即堕ちストラトス   作:しが

17 / 17
果たして皆さん覚えているだろうか


ハッピーエンドのその先へ

それは―――人生で初めて、生まれて初めての感情だった。

 

 

恋…愛…、それすらを超えた執着。俺の手で小さくなる彼女、こんなにも小さくて触れたら壊れてしまいそうなほど細いのに、誰よりも頼もしくてそして大きい背中。小さくて、大きい背中。矛盾しているようだが実際に彼女の背中は小さくて酷く頼もしい。だからこそ俺は彼女に甘えてしまう。彼女の好意に溺れてしまう。

 

 

 

…初めてだった。そう、彼女は人生初めての人間だった。わずか15年しか生きていない俺の人生だったが彼女が俺の人生のすべてを変えていったんだ。彼女が俺の人生を、平穏な日常を、全て奪い去って行った。だがそれは俺をある種の退屈から解き放つ鍵でもあった。

 

 

リエル、感じるか。俺はキミの傍に居るだけでこんなにも心臓が早く鳴ってしまう。胸が高鳴ってしまう。体中全ての細胞が、器官が、全てキミに夢中だ。驚いた、俺にもこんなただ一人の人間を愛せることが出来るとは思わなかった。…何時も弾に言われていた「どこか人間味の無い」という言葉。

 

 

俺に欠けていたモノ、それは…今なら言える、体中を燃え滾る、熱く、焦がすような、灼けるような感情だった。彼女(リエル)の全てが欲しい、全てを自分(オレ)の物にしたい。誰にも渡したくない。…そんな身を焦がす熱く灼ける執着…そして愛。

 

 

彼女は、俺を好いてくれている。俺はその事実だけで、世界の全てを敵にしてしまえる。勿論、キミだけいれば。もうそれでいい。キミは一目惚れをしたといつか自嘲していたね。

 

 

…いや、それは俺も同じことだった。キミに会ったその日から…キミのことを一目見たその時から俺はキミに夢中だった。

 

 

 

「…一夏?」

 

 

「…どうしたんだ、リエル。」

 

 

「…何でもない。」

 

 

嗚呼、キミのそのはにかむ笑顔だけでどれだけの俺が自制しているか。…本音を言えば俺は彼女を自分の物にしたくてしたくて仕方がないと叫んでいる。本能が理性に勝るのはまだ俺の自制心が仕事をしている証左だから。

 

 

リエル、君が好きだ。キミの髪が好きだ。普段興味が無さそうにしていてもきっちりと手入れをしている日光を受けると輝くその銀色の輝きが、髪が好きだ。

 

 

キミのその赤色の瞳が好きだ。赤く紅潮した頬とよく似合うその瞳が好きだ。キミの金色の瞳が好きだ。その目で俺を見る時、君がどんなことを考えているかを誤魔化すけれど感情が良く現れる瞳が好きだ。キミが気にしている身長が好きだ。こうしてすっぽりと収まってくれるキミの小柄さが何よりも愛しい。…キミの、全てが好きだ。好きという言葉じゃ足りない、愛という言葉も安っぽい。陳腐な言葉はこの気持ちに合わない。

 

 

「リエル。」

 

 

「何だ?」

 

 

 

「ありがとう、俺に意味を与えてくれて。」

 

 

 

人を愛する意味を、君に恋する意味を。そして、人生を彩る光を、意味を与えてくれたことに、キミと出会えたことの全てに。

 

 

 

「やっぱ、俺、リエルに会えてよかったよ。」

 

 

「何だ、今更か。…どうだ、一夏、お前の人生は楽しくなっただろう?」

 

 

 

「…ああ、本当に。本当に、な。」

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

…その日の事は今でも良く思い出す。俺にとって生涯でも忘れられない日の一つだった。もとい、俺としても忘れるつもりもない日だった。彼女が出会ってから記念日は幾つか増えたがその中でも更に特別な日となったあの日の事を俺は死んでも忘れないだろう。

 

 

 

 

「パパ?おそらをみてどうしたの?」

 

 

足元に居るのは…彼女の写し鏡。彼女が存在したんだというその証明であり形見。俺はその手を決して離さぬように力強くしかし優しく握った。掴んだ手を絶対に放さないように。

 

 

 

「いや…ママは元気にしているかなって。」

 

 

「それならきっとげんきだよ、うん!」

 

彼女と非常によく似た顔で彼女の作らなかった笑みを浮かべる。お前は彼女に似ているけれど彼女に似なかった部分も多いね。

 

 

「あのね、パパ、きょう、シャルロットおねえちゃんがくるの?」

 

 

「ああ、来るよ。だからパパと一緒に帰ろう。帰ってシャルロットお姉ちゃんを一緒に迎えよう?」

 

 

「うん!」

 

 

 

…あの日、ラウラは死んだ。この子と言う形見を残して、ラウラ・ボーデヴィッヒは、この世からの存在を消した。

 

 

 

 

あれから俺は彼女の遺したこの子を育てて来た。助けてくれたのは他でもないシャルだった。俺にはいくらでも選ぶ道があったが、それこそ引く手数多だったが、この子を育てながらだと余裕の無い仕事ばかりだった。だがシャルが俺に持ってきた、デュノア社の案件が、俺にとってすべてが理想的だった。恐らくシャルが父親を説得し、俺という人材の重要さを欲しがったデュノア社からのスカウトだった。

 

 

俺はそれに乗った。シャルがせっかく骨を砕いてでも導いてくれた結果に裏切りたくないという気持ちと…あとは俺にとって利益にしかならない話だったからだ。

 

 

 

 

俺は彼女に相応しい男になったつもりだった。しかしラウラは死んでしまった。…それは俺が一重に全てが及ばなかったから、だ。

 

 

 

だからもう何も失いたくはなかった。…皆を手ひどく振った俺がそれを言うのは何様のつもりだと思うが、それでも俺の心に決めた人は彼女だけだった。今更俺の愛は揺るがなかった。

 

 

 

「パパー、またいっしょにごはんつくろ?」

 

 

「いいよ、今度はどんなものを作りたい?」

 

 

「うーんとね、カレーライス!」

 

 

「ハハハ、良いね。よし、今度パパと一緒にカレーライスを作ろうな。」

 

 

「うん!ラウラ、頑張るね!」

 

 

 

…死んだ彼女の名は彼女の忘れ形見に受け継がれた。ラウラこそが『ラウラ』の生きた証。俺は彼女を、彼女との思い出を、そして彼女自身の全てを守るとラウラの死んだあの日に誓った。

 

 

 

「えーとね、えーとねパパ!」

 

 

「なんだい?」

 

 

「セシリアおばちゃんがこんどおいしいおかしをもってくるって!」

 

 

「おばちゃん…か。」

 

 

 

あれから10年以上の月日が流れた。皆、子供だった頃とは違い大人になり俺も老けたと実感する。最近は前髪が気になり始めるころだ。娘にハゲとでも言われたら俺は暫く立ち直れそうにもない。

 

あれから…皆、それぞれ別の道を歩んだ。俺は未熟ながら親となり、父となった。少しだけ不安もあった。俺は自分の事が手いっぱいで、子供の面倒を見ることが出来るのかと。…俺は正直かなり人生をがむしゃらに、死に物狂いで突っ走って来た自信がある。一度決めたら退くことはせず貫き通す人間という自負もある。そんな止まれない俺が子供の面倒を見れるかという不安はごく、当たり前に生まれた。

 

 

 

…けれどもそれは杞憂だった。シャルが俺を助けてくれたように、他の皆が本当に助けてくれた。

 

 

 

「千冬おばちゃん!」

 

 

「ああ、おばちゃんだぞ。どうした、ラウラ。」

 

 

「あのね!あのね!たかいたかいして!」

 

 

「ああ。良いぞ、ほーらたかいたかい!!」

 

 

 

…意外な事にラウラを一番可愛がっていたのは千冬姉だった。千冬姉も生まれて初めての姪を猫っ可愛いがりし、甘やかした。かつての鬼教官だった頃の面影はとうに消えていた。

 

 

「悪いな、千冬姉。本当にどうしても手が離せない時にラウラを見てもらって。」

 

 

「気にするな。お前の子供は私にとっても大切な家族だ。家族のためなら遠慮などしなくていいさ。」

 

多分他でもない千冬姉自身が家族という形を大切にしているんだなと実感した。結局生涯独身を貫くらしいが。

 

 

 

「りんおねえちゃ!!いっしょにあそぼ!」

 

 

「いいわよー、じゃあなにして遊ぶ?」

 

 

「かくれんぼ!」

 

 

「わかったわ、じゃあお姉ちゃんが鬼になるからラウラは隠れてね?」

 

 

「うん!」

 

 

ラウラのよき遊び相手、そして理解者となってくれたのは鈴だった。彼女の気質は非常に面倒見がよく、子供たちとも相性が良いというのは昔から理解していたがそれは想像以上に適応していた。ラウラがわんぱくに育ったのは大方の理由は活発な彼女と遊んでいたからだろう。

 

 

 

「セシリアおばちゃん!」

 

 

「…ん。い、いえ。お久しぶりですわね、ラウラ。元気にしていましたか?」

 

 

「うん!おばちゃんは!」

 

 

「………。ええ、元気でしたわよ?ところでこれ、お土産ですわ。」

 

 

「わぁ…ありがとうおばちゃん!」

 

 

「…………。」

 

 

「ス、ステイ、ステイだ。セシリア、ラウラにも悪気があったわけじゃないんだから。」

 

 

「わ、解ってますわ…」

 

 

セシリアのことをラウラは理想の淑女ととらえている節がある。彼女の貞淑な行動は幼いながらにもラウラに響くものがあったらしく理想の女性、なりたい女性にセシリアを名指しするほどだった。…本人は無自覚なおばちゃんで大変ショックを喰らっているが。

 

 

 

「良いか、ラウラ。まずは…」

 

 

「ほうきおねえちゃんむずかしいよ…。」

 

 

「む、そうか…ではちょっとやり方を変えようか。」

 

 

 

 

教育面で非常に貢献したのは箒だった。彼女も昔は若さゆえの過ちがあったらしいが年を重ねるごとに落ち着きが増していき、今じゃIS学園で一番の人気教師だ。そんな現役教師の授業はラウラのためにも非常に良い。このまま天才にでもなれそうだ。

 

 

 

「シャルおねえちゃん!」

 

 

「なーに?」

 

 

「よんだだけ!」

 

 

「フフッ、そうかい。じゃあ…ラウラ。」

 

 

「なーに?」

 

 

「呼んだだけ、だよ。」

 

 

ラウラが実の姉のように慕う人物と言えばそれはシャルを差し置いていないだろう。シャルも年の離れた妹が出来た感覚で彼女と親身に接している。良き見本は沢山周りに居たが、本当に姉と思っているのはシャル一人だろう。

 

 

 

 

…子供の成長は早い。ラウラはいろんな人間の影響を受けて人格が形成され、そして健やかに育っていく。これからもラウラはどんどんと成長していくだろう。やがて反抗期が来るかもしれない、俺はラウラに妙に嫌われてしまうかもしれない。それでも俺は彼女の未来が楽しみだった。子供の成長を喜ばない親はいないのだから。

 

 

少々親ばか気味になってしまったかもしれないが、それでも俺はラウラの事を愛している。『ラウラ』は死んでしまったが、それでもラウラは生きている。彼女の生きた証を俺は紡ぎ続けたい。それが俺の今の望みだった。

 

 

 

 

「とーちゃく!!」

 

 

「ああ、到着だ。いいかい、ラウラ、まず家に帰ったら?」

 

 

「おやつ!」

 

 

「の、前に?」

 

 

「てあらいとうがい!」

 

 

「正解。」

 

 

わちゃわちゃとラウラの髪を撫でる。ああ、本当にこういうところは彼女によく似ているものだ。俺はこれからも歩んでいく。

 

 

 

ガチャリ、ラウラが扉を開ける。

 

 

 

「たっだいま――――!!」

 

 

元気に飛び込むラウラ。彼女が向かうのは一つだ。俺もその後をゆっくりと追う。そこに居るであろう人物を見るために。

 

 

 

 

 

 

「相変わらず元気ね。…お帰り、ラウラ。―――、一夏。」

 

 

 

変わらず彼女たちと歩んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ―――――――――

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ただいま、リエル。」

 

 

この愛おしい妻と、娘と。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――即堕ちストラトス―――――完!!

 

 

圧倒的、完ッ!!




もうちょっとだけ続くんじゃよ。

織斑一夏 27歳。20歳の時、世界を救い、そのままリエルとゴールインを果たした。

織斑リエル 26歳。同じく20歳の時に一夏にプロポーズされそのままゴールイン。ラウラという名前を娘に譲ると共に、正式にリエルとなった。


織斑ラウラ 6歳。ラウラの名前を継いだ二人の娘。パパとママとお姉ちゃんたちが大好き。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。