即堕ちストラトス   作:しが

14 / 17
ts 一ミリもねえ!


白くない白兎

織斑一夏は、まさに人生を左右する選択をする瀬戸際に立っていた。

 

どれほど鈍かろうと一夏も鈴の直球の告白が分からないわけではない。それに、リエルやシャルがキスをする意味が分からないわけじゃない。彼女たちから向けられている好意の意味が分からないわけじゃない。

 

そして、箒やセシリアから向けられる視線が彼の思い上がりでなければ、彼女たちの同類のものであると勘づいてもいた。だからこそ今一夏はこんなにも苦悩した。

 

彼女たちは美しい少女だ。そんな彼女たちに好意を向けられるのは嫌ではない。だが、それでも一夏には悩みがあった。俺は彼女たち誰か一人を選んでいいのか?…いや、そもそも選ぶ権利はあるのか?…俺なんか相応しくもないのに…と。

 

彼の自己評価は極端に低いがそれは育った環境のせいという他ならない。だが、彼には彼女たちの誰かとくっつく権利があるはずだ。誰にも邪魔されない、彼だけの権利が。

 

 

悩め、少年。君にはまだまだ時間がある。悩んで悩んで悩み切った末に答えを見出してみるがいい。

 

 

 

——————————————————

 

 

「…千冬姉、どうしたんだ?俺と箒をこんなところに呼び出して。」

 

 

崖。波の打ち付けるその場所に一夏と箒は千冬に呼ばれ、来ていた。今はプライベートのため一夏は遠慮なしで千冬姉呼びだ。

 

 

「…そろそろ時間か。…分かってるな、篠ノ之。」

 

「はい、織斑先生。…ちゃんと私が対応します。」

 

二人の謎のやり取りにはてなと一夏は首を傾げるがそろそろ何かが到着するということを彼は何となく予想がついた。それも箒と千冬が関わりある何かが。…と一夏が考察をしていると突如湾岸が揺れた。

 

「な、なんだ…?」

 

「…海路から来るとは思ったがあのバカは…。」

 

千冬は頭痛をこらえるように頭を抑えた。そして波を払い登場したのは一機の潜水艇だった。ハッチと思われる部分が開くとそこから陽気な声音とともに一人の女性が飛び出してきた。

 

 

「とぉ——————————————う!!!」

 

一夏もその声には聞き覚えがあった。もうずいぶんと長い間会ってはないがそれでも忘れるはずもないほどの印象に残っている人物だ。なるほど、確かに箒に、千冬に、そして俺に関係のあるはずだと一夏は納得した。

 

 

「ちーちゃんよ!!!束さんは帰って来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

史上最高にして最恐の天才科学者…インフィニットストラトスの生みの親、篠ノ之束その人が、この平和な臨海学校に襲来した。

 

 

「…ん??…んんん?そこにいるのは…!!!もしやしなくてもいっくん!!!」

 

 

束と目が合った。別段嫌いではないのだがこの高すぎるテンションにはやや引いてしまうものもある。だが一夏は物怖じせずに束と向かい合った。

 

「お久しぶりです、束さん…本当に久しぶりです。」

 

「いやあ大きくなったねぇ、いっくん。うんうん、ますますいい男だ。」

 

束の反応のそれは久しぶりに会った親戚のおじさんのそれだが一夏にはそんな経験はないのでそれはさておき。束は改めて本題に入った。

 

 

「さて、大変長らくお待たせいたしました状態だけれどもようやく箒ちゃんにふさわしいものを作れたよ。まあ、何はともあれ起動してみてよ。」

 

箒は束からデバイスを受け取ると起動。その新たな力を体に身にまとった。…ほうと千冬から声が上がり、一夏はその鮮烈な赤に思わず眩しさすら幻視した。

 

「それが、箒ちゃん専用機、たった一つの第四世代のインフィニットストラトス…その名も『紅椿』。」

 

「あか、つばき…。」

 

そのあまりにも光り輝く赤に目を奪われた一夏は束の呼んだ名をそのまま反芻する。…綺麗だと彼は思った。箒は普段から綺麗だがそれよりももっともっと…生きた実感すら与えるほど今の箒は光り輝いていた。

 

「…なるほど、これは強い。打鉄なんかでは比にはならない…すさまじいな。」

 

箒も箒でそのISの秘めたる力強さというものを感じ取っていた。この力が自分に扱いきれるか、自分の手に余るものではないか、色々と考えたが結局どのような力ですら彼女は自分で制御して見せると決心した。

 

「さぁさぁこんな辺鄙なところにいてもあれだし中に行こうよ。詳しい説明はそこでするからさ。」

 

 

 

——————————————————

 

 

 

「…あれが、篠ノ之束か。」

 

予想通り一筋縄ではいかない人間だ。いやもはや人間も超越した何かだ。こいつ黒幕だろって疑ってかかっても問題はない…まあそれはいい。

 

「まあ今のわたしにそちらの興味はない。興味があるならばお前だ。」

 

俺の背後に感じる気配。俺と同じ体躯、俺と同じ顔。…なるほどこれは姉妹というわけだ。

 

 

「…お前がわたしの『姉』だな。」

 

「…いえ、あなたにも、私にも姉妹はいないのですよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。」

 

「そう悲しいことを言うな、同じ試験管で育ったよしみだ。クロエ・クロニクル。」

 

 

恐らくこれ以上はないくらいに空気がギスギスしている再会だ。いや、初対面か…まさか俺がここでこれに会うとは思っていなかった。

 

「だが、そちらから近づいてきたという事はわたしに少なからず用があるということだろう。そうでなければ無視しているはずだ。」

 

「その通りです。私はあなたに用があってきました。」

 

かつかつかつという靴音。俺はそちらを振り返るとクロエがそこにはいた…本当に同じ顔だな。だが性格は真反対のようだが。これが何をしたいかというのは分かる。だが聞くまではやらせない。

 

「お前の目的は何だ。」

 

「あなたの遺伝子をこの世から抹消することです。」

 

 

クロエが俺の首に向かって注射器を打とうとする。あまりに早い動きだ、素人ならば捉えられないだろう。相手の手を手で阻み俺はしっかりと拒絶する。

 

 

「断る、わたしはわたしの遺伝子を後世に残さなければならない。」

 

お前の個人的な復讐のために、俺の未来に生まれてくるはずの子供をなくすことなんて許される筈がない。それは途轍もない傲慢だ。

 

 

「後の時代に残してはいけないものもあるのですよ。」

 

クロエが足払いをすると俺はそれでバランスを崩し、転ぶ。馬乗りになり再び注射器を刺しこもうとしてくるが、両手で注射器を押さえる。相手もまた両手の力を込めて意地でも打とうとしてくる。腹部を蹴ることで相手を密着状態から外し、そのまま俺は近接戦闘の格闘術を取る。相手も本気だ。左からの回し蹴り、頭を屈めることでそれを難なく避けてそのまま反撃へ転じる。右フック、右蹴り、左ストレートと連撃を加えていくがクロエはそれを的確に防いでいく。右蹴りを左腕でガードし、そのまま左ストレートを受け流すと俺の左手を掴み、そのままそこに注射しようとするが、俺が彼女の頭突きして相手をひるませる。その怯んだ瞬間に相手の首を掴み羽交い締めになる。クロエはその状態でも俺に針を打とうとして来る。右、左と来る注射器を顔を動かして避ける。足に刺されないようにするために、相手の膝を蹴り、強制的にしゃがみ状態にさせる。そのまま羽交い締めを続けるが、相手が俺の腰に打とうとしてきたので緊急離脱をして相手を投げ飛ばした。投げられた状態で復帰し、あれほど締め落としたのに未だぴんぴんとしているクロエ。…一方で俺はまだいけるが多少なりとも疲弊していた。いや、疲れがたまっているのはどっちも同じだ。

 

 

クロエが走る。相手の左腕を掴む。そしてそのまま回す。側転して地面に着地するクロエ。逆に掴まれる。先ほどの高速と同じ状況になってしまうがそこは慌てず、肘で相手の顎を攻撃して、そのまま背負い投げをした。相手が復帰を出来ないように体を踏み、注射器を海へ蹴り捨て、愛銃を構えた。

 

 

「まだやるか。」

 

「…ええ、まだ戦いは終わってません。」

 

この状況でそれを言うか。…いくら鈍い人でも誰の勝ちかはあからさまな光景だ。満場一致で俺の勝ちだろう。

 

「状況的にはあなたの勝ちでしょうね、ですが。」

 

煙幕がしたから発生する。クロエが仕込んでいたもののようだ。

 

「これはスポーツじゃないんですよ。」

 

足を振り払い、クロエは腰から注射器を引き抜く。そのまま衣服を超えて中のナノマシンを俺に投与しようとしていくが…

 

 

「ああ、そうだな。正々堂々の勝負など意味のないことだ。」

 

 

相手の肩を掴み、そのまま地面へとたたきつけた。CQCの直投げだ。

 

 

「お前はどうやら一つ根本的な誤解をしている。…確かにわたしたちは兵士として完璧な遺伝子を持ち育ってきた。言うならば生まれた瞬間から完成された兵士だ。…だが、お前とわたしの格闘に差がないと思ったのか。」

 

素人のものに比べれば遥かに強い。けれども、それは素人ではの話だ。他のギミックも仕込んであるようだが…

 

 

「戦い続けて来たわたしとお前とでは練度が違う。…お前の負けだ、クロエ・クロニクル。」

 

 

そして顔面パンチでクロエを昏倒させた。意識を失った彼女は握っていた注射器は地面に落ちた。…だが彼女の気持ちが理解できないわけではない。

 

 

クロエは、何よりも自分の生まれを悲観していたのだろう。自分は本来生まれてきてはならないものとでも考えていたのだろう。それで何を拗らせたのか、クロエはこの遺伝子を未来に残してはならないと考えたに違いない。…だから、このナノマシンを俺に投与することにより、俺を種無しにする算段だった。だが誤算だったのは俺が彼女よりもはるかに強かったという事だろう。結局どれだけ理論を、作戦を組み立てようと戦場でそれを成功させるのは銃を握った兵士だ。

 

「お前にはあまりの世界が見えてなかったな。参謀としては優秀なようだが兵士として落第だ。」

 

クロエは縛ったまま潜水艇に放り投げておいた。

 

 

 

——————————————————

 

 

「…さて、準備はいいですか、わたくし?」

 

…ああ、準備オーケーだよ、オレ。…ったく、なんでオレがこんなことやらなくちゃいけないんだよ。

 

 

「それは仕方ないと割り切ってくださいまし。あなたもわたくしならば…出来るでしょう?」

 

…ああ、出来るよ、だからこうやって協力してるんだろ。少しはありがたく思ってほしいね。

 

 

「自分には遠慮のいらないのですから気楽ですわ。」

 

…こいつ。

 

 

「さあさぁ、始めましょう。一人ならば出来ないこともありますが、わたくしたちは一人で二人です。」

 

 

ああ、やってやるよ。BT兵器の分割思考運用…15の操作をな。

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。