即堕ちストラトス   作:しが

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見えた!この好機を逃さない!


令嬢の見る夢

「あんたを父親とはもう呼べない。」

 

いつだったか、言ってしまった心無い一言。けれども、あの時の自分は我慢ならなかった。何故父があんなことが出来たのか、なぜその扱いのままあんたはいれたのか、本人じゃないのにひたすらそれが許せなかった。そしてそれに甘んじてる父親が一番許せなかった。

 

 

「妻に対して頭を下げて一歩下がる父親がどこにいる!?夫婦って言うのは対等であるべきってあんたが言っていたのを忘れたのかよ!そんなに女尊男卑の波にのまれたのか!?…あんたと話すことはない、もう父親と思うこともない。…尊敬出来ない人間にあんたは落ちたんだよ。」

 

 

父は何も言わなかった。落ちたという自覚があったのかは知らないが、反論をしようともしなかった。腑抜けに落ちてしまったあの人が当時は許せなかった。あの時は言い過ぎた、そう思って何度も謝ろうとした。けど父はこちらを避けたしこちらも父を避けた。父との関係がとっくに瓦解してしまったことを改めて思い知った。母は父と自分の間に何かあったのか察していたようだが仕事人間だったためこちらに口を出してくることはなかった。口を出していれば案外上手くいっていたのかもしれなかった。

 

だが結局父に謝れず永遠の別れを告げることになった。十歳の時だった。両親が仕事で乗った列車が脱線事故を起こし、生還者の名前に両親はいなかった。そして遺されたのは莫大な遺産と、それを狙うあくどい大人たちだけだった。

 

 

 

 

「…オレの一言が父と母を殺したんだ。…こんな自分なんていらない。無力で弱い自分なんていらない…ただ強くならなければいけない…。オレなんかいらない。」

 

 

 

それは傲慢だ。オレの一言で両親を殺したというは傲慢な思い込みだ。けど、結局謝れずに別れてしまった。それは幼いオレを追い詰めるには十分すぎる出来事だった。何故父に意地を張っていたのか、何故早く謝れなかったのか。結局オレは答えを出すことは出来なかった。いや、本当は出ていたのにそれを認められなかった。素直じゃない人間は本当に厄介だ。

 

 

オレはオレを不要と判断した。それまでの全ての自我を消去し、不要と判断された記憶を消し、強くあれという意志だけ残してオレは消えた。後は彼女に全てを託した。

 

 

 

こうしてわたくしは生まれた。

 

 

 

 

————————————————————————————————

 

 

 

バサリと落ちる掛布団の感覚。目に映るのは自分の両手、それは見慣れて来たものでるのになぜか新鮮な気持ちになる…けれども今はそんなことはどうでもいい。とにかく今は言わずには居られない。

 

 

 

 

「お…思い出しましたわ!!!!」

 

 

「オルコットさん、うるさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出した、何の影響でトリガーが外れたかはわからない、けど思い出した!

 

 

 

セシリア・オルコット…つまりわたくし、そしてオレは転生者だった!!というより何故そんな重要なことを今更思い出した!忘れた理由は知っている、オレは両親に反抗的だった、それが嫌で意図的にオレという自我を封じて自己暗示によりちゃんとした「セシリア・オルコット」を作り上げた。転生者という記憶は意図的に封じたから今まで全く思い出さなかったのは予定通りだ。むしろそれでいい。

 

 

だが…何故、今さら思い出した?なぜ今更オレは蘇った?むしろ戻らなかったらよかったのに。疑問符が止まらない、何故オレは今更ここにいる?全部セシリアに譲りもう戻ってこないはずだった。けれども気が付いたら記憶が戻り自我が戻り今オレとしてここに存在する。セシリアの自我を削り取ってオレが現れた。…考えるだけ無駄なのかもしれない、神様のクソ野郎め、何故オレを眠らせてくれなかったんだ。

 

セシリアとして過ごした6年間の記憶、彼女の動作、それらは全て体に染み付いている。だが今ここに異物であるオレの自我が復活した。

 

 

 

「あ、セシリアー、そこで何頭抱えてるのよー!」

 

 

声をかけてくる明るい声音、間違いない鳳鈴音だ。

 

 

「なんでもない…いえ、何でもありませんわ、鈴さん。」

 

慌てて口調をセシリアに訂正する。ここで男の言葉遣いを使っちゃ彼女の不信感を刺激する結果しか待ってないし無難にだ。大丈夫、ちゃんとセシリアとしての6年間の記憶もちゃんと受け継いでるから恥じらいもなくわたくしと名乗れる。サンキューメモリー。

 

 

 

「そ?ならいいけどさ、早く食堂行きましょ、そして買い物に。」

 

そうだった、確か今日は水着を買いに行く予定だった。こうなってしまった以上仕方ないが怪しまれないようにふるまうしかない。

 

 

「ええ、分かっていますわ、まずは朝食を食べてしまいましょう、腹が減っては何とやらですから。」

 

「へぇ意外、あんたもそういうことわざ使うのね。」

 

「意外ですか?英語にもちゃんとことわざはあるのですよ。An army marches on its stomach.(軍隊の進軍は腹次第)ですわ。では、まいりましょう。」

 

 

そうして鈴の後ろに着いたオレが辿り着いたのは食堂…土曜日だってのに相変わらず人が多いものだ。

 

 

「んー…結構席埋まってるわね…どっかいい空きスペースはないのか…あっ、一夏たちの横が二つ空いてるわね。」

 

さすが鈴。目ざとい、一夏の隣とその前、右上が開いている。まあ鈴としては恐らく一夏の右側の席を取りたいんだろうなと予想はつく。興味はないし彼女に今回は華を持たせて右側の席を譲るとしよう。しかしまあ恋する人間っていうのは大変なごっつ大変なもんだなって改めて思う。特に一夏はライバルも多いし大変だよなぁ、まあもうオレには関係ないんだけどさ

 

 

————————————残念ですがそこはわたくしも譲れませんの。一夏さんは初めてわたくしが心揺さぶられた殿方ですの、だからわたくしはそこまでは譲るつもりはありませんの、それはたとえ「オレ」に対しても同じですわ。

 

「セシリア…あんた、一夏の隣を取ろうとしてるわね。」

 

「鈴さん、あなたもご存知でしょう…こういうのは早い者勝ち、というのですわ。」

 

 

鈴さんには悪いとは思いますが、わたくしもそこを譲れませんの。ですから許してくださいとは言いません、ただ遅かった無力さを噛みしめてくださいまし!

 

 

 

「おはようございます、一夏さん。」

 

「うん…あ、セシリアと鈴か、おはよう。」

 

一夏の隣に座り、鈴はその目の前に座る。彼女の悔しそうに歯嚙みしている顔が目に映る。実に悔しそうだ。一夏の周りにはラウラとシャルル…もといシャルロットがいた。珍しく箒がいない。

 

 

「おや、箒さんは?」

 

「あのブシドーガールならば朝から鍛錬に励んでいるぞ、体育館でボクトウを振っているのを見た。」

 

一夏の代わりにラウラが答える。ブシドーガールっていう呼称は何だろうか…いや、そろそろ突っ込んでいいかな。さっきからずっと言いたかったんだ。オレはもう言うぞ。

 

 

「へぇ、日曜日だっていうのに箒もやるなぁ…俺も見習わなくちゃなあ。」

 

 

ああ、一夏さん!どうかわたくしも褒めてくださいまし!ええい!うるさい思考を蝕むな!

 

 

「へぇ、でもなんでラウラが知ってるの?」

 

と聞くはシャルロット。

 

 

「なんてことはない、私も走り込みをしていたからな、偶然会っただけだ。あまり向こうは興味なさそうだったが。」

 

「そっか、じゃあり…じゃなかったラウラも自主練してるんだな、凄いや。」

 

「別に…これが日課なだけだ。」

 

 

ああ、うらやましいですわ…これでわたくしも自主トレーニングをすれば一夏さんに褒められるでしょうか…。

 

 

「あたしも毎朝筋トレくらいはやってるわよ、あとは柔軟とか。」

 

「へえ鈴もか、みんな凄いな…やっぱり専用機持ちで代表候補生だってなるとみんなストイックだなぁ。」

 

便乗するが失敗する鈴。かわいそう。わたくしも褒められたい!うるせぇ!自己主張強すぎるんだよセシリア!

 

 

「どうしたんだ、セシリア。さっきから黙ってるけど。」

 

「ああ、いえお気になさらないでください。少しばかり考え事をしていたのです、わたくしの中では割と重要な考え事を。」

 

 

オーケー 状況整理しよう。今朝起きたら六年前に封印していたはずのオレの自我が目覚めていた。そして体の主導権を何故か譲り渡されていた、セシリアとして過ごしてきた記憶もある。本人かと問われても間違いなく答えられるだろう。

 

そしてオレの前世は男、そこは間違いない。封印したころの自意識も男の筈、そして今のオレは封印から目覚めたばかり、つまり自意識は多分男。モノローグの中だけとはいえオレとしっかりと発音してる。まだ男っぽさは残ってるはずだ。だがだが、一夏を目の前にすると何故だか

 

 

 

—————————ああ、素敵ですわ、一夏さん…。

 

 

思考が乗っ取られる。これが誰の意識なんか論じるまでもない、昨日までのセシリアだ。完全に消えたとかそういうわけではないらしい。というか自己主張強いなおい。

 

つまりオレはこれから…ああ、一夏さん 何故あなたはそんなにも鈍いのに気づかいが上手いのでしょうか…これから度々乗っ取られて行動…そのたくましく大きな手でわたくしの頭をなでていただけないでしょうか 一夏さんはお優しいですから特に深く思い悩まず実行してくださるでしょうね、じゃあ頼んでしまいましょうか勿論他の方々には見られないようにしますわ、あなたを暴力の海に沈めることなんてしませんわ…時々乗っ取られて行動しなければいけないという事だ、特にこいつは一夏に対してああ、一夏さん。今すぐに抱いてほしいものですわ、英国淑女は時に大胆に獲物を狙いに行くものですわ、フフフ、鈴さん あなたのそのためらいは命取りへとなりますわよ、わたくしが貰っていきます。…節操がない、オレの制御を超えて何をしでかすか分からな…

 

 

 

「一夏さん、口元にソースが。」

 

 

「あ、本当だ、えっとティッシュはどこにあったっけ…。」

 

「ああ、そのまま動かないでくださいまし。」

 

しっかりとわたくしが持ったティッシュが一夏さんの汚れをふき取る、我ながら完璧ですわ。

 

 

「お、悪いな サンキュ、セシリア。」

 

「いえいえ、一夏さんはなかなかあわてんぼうなお方なのですね。」

 

まあそんなところも可愛いのですが。かっこよく可愛いとは最強無敵強靭なのではないでしょうか。

 

 

「せ、セシリア…あんた!」

 

「おやどうしたのです?鈴さん、あまり遅いと置いて行ってしまいますよ?」

 

二重の意味で。

 

「ん?セシリアは鈴とどこかに行くのか?」

 

「ええ、水着の選定に。よろしければ一夏さんもどうですか?」

 

あわよくば選んでいただければ御の字ですわ。

 

「悪いな、先にラウラとシャルに誘われてるんだ。」

 

「おやそれは残念。ではわたくしは鈴さんと行かせていただきますわ。」

 

 

…手の早い。やはり勝負はスピードですか。

 

 

「飛び切りの芸術をお見せいたします、期待していてくださいね一夏さん。」

 

「ああ、分かった。じゃあ行ってくるよ。」

 

 

そして三人は食堂から去っていった。…あの二人組は最大の障害ではないんでしょうか、油断なりませんわね。

 

 

 

「セシリア…あんた、いつからそんな…。」

 

「淑女とは時に大胆に攻めるものなのですよ、ツンデレはもう時代遅れですわ、鈴さん。」

 

「誰がツンデレよ!っていうかあんたお嬢様のくせになんでそんな俗語知ってるのよ!」

 

勿論オレのおかげである。

 

 

一つ言わせてもらおう。

 

 

 

「どっちがメインなんですの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 




皆、聞いてくれ!この展開に批判はあるだろう!だが、今更俺達は止まれない!このまま最短で道を突っ切る!振り落とされるヤツがいても構わない!ついてこられてるヤツだけついてこい!
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