こうなったらいけるところまで行きましょうっ!!
アムロ、もとい冷泉麻子だ。
季節の巡りは早く、この体の年齢でもう高校生になってしまった。
おばぁ、もとい祖母からは進学に関して気にすることはないと言っていたが、
やはり家族だから心配になってしまい、近所の『大洗女子学園』に通うことになった。
今日はその学校への始めての登校日、つまるところ入学式だ。
白を基調に、ところどころに緑色の線の入った制服を着こなす。
・・・スカートには未だ慣れないがな。というか慣れてはいけない気がする。
昔の俺は学校にはよくフラウに付き添ってもらったな。そんなことを考えながら革靴を履き、いざ扉に手をかけようとしたがーー
「うっ・・・。立ちくらみが・・・。」
立ち上がった際に起こった立ちくらみの所為で扉に支えてもらうように手を当てる。祖母が心配そうな視線で見ている。
「大丈夫かい?麻子。アンタは低血圧なんだから無理はしなさんな。」
「・・・いや、大丈夫だ。流石に初日から遅刻をするわけには、いかないからな。」
祖母から心配されている通りだ。いつからかは知らないが、この体は朝に馬鹿にならないほど弱い。
布団から出るのもかなり億劫な感じだ。 正直に言って布団に入っていたい。
それでもやはり学校に遅刻するわけにはいかないため、意地と気合で家の扉を開けはなつ。
玄関から出たら足取りはフラフラとしながら通学路を歩く。
(な、情けない。たかが低血圧でここまで体が悲鳴をあげるとは・・・っ!!)
家の塀などに手をつきながら一歩一歩、ゆっくりと進んでいく。
しかし、その重い足取りのせいかこのまま行けば確実に遅刻だと麻子は直感する。
不味いな、麻子がそう感じたとき。
「あれ、麻子?大丈夫?肩貸そうか?」
「沙織か・・・。すまない。そうしてくれると助かる。」
たまたま通りがかったのか沙織が声をかけてくれた。
男として女性に頼るのはどうかと一瞬考えたが俺自身、今は女性だから特に気にしないことにした。
「・・・ホントに大丈夫?かなり顔が白いけど?」
「・・・問題ない、と言いたいがこの低血圧は筋金入りでな。朝はずっとこの調子だ。」
「うっわぁ・・・。よく学校に来ようとするね。」
「遅刻して、いい大学に行けなくなるのは困るからな。それでもこの調子だと何十回はくだらないだろうな。遅刻の回数は。」
沙織の肩にもたれかかりながらなんとか時間内に学校に着いた。それでも時間ギリギリで風紀委員のような人物からかなり急かされたが。彼女には何回も世話になりそうだ。
「ん?この感覚・・・。まさか、な。」
誰かが俺のことを見ていたような感覚がしたが、低血圧でそれどころではなかった。
入学式の後、教室でクラスの皆との顔合わせがあった。残念なことに沙織とは離れ離れになってしまったため、全員とは完全に初対面だ。
さらにこれは予想できていたことなのだが、周りとの趣味が合わずに孤立してしまった。
(ふぅ、まさかここまで話が合わないとは・・・。やはりチェーンのような機械に興味のあるタイプは珍しいのかもしれないな。)
教室の居辛さに思わず席を立ち、教室を後にする。
窓枠に肘を乗せ、風を浴びているとーー
「やぁ、そこの君。少しいいかな?」
声をかけてくる人物がいた。振り向くとそこには赤みがかった茶髪をツインテールにした小柄な少女がいた。・・・あまり人のことは俺も言えないが。
入学式のときには見かけなかったが、大洗の制服を着ているということはーー
「上級生か?何か私に用でも?」
「いや、なにやらスカートを履いているのが苦痛のように思っていると感じてな。」
こいつ、中々鋭いな。俺が思っていることを見抜くとは。
しかし、なんだ?こいつとは初対面の様な気がしないな・・・。どういうことだ?
「ああ。そうだよ。おそらく一生慣れないだろうさ。」
「そうかな?存外に似合っていると私は思うが?」
・・・面白がっているのか?だとすれば気にくわない奴だ。
「冗談なら止してくれないか。『シャア』」
「・・・・ほう?」
待て、今俺はなんていった?シャア?シャアと言ったのか!?
「なにやら懐かしいような感覚がすると思ったが、やはりお前か、アムロ。」
「馬鹿なっ!?シャア、だと?まさか俺と同じーー」
「アムロ、今はそれ以上のことは言うな。周りの目につく。」
・・・確かに周りからも視線を感じる。シャアの言う通りだな。
「ーーわかった。」
「詳しいことは放課後に話そう。私自身、驚きはあまり隠せていないからな。」
シャアの言葉に俺は無言で頷くしかなかった。
シャアは俺が頷いたのを見ると踵を返し、おそらく自身の教室に戻ろうとする。
「そうだ。名乗ってなかったな。2年の『角谷杏』だ。君の名前は?」
「・・・冷泉麻子だ。」
「そうか。いい名前だな。それではまた放課後に会おう。」
そう言うとシャア、もとい杏はその場を後にした。
「えっ!?ちょっ!!麻子ってばさっきの人、もしかして角谷杏さんだよねっ!?」
「さ、沙織?どうしたんだそんなに興奮して。そんなに有名人なのか?奴は。」
シャアのことを考えていると背後から沙織が興奮冷めやまぬ様子で近づいてきた。
「この大洗女子学園じゃすごく有名だよ!!成績がとても優秀でしかも人望もあって、次期生徒会長って言われてるレベルだよっ!?」
「・・・・まぁ、そうだろうな。奴はカリスマだからな。」
ネオ・ジオンの総帥もやっていたんだ。その程度なら容易いことだろうな。
「あー!!もしかして麻子ってあの人の凄さ、よくわかってないでしょ!!」
「・・・いや、よくわかっているさ。嫌と言う程な。」
そこまでいったところで、次の授業の開始を知らせるベルが響いた。
「時間か。沙織、お互い頑張ろうな。」
「あ、うん。」
「・・・・なんか、杏さんの話出したら、麻子、なんか悲しそうな目をしてたような・・・。」
そう思いながらも急かすように鳴り響くベルに沙織も自身の教室へと戻っていった。
放課後
帰ろうとした時に校門の前に奴はいた。
「遅かったな。」
「うるさいな。こちらにはこちらの事情があるんだ。」
奴と帰ると言って、私も一緒に行きたいと駄々をこねた沙織を説得するのに時間がかかっただけだがな。
「さて、何から話すか。」
「単刀直入に聞くが、お前はまだ人類に絶望しているのか?」
俺がそう聞くと杏は少しばかり困った顔をした。
だが、その顔はすぐに軽い笑みを含んだものに変わった。
「いや、絶望などせんさ。そもそもの話だ。ここは我々の知る宇宙世紀とは大きくかけ離れている。過去の悔恨など持ってくるのはそれこそ門違いも甚だしいところだと思うが?」
「・・・そうか。ならいいんだ。」
「顔の緊張がほぐれたな。それほど気になっていたのか?」
「・・・あれほど常軌を逸脱したことをされれば、誰だってそうする。」
「それもそうか。すまない、無粋な問いだった。」
そこで一度会話が途切れ、少しばかりの沈黙が始まる。
「む、そうだ。麻子、だったな?お前はこの世界についてはどれほどまで知識があるんだ?」
「この世界、か?よく知らないな。勉強などで忙しかったからな。」
「それは少し不味いな。我々の常識とは一風変わったスポーツが女性の間で流行っているからな。」
「というと?」
「戦車道だよ。」
戦車道?聞きなれない単語だ。戦車という言葉がある以上、おそらくはそれを用いるのだろうがーー
「戦争の道具だぞ?スポーツにするには無理がある気がするのだが。」
「それが、安全はどうやら確立されているらしい。怪我はともかく死亡者はゼロ、とのことだ。」
「そ、そうなのか。」
「これは小耳に挟んだことなのだが、今日その戦車道の全国大会の決勝があったらしい。」
「そう言われてもだな・・・。」
「私も無理に知れとは言わん。ただこの世界にはそういったものがある。ではな。私の家はこちらだからな。」
杏はそういうと手を振りながら、帰っていった。
「シャアのやつ、学生生活を楽しんでいるな・・・。」
なんとなく悔しい思いをする麻子であった。
「しかし、戦車道か・・・。妙な予感がする。」
そして、一年後、麻子のもとに心やさしき軍神が現れる。
余談
杏は普通に生徒会長になりました^_^
最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)
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見たいです
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見たくないです