冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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┌(┌^o^)┐ユリィィィィ


第16話

聖グロリアーナにライバル認定されてしまってしばらく面倒なことになりそうだと項垂れ続けること数日。俺や西住達はⅣ号に乗っている……いや、今は『あんこうチーム』だったな。聖グロリアーナとの練習試合が終わった後、みなの間で意識改革が起こったのか、奇抜だった戦車の塗装をなくし代わりに各戦車に動物をモチーフにしたマークを取り付けた。38tは『カメさんチーム』、Ⅲ突は『カバさんチーム』、八九式には『アヒルさんチーム』、M3には『ウサギさんチーム』の試合中でのコードネームのようなものがつけられた。

 

・・・話が逸れてしまったな。

 

それで俺たちあんこうチームは現在本土で行われる戦車道全国大会の抽選会場に来ていた。会場では練習試合を行った聖グロリアーナなど各地域の強豪校が揃い踏みしていた。おそらく、この中に西住のいた黒森峰もいるのだろうが、今は意識から外しておく。隊長である西住が壇上に上がって抽選をするからな。

西住の抽選箱から引いた番号が司会の担当者に読み上げられる。

すると、その番号の中に大洗女子学園の名が入れられる。

そして、その反対側にある一回戦の対戦校の相手は、『サンダース大学付属高校』。

 

俺はそれが目につくと戦車道に関しての知識が豊富な秋山に声をかける。

こういう時の彼女の知識量の多さは頼りになる。

 

「秋山、知ってるか?サンダースのこと。」

「はい、もちろんです。サンダースは一言で言ってしまえば、『マンモス校』です。」

「マンモス校、か。人材が豊富、ということか?厄介だな・・・。」

「それもそうですが、経済面でも潤沢です。サンダースの保有する戦車の台数は隊を一軍、二軍、三軍までわけるほどであって、全国でもトップを誇るほどです。」

「そ、それじゃあ私達に勝ち目なんてあるの・・・?」

 

俺と秋山の話を聞いていた沙織が顔をひきつらせる。

まぁ、確かにこっちは五輌に対して向こうは数倍、最悪何十倍もの台数を持ってこられる可能性がある。そうなった場合、こちらの勝率は万に一つもないだろう。

 

「い、一応、全国大会の一回戦では戦車の台数は10輌までと決められていますので。流石にサンダースの全車輌が駆けつけるなんてことはないですよ。」

「10輌ですか・・・。それでも二倍の差はあるんですね・・・。」

「それでもマシな方だ。残りの埋め合わせは腕と戦術でやるしかないな。」

 

俺の言葉に秋山達が頷いた。すると秋山がふっと思い出したように俺に話しかけてきた。

 

「あ、でしたら麻子殿、学園艦に戻ってから頼みたいことがあるんですが・・・。」

 

俺は疑問符をあげながら秋山の頼みごとを聞いた。

なるほど、秋山達も少なからず戦車道に対する意識が変わったようだな。

 

「お安い御用だ。いくらでも付き合うさ。というより、断る理由もないな。」

 

俺は笑顔でその頼みごとを承諾した。

 

 

 

全国大会の抽選会が終わった後、俺たちは『せっかく本土に上陸したから観光でもしない?』という沙織の提案で戦車カフェなるものに来た。

見た目は普通のカフェと変わらないが、随所に戦車的なインテリアが置かれている。

メニューを開いてみれば、ケーキの形が戦車の形をしていたりと、本当に店内が戦車一色で染まっているようだ。

 

「ある意味、凄いな・・・。この店は。」

「冷泉さんはどうしますか?」

 

俺は驚愕しながらも華に頼むものを聞かれてしまい、ひとまず目に付いたチョコレートケーキを頼むことにした。

秋山が戦車のような形をした呼び鈴を押すと、辺りに戦車の砲撃音が鳴り響いた。

 

「・・・・なぁ、うるさくないのか?」

「そうですか?私は寧ろ心地よさを感じますけど・・・?」

「・・・まさかのカミングアウトだな・・・。」

 

華のその言葉に別の意味で驚きの表情をあげてしまう。まぁ、変な意味ではないと思うのだが・・・。

そのあと店員さんがやってきて、各々の注文を取り付け、少し待っていると頼んだケーキがおもちゃのトラックに乗せられてやってきた。

あまり聞いてはいなかったが、秋山が言うにはこれも軍事利用された代物らしい。

俺は注文したチョコレートケーキをフォークを使って口に運ぶ。チョコの甘さが口の中で広がっていき、とてもうまい。ただ、戦車の形を模しているからか、普通のケーキよりは質量が高い気もするがな。

西住達も各々が頼んだケーキを食べて、表情を緩ませている。華に至っては4つも頼んでいる。・・・太らないのか?

 

「麻子ー。今、華に対して絶対太らないのかって思ってるでしょ。」

「っ!?」

 

沙織の突然の指摘に思わず表情を強張らせる。そこで俺は自身の失態に気づく。

これでは俺が華に対して太らないのかと思ってると言っているようなものではないか。

俺の表情を見て確信を持ったのか、沙織が頬を膨らませて怒りを表す。

 

「もうっ!!女子に対して体重のことはタブーなんだからね!!」

「・・・・私も女子だから問題ないんじゃないのか?」

「麻子はなんか女子っぽくないから駄目っ!!」

 

り、理不尽だ・・・!!とはいえ、沙織の言っていることは事実だ。外見は女子だが、中身は男なのだからな・・・。とは言え、女らしさを出すのはな・・・。俺には無理な話だ。

俺は特に何も言わずに苦笑いだけを浮かべてチョコレートケーキを口に頬張る。

む、砲塔部分は中までチョコたっぷりなお菓子を使っているのか?

そしてしばらく甘いケーキを肴に西住達と談笑をしているとーー

 

「副隊長……?」

 

誰のことを呼んだのかわからなかったが、どう聞いてもこちらに対する呼びかけだっため、とりあえず振り向いた。

そこには灰色っぽい制服と黒いスカートに身を包んだ銀髪の目つきが鋭い女子と、茶髪のストイックな印象を受ける女子の二人組がいた。そして、なんとなくだが茶髪の方からは西住と似たような雰囲気を感じる・・・。まさかとは思うが、コイツが姉か?

 

「あ、今は『元』副隊長でしたね。」

 

と、銀髪の女子は西住に向けて『元』の部分の強調しながら明らかに嘲笑っているような表情で話しかける。確信した。この二人組は黒森峰か。しかも黒森峰の隊長、『西住 まほ』が直々に来るとはな。

 

「お、お姉ちゃん……。」

 

西住がかろうじて振り絞ったように聞こえる声に俺は西住 まほに視線を移す。

 

「・・・まだ戦車道をやっているとは思わなかった。」

「・・・うん・・・。」

 

西住はーーこのままだとごちゃごちゃになるな。みほは西住 まほの言葉に対して、憔悴したような声量で答える。今にも消え入りそうだ。だが、それよりも気がかりなのはみほより西住 まほの方だ。一見すると意外性を含めた嘲笑のように聞こえるが彼女からは後悔と……無力感か?この感覚は。そのような感覚を受けた。ちなみに銀髪の方からはこの二つの他にみほに対する怒りも感じられた。なるほど、コイツの場合は感情の裏返しか。あくまで2人の態度は表面的なもの、本当は2人ともみほのことを心配しているのか。

 

「お言葉ですが!!あの時のみほさんの判断は間違っていませんでした!!」

「部外者は黙ってて。」

 

秋山の奴、みほの事情を知っているのか?だが、勇気を振り絞って言った秋山の言葉も銀髪の奴に一蹴されてしまう。秋山は銀髪の奴の威圧に圧されてシュンとした表情をしてしまう。・・・流石に見過ごせないな。

 

「すみませ「秋山、謝ることはない。君は間違ったことは言っていない。」ま、麻子殿っ!?」

 

謝りかけた秋山の言葉に無理やりかぶせる形でそれ以上言わせないようにする。

俺は立ち上がり、銀髪の奴を睨みつける。ひとまず、西住 まほは後回しだ。

 

「貴様の勝手な視線で部外者だと決めつけないでもらおうか。」

「っ!?」

「ま、麻子・・・?」

 

・・・コイツ、思ったよりメンタル弱いか?割と虚勢を張っている、河嶋と同タイプの人間か。なら、このまま押し切るか。

 

「ただの西住と仲良しこよしでいる連中ならともかく、私達は西住と共に戦車道をやっている仲間だ。それを貴様はただの部外者だと罵った。」

「うぅ・・・。」

「それに戦車道はスポーツだ。スポーツである以上、スポーツマンシップが尊ばれるのは自明の理だ。だが貴様のその発言はとてもではないが、そうとは思えん。」

 

俺はちらりと視線を向けると西住 まほの表情が暗くなっているに気づく。彼女には悪いがここはやらせてもらう。

 

「9連覇だか王者だかは知らないが、自身の身の程を弁えない奴は―――」

 

・・・自分でもまさかここまで冷徹な声が出せるとはな・・・。

どうやら俺自身、知らないところでかなり腹が立っているようだ。

 

「調子に乗るなよ。」

 

さて、言いたいことは言ったーーのだが、いかんせん、俺も調子に乗ってしまったようだ。カフェの雰囲気が凍りついている。やってしまった・・・。

とはいえ、ここでボロを出すわけにはいかないため、顔はあくまで平然としている。やれやれ、身の程を弁えてないのはどちらだか・・・。

 

「ふぅ・・・・。エリカ、帰るぞ。」

「は、・・・はい。」

 

自分自身に呆れていると一つ、ため息をついた西住 まほは銀髪の奴、エリカと呼んでいたか。

彼女に声をかけ、カフェを後にしようとする。

 

「それと、ウチの副隊長がすまなかった。」

「っ!?た、隊長っ!?」

 

こちら、というか俺に顔を向けると謝罪の言葉を述べた。

隣のエリカが驚いた表情をする。というか、副隊長だったのか、彼女。

 

「いや、こちらも少々熱くなった。そこはお互い様だ。それと、これはお節介だが、思っていることは素直に言った方がいい。人はそううまくはできていない。伝えるべきことはしっかり言っておかねば後々、後悔するぞ。」

「・・・忠告、ありがたく受け取っておく。」

 

そう言い残して、黒森峰の二人組は店を後にした。

 

「・・・ふぅ、やってしまったな。」

『やってしまったな、じゃないでしょうがー!!!!』

「うおっ!?急に驚かさないでくれ!!」

 

修羅場を越えたと思って一息つこうとしたら、今度は西住達4人から攻め立てられる。俺はひとまず落ち着かせようとしたが、あれよあれよとしている間に会計を済ませて店の外へ出てしまった。・・・まだチョコレートケーキ、残っていたんだがな・・・。というか、西住に攻め立てられるとは、かなりのレベルでやらかしたか?

 

「お、おい。そんなに引っ張らないでくれ、服が伸びる。」

 

先ほどのカフェから程よく離れたところで西住達は俺を掴む手を放してくれた。

やれやれ、中々手荒に店から連れ出された。4人から引っ張られたのもあって若干の苦しさもあった。

 

「もうー!!麻子ってばどーしてそういうことをしちゃうのよー!!」

「そうですよ!!一歩間違えれば新聞沙汰です!!」

「私のためでは無くて西住殿のために怒ってくださいよ!!」

 

おい秋山、お前はそれでいいのか。お前だけ論点がズレているんだが・・・。

ん?西住だけ何もないな・・・。そう思い、視線を西住に向けるとーー

 

「むー。」

 

頰を膨らませて、怒りの表情をしている西住がいた。かなりご立腹のようだな・・・。

そして、そのまま沙織、華、秋山の3人に包囲網を敷かれてしばらくこってり絞られた。情けない構図だ・・・。

今日は理不尽なことが続くな・・・。厄日だな、今日は。

 

 

そして、3人に絞られたのち、学園艦へと向かう船で俺は西住に呼び出された。

・・・予想していなかった訳ではない。なぜなら3人に絞られているところに西住は顔はご立腹の様子だったが、これと言って発言していなかったからな。

 

「あ、冷泉さん。」

「む、すまない。待たせてしまったか?」

 

指定された場所に向かうと既に西住と、なぜか秋山がいた。秋山はなんか口から魂が抜けているようにこう、白くなっているという表現でいいのか?それは置いといて、現在の時刻は夕方。日が沈んで、辺りの気温も下がり始める。それに今は船の上というのもあって体感温度はさらに下がるはずだ。何かあったかいものでも買ってくるべきだったか。

 

「ううん。大丈夫。」

「それで、話とはなんだ?また説教か?」

 

俺が西住にそう聞くと彼女は首を横に振った。

 

「えっと、あの時は私もエリ・・逸見さんにすごい剣幕で話していってたから怒ろうとしたけど、本当は冷泉さんに標的を向かせるために言ったんですよね?」

「・・・・流石だな。まぁ、あのまま彼女に言わせていたら君にいらない気苦労がかかると思ってな。」

 

西住の言う通り俺は奴の、逸見 エリカのヘイトを俺に向かせるために秋山が部外者だと言われた時点で介入した。

まぁ、結果は見ての通り、奴のヘイトは俺に向いただろうな。あそこまでコケにしたんだ。奴の性格も相まってかなりご立腹だろうな。

 

「あ、そういえば、麻子殿は西住殿の…その、事情は知っているんですか?」

「本人から聞いたからな。だから秋山が何の事を訴えているのかはすぐにわかった。」

 

いつのまにか復活した秋山の問いに頷きながら答える。隠す要素もないからな。

そう言うと秋山は嬉しそうな表情をした。

 

「そうですか・・・。その、逸見殿に部外者だと言われた時、正直言ってそこで引いてしまっても良かったんです。でも、麻子殿が声を上げてくれた時、嬉しかったんです。」

 

「人というのは、支えがあるというだけであそこまで救われるものなんですね。」

 

秋山の屈託のない笑顔を見せてくれて、こちらとしても嬉しい気持ちとなる。

 

「・・・そうか、なら私もあそこまで啖呵を切った甲斐があるというものだ。」

 

私が噛みしめるように頷いていると側から何やらモヤモヤしたような感覚を覚える。視線をそちらに向けるとジト目で俺と秋山を見つめている西住の姿があった。

 

「・・・冷泉さんと優花里さんだけいい雰囲気になってズルイ。」

 

・・・何を言っているのかよくわからないのだが・・・。

 

「お、おい、西住どうかし――」

 

そこまで言ったところで西住が俺の胸に飛び込んできた。

突然の衝撃にのけぞりながらなんとか支える。

 

「に、西住、流石にあぶないから突然はやめてくれ・・・!!」

「あー!!麻子殿何やってるんですかー!!西住殿の柔肌に触れるなんて、麻子殿でも許しませんよー!!」

「あ、秋山!!待てーー」

 

俺の制止の声は届かず、秋山が飛びかかってくる。流石に2人分の体重を支えるほどの筋力は高校生の俺にはないため、どう抗っても崩れてしまう。

そのまま3人揃って船の甲板に体を叩きつけてしまう。

 

「いったたた・・・。うう・・ちょ、調子に乗りすぎました・・・。」

「もう、優花里さんってば、急に飛びついてくるんだから〜。」

 

西住と秋山が楽しそうに笑いあっている。その光景はとても微笑ましい。微笑ましいのだが・・・

 

「お、おい。2人とも、頼むからどいてくれないか・・・。」

「あ、冷泉さんっ!?ご、ごめんなさーー」

 

秋山が前から飛びついてきてしまったため必然的に俺を押し倒す形で倒れてしまう。俺は2人にどいてほしいというのだが、何故か2人は顔を真っ赤にしたまま動こうとしない。

 

「こ、このシチュエーションは、何というか・・・。」

「う、うん。なんかドキドキする・・・。」

 

・・・なんか2人の目がイケナイものに変わってきた気がするのだがっ!?

不味いぞ。何が不味いのかは分からないが、俺のニュータイプとしての勘がこの状況に対して危険信号を上げている!!

何か、何かないのか!!視線を右往左往させていると―――

 

「・・・・・・・・。」(モグモグモグ)

「・・・・・・・・。」

 

なぜか、杏がいた。袋から干し芋を取り出して食べている様はひどく変に見える。だが、今はこの上なく有難い。西住と秋山も杏の登場に固まっている。しかし、押し倒されている状況は変わらないため、出来ればどいてほしい。

俺が杏にアイコンタクトで助けを呼ぶと奴は察してくれたのか――

 

「ふむ、お楽しみ中だったか。別に私としては構わんが風邪だけは引かんようにな。」

 

妙にいい笑顔でそう言うとただでさえ赤かった2人の顔が真っ赤へと変わって――

 

『ご、ごめんなさーい!!!』

 

と、真紅の稲妻もびっくりなスピードで何処かへ走り去ってしまった。

 

「ふぅ・・・。すまない、助かった。」

 

額の冷や汗を拭いながら、杏に礼を言う。だが、杏は妙にいい笑顔を続けたままだった。殴りたくなるようなニヤニヤした笑顔だな。

 

「・・・なんだ?何か俺に用か?」

「いや、なに。モテているではないかと思ってな。」

「あれは不慮の事故だ。俺もそうだし、2人もそのつもりは一切なかっただろう。」

「ほぅ・・・。果たしてそうかな?」

「おいおい、冗談はほどほどにしてくれ。」

 

俺は乾いた笑いをあげながらいつのまにかついていたのか、学園艦へと戻った。

 




あ、ありのままに今起こったことを話すぜ!!俺は黒森峰に因縁をつけられたアムロの話を書いていたはずなのに気づけば俺は百合百合しい気配を放つ話を書いていたっ!!
な、何を言っているか分からねーと思うが俺も何が起こったのか分からなかった・・・!!
頭がどうにかなりそうだった・・・!!
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ・・・。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・!!

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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