もしもおお振りの三橋くんがTestosteroneの『筋トレが最強のソリューションである』を読んだら   作:ふぁもにか

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Testosterone氏の御言葉④
○筋肉の鎧が持つ4つの特殊効果
①体育会系の人が大抵味方になる「僕も昔はスポーツやってた」効果
②アウトローから謎のリスペクト「強そうな奴は大体友達」効果
③謎の説得力「怒ったら怖そうだし…」効果
④詐欺、犯罪のターゲットにならない「もっと弱そうな奴狙おう…」効果

 どうも、ふぁもにかです。何かこの作品が日間ランキング3位に輝いているのが信じられない今日この頃。なんでこの作品、こんなに評価されてるんですかね。皆、おおきく振りかぶっての二次創作に飢えてたってことですか? そういう解釈でいいんですかね? ちょっとわけがわからないのですが、なるべく平常心を保って続きを執筆していくので、今後ともよろしくなのです。

P.S.ここ最近『ヘボP』と書いたつもりなのに、なぜか『ヘポP』となっているケースが多い件。ヘポPとは一体……私にはわからない。



4.三橋の全力投球

 

 

 三橋が西浦高校野球部に入部した後。合宿までの間。三橋は野球部の練習の他に、自主練として、投球練習以上にひたすらに筋トレに励んでいた。野球とは関係のない分野にて、厳しい筋トレを己に課すことで、三星学園のことを考えずに済むし、体を疲れ果てさせればストレスから眠れないなんて事態は発生せず、ぐっすり熟睡できるからだ。しかし、そのように逃避していても、合宿の時は、三星学園との練習試合の時は刻一刻と迫り、そしてついに合宿の日になってしまった。

 

 三星学園の皆と会いたくない。でも会わないと、弱気な性格が治ったと監督に認めてもらえない。監督が認めてくれなきゃマウンドに上がれない。でも皆には会いたくない。

 

 そのような思考が三橋の頭をグルグルと駆け巡り、ひたすらに占拠していたがために、三橋はずっと心在らずだった。合宿所に向かう最中のバス内でも、合宿所にてトイレ掃除・電球の入れ替え・布団干しなど、野球部員9名+野球部マネージャーになった篠岡がそれぞれ自主的に快適な合宿を送るために動く中、三橋は全く動けずにいた。その後。三橋と阿部と百枝以外の面々が、今日の夕食の主役となる山菜を取るために顧問の志賀主導の下で山に向かう中。山菜取りに行かなかった上記3名は合宿所近くのグラウンドへと赴いていた。

 

 

「三橋くんはさ、マックス何キロなの?」

「えっと、わからない、です……。俺の球速、測ってくれる人、いなかったから……」

「じゃあさ、三橋くんは今の自分のマックス、何キロだと思ってる?」

「…………115キロ?」

「は? いやいや、ないない! 三橋くんの球速は普通に140キロあるよ!」

「え、いや。そんなわけ、ないです。だって、俺、贔屓でエースやってたヘボPだし……」

(なるほど。三橋くんは今の自分の球速を全然認識できていないのね。この分だと、真正面から正直に三橋くんの球速を教えた所で信じないでしょうね。己の球速が遅いとの思い込み。それが三橋くんのネガティブな性格の一因なら、やり方次第で三橋くんを元気づけられそうね……)

 

 しばし三橋とキャッチボールを行うことで、三橋の肩の調子を整えていた百枝はここで、三橋に球速の最大値を尋ねる。すると、三橋は己の認識を正直に百枝に告げた。結果、百枝は思わず噴出し、三橋に正しい球速を教える。が、三橋は百枝の主張を認めようとしない。そんな三橋の様子を受けて、しばし思案した百枝は三橋へのアプローチを決めた。

 

 

「じゃあさ、三橋くん。もっと速い球、投げたいって思わない?」

「は、速い球!? な、投げたいです!」

「良い返事ね。じゃあサクッとレクチャーするから、よく聞いてね」

「は、いッ!」

 

 三橋くんが今よりもっと速い球を投げられるようにする。それが百枝の出した結論だった。

 三橋くんに他の投手じゃとても真似できないレベルの球速を誇る球を投げさせれば、否が応でも三橋くんは己の投手としての実力を認めざるを得ない。己がヘボPであるとの認識を、強烈な思い込みを変えざるを得ない。そうなれば、今のネガティブな性格も自然と変わっていくはずと、百枝は考えたのだ。

 

 

「……」

 

 が、阿部としては百枝の三橋への働きかけは余計なお世話だった。全力投球していないのに140キロのまっすぐを投げられる一級品の投手に下手に手を加えれば、投球フォームが崩れて今三橋が持っている球速やコントロール技術が失われるかもしれなかったからだ。ゆえに、阿部はこっそり舌打ちをしつつ、百枝と三橋の様子を静観する態勢に入る。

 

 

「三橋くん。そもそも君の投球のコントロールがいいのは、全力投球してないからよ?」

「え? いや、俺……ちゃんと一生懸命、投げてます。全力投球、してます……」

「いいえ。三橋くんの投球は全力投球には程遠いわ。だから、今から三橋くんには全力投球を体験してもらいます。はいこれ」

「わッ……!」

 

 三橋は百枝が渡してきた物を決して落とさないように手の平を差し出す。直後、三橋が百枝から受け取ったのは3キロくらいの重さのダンベルだった。瞬間、ダンベルを視界に収めた三橋はキラキラと目を輝かせ、見るからに興奮した表情を浮かべる。

 

 

「ダ、ダンベル……!」

「それを持ったまま、いつも通りに投げてごらん?」

「え、いい、んですか!?」

「?」

「お、俺、ダンベル、好きだ! ダンベルは、いつも一緒にいてくれる、親友だ!」

「そ、そう……?」

「だ、だから、大丈夫。俺、自分用のダンベル、持ってきてる、から……それで投げ、ます!」

(え、三橋くん。あんなに重いダンベルを軽々持てるの!? ……やっぱりあの三橋くんの並外れた球速の理由は鍛え抜かれた筋肉のようね)

 

 ダンベルを目の前にして唐突にテンションを跳ね上げる三橋に百枝が若干困惑する中、三橋は百枝から受け取ったダンベルを返し、グラウンドの端に置いていたスポーツバッグから自分用のダンベルを取り出した。なお、その重さは45キロである。見るからに重そうなダンベルを軽々持つ三橋の様子を見た百枝は、三橋と初めて会った際に無理やりグラウンドへと引きずり込んだ時の三橋の重さを思い出していた。

 

 

「い、いきまーす」

 

 三橋がMyダンベルを持ち出している間に百枝が球速を測るスピードガンを準備し、阿部が防具を装着して三橋の球をキャッチするべくミットを構える中。左手に愛用のダンベルを、右手にボールを持った三橋は投球フォームに入る。

 

 

「あッ……!?」

 

 が、三橋は左手に45キロのダンベルを持っている影響で、とても体を捻ってボールに勢いを乗せ、阿部くんのミットまでボールを届ける行為を実行できない。ゆえに、三橋は無我夢中で左半身を引くことを優先して何とか投球する。結果、三橋は前方へと回転するようにすっ転び、三橋の全力投球は阿部の遥か真上を駆け抜け、フェンスにボールが突き刺さることとなった。そして、百枝の構えるスピードガンには153キロと表示された。

 

 

「153キロよ」

「え、153!? 本当に!?」

「どう? これが全力投球よ。全力で投げれば、三橋くんはこれだけ速い球を投げられるのよ。……ね、三橋くん。この全力投球、使いこなしたいって思わない?」

「お、俺――」

「――こんなノーコン、使えねぇよ!」

 

 スピードガンに表示された数値を百枝から見せられた三橋は愕然とした様子ながらも、段々と己に150キロを超える剛速球を投げられるほどの潜在力を秘めていると理解し、パァァと晴れやかな表情を浮かべる。百枝は全力投球という手段を用いて三橋の性格をポジティブなものへと変化させようとするも、ここで阿部がブチ切れた。阿部は荒々しく地を踏みしめながら、声を荒らげる。

 

 

「監督! 正気ですか!? 三橋は今のままでも、全力投球をしなくても140キロの球を投げられるんですよ! 加えて、コントロールも神業レベル! こんな逸材、プロでも早々いませんよ! この三橋の努力と才能の結晶を、球速にこだわって潰すつもりですか!? 冗談じゃない! 三橋は今の時点でもう一流の投手として完成してるんです! 下手にいじくって、三橋が今の実力を発揮できなくなったら、どう責任を取るつもりですか!?」

「確かに三橋くんは今のままでも凄い投手よ。でも、私は選手に成長の余地があるのに見て見ぬフリなんてしたくないのよ。例え三橋くんの精密なコントロールという長所を奪うリスクがあるとしても、三橋くんに成長する方法を教えないのは三橋くんのためにならないと思ってるわ。もっと高みを目指すか、現状に満足して留まるか。それを決めるのは私でも阿部くんでもない。三橋くん以外の人が決めちゃダメ。違うかしら?」

「ッ……」

 

 これ以上、三橋に余計なことをされたくない。三橋には今の弱気なままで、捕手に従順な性格のままでいてほしい。そのような内心を隠しつつ、阿部は百枝に物申す。しかし、百枝の反論に返す言葉を失い、ギリッと歯噛みする。

 

 

「あ、阿部くん。俺、全力投球、練習したい。もっと速い球、投げたい……」

「もう十分だろ! 今の時点で140キロも投げられるのに、なんで速さをそんなに追求するんだよ! お前は一体、何を目指してんだ!?」

「ひぅ!? で、でも俺……」

(三橋にこれ以上の球速は必要ない。三橋が全力投球してない? だから何だ。全力投球じゃないのに140キロも投げられるならそれはもう長所だ! 肘や肩に負担を掛けない投げ方ができるわけだからな。なのにこいつは、どうしてこうも球速にこだわる!? 投球フォームをいじったら元に戻らないかもしれない。コントロールの良さだってなくなるかもしれないってのに、自分の価値を蔑ろにするような真似しやがって! これだから投手って奴は……!)

 

 阿部と百枝のやり取りをビクビクしながら見守っていた三橋はおずおずと阿部に全力投球への意気込みを伝える。阿部が反対しても、三橋は怯えながらも阿部の意見に従おうとはしない。そんな反抗的な三橋を前に、阿部の中で投手に対する嫌悪感が膨れ上がっていく。

 

 

(んー。メンタルに問題があるのは三橋くんだけだと思ってたんだけど、阿部くんも抱えてるものがあるみたいね。なら、今日の夜にでも改めて阿部くんと話す機会を作りましょうか)

「……ま、本格的な全力投球の練習は明日からにするから、阿部くんは落ち着きなさい。これから三橋くんにはこの角材を使って体幹を鍛えてもらいます」

 

 このまま三橋に全力投球を続けさせれば、阿部の百枝への印象が挽回できないほどに悪化しかねない。三橋の改善を試みるよりも先に阿部に働きかける必要性を感じた百枝は、ひとまず阿部が反対してこないであろう、体幹トレーニングを三橋に課すこととした。

 

 

「……」

「え? 俺、まだ投げたりない。もっと、いっぱい投げて練習しないと……」

「あ、そうそう。三星学園との練習試合、決まったわよ。レギュラーは無理だけど、1年生と試合してくれるって。あなたを嫌ってたチームメイトたちとねぇ!」

「ッ!? ぃぃいいいやあああああだあああああぁぁあ!?」

 

 阿部が百枝の方針転換を黙認する一方、とにかくたくさん投球練習を積みたい三橋は弱々しく反対する。そんな三橋に大人しく体幹トレーニングをさせるために、百枝はここで三星学園との練習試合の話を持ち出し、三橋を追い詰めにかかった。

 

 その後、百枝は号泣する三橋に角材を握らせると、体幹を鍛えることが球速アップや全力投球のコントロールアップに効果があることを伝える。その上で、角材ワインドアップの方法を教えた百枝は、5時まで練習を行うように指示したのを最後に、三橋と阿部を残してその場を後にした。

 

 

「……」

「……ぐず、えぐ」

「……三橋。お前、自分の魅力をわかってないよ。三橋は球速を伸ばすよりも、今投げられる変化球のキレを良くするとか、新しい変化球に挑戦するとか、そっちの方が絶対にいいって。ほら、言っただろ? 俺がお前を最強のエースだって証明してやるって。だからここは俺を信じて、球速にこだわらないやり方でいこう。な?」

「……ごめん、阿部くん。俺、やっぱり速い球、投げられるようになりたい」

「なッ……!?」

 

 阿部が沈黙し、三橋が涙を服の袖で拭う中。阿部は努めて優しい声色で三橋に語りかける。が、数日後の練習試合で自分の元チームメイト相手に投げることが確定した今の三橋は、さっきよりもさらに球速を上げたい欲求に囚われていた。ゆえに、三橋は阿部の提案を否定し、百枝に教えられた通りに、角材の上に右足を乗せてバランスを取る練習に入る。

 

 

(くそッ、投手なんて嫌な奴ばっかだ……!)

 

 せっかく理想の投手だと思っていたのに、ふたを開ければ阿部の思い通りに動いてくれない。そんな三橋の姿に榛名を幻視した阿部は苛立ちを隠さないまま、三橋に背を向けて歩き去る。西浦高校のバッテリーは現状、上手く噛み合わないようであった。

 

 




○主な登場人物
三橋廉:自分をヘボPだと心から信じている西浦高校投手。45キロのダンベルを愛用している。……ところで、45キロのダンベルを運べるようなスポーツバッグが果たして存在するのだろうか(純粋な疑問)
阿部隆也:西浦高校捕手。今は三橋を理想の投手として上手くコントロールしたいと考えているため、百枝の介入により三橋が自分に対して自己主張を始めたら困るとの思考の元、百枝の投手育成方針に反発している。
百枝まりあ:西浦高校野球部の監督。現状でも凄い投手である三橋をさらに成長させることで、三橋に少しでも前向きになってもらおうと画策中。

 というわけで、4話は終了です。今回の三橋くんの全力投球シーンは書いていて凄く楽しかったです。ところで。アニメ1話の部分は3話かけてみっちり描写しましたが、合宿部分は割とカット気味でいきます。だって、三橋くんがムキムキだろうと基本原作と同じ流れで話が展開されるでしょうしね。例えば、夕食シーンとかメンバーの瞬間視を確かめるテストとか。


 ~おまけ(枕投げのシーン)~

 合宿1日目。夕食を食べ終え、就寝準備を行う西浦高校野球部員たち。ふと彼らが就寝場所の部屋が狭いのではと考える中。顧問の志賀が部屋に元気よく入り込み、いきなり男女の仲は寝てみて初めて深くなるなどと意味深な発言を行った結果。顔を赤らめた花井が、志賀の発言を遮るために枕を投げ、志賀が枕で花井に応戦したことをきっかけに、野球部メンバーによる枕投げ合戦が開始される。一方、三橋は楽しそうに枕を投げる面々を、膝を抱えて丸くなりながら、部屋の外で眺めていた。そんな三橋を気遣って、志賀が三橋に話しかける。


「三橋、疲れた?」
「あ、の……?」
「今日はそんなに体使ってないぞ? 昨日はよく眠れた?」
「は、はい……(昨日は特にいっぱい筋トレしたし……)」
「それは良かった」

 先生に弱気な性格を見せてしまえば、先生経由で監督に俺の性格が変わっていないことがバレかねない。そうなれば、マウンドに登らせてくれないかもしれない。三橋は努めて、自分が大丈夫であることを志賀に主張する。と、直後。志賀目がけて放たれた枕が、しかし志賀の代わりに三橋の顔面に命中する。が、三橋は普段から鍛えている影響か、その程度で倒れはしなかった。


「あ。わりぃ、三橋。お前に当てるつもりはなかったんだ。痛くないか?」
「お、俺。大丈夫。平気……」
「ならいいけど。……なぁ。三橋もそんな所で縮こまってないで枕投げ、やろうぜ」
(い、泉くんに期待されてる。な、投げないと。期待に応えないと、き、嫌われちゃう……!)
「……わかり、ました。えと。じゃあ、いきます」

 志賀に枕をぶつけようとして失敗した泉は謝罪した後、志賀と同様に三橋の様子が気にかかり、それゆえに三橋を枕投げに誘う。すると、三橋はせっかく己に手を差し伸べてくれた泉に嫌われたくない一心で、今しがた泉から喰らった枕を片手に、泉に枕を投げ返そうとする。


(あ、ヤベ。早まった。そういやこいつ、剛速球投げれるんだった)
(あ、これヤバそう。下手に当たったらタダじゃ済まないかも)
(三橋ってこういうの手加減できなさそうだし、これってピンチだよね?)

 三橋が膝を抱えたまま、枕を投げる体勢となった時。泉を始めとして、水谷と栄口もまたいち早く嫌な予感を感じた。三橋の投げる枕に決して当たってはいけないと察した。3人は三橋の枕から逃れる術を探し、そして――3人同時に同じ結論に達した。


「「「花井シールド!」」」
「え、なに? なんだよ、いきなり!?」

 いきなり3人に背中に回られ、三橋のいる方向へと背中を押された花井は混乱する。3人の行為の意図がわからず、ひとまず押されるがままに前を向いた花井の視線の先に、今にも枕を投げようとする三橋の姿があった。


(あ、俺。死んだかも――)
「ごっふぁッッ!?」

 花井がふと死を悟った瞬間。三橋が枕を投擲する。ボッとの重々しい効果音とともに放たれた三橋の枕は、花井の腹部にズドンと命中。そのあまりの衝撃の強さに、花井は為すすべもなく、白目を剥いて気絶するのだった。

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