甘さは人の為ならず   作:ネコ削ぎ

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甘い考えで動いてみた

 衝撃の事実。

 ドイツでの教導を終えてすぐに選手として引退を宣言したまでは良かったのだが、私は選手として生きてきたものだから軽々しくも無職になってしまっていた。

 考えてみれば、千冬と一夏のことを養うことの一番の近道としてIS選手として動いてきたけど、それ以外の生き方があまり分からないかも。

 スーパーで働くとか。コンビニで働くとか。

 とにもかくにも就職の必要性に駆られていることは確かだ。

 千冬も選手を引退して職についたことだ。まさか私だけ無職というのもいただけない。

 働かざる者食うべからず。

 甘いお菓子も食べちゃダメってこと。そりゃあ不味いさ。

 そもそも一夏はまだ自立できない子供だ。あの子が社会人になるまではせめて金銭面だけでも支えていかなければならない。

 実は選手時代に稼いだ賞金とかたんまりあるけど、頼り過ぎればいずれ食いつぶすのは目に見えている。

 やはり手に職だ。

 難しい話になりそうだと思っていたら、千冬からIS学園で働いてみてはと提案された。よければ紹介しようと。

 紹介してくれるのはありがたい話なんだけど、どうして勝ち誇った顔をしているのかはとっても気になっちゃう。

 喧嘩売ってんだろうけど、買う暇があればお菓子作りに労力を割きたいと思いますので今回は遠慮しておく。終わったら覚えていろよ。このお菓子は食べさせないからな。

 しかし提案事態はありがたいものがあり、私はちょっと遠いけど人工島の上に建てられたIS学園へ就職の意思を表明することにしよう。

 スーツを新調して身だしなみを整えてIS学園での面接に向かえば、学園の真のトップだという轡木十蔵との面接だった。

 面接といっても堅苦しいことはなく、一緒にお茶しながら世間話する程度であっちは美味しいお茶を、私は持参したお菓子を互いに堪能する空間は日常の一幕。

 面接というものは企業によって差が出るらしく、世間が想像するオーソドックスな面接もあれば、つまりこれで何が知りたいのか何を求めているのか分からないような面接もある。

 今回のケースはどちらに当てはまるかと質問されたら後者だと答えてしまう。それほど面接らしくない面接だ。

 

「IS学園を預かる身として貴女のことはテレビで拝見することはありましたけど、声がちっちゃいですね」

 

 すいません、これが全力の声量です。

 

「ははは。全力の低さにびっくりしてしまいましたよ。うん、ぎりぎり日常生活に支障のない大きさでしょうか」

 

 日常生活に支障ある声量が気になるけど、そこを突くのは危険だ。だって私のことなのだから。

 

「ただ、教師として採用するためには支障が出てしまいそうです。なにせ何十人の生徒を指導するわけですからね」

 

 ですよね。そうだと思います。でもこれが限界です。突破できますけど大いに喉を傷めるので無理です。

 

「それは困りました。千冬君の紹介ということもありますし、貴女ほどの腕利きが学園にいてくれることは防衛上非常に魅力的なのですが」

 

 IS学園はISを扱う専門学校にして各国の新型ISの実験機関としての側面を持つ為に、襲撃を受ける可能性がある。数に限りのあるISは一つ取っただけでも世界のバランスが崩れてしまう厄介な代物であり、IS学園の運営は常に難航が予想できてしまう。

 何百人の学生を抱えたまま高い防衛力を持つことが難しいとくれば腕の立つ人間が重要視されるけど、私としてはあまり嬉しくはない。

 ISなんて私からしてみれば生活を維持する為の手段でしかない。千冬と一夏を養うそれだけの手段がISだったわけで高い志なんてない。

 戦闘マシンじゃねえんだよコノヤロー。

 スポーツマンシップの塊でもないんだよチクショー。

 お菓子作りが趣味な女でしかないはずなんだけど。

 

「ははは。お菓子作りが趣味なのはこのお菓子を食べれば分かります。味は有名店のものに比べると劣りますが、手作りならではの味があります。私は好みですよ。」

 

 ありがとうございます。お菓子の評価はウェルカムです。

 

「しかしならば、貴女は世界最強ブリュンヒルデの称号を持つIS選手ですから、世間の目はそれに集中しています。抑止力ともなりましょうか」

 

 さっきからお菓子に伸ばす手が止まってないんですけ。気に入ってもらえるのは構わないけど。

 

「どうしましょう。私としては採用しますと言いたいところですけ。教師として雇っていいものかどうか」

 

 ちなみに料理は無理。お菓子作り以外は素人以下ですから。

 

「素人の下にある存在が気になりますが、そうですか駄目ですか。調理スタッフも無理となると用務員……は世間が許してくれそうにありませんしね」

 

 個人的にはちょっと気になります。

 

「貴女が気になっても絶対に用務員としての採用はあり得ませんから。私も死にたくはありませんので」

 

 ならどうするんですか。売店のスタッフとか。

 

「世間の目が怖いので却下で。相応しい立場に落ち着けないといけません。まさか世界最強が売店のスタッフやってるなんて知れたら、IS学園は崩壊ものですよ」

 

 立場が邪魔をして就職活動が難航している。

 まったくISに関係のない職を選択するべきだ。でも顔知られているからどこ行っても注目を浴びる。

 

「うん。ま……なにか考えておきますので採用ということで」

 

 十蔵さんがその場しのぎで面接を終わらせた。それでいいのかIS学園トップ。

 だけど、一応無事に就職したと考えればそれでいいやIS学園トップ。

 どんな仕事を任せられるか気になるけどそれでもいいやIS学園トップ。

 さて、あとは任せてお菓子作りでもしよう。

 

「あ、次回来るときはまた何か作ってきてください。あと、面接の場に手作りお菓子持ってくる人なんていませんから」

 

 はい、以後気をつけます。

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