織斑一夏はこの世界の中心人物だ。彼を殺してはいけない。死なせてはいけない。…それはこの世界を知る人物ならばみんながみんな、知っていて承知していることだ。そうでなくても彼は世界でもトップシークレットの存在、最優先護衛対象なのだ。
わたしもそれには従うつもりだ。…けれども個人的な心象というものは別物なのだ。
織斑一夏、私の専用機の機会を遅らせた男。…正直、彼が悪いわけではないのだが人間そんな簡単な生き物として出来ていない。どうしても張本人の彼をそういう色眼鏡で見てしまう。恨んではいないが疎く思っているそんな状況だ。
それにこれは完全に個人の意見だが…彼を取り囲む女性関係が気に入らない。だらしない男だ。ぶっちゃけ十割がこっちだ。私怨なのは理解しているがそれとこれとは別の話だ。
正直お前は何故そんなにも美少女を囲ませられるのだ。人を惹きつける何かでもあるのか。
そう、ボクは…更識簪は考えた。正直こんなこと真面目に考察する価値もない。いや、いい。正直に言おう、ボクは、わたしは一夏に嫉妬しているんだ。性自認が男である以上彼のあの状況が羨ましいのだ。…彼が不快な人間でないことは分かっているつもりだが、一度会って見極めておく必要があった。残念だったな、一夏。君のヒロインは一人減ってしまった。惚れることすら叶わないのだから。
…彼女が、本音がその機会を持ってきた。たまたま漏らした呟きを彼女が拾ってしまった。
「かんちゃんはおりむーに会いたいの?」
「べつに会いたいわけじゃ…。」
「遠慮しなくてもわたしが会わせてあげるよー。」
…相も変わらず話を聞かない、自分のペースを地で行く娘だ、とあきれはするもの会えるというのならば個人的には絶好の機会だ。関わる機会がまずないだろうし、どんな人物かくらいは確認しておいた方がいいのだろう。これも全て彼がどのように生存できるか立ち回りを確認するための行為であり、ちょっとした個人的な好奇心だ。そのくらいはあの人も許してくれるだろう。
「はい、おりむーこっちだよ。」
「ちょっ、のほほんさん!?歩くから、結構強い力で引っ張らないで!?転ぶから!?」
間延びした声と驚愕を帯びた声。間違えるはずもなく片方は本音、片方は織斑一夏だ。なんというスピード勝負。
「…で、俺に会わせたい人って誰なんだ?」
「この先曲がったところにいるよ、可愛い子だからっておりむーは手を出したらだめだよ?」
「いや、やらないから!」
恐ろしいことを言わないでくれませんかね、一応彼はそういったものには誠実なようだが、寒気すら走るので冗談にもなっていない。冗談で済ませておいてくれ。そして足音が近づき、曲がり角に影が見える。体躯のでかい男と逆に小さい女の影だ。そう、織斑一夏がもうすぐそこに…来る。
「あ、かんちゃん。」
先に来たのは本音だ。そしてその後に、織斑一夏と対面する。曲がり角から来たその男と…遂に対面。
「のほほんさん、この娘が?」
「そうだよー、おりむーに会いたがってたかんちゃんだよ。」
…おっといけない。自己紹介をしなければ。さすがにそこまでコミュ障になったつもりはない。
「えっと、知ってるみたいだけど俺は織斑一夏、キミは?」
向こうも自己紹介をしてきてる。さすがのコミュ力ではないのだろうか。まあ、いい、自己紹介だ。
「…す…」
「…す?」
「好き!!!」
「…え?」
「か、かんちゃん…?」
あの本音すら若干引いた声音を出している。いや、今のわたしにそんなことは関係ない。
「好きです、織斑一夏。わたしは、更識簪、です。」
「あ、ありがとう?更識さん。」
困惑しながらも律儀に礼を言う彼は聖人か何かだろうか?唐突な告白にも対応できるその機転も参考したい。さて…
「とりあえずさっきのことは忘れても、いいです。あなたに興味が、湧きました。」
「はは、なんか照れるな。俺も今ので更識さんに興味が湧いたよ。」
つまりそれはもはや両想いというものなのでは…?なんだぁ?テメェ…?そもそも神的な良い人である織斑一夏がお前なんかに惚れるわけないだろうに…
「敬語は、いらない…。」
「そっか、じゃあよろしくな…えっと。」
「簪、でいい。わたしも一夏って呼ぶ。」
「分かった、よろしくな。簪。」
「よろしく…」
いや、待てよ。この人のいい青年が将来的に死ぬ心配すらあるというのだろうか。それはどれだけの損失になるのかなんて考えるまでもないのではないか?
「ん?俺の顔になんかついてたか?」
死なせていいのだろうか、いや良くない。
「顔には何もついてないけど、死相が出てる、自分の身の守りには注意した方が、いい。」
「えっ!?」
見守らなきゃ…それが出来るのは世界でわたしという一人の人間だけだ。なんとしても見守らなきゃ…これはもはやわたしに課せられた使命なのかもしれない。
「好き!!!」
「えっ!?」
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織斑一夏、衝撃的な更識簪との出会いは5月の事である。あれから彼は彼女とは一度も遭遇したことはない…と言っているが。
「…気のせいか。」
「…どうしたのよ、あんた。」
突然背後を振り返り、安心したような声を出す幼馴染の奇行に鈴は思わず問わずにはいられなかった。
「…いや、ちょっとな。視線を最近感じてるような気がするんだ。まあ大抵は気のせいなんだけどさ。」
「はぁ?何それ、不気味。」
「いや本当に気のせいだからあんまり深く考えないでくれ。」
「まあ、それがあんたの杞憂だったとしてもその視線とやらは気に入らないわね。」
銀の福音、シルベリア・ゴスペルが機能停止した翌日、鈴と一夏は買い物…否、デートに来ていた。誘ったのは鈴だ。
「どうせならお土産も一緒に選んじゃいましょ?」
あんたも送る人がいるんでしょという鈴の問いに一夏はうなずいた。あの告白以来一夏は彼女の事を意識してしまいドギマギした態度をしてしまうのだが逆に鈴はいつも通りのさっぱりした態度だ。時々挙動不審の一夏を咎めている。
「あんた…不審者みたいよ?」
「ご、ごめん。…これでも自然体でやってるつもりなんだけど。」
彼の鈴への認識は親しい友人、親愛なる幼馴染から魅力的な異性にへ移り変わっていた。鈴は今まで意識しなくても美少女とは思ってたが改めて見ると彼女は魅力的すぎる異性なのだ。
「…正直、鈴が可愛くてもう目を合わせる自信がない。」
「なっ…!」
さすがに気障すぎるセリフに恥ずかしくなったのか赤くなる一夏と、その気障なセリフを聞いて赤くなった鈴がその場に存在する。はたから見れば初々しいカップルそのものだ。
「…そ、それよりも買い物、行きましょうか。あんたもお土産買うんでしょ?」
「そ、そうだな。行こうか。結構多いし。」
「ところであんた誰に買うの?」
「まあ、弾とか、蘭ちゃんとか…数馬とか。」
「…ああ、中学の同級生組ね。」
「そうそう。鈴も久しぶりなんだから次の休日に五反田食堂に行くか?」
「んー…そうね、挨拶もかねて行こうかしら。あたしも土産を買うことにするわ。」
「良かった、弾とかも喜ぶと思う。」
「…それにお礼参りをしなきゃいけなさそうだしね。」
ぼそりと呟いたがそれは一夏も耳には届いていなかった。何故ならば一夏はまた背後を振り返ったからだ。だがそこには何もいない。いやな予感が続くものだ。
「…一夏、今はあたしを見て。そんなあるかもしれない視線なんかよりもあたしを、見て。」
「…ああ。」
さすがの一夏もこれがデートを意識していることくらいは察した。…そして改めて彼女が女、であることを意識してその後も暫くぎこちない空気が流れた。…さて、一夏は度々背後から視線を感じていた。それを彼は杞憂と思っていたがそれは違う。
しっかりと監視する人間がいたのだ。
「良い、センスしてる。」
パソコンを抱えながら袋に入った男物の下着を横に置く変態…もとい、少女、更識簪。
「あれだけ鋭ければ…あるいは。」
世界を司る最重要人物の保護という栄光な任務に(誰に命じられたわけではないが)彼女は歓喜していた。これほどかつての生と、今の生合わせようとも喜んだことはないと。
「今はあなたたちに預けておく けど、いつかは。」
わたしが、彼の身も心も保護する。
彼女の言う保護が、身も心も自分の虜にしてしまえばいつでもどこでも彼を守ることが出来る。他の誰の手も借りずに自分の手で、一人で一夏を守れると思っているのだ。いっそ彼と一つになるのもいいのかもしれない。
PCにコールが鳴った。着信元を見ると彼女の姉だ。
「…お姉ちゃん、何?」
「随分と塩対応なのはお姉ちゃんいじけてもいいサインかな?」
「勝手にいじけてて。」
「あ、ちょっと切らないで!」
「…何?」
「簪ちゃん、今どこに居るの?」
「…街が見える場所。」
「…またやってる?」
「やってる。」
「…お熱なのはいいけれどちょっと心配になるわ…それよりも専用機の方は?」
「…そろそろ完成するよ。時期的に…あの人の協力を仰げるから。」
「…………なら、心配の必要はいらないね。期待して待ってるから。」
「…うん。」
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更識楯無は妹の変化に戸惑っていた。彼女は自分の理想の姉像にのっとって行動をしていた。そのため簪に悪感情を与えることはなくむしろ姉妹仲は良好であると自負していたのだが、最近になって彼女は変わってしまった。
驚くほどに織斑一夏に執心している。何が彼女をそこまで惹きつけるのか全くと言っていいほどわからない。彼女は自分の接し方が悪かったのかと真剣で悩んでいた。
「自分ならこうであってほしいという形を押し付け過ぎた…?」
むろん彼女は悪くない。原因があるならば簪と一夏の方だ。完全なとばっちりを食らった一夏だが。だが彼女の執着が今の楯無には理解できなかった。
「…分からない。」
本来の更識楯無ならば彼女の想いをくみ取るのは…まあそれなりに時間はかからないだろうが、彼女にはある概念が邪魔になっていた。
「こういう時、ちゃんとした『女の子』ならば…!」
彼女の中でのどうにも男らしい思考が彼女の女子としての思考を邪魔するのだ。
「性転換なんかするべきじゃなかった…!!」
何だこれ
ちなみに 簪は転生TS
楯無は現地TS
ここでちょっとした整理
ラウラ…即堕ち自覚あり 転生ts
シャルロット…段階を踏んで惚れた 転生ts
セシリア…流れは原作と同じ 転生ts
箒…自覚無し 惚れてはいる 転生ts?
鈴…段階を踏んで惚れた 現地TS
簪…即堕ち自覚無し 転生ts
楯無…惚れてない 現地ts