即堕ちストラトス   作:しが

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真面目にやった結果がこれだよ!


隊長 真面目にやってください

「それじゃあ、デュノア君は篠ノ之さんと、組むという事で決定しておきますね、報告ありがとうございます。」

 

「いえ、山田先生こそありがとうございました。」

 

職員室から退室するシャル。結局彼女は溢れた箒と組むこととなりその旨を真耶にへと報告していた。手続きが完了しもうそこに居る必要もなくなったので彼女は退室し、職員室前の廊下を歩いていた。階段に差し掛かろうとしていた昇降口。現在は放課後という事もありそこに人通りは彼女以外なく非常に静けさを保っていた。耳を澄ませば遠くから部活に精を出す生徒達の声を聴くことも出来る…わざわざこんなところにいる必要もないか、と彼女は嘆息するとそのまま階段を降りようとする…

 

 

「作り笑いが過ぎるぞ、シャルル・デュノア。」

 

「へぇあ!?ぼ、ボーデヴィッヒさん…。」

 

背後にラウラがいつの間にか回り込んでいた。気配も感じなかったため唐突に声をかけられたシャルの体は震えた。

 

「ボーデヴィッヒさん、ボクに何か用かな?」

 

「息が乱れてるぞ。尤も微量だがな、それにいつものトーンよりも声が上ずっている。決め手にごく少量だが冷や汗を掻いてるな。自分では誤魔化せると思っていても自分の手が及ばないところはいくらでもある、スパイを名乗るくらいならば自分の体には気を配っておくんだな。」

 

「…ボーデヴィッヒさん?」

 

「少し顔を貸してもらおうか。シャルル・デュノア、いやシャルロット・デュノアの方がいいか?」

 

「…分かったよ。」

 

 

その名前を出されてしまった以上、今の彼女に断るという選択肢はなかった。場所が移り、寮舎。ラウラの部屋。

 

 

「ここならば音が漏れる心配も誰かに聞かれる不安もない。盗聴、盗撮されてないかも既に確認済だ。遠慮はいらないぞ、上がるがいい。」

 

「…どうも」

 

 

シャルはすっかりと警戒しきっていた。未知の出来事への不安と目の前の少女が何を考えているか読めないことに起因している。シャルは上がると膝を崩して座った。

 

「正座は苦手か、奇遇だな。」

 

「…ボーデヴィッヒさんも?」

 

「ああ、あの形は何度やっても足が痛む。西洋に生まれた者の宿命だな。昔は(・・)すんなりと出来ていたはずなのだがな。」

 

 

…この人はこちらに何かを悟らせようとしている。シャルは確信した。そして彼女は自分の意思なく身に付けさせられた卓越した頭脳を行使し答えへと導く。

 

 

「それで、話というのは?ボーデヴィッヒさん。」

 

「まあ待て、時間はまだある。そう事を急いても良いことはない。茶が入るくらいは待っていろ。」

 

彼女は、急須を見ながら答える。彼女はドイツ人だ。シャルの知識が正しければ軍隊から一度も外に出たことはない、故に世間知らずだったはずだ。だが今彼女がやってるのは日本由来の茶の淹れ方。千冬の影響を受けてそうなったといわれればそれまでだが…あのブリュンヒルデは家庭的なことは壊滅的だ。一夏にほうじ茶の趣味があろうとも千冬にはあまりないと予想できる。

 

 

「…できれば用件は早めの方がいいかな、ボクもそこまで暇ではないから。」

 

「それについては謝罪する。だがこちらとしても確証のないことを言い無駄な情報を漏らすのは避けたいのでな、言葉選びは慎重なんだ。そうだな、ことわざで例えるならば『石橋を叩いて渡る』だ。」

 

(————————また!)

 

彼女はやけに日本に対して理解がある。そして詳しい。彼女はドイツから出たことはなかったはずだ。だが、シャルルの本名を理解していた。調査した、ならば元も子もないが仮にもデュノア社の秘匿事項。そう簡単に漏れるものではない、彼女はそれを知っていた。そして何よりも気になるのは、正座関連の話題の時に言っていた言葉「西洋に生まれた者の宿命だな。昔はすんなりと出来ていたはずなのだがな」という言葉だ。彼女は正座はからっきしといっていたが、昔とも言っていた。つまり正座が出来る昔があったという事だ。…そして日本への知識が豊富と来た。…これから導き出される答えは。

 

 

「…ああ、ようやくわかった。ボーデヴィッヒさんはこれを伝えようとしていたんだ。」

 

「…辿り着いた、か。では答え合わせと行こうか。」

 

そう宣言する彼女の顔は笑っていた。非常に楽しそうに。

 

「シャルロット・デュノア、お前に一つ良い話を持ってきた————————————————」

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

時刻は夜、そろそろ規定の就寝時間のころだが、それまでにはまだ余裕がある。俺は、それまでにやらなければいけないことがあった。既にシャルロットには話はつけてある。今の彼女は十分説得に応じてくれるだろう。一夏の部屋の前にへとたどり着く、そしてノックする。暫くして扉が開き中から一夏が出てくる。

 

「ラウラ?どうしたんだ、こんな時間に。もう就寝時刻に近いぞ?」

 

「夜分遅くにすまない、だがこれだけは確認しておきたくてな…入っても?」

 

「いいよ、全然かまわない…けどシャルル 遅いな…。」

 

「彼にはあらかじめ話をつけている。私が連絡するまで戻ってはこない。」

 

「そうなのか?…まあとりあえず入ってくれ。」

 

一夏に招き入れられ彼の部屋にへと上がる。そしてフローリングに腰を下ろす。一夏がお茶を淹れてこようとしたが断った。

 

「時間はとらせん。一つ質問したかっただけだ。…これを聞かない限り今の私は明日から満足できずに終わる。」

 

「…それで、質問ってのは?」

 

「私にとって力とは、強さだった。圧倒的な織斑教官の強さこそが力だと、思っている。全てを凌駕するあの高みへと至る強さこそが『力』と思っていた。だが違った。結局力とは何なのか、その答えが未だ私は見出せん。」

 

あの背中にあこがれて強くなりたいと必死に食らいついてきたのはいい。強くあることはいい。だが真の力とは何なのか。俺のことは建前だ。俺が知りたいのはかつて愚かなほどまで嫌悪していたこいつの守る云々の真意だ。

 

「お前にとって力とはなんだ?奪う力か?侵す力か?何人にも及ばぬ領域まで上り詰めることか?…教えてくれ一夏、織斑一夏。今この場で、俺に教えてくれ。」

 

 

一夏は数秒躊躇するとやがて頷く、警告のように先に告げて来た。

 

「多分俺は今から身の丈に合わないこと言う。聞いていて生意気だ、って思うかもしれないけど…それでもいいか?」

 

「構わない。」

 

「…俺は物心ついた時から家族は千冬姉しかいなかった。特に小学校の時は一番大変だった。千冬姉はその頃、ようやく今の俺と同い年くらいだった。それだっていうのにさ、深夜までバイトを詰め込んでいつも帰りが遅かったよ。」

 

目に浮かぶようだ。一夏はその夜遅くまで姉の、織斑教官の帰りを待っていたのだろう。

 

「自分が不幸だとかは思ったことがないけどな。千冬姉がいてくれたし、箒がいてくれた。鈴もいてくれたしたくさんの友達もいてくれた。決して孤独なんかじゃないのは俺もちゃんとわかってた。…けど、やっぱり一番身近で俺を見守っていてくれたのはやっぱり千冬姉なんだよ。世間じゃ最強のブリュンヒルデって畏怖されてるけど俺にとっては千冬姉はずっと守っててくれた千冬姉でしかないんだ。」

 

彼の、姉への織斑教官への信頼と感謝を俺は今痛いほど感じ取れる。織斑教官には俺も同じような想いを抱いてるからといえば聞こえはいい。

 

「確かに千冬姉は強くなったと思う。それこそ俺が届かない領域にはな。…けど、なんであんなに強くなれたか勝手に想像すると多分千冬姉は『守る』ためだったと思う。」

 

 

…ああ。納得がいく。人は大切なモノのためならばどこにでも行けるものだ。

 

「男のプライドっていうかさ、ただの憧れに過ぎないけれど俺は千冬姉みたいになりたい。…けど、千冬姉になりたいわけじゃないんだ。俺は千冬姉にはなれないしな…だから千冬姉みたいに『守り』たいんだ。そんな全部なんて贅沢なことは言わないさ、けどいつか俺が守れるだけの『力』を手に入れられたら、千冬姉に『今まで守ってくれててありがとう、今度は俺に恩返しをさせてほしい』なんて言いたくてな…もっとも今の俺もまだまだ守られてばっかだ。多分これからも守られる。」

 

己の未熟さを理解してもなお彼は。

 

「馬鹿な行動もすると思う。感情で動いちゃうタイプだからな。…だけどそれでも『力』を持てるっていうなら俺にとってその力って言うのは『守る』こと、何だと思う。…正直漠然とし過ぎて俺にもまだよくわかってないけどな。…これが俺にとっての『力』の答えだよ。」

 

 

…だがまだ聞いておかなければならない。

 

「…野暮なことを聞くようだが、お前にとっての守りたいもの、とは?」

 

「全部、なんて聞こえの良いことを言うつもりはない…俺が守りたいものは俺の手の届く範囲の全て、かな。家族…友達、クラスメイト、この学園。こんな未熟者の俺を好いてくれる人。…ラウラ、お前もだ。」

 

 

「…お前は、俺を…わたしを守ってくれるのか?」

 

 

「ああ、俺が守ってやる。」

 

 

…ああ、今まで押しとどめていたすべてが瓦解する。凍り付いていた大地はやがて溶けて行った。そんな心境だ。…お前は凄いよ、一夏。俺なんかじゃ勝てない。偽善者なのかもしれないし、世間様から言わせれば綺麗ごとにしか聞こえないだろう。だが、それを張り続けようとするお前は凄いやつだ。口先だけの言葉ではなくちゃんとした信念で守ることを望んでいる。…これから失敗がいくらでもあるだろう。だがそれはいくらでもカバーが効く。それを支える人間がいればだ。

 

 

「…まいったな、これは完全にわたしの負けだ。」

 

 

「…負け?何のことだ?」

 

 

「いや、気にするな。…さてそろそろ戻るとするか。」

 

俺は立ち上がり玄関にへと向かう。靴を履き一夏にへと振り返る。

 

「今回はいい話を聞かせてもらった。感謝するぞ、ようやく答えが出そうだ。」

 

「そうか、なら良かった、かな。ちょっと気恥ずかしい気もするが。」

 

「誇れ、お前はそれに値するさ…明日、わたしに言った通りちゃんと示してくれよ。」

 

「ああ、勿論だ。俺だって男だからな、二言はない…」

 

さと彼は言いかけたのだろう。そして俺は、彼の顔を引っ張った。そして、唇を重ね合わせた。ごつっと歯が当たってしまった。今までのキスに比べると幼稚なものだ。

 

 

「…また、明日な。伴侶よ。」

 

そして照れくささに顔を赤くしながらそのまま一夏の部屋から走り去っていった。

 

 

 

 

————————————————今日、初めて わたしの意志で一夏にキスをした。

 




一夏「ボクっ娘もいいけどオレっ娘もいいな」
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