甘さは人の為ならず   作:ネコ削ぎ

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彼?との意思相通はできるのか

 ふと目覚める。

 広がる光景は見慣れた部屋ではなかった。

 目の前に見えるのはこれでもかと高いビル群。そのどれもが空を突かんとばかりに伸び上がって威圧的な雰囲気を作り出している。息苦しいこと。

 地面はコンクリートで舗装されていて無機質な硬さを足裏から伝えてくれる。所々に緑が見えるんだけど、自然の緑ではなくて人工芝。ある意味で手入れされている。

 ビル群の合間に見える空は晴天。だけど、ちょっとよく見れば空のあちらこちらにひび割れが見つけられる。一番大きなひび割れのところには空の向こう側に無機質な鉄の壁が控えている。

 さて質問。一体全体この空間はなんでしょうか。

 答えは目の前で行儀よくお座りしている犬が教えてくれる。吠えないでじっとしている犬はゴールデンレトリーバーで大きな体をしている。

 でもその犬はあちこちに機械のパーツが埋め込まれていて、とても世間の人々が知っているような犬じゃない。ひどく不自然な存在になっている。

 犬はゆっくりと近づいてくる。動きは犬としてはぎこちない。機械の犬だ。機械に犬の動きを再現させたかのようなかくかく動き。

 コンクリートに座って到着を待てば、犬は私の太腿に顎を乗っけて撫でろと目で訴えてくる。きっと訴えてきていると思う。うん、犬の気持ちなんて分かるわけがない。だって人間だもの。

 でも撫でます。

 犬を撫でながら周辺に目を向ければ、私に対して訴えかけてきているような気がしてならない風景がずっと続いている。いつ見ても変わらない。

 人の手によって作り出されたビル。

 人の手によって作り出されたコンクリート。

 人の手によって作り出された芝。

 人の手によって作り出された空。

 そんな人工物だらけを内包した鉄の空間。

 この空間は箱庭だ。自然に生み出されたものなんて一つもない。全てが人の手が入ってしまっている。

 この犬だってそうだ。自然の犬に機械パーツがついているなんて聞いたことない。

 そして私自身もまた人の手によって作り出された存在だ。

 おまえは相変わらずこんな場所にいるよね。

 犬の頭を撫で続ける。

 この犬は私の専用機のコア人格らしい。

 らしいというのも意思疎通ができないから。

 だって犬だし。犬が人の言葉を介したらビックリするでしょ。そういうことだよ。

 聞けばISとのシンクロ率が高いとコア人格と接触することができるようになるらしい。

 千冬も暮桜のコア人格と出会ったことがあってその人格は女性だったみたい。アリーシャもコア人格と会話したことがあると言っていたけど、会話したということは少なくとも犬じゃない。

 なんで私のコア人格は犬なんだろ。ISは装着者と分かりあうことによってセカンドシフトしたりワンオフアビリティーを発現したりするというけど、私は犬と分かりあう必要性を求められてしまっている。

 せめて犬耳の可愛らしい女の子なら意思疎通できたかも。ちなみに私にそんな性癖はないと言っておく。

 コア人格とのふれあいの時間は暫く続く。時計ないからどれくらい経過しているのか皆目見当もつかないけど、決して嫌いではなかったりする。

 おまえは何を考えているんだい。

 問いかけても犬は撫でられることに夢中で身動ぎしない。ただ、ふんと鼻息が太腿をくすぐってくる。

 うーん。犬って甘いものすきなのかな。

 分からないけど、もしも甘いものが好きであるのならなんとかしてお菓子を持ち込みたい。

 お菓子を量子変換しておけばこの空間で取り出せたりするんじゃないかな。

 考えてみてもお菓子を上手く持ち込む方法が思いつかないままに、私の意識は現実世界へと覚醒していくのだった。

 

 

 

 目覚めるとIS学園の整備室にいた。

 周囲では量産練習機として配備されているラファールリヴァイブと打鉄が並んで置かれていて、その周りをIS学園の生徒たちがツナギ姿で取り囲んで必死に勉強している。

 彼女たちはISの基本構造の説明をノートにメモしながら整備士たちの動きに注目している。

 IS学園というとIS選手の養成校というイメージが付きやすく、またIS選手を目指してやってくる少女が多いんだけど、実際に入ってみればISの構造や整備方法を学ぶことも多い。

 やはり、使うだけでなく手入れの仕方も知っておかなければいざという時に呆然としてしまうだけだから学ぶのは大事。

 それにIS関連企業に就職するのならISの知識は武器になる。操縦は知っていても整備面はからっきしなんて言おうものならどの企業も相手してくれない。ISの数に限りがあるんだから選手になれる確率も低いしね。

 私だってISの整備面の知識と技術は持っている。そりゃあメンテできないと困るし。常に整備してくれる誰かがいてくれるわけでもないのだから。

 特に専用機持ちは持たされている以上ある程度自分で見れなきゃ不味いわけだ。

 といっても重要なところはヒカルノにお願いしているけど。

 そんな私が今やIS学園の整備科の先生として所属しているのだから人生は不思議不思議の連続だ。

 声量的に難しい部分はあれど、デカい教室で大声張り上げる機会が少ないために切り抜けられている。必要とあらば拡声器使っているし。

 今はたまたま呆けていたんだけど、ほんの少し前までは何人かの生徒を前にしてISのパーツの説明をしたばかり。

 腕の装甲をばらしてコレはなんだアレはなんだと説明して、装甲の脱着のさせ方を教えたり。まぁ、元気にやっているわけ。

 千冬が選手として経験と、ドイツでの教官生活を元手に教鞭を振るっているように、私もISの整備の知識と経験、あとはヒカルノから教えてもらったことを元手にスパナとか振るっている。

 一応、世界最強の存在として認識されている私が整備関係を教えていることに生徒たちはビックリしていたのだが、そこまでビックリすることだろうか。ISに関わっている以上はあり得る可能性だと思うんだけど。

 たまにね、失敗するとモンキーレンチでぶっ叩かれるなんて噂を耳にするけど、それは千冬が原因の風評被害に違いない。体罰は駄目絶対。

 普通に考えればモンキーレンチでぶっ叩いたら怪我する。あり得ないじゃん。私は別に暴力大好きじゃないのだけど。

 数人の生徒が怯えた目でこちらを見てくるけど別に叩かないから。指導している整備士たちは苦笑しているけど誤解を一切解いてくれない。

 千冬が生徒たちを出席簿で叩いているせいで、私も同列扱いなことには厳重に抗議させていただきたい。

 はぁ、授業中だから甘いものも食べられない。

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