冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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第13話

・・・・どうする?これは本当にどうしようもなくなってきたぞ。

 

前からはチャーチルとマチルダがじわじわと近づいてくる。後ろは工事中の道路がある。逃げ場は、ないわけではない。視線を横に晒すとすぐそこに路地がある。

ただそこに逃げ込むだけの時間を向こうがやすやすとくれるとは思えん。

西住も思案を巡らせているようだが、はっきり言って、こちらが詰んでいる。

どうしようもないといった雰囲気がⅣ号の中で充満し、沙織や秋山も表情が沈んでいる。

ここでは動くことは叶わない。動いたところですぐさまチャーチルにやられるのは目に見えている。ならば、別ベクトルからの介入が必要。だが、そのようなものはそう簡単にはーー

 

『センパーーイっ!!!!』

 

現れた。Ⅳ号とチャーチルの間にあった路地から装甲をピンク色に染め上がったM3が間に割り込むように現れた。あれは、一年生チームだ。

 

「梓かっ!?無茶はよせ!!」

『あや、あゆみ、やるよ!!』

 

通信機から梓の声が響く。その瞬間、M3の二門の主砲が火を噴く。しかし、放たれた砲弾はチャーチルの厚い装甲に阻まれて弾かれてしまう。

 

『は、弾かれたっ!?』

 

梓が狼狽している間にチャーチルとマチルダから同時に主砲を撃ち込まれ、M3が吹っ飛んだ。そして、白旗があがる。撃破されたのだ。

 

「み、みんな!?大丈夫っ!?」

『だ、大丈夫、です・・・!!あとは、頼みます!!』

「梓さん・・・。」

 

西住が言葉を出せないでいる中、俺はⅣ号を発車させる。マチルダとチャーチルが撃っているのを確認できたからな。今なら攻撃を受けることもなく路地に逃げ込むことができる。再び路地でのドッグレースを繰り広げながら俺はやれやれといった表情をあげる。

 

「これで、余計に負けられなくなったな。梓たちは私達を守るために盾になってくれた。・・・彼女らの期待に応えるためにも最後までやり通すぞ。切り替えていけ。」

 

俺がそういうと先ほどまでの暗い雰囲気は無くなり、再度表情が引き締まったものに変わる。

 

「西住、君の戦術を教えてくれ。私は君のどんな無茶な指示にも応え、全力で支えよう。」

 

あそこまでやってのけてくれたんだ。俺も本気を出さざるを得ないな。

Ⅳ号のスペック。限界以上に引き出させてみせる。

西住はキューポラから体を出し、辺りを見回す。しばらくすると、再度Ⅳ号の中に戻る。

 

「冷泉さん、次の路地を左に曲がってください。」

 

西住の言う通り、路地を左に左折する。次の路地も左に曲がると、ひらけた道路へと繋がる道へと出た。

 

「そこのT字路を左折してください!!」

 

西住の言う通り、俺はそこのT字路を左折するつもりでいた。しかしーー

 

(ん?この感覚・・・)

 

 

そのT字路から気配がした。それはとても、奴に似ていた。俺はため息を一つついた。

 

「全く、連絡の一つぐらいよこしたらどうなんだ・・・。」

「冷泉さん?」

「すまない。さっきの発言を反故にするようで悪いがそこのT字路は右に曲がらせてもらう。」

「ええっ!?」

 

西住が説明を求めるような驚きかたをする。説明してやってもいいが、T字路が目の前に迫ってきているから時間もないし、何より見た方が早い。

俺は西住の指示には従わず、T字路を右折した。

チャーチル、マチルダもそのT字路を右折する。しかしーー

 

ドゥンっ!!

 

突如として、マチルダの左側面に衝撃が走ると、そのまま白旗を上げマチルダは動かなくなった。

 

西住が呆気に取られた様子で後ろを振り向く。そこにはーー履帯が外れていたはずの38tがいた。

 

「か、会長っ!?直し終わっていたんですか!?」

『すまない、西住君。いかんせん桃が中々起きなくてな。2人で履帯を治していた分、遅れてしまった。』

「れ、連絡の一つくらい寄越していただければ・・・。」

『敵を騙すにはまず味方から、というだろう?今回はそれで許してはくれないか?』

 

報告しなかったのは置いといて、現状、シャアの38tが戦線復帰してくれたのはありがたい。戦況が一対一のタイマンからニ対一に変わるだけでこちらの有利の度合いは著しく変わる。ここであのチャーチルを墜とせば、この試合、勝てるかもしれない。そう思い、路地から出てくるであろうチャーチルと対峙するために戦車を回頭させる。すると、思わず目を見張った。

シャアの38tの先にマチルダが1輌、こちらに主砲を向けていた。消去法でしかないが、あれはおそらく八九式とⅢ突を撃破したマチルダか!!

そのマチルダの主砲がシャアの38tに向いていることに気づくとーー

 

「シャア!!後ろだ!!」

 

思わず身を乗り出して叫んでいた。38tには届くはずもないが、奴には届くはずだ!!

 

 

 

「ふっ、そう焦るな。私とてあのマチルダに気づかないわけがないだろう。」

 

無論、後ろにいるマチルダには気づいている。だが、今から回頭したところで到底間に合うはずもない。

ならばーー

 

「小山、すぐさま回頭を開始しろ。」

「は、はいっ!!」

「桃、装填は?」

「も、もう済ませてます!!」

「上出来だ。」

 

気絶から復活した桃に装填を任せ、私は砲手の役割に集中する。

小山の操縦で38tがマチルダに向けて回頭を開始する。回頭は敵の前で行うと横腹を見せているもの同然だ。聖グロリアーナがそれを逃すこともなく回頭している最中に側面に砲弾が叩き込まれる。

38tは軽戦車に部類されるためか砲撃をまともに食らってしまえば、もれなく車体が吹き飛ばされるだろう。

だが、今回ばかりはそれを利用させてもらう。

マチルダの砲撃を側面に食らった38tは横回転を起こす。

 

「この横回転を待っていた・・・・!!」

 

横回転をすることで回頭の時間を短縮する。チャンスは一度きり、側面に当てられたから履帯も破損しているだろうしな。

 

未だ回転しているなかで私はマチルダに照準を合わせ、トリガーを引いた。

 

 

 

「か、会長の38tが・・・。」

 

沙織が振り絞ったような声を出した。シャアの乗る38tが吹っ飛んでいく様子を見て、秋山達は呆然としている。そして、シャアの乗る38tから白旗があがる。

 

「うう・・・せっかく数で有利が取れたと思ったのに・・・。」

「いえ、数の上では同じです。」

 

秋山が悔しげな声をあげている途中で西住が遮った。

 

「で、ですが、会長さんたちはやられてしまいましたし・・・。」

「いや、マチルダをよく見てみろ。さっきから一向に動かないだろ?」

「い、言われてみればそうですね・・・。ってああー!!」

 

秋山がマチルダを凝視するとあることに気づいた。

 

「ま、マチルダから白旗が上がってますよっ!?ど、どうして・・?」

「話は後だ。チャーチルが路地から出てくる。」

 

俺は話を切り上げ、路地から出てきたチャーチルに意識を集中させる。

チャーチルが路地から出てくると俺たちのⅣ号と対峙する。

Ⅳ号より巨大な緑色の装甲が迫ってくるのは中々威圧感があるな。

 

「・・・相手の装甲はそう簡単には貫通できそうにない。どうする?」

「前面の装甲に撃っても、Ⅳ号の主砲で抜くことは難しいです。」

 

やはりか。相手のチャーチルの装甲は硬い。そう簡単には抜けないか。なら、比較的装甲の薄いところを狙うしかあるまい。

 

「冷泉さん、側面に回り込んでください。比較的装甲の薄いそこを狙うしかありません。」

 

側面か・・・・。普通にまわり込もうとしても対処されるのが目に見えるな。

となるとーー

 

「履帯が壊れるかもしれないがそれでも構わないか?」

「お願いします!!」

「了解した。華、いつでも撃てるようにしていてくれ。」

「わかりました。」

「それじゃあ、パンツァー・フォー!!」

 

西住の掛け声とともにⅣ号を前進させる。普通にやっても無理ならーー

 

「普通じゃない手段を使うだけだっ!!」

 

俺は操縦桿を操作し、Ⅳ号をドリフトさせる。一応、不意をつくような形で行ったつもりだが、チャーチルは砲塔を回転させるだけでこちらについてくる。冷静だな。向こうの指揮官はかなりのやり手のようだ。これは・・・こちらが撃つ前にやられるか?なら、もう一つ手を打つか。

 

「秋山、チャーチルの砲塔の長さはⅣ号のそれより長いか?」

「えっ?チャーチルのですか?は、はい。確かにⅣ号の砲塔より長いですけど・・・。」

 

ならばやってみる価値はあるか。俺はⅣ号をそのままドリフトでチャーチルに接近させる。履帯が壊れていくが御構い無しだ。それより気にしなければならないのチャーチルの砲塔は・・・車体から出ている!!

 

「もらった!!」

 

チャーチルの砲塔を押す形でゼロ距離にⅣ号をつけた。チャーチルはそのまま砲塔を俺たちに向けようとするが、

 

「っ!?砲塔が・・・!?」

「やられたわね・・・。Ⅳ号の車体に引っかかって砲塔が回せなくなっているわ。」

 

ダージリンが苦々しい表情をする。

アッサムは砲塔を動かそうとするが、引っかかるように置いたⅣ号の車体がそれを許さない。敵の武器は弾いた。

後は鎧に叩き込むだけだ。

 

「華、撃て!!」

「撃ちますっ!!」

 

華の指がトリガーを引く。放たれた砲弾は距離がほとんど離れていないためにすぐ着弾する。しかし、チャーチルの堅牢な装甲はかるく黒ずんだだけだ。

だが、装甲にへこみができている。しっかりダメージは与えている。もう一撃。

 

「もう一度です!!装填急いで!!」

「まだやられてないわ!!すぐ下がりなさい!!」

 

2人の指揮官の声が響く。Ⅳ号では砲弾の装填を、チャーチルでは砲塔をⅣ号に向けるべく。Ⅳ号の履帯が破損してしまったため、移動することは叶わない。

この時点で、操縦手としての俺の役目はない。はっきり言って黙って見ていてもよかった。だがーー

 

「華、狙いは変わらん!!落ち着いていけ!!」

「はいっ!!」

 

Ⅳ号に乗っている者として、ここで声を上げないわけにはいくまい。

 

「装填・・・終わりましたぁ!!」

 

秋山から装填が完了した声が届くやいなや、すぐさまトリガーを引く華。

時をほぼ同じくして、チャーチルからも砲弾が発射される。

 

Ⅳ号とチャーチルが砲弾が直撃した爆発の煙に包まれた。

 

 

 

 

 




・・・この試合、一番の金星あげてんのルクリリちゃんですね。(八九式、Ⅲ突、シャア搭乗(ここ重要)の38t)

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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