよ。

 お菓子を頬張る束を見ると和む。とても女性的な肉体を持つ束は男性の目をくぎ付けにできる胸を持つんだけど、普段の言動のせいかとても子供っぽく見える。

 実際に子供だと思う。何を考えているか分からないところとか、ただ世界を驚愕させるためだけにISを作り上げたところか、宇宙で活動するために作ったとその場でテキトーな理由を言ったりとか。

 子供っぽい。

 でもサイコなところもあるから無邪気な子供じゃない。邪気な子供だ。

 例えば、自分よりは劣っているから仲良くできると千冬や一夏を友達と認識しているくせに、並みでしかないと自分の両親を血のつながった他人程度の認識をしていなかったりだ。

 それでも妹の箒には愛情を注いでるから分からないものだ。

 

「あのさぁ、まーちゃんはなんで生きているわけ」

 

 突然酷いこと言う。

 

「だってさ。まーちゃんなんてちーちゃん以上にこの世界で必要のない存在じゃん。その異常な戦闘能力なんて異質でしかないよ。それも出自を考えればアウトもの」

 

 お菓子で口の中もごもごさせながらこっちを全否定。

 確かに私はそういう人間だから仕方がないかもしれない。今の世の中に圧倒的な暴力なんて役に立てられる場合なんて限られている。アメリカとかのアクション映画の中でならなんとかなりそうだけど、平穏な生活をテロで崩されるような世界観は嫌だ。

 世界が必要ないとかはどうでもいいとして、私は自分の力の及ばない範囲で楽しめているから生きててもいいかな、と思うよ。

 

「自分の力の及ばない範囲? ISでの戦闘はどう見てもまーちゃんの力の及ぶ範囲だよ。何かな、頭おかしくなっちゃった?」

 

 ISは別に楽しいとか楽しくないとか考えたことないから切り捨て。私が楽しいのはお菓子作りかな。ああ、食べるのもね。

 

「ふーん。平凡でつまらないことを楽しんでるんだ」

 

 そうかな。私からしてみれば束のやっていることの方がつまらなく感じるけど。

 

「かちーん。天才束さんのやっていることが分からないなんて凡人の悲しい性だよね」

 

 そう。人外だけど凡人だから私は。作ったお菓子を美味しそうに食べてもらえるだけで世の中は嬉しく楽しく思えてしまうんだよ。だから今この瞬間も楽しくてしょうがない。束も美味しそうに食べてくれるからね。

 

「この顔見てそう思えるならめんたまくり抜いた方がいいよ」

 

 じゃあ美味しくないの。それならお菓子の摘まみ食いや盗み食いをやめてもらえる。それに今食べているものも吐き出してくれないかな。美味しくないのならね。

 

「うぐぐ。うぐぐぐぐぐ」

 

 変なうなり声だ。ただ、私を嫌っているわりにはお菓子を吐き出すことはしない。悔しそうに顔を歪めはしても、お菓子の魔力には勝てないと見た。いつかこの顔を甘さの幸せで緩ませてみたかったりする。

 

「べ、べつにこんなお菓子美味しいとは思わないよ。でも束さんでも口に入れているものを吐き出すのが行儀悪いことは知っているから、吐き出したい気持ちを我慢して仕方なく食べてやっているだけだから。こんなの美味しいなんて思えないよ」

 

 うん、可愛い。

 必死に言い訳を口にしているところが可愛い。

 しばらく堪能しているとしますか。

 束はお菓子を食べ終わるとそそくさといなくなってしまったが、私としては飛んでいる飛行機のどこから入り込んでどこから出ていくのかとても気になったと言っておこう。

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