即堕ちストラトス   作:しが

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戦闘描写はストレス必死なのでカットして初投稿です
ねこはいます


あなたに欲しくて

ボクが、事の顛末を語ろう。結局トーナメントで優勝したのは、一夏とラウラのタッグだった。準決勝でボクと篠ノ之さん、決勝戦でオルコットさんと鳳さんと当たったわけだけれど…なんというかまあ、圧倒的な強さ、というべきだっただろうか。元々一人で代表候補生二人をあしらっていたラウラが絶好調かつ連携をしたならば相応の強さを手に入れる…というわけだが、でも量子化はちょっと聞いてない。

 

一夏も筋が悪いわけではなく短期間とはいえラウラの軍隊仕込みの訓練を受けていた。そのため彼の成長速度には目を見張るものもある、今のボクがタイマンで彼に勝てるだろうか。軍隊仕込み特訓を通じて抜群の連携力を手に入れた彼らに一年生で勝てるグループはあるわけもなく…まあ彼らが優勝した。多分全学年共通とかだったら生徒会長に沈められてただろう。これから彼はもっともっと強くなる、その強さの果てが何なのか少しばかり興味はあるけどそれで破滅しないことを願うばかりだ。

 

彼が優勝したことで、A組はそれこそ祝賀ムードだ。今こうやって大規模な祝賀会が行われている…優勝できなかったのはそれなりに悔しいけれども、VTシステムにラウラが侵食されなかったのはまあとりあえず良かったと思う。

 

 

「織斑君の優勝を祝して!」

 

 

乾杯!!!という声が響き渡る。肝心の一夏は囲まれて質問攻めにあっている。あれじゃあ暫くは近寄れなさそうだ。女は三人集まるとやかましいっていうけれどこれはそれ以上だね。…彼に話しかけられないんじゃ仕方ないしボクに飛び火する前に避難しておこう…ラウラが隅っこにいたのを見た。彼女に声をかけて、隣にボクは座った。

 

 

「いいの?主役がそんなところで。」

 

「笑わせるな、主役はアイツだ。私はあくまで華を添える役に過ぎない。」

 

確かにラウラの言うとおり、みんなの関心は一夏のようだ。ラウラに対して淡白すぎるんじゃないかという見方も出来るけど近寄るなオーラを醸し出してのは彼女のため特にラウラも文句はないんだろう。

 

「何を食べてるの?それ。」

 

「シュヴァイネハクセ。」

 

「初耳、どんなもの?」

 

「なんてことないただのロースト豚足だ。まあそれが好きな味なのだが。」

 

よく見ると彼女の容器の中には麦芽色の液体が入れられている。

 

「この程度じゃ酔いはしない。見た以上お前も共犯だ。」

 

それが何か理解するとあろうことか彼女は脅迫してきた…というのは彼女なりのジョークだろう。

 

「ノンアルコールだ。シュヴァイネハクセにはこれが一番合う。欲を言えばドイツの本場の物が欲しかったが。」

 

「そこまでは贅沢だよ。…それで、良かったの?一夏を独占しなくて。」

 

「…オレはそこまで独占欲は強くない。」

 

勘弁してくれ、と彼女は考えているだろう。からかうのもほどほどにしないと手痛い反撃を食らいそうだ。

 

 

「でもラウラはこれで良かったんだ。VT関連のことをやらなくて。」

 

「…やる必要性もない。それにやる状況を作り出すのももう無理という話だ。本国にシュヴァルツア・レーゲンは送り返した。クラリッサの口利きもある。あの紛い物が積まれてるという事実はすぐに明らかになる。」

 

「まあそうだね、転入したあの日からすべてはおかしくなった…っていうわけだけど、なんだかんだで元通り、かな?」

 

「過程は違うが結果は同じだ…で、お前の方はどうするんだ?」

 

「ボク?…明日、転入するよ。」

 

「…そうか漸く向き合う覚悟が決まったか。」

 

「うん。ボクが今までさんざんと目を逸らしてきたものを一つずつ片付けていくことにするよ。なんだかんだで君に助けられたよ、ありがとう。」

 

「ふん、オレがやったわけじゃない。どこぞの体が打算含めてやった結果だ。だがもし恩を感じる、というのならば一つ頼みごとを聞いてもらおうか。」

 

…まさか横暴な要求がされるわけ…ではないよね。

 

 

「お手柔らかにお願いね。」

 

「難しい話じゃない。これは私の部屋の鍵だ、持っておけ。」

 

「ああ…なるほど、代われってことね。…でも、今夜だけだからね。敵に塩を送るのは。」

 

「ああ、これでオレたちの関係は清算だ。後は対等に好きに競え、譲るつもりはないが。」

 

 

やけに男らしい物言いの彼女の手に「ボクと一夏の部屋の鍵」を滑り込ませるとボクはその場から離れる。まあ今日ばかりは彼女の好きにさせてあげるとしよう。負けたのはボク、なのだから。

 

 

 

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「な、なんでラウラがここに…?」

 

「まあそうあわてるな、嫁よ。」

 

目の前には半裸、風呂上がりの一夏。多分シャルルがいると思っていただろう。だが残念、いるのはわたしだ。滴り落ちる水滴が…セクシーだぞ、一夏。だがそんなことをやりに来たわけじゃない。

 

「兎にも角にも服を着て髪を乾かせ、風邪をひくぞ。」

 

「お、おう。分かった…。」

 

そうして素直に従う彼はとてもいい人間に見えて…いや実際に良い人だけどね。彼が急ぎ気味に着替え終わり髪を乾かすのを見届けると一夏がフローリングに直で正座した。

 

「…改まってどうした?」

 

「なんか大切な話をされるかと思って。」

 

「するのは間違いないが…」

 

だんだんと彼も勘が鋭くなってきたようだ。まあそれはそれとして、就寝まであまり時間はない、さっさと話そう。織斑拳は御免だ。それにシャルロットにも迷惑をかけることになる。

 

 

「お前は、私の名前を知っているか?」

 

「名前?そりゃラウラ・ボーデヴィッヒ、じゃないのか?」

 

「それは私という個体に与えられた識別名のようなものに過ぎない。わたしの名前はC-0037、だ。」

 

「それって…」

 

「識別番号、だな。わたしは言うならばただの人工物だ。人間の生命の神秘に生み出されたわけではない、人工的に掛け合わされた遺伝子により生まれた。」

 

自分の追い立ちを明かす。だがこれはあくまで導入に過ぎない。ここからが本題だ。

 

「わたしに与えられた名前は、C-0037(識別番号)ラウラ・ボーデヴィッヒ(識別名)だけだ。一度も本物の名前を持ったことはない。だからわたしは、名前が欲しい。」

 

「…名前。」

 

一夏は考え込む。名前なんか誰でも持っているものだ。わたしも持ってはいる、だがこれは真実の名前じゃない。ただの記号と何の違いもない。誰かに機械的につけられた名前ではない、誰かに愛を込められてつけたられた名前が欲しい。

 

「今すぐに、とは言わない。だが一夏、わたしの名前をお前に考えてほしい。お前以外に頼むことではない。だから、わたしに、新しいわたしという存在に名付けてくれ。それまではこのラウラという名前で呼ぶがいい。」

 

「…。」

 

黙り込む彼、本当に唐突な話という自覚はある。彼は回答に困っているだろう。

 

「すまないな、急にこんな話をして。だが心のどこかで覚えておいてくれたらわたしは嬉しい。いつか見失うこともなくなるだろう。」

 

「…リエル。」

 

「…何?」

 

彼がぽつりと粒やいた言葉がわたしの耳に入ってくる。

 

 

「『リエル』なんてのはどうかなって…『ラウラ』っていうのは月桂樹っていう意味なんだろ?」

 

「あ、ああ確かにそうだが。」

 

「で、月桂樹はフランス語で『ローリエ』、英語で『ローレル』っていうんだ。…単純な命名だけど造語にして『リエル』。」

 

…なんというかまあ呆れたを通り越して尊敬すら覚える…お前は何故そんなに口説き文句を持っている。百八式なのか…

 

 

「ふっ…リエルはカンボジアの通貨だぞ。」

 

「え、そうなのか…。」

 

そこまで考えてなかったのだなお前は…だが。

 

「だが、お前がつけた名前だ…悪いはずがない。」

 

 

リエル、心の中で復唱する。随分と洒落た名前が出来たものだ。ある種のセンスを感じるぞ、一夏。

 

 

「リエル、この名前はわたしがわたしであるための、わたし自身を見失わないための指標だ。ややこしいかもしれないが普段はラウラと呼ぶといい…だが、二人の時、わたしとお前の時だけはこの名前で呼んで欲しい。」

 

 

 

そうだ、オレは、わたしは、ラウラ・ボーデヴィッヒとは違う。たとえ同じ名前を受けていても同じ姿であってもオレは彼女とは違う道を行かなければならない。そしてその先にオレは、わたしはこいつを手にいれなければならない。いつまでも燻っているわけにもいかない。オレはオレの道を行くんだ。感謝する、一夏。お前のおかげでその道を見失わずに進んでいける。この名前がその道の第一歩だ。

 

 

「ラウラ…。」

 

「おっと、ここにいるのはわたしとお前だけだ。遠慮することはないぞ。」

 

「り、リエル…なんか恥ずかしいな、自分で考えたものを呼ぶって…。」

 

「ふっ…初心だな一夏。だがそれすらも愛しているぞ。」

 

 

それほどまでに今のオレには目の前の男が愛しく思えた。…ああ、なんというかまあ我ながらちょろい結末だ。だが本能は乗っ取ろうとしない、今動いているのは理性の意志だ。つまりオレの意志だ。…ここまで来たら止まれはしない。

 

 

一夏をベッドに押し倒す。就寝時間だ。電気を消す。後は俺達を照らすのは窓から漏れる月明りだけだ。彼の上に覆いかぶさり唇を求めていく。数十秒の長いキスが終わる。おそらく今の彼はいつも以上に受け入れ度が高くなっている。

 

 

「リエル…。」

 

「安心しろ、一夏。その手の知識はお前よりも深い。それにこの場では音は漏れない。鍵も閉めた、カメラも盗聴器もないのは確認済だ。邪魔は入らない。」

 

 

「まさか…。」

 

 

「今更止めてくれるな、お互いが初めてだからそこは許しておいてくれ。…なに、リードしてやる。」

 

 

 

月夜に映し出される二人の男女の影がやがて覆いかぶさり、一つになっていた。それはまるで小説の一ページのように美しく、そして何ともため息の出る光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「な、なにも出来なかった…」

 

 

 

翌朝すっきり寝てしまった彼女が落ち込んでいる姿が見られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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