冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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第17話

「ん?秋山の姿が見えないな・・・。」

「あれ、ホントだ。ゆかりん、今日休んでるのかな?」

 

抽選会が終わった次の日、いつものように戦車道の練習をしようとした時に秋山がいないことに気づく。沙織も怪訝な表情をしながら辺りを見回しているが、一向に秋山の姿は見えなかった。昨日、最後にいたのはーー

 

「西住、秋山が見当たらないんだが、何か事情とか知らないか?」

 

何か手がかりがあればと思い、昨日はおそらく最後まで居たであろう西住に聞いた。西住は俺に声をかけられたことに驚いたのか、一瞬体をビクつかせると顔を微妙に赤くしながらーー

 

「え、えっと、途中で別れちゃったから、分からない・・です。」

 

たどたどしい口調だったが、西住の言葉に嘘はなかった。

ふむ、そうか。なら他に見かけた者がいないか他を当たるか。

そう思い、別のやつに声を掛けようとするとーー

 

「あ、あの、冷泉さん。」

「ん?なんだ?」

「その、昨日は・・ごめんなさい。」

 

昨日・・・?ああ、押し倒されたことか。まぁ、突然のことだったから驚きはしたが、お互い怪我はなかったからな。

 

「なんといえばいいか・・・。そう、若さ故の過ちというやつだ。あまり気にしなくてていいぞ。」

 

そういい、西住に笑顔で手を振って、俺は別の人に聞き込みを始めた。

 

「わ、若さ・・・故の、過ち・・・・っ!?」

 

 

 

結局、戦車道の練習が始まっても秋山の姿が現れることはなくその時の練習は秋山無しで済ませた。

一応、杏にも聞いたが、アイツも秋山の動向は知らないらしい。

そして現在、俺たちは一応、風邪の線も疑ってひとまず見舞いの品を持って秋山の家へと向かっている。

 

「で、沙織。秋山の家はどこなんだ?」

「えっと、確かここら辺・・・。あ、あった。」

 

沙織が指をさした建物には『秋山理髪店』の文字が書かれてあった。

 

「理髪店を営んでいるのか。秋山の家族は。」

 

とりあえず、理髪店の中に入ると新聞を読んでいる父親と思われる人物と椅子に座っている母親と思われる人物がいた。

 

「ん?いらっしゃいませ。」

 

父親と思われる人物が俺たちに気づくと声をかけてくる。おそらく客と勘違いしているのだろう。あいにくだが、今回は客として来たわけではない。西住が一歩前へ出て、俺たちがここにきた要件を伝える。

 

「あの、優花里さんはいますか?」

「優花里・・・?」

「私たち、友達なんです。」

「友達・・・友達っ!?」

 

沙織の発言を反芻するように呟いた父親と見られる男性は慌てふためいた様子で

立ち上がる。・・・そんなに驚くことか?

 

「お父さん、落ち着いて・・・。」

「だってお前!!優花里のお友達だぞ!?」

「わかってますよ。いつも優花里が世話になっています。」

「お、お世話になっております!!」

 

そう言って、秋山の母親は頭を下げる。ふむ、秋山は母親似か。髪色とかは彼女を彷彿とさせる。それよりも、お父さん、貴方は父親だろう・・・。いきなり土下座は……ほら西住達も若干引いているではないか・・・。

 

「優花里はね、朝早くから家を出て、学校からまだ戻ってきてないんですよ。」

 

優花里の母親の言葉に、俺は眉をひそめる。妙だな、俺は秋山の姿を学校で見てないんだが・・・。

俺の中で嫌な予感がよぎったが母親に家に上がって欲しいと言われ、断りきれずに秋山の部屋にお邪魔させてもらった。

秋山の部屋はこの前の戦車カフェより凄まじいほどの量の戦車関係のものが置かれており、秋山の戦車に対する造詣の深さが垣間見えた。

戦車が大好きなのは分かるんだが・・・。砲弾を置くのはどうなんだ?レプリカにしてもかなりのクオリティの高さだぞ。というか、どこで手に入るんだ?あんなもの。

 

「良かったらお茶をどうぞ。ごめんなさいね、お父さんたら優花里が初めて友達を家に連れてきたから舞い上がっちゃったみたい。」

 

秋山の母親がお茶を出しながらそんなことを言う。あまり社交性の高い子ではなかったようだ。父親が初めて友達を家に連れてきたというほどだったのだろうな。

俺も、ガンダムに乗り始める前は社交性のカケラもなかったな。家に友達を招くなどということはなく精々、フラウがいいところだったか。彼女にはよくご飯を届けてもらっていたな。とはいえ、せっかく甲斐甲斐しく世話をしてもらっていたというのに、その時の俺の対応には目を逸らしたいものがいくつもあるな・・・。確か、ハヤトの子供を身ごもっていた気もするが、今はどうしているだろうか。

・・・・いや、考えるのはよそうか。今の俺は冷泉 麻子なのだからな。

 

「・・・冷泉さん、どうかしました?さっきからだんまりですけど・・・。」

「・・・すまない。少し、昔のことを思い出していた。」

 

どうやら考え事をしている間に秋山の母親は部屋から退室していたようだ。

心配そうな顔を向けている西住に対し、俺は少しばかりの嘘で包んだ答えを返す。その時、沙織が悲しげな顔をしていたが、それについては言わないでおく。

さて、話は変わるが、さっきから窓から感じている気配について正体を明かしてもらおうか。

俺はおもむろに立ち上がると窓に一直線に向かう。西住達は怪訝な表情をしているが、俺はそれを気にしないで窓を開け放つ。部屋に心地良さ気な風が吹き込むが俺は気にも留めないで、どこかのコンビニの制服を着て、屋根に座り込んでいる秋山に視線を向ける。

 

「さて、今日何をしていたか話してもらうぞ。秋山。」

「ま、麻子殿ぉ・・・!?これは、その、やましいことではなく・・・。いや、やましいことはあったのですが・・・!!」

 

秋山の言葉に俺は考えを張り巡らすが答えに至ることはなく、ひとまず家に入るように促す。

窓から現れた秋山の姿に西住達は驚きの表情をする。

 

「優花里さんっ!?心配したんですよっ!?」

「ゆかりん。その制服、コンビニのだよね?バイトでも始めたの?」

「優花里さん・・・。まさか、私たちの知らないところで借金をしていて、それを少しずつ返すために・・・。」

「華、いくらなんでもそれはないと思うのだが・・・。で、秋山、もう一度聞くが、学校にも行かず今日何をしていた?」

 

華の想像力豊かな発想にツッコミを入れながら秋山に尋ねると制服のポケットからUSBメモリを取り出し、テレビに繋いだ。しばらくするとテレビの画面に内蔵されている映像が再生される。

 

まず始めに映し出されたのは『実録!突撃!!サンダース大付属高校』のテロップ。西住達は何の映像を見せられているのかわかってなかったようだが、軍人上がりである俺にはすぐわかった。秋山のやつ、サンダースにスパイしに行っていたのだ。危険なことを・・・。見つかったらどうするつもりだったんだ?

映像はコンビニの定期船に潜入したシーンから始まる。やっていることはどう見たって密航だ。

 

サンダースの内部や戦車倉庫の映像に何回か切り替わると何やらサンダースの生徒が集まっている映像が映し出される。すると、画面の端から隊長と思われる金髪のどう見ても外国人のような人物………いや、今の言葉は取り消しだな。ダージリンがいたなそういえば。さて、話を戻すか。映像では濃い茶髪のツインテールの短い女性と女性にしては比較的に身長の高いショートカットの女性が出てきた。

どうやら話の内容的に俺たちとの試合についてのミーティングのようだ。

 

「・・・よく潜入できたな。」

「そこは、その、マンモス校の弊害、みたいなところでしょうか。人数が多すぎて一人増えても気づかれない、的な・・・。」

 

映像の中でサンダースのミーティングが進んでいく。戦車の編成内容も秋山が撮ったビデオの中にしっかり収められており、知ることができた。

 

「ファイアフライを初めから投入してきた・・・。」

「性能のいい戦車なのか?」

「そう、ですね。ファイアフライはサンダースの保有する戦車の中で一番性能のいい戦車です。」

「向こうは手を抜くつもりはない、ということですね。」

「つまり、相手は最初から本気・・・?」

 

映像は続き、隊長と思われる人物が質問を聞くとなんと秋山が手を挙げて質問をしてしまう。スパイが目立つ行動をとってどうするんだ・・・。

まぁ、とりあえず敵の陣形をある程度知れたのはいいが、流石にバレたのか後は秋山の逃走劇が収められている程度であった。

ビデオが終わったのち、俺は秋山に視線を向ける。秋山はオドオドした表情をしばらく見せていると感情が吹っ切れたのか、俺に向けて笑顔でピースをしてきた。

 

「・・・・・・・。」

「アイタッ!?」

 

それに俺は軽くチョップを叩き込む。秋山は叩かれた額を抑え、疑問の視線を俺に向ける。

 

「全く、学校にも来ないで何をやっているかと思えば・・・。みんな心配したんだぞ。」

 

俺が悩ましげにため息を吐くと秋山は再度疑問の視線を向ける。

 

「え・・・。心配・・・?」

「当たり前だ。急に連絡付かずになったんだ。普通は心配するものだろう。」

 

俺にそう言われた秋山はほかの3人に視線を向ける。

 

「優花里さん、急に練習来なくなったから戦車道辞めちゃったかと思ったんだよ?」

「そうだよ!!みんな心配したんだよ!!」

「せめて、連絡の一つくらいはしてほしかったです。」

 

3人から心配されていた事実に秋山は顔を俯かせる。

 

「その・・・心配かけてしまい、申し訳ありません・・・。」

「・・・うん。だけど、今度からは一声かけてくださいね。」

「は、はい!!分かりました!!」

 

秋山の家を後にし、沙織と華と別れた帰り道。俺は西住と一緒に歩いていた。

 

「戦術、立てれそうか?」

「うん。優花里さんが撮ってきてくれた映像があればなんとかなりそう。」

「そうか・・・。ならひとまず安心できそうだ。情報は大事だからな。」

「そうだよね。私が黒森峰にいた頃もよく昔の資料を見ていたからね・・。」

「得ようと思えば試合中でも手に入れることは可能だがな。」

「え・・・・?」

 

俺の言葉に西住は怪訝な顔をする。しまった。つい軍人視点で戦車道を見てしまった。流石に俺の考えた発想は戦車道の理念から外れるか。

 

「いや、忘れてくれ。あまり戦車道では推奨されるような行為ではないと思うからな。」

「因みに、聞いてもいいですか?」

 

西住に問われ、俺は言ってもいいかと逡巡するが、言うだけなら大丈夫か。

 

「・・・通信傍受だ。機材さえそろえれば可能だとは思うが・・・。」

「それは・・・確かに規定にも書かれてないけど・・・。」

「暗黙の了解、というやつか。とにかく、妄言だと思ってくれ。」

「う、うん。それじゃあ・・・話を変えるね。冷泉さんは優花里さんに編成を知られたサンダースは変えてくると思う?」

 

ふむ、編成を変える可能性か・・・・。確かに編成を相手に知られているのは俺たちにアドバンテージを与えている。それをなくすために編成を変えてくる可能性もあるが・・・。

 

「可能性はどちらにもある。だが、変えてこない確率の方が高いだろう。」

「えっと、理由は?」

「変えた際のメリットが少ない。相手にはファイアフライという最大火力を組み込んでいる。だから、変にそこを換えてしまえば、サンダースの火力ダウンは否めない。みずから優位性を捨ててしまうようなものだ。」

「うーん。やっぱりそう思いますよね・・・。」

 

まぁ、それは俺たち大洗とサンダースが同じ条件の上であればという前提もあるがな。流石に隊長である西住を不安にさせるような発言をするわけにはいかないため口にはしないが。

 

その後は他愛もない話をして、西住と別れた。しかし、西住は妙なものが好きなんだな・・・。ボコなど聞いたことないぞ・・・。

 

 

そして、しばらく練習の日を挟んで俺たち大洗女子学園は戦車道の全国大会初戦の日を迎える。ちなみに、この時期から朝練が入り、しばらく俺は試合当日まで死んだように練習していた。




あとがきと言う名の都合のいい謎空間

「そういえば、秋山。なぜ突然サンダースに偵察をしたんだ?」
「えっと・・・その・・・。は、恥ずかしかったからです・・・。」
「恥ずかしかった?」
「というか、麻子殿が鈍感すぎるんですよ!!普通あんなことがあったらしばらく顔が合わせづらくならないんですかっ!?」
「・・・・え、私が悪いのか?」

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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