冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

20 / 65
第20話

「左だ!!」

 

私が柚子に指示を飛ばすと38tの車体が左にずれる。その直後先ほどまでいた場所を砲弾が通過する。

 

「今度は右に車体を!!」

 

今度は右に車体を動かすことで再度飛んでくる砲弾を避ける。

今のところ、相手の敵意を感じることと砲塔の向きを見切ることでなんとかサンダースの砲撃を凌いでいる。

とはいえいつまで保つか・・・。表情には出さんが、私は内心不安に思っていた。アムロ、できれば早めに片をつけてくれると助かるのだが・・・。

 

 

 

「っ・・・・!!まさか、ここまでかわされるなんて・・・!!」

 

思わず苦々しい表情を挙げてしまう。

目の前のフラッグ車に一発でも当てればサンダースの勝ちなのに、その一発が想像以上に遠く感じる。

いくら狙ってもアンジーの指示一つで発射の直前に射線から外されてしまう。

 

(どうすれば当てられるの・・・?どうすれば・・・。)

 

単発で撃っても避けられるのは目に見えている。砲撃が連続とか一気に撃てたらまだイケると思うけど、そんなに都合のいいことなんてーー

 

(あ、いいこと思いついちゃった。)

 

そうよ、それよ。一人でダメならみんなでやればいいじゃない。

 

「各シャーマンに通達よ。ワタシのオーダー通りにやりなさい。」

 

 

 

 

 

・・・・ケイの雰囲気が変わった。何か仕掛けてくるようだな。

用心したいところだが・・・正確には分からんから対処のしようがない。今のところな。

 

「むっ?砲撃が止まった?こちらが通信傍受を看破していることに気づいたか?」

 

だとすればいくらかフラッグ車に向かわせるはずだが・・・未だに私の目の前のシャーマンは7輌のままだな。

となるとその線は薄いか。他の可能性はーー

 

「こちらを仕留めにかかる、か。」

 

正直言って当たって欲しくない予感だったが、どうやら本当のようだ。

シャーマンの砲塔が全車輌、揃いもそろってこちらを向いている。

一斉攻撃で仕留めにかかるようだ。それにここは道の狭い森の中。逃げ場はほぼない。

 

「か、会長。砲撃が止んでますけど、どうかしたんですか?」

 

外の様子が気になったのか桃が尋ねてきた。・・・・彼女に任せてみるか。

 

「桃、砲撃準備だ。狙いは、地面だ。」

「ええっ!?地面ですかぁ!?」

「早くしろ!こちらがやられるぞ!!」

 

少し声を荒げると桃はびっくりした様子で砲弾を装填する。

やはり桃は装填手が適任だな。何だかんだ言って手際がいい。

 

「柚子。私の合図で急停止をしてほしい。頼めるか?」

「分かりました!!」

 

柚子に頼みごとを済ませたあと38tの砲塔が回り始める。

流石に砲撃の時まで外に出ている訳にはいかないのでキューポラから顔を覗かせる程度にとどめておく。

砲撃のタイミングはケイが通信機に手をかけたまさにその時だ。一斉攻撃するのであれば必ず各戦車にそのタイミングを伝えるために連絡をする必要がある。

 

(そこであれば、不意をつくことができるはず・・・。)

 

そして、私の予想通り、ケイが通信機に手をかけようとしたまさにその時。

 

「桃!!主砲、放て!!」

「は、はいっ!!」

 

桃がトリガーを引く。いくら命中率がゼロに等しい桃の砲撃でも地面に砲弾を撃ち込んで土を巻き上げることくらいはできる。38tの砲撃により巻き上げられた土はケイとの間の視界を塞ぐ。

 

「柚子っ!!緊急停止だ!!」

「行きますっ!!」

 

柚子が38tのブレーキを力一杯踏み込む。慣性の法則に則って、38tの車体が一瞬浮いた気がしたが、なんとかその場に止まることができた。

その瞬間、土煙をシャーマンの集団が突っ切ってきた。私の予想通りだ。

そしてーー

 

「What!?」

「各員、衝撃に備えろっ!!」

 

無論、シャーマンが38tの周りを通り抜けていく、ということはなく、ケイの乗るシャーマンと思い切り衝突する。衝撃で38tの中で振り回されるが全員怪我なく済んだ。思った以上の衝撃だな・・・。

だが、他のシャーマンとは衝突することはなくそのまま通り抜けていった。

 

「イッタタタ・・・。ちょっとアンジー!!危ないじゃないの!!」

 

どこかをぶつけたのかケイが怒った様子でこちらに話してくる。

敵同士なのに話しかけてくるとはな。これが戦車道の為せる事なのか、はたまたケイの人柄なのか・・・。

 

「こちらには引くに引けない事情があるのでな。そういうことでよろしく頼む。柚子、エンジン再起動だ!反対方向へ逃げるぞ!!」

「逃がすわけないでしょ!!」

 

柚子にここからの逃走を指示すると同時にこちらを討たんとケイがシャーマンの砲塔を旋回させている。さて、間に合うか?

 

 

 

「冷泉さん!!ポイントまで急行してください!!」

「ああ、任せてくれ!!」

 

俺たちは、森の中を全速力で駆け抜けていた。シャアが囮をしている間、二つの森の中をしらみつぶしに回っていた。

そしてついに、アヒルさんチームが敵のフラッグ車を探し当てた。

八九式は火力が心許ないため、バレー部にはこの先にあるひらけた場所に敵のフラッグ車をおびき寄せてもらっているところだ。

しばらく森の中を走っていると指定のポイントに辿り着いた。

 

「着いたぞ!!」

「敵のフラッグ車はっ!?」

『まだ森の中ですー!!でも多分そろそろ抜けると思います!!」

「森の中を抜けたらすぐに射線を開けてください!!」

『了解ですっ!!』

 

通信傍受の恐れは少ないため普通にアヒルさんチームと通信を行う西住。

その通信から少しすると森の中から八九式が飛び出してきた。

何やら機銃掃射を受けているように見えたため、おそらく後ろには敵のフラッグ車がいるだろう。

まさにその時、煙に包まれた状態で敵のフラッグ車のシャーマンが姿を現した。

シャーマンの進行方向の先には待ち構えるようにM3とⅢ突が砲塔を向けている。

既に八九式は2輌の射線からは退避している。あとは撃つだけ、と言いたいところだが、実を言うと本命は俺たちのⅣ号だったりする。

ちょうどシャーマンの側面を叩ける位置についているから俺たちが撃った方が討ち取れる可能性は高い。

 

「華、砲塔を動かす必要はない。照準に入ったら撃ってくれ。」

「分かりました。」

 

ほとんど相手の詰みの状況だったが、何が起こるか最後までわからないため気を張っておく。そして、その気を張っていたのが功を奏したのか、シャーマンから一瞬、視線を感じたのを俺は見逃さなかった。

 

(気づかれたかっ!?)

 

俺の中で生まれた不安は見事に的中した。シャーマンは急停止したのだ。しかもあの感じだとこちらの照準にはギリギリ入っていない。それにおそらく向こうは動きはしないだろう。

だが、向こうが動かないのであればーーこちらから動くまでだ!!!

 

「逃がすものかっ!!」

 

俺は操縦桿を操作して左右のキャタピラをそれぞれ逆に動かし超信地旋回をして、Ⅳ号の車体をわずかに右に旋回させる。

華はそのままトリガーを引く。わずかに車体を旋回させたことで本来外れるはずだった砲弾は、シャーマンの側面に直撃し爆発を起こす。

そして、炎上しているシャーマンから白旗が上がった。

 

『シャーマン、戦闘不能。大洗女子学園の勝利!!』

 

「勝った・・・・?私達、勝ったんだよね・・・?」

「ああ、そうだな。さっきの放送が嘘ではなければな。」

「や、やりました!!勝ったんですよ!!サンダースに!!」

 

秋山の喜びの声に誘発されたのか沙織もさっきのまるで信じられないといった表情から一転、喜びの表情へと変わり、秋山とハイタッチをしていた。

ふぅ、どうやら第一関門は突破したようだな。

俺は俺で表情を緩めることで勝利を噛みしめているとーー

 

「あの、冷泉さん?」

「華か?どうかしたか?」

 

華が声をかけてきた。何事かと思っていると、

 

「その、先ほど、フラッグ車を撃つ時、冷泉さんが車体を動かしてくれなければおそらく……いえ、確実にあの砲撃は外れていました。」

 

フラッグ車を撃破した時のことか。気にすることはないと思うのだがな。

あれはしょうがないだろうな。突然止まられて、それに対応しろというのも難しいことだ。

 

「たまたま気づけただけだ。それにちょっと手を加えただけ、9割がた君の実力で当てたようなものさ。」

「それでも冷泉さんがその手心を加えてもらえなければ外していたのは事実です。ですので―――」

 

そこまで言ったところで一度言葉を切った華。

 

「ありがとうございました。」

 

・・・全く、何を言い出すのかと思えば・・・。屈託のない笑顔で言われてしまえば何も言えないではないか。

 

 

 

「ふぅ・・・・どうにか間に合ったか。」

 

シャーマンの主砲を向けられてまさに万事休すと言った様子の中で大洗が勝利したことを伝えられる。全くこれではどっちが勝ったのかわからんな。

 

「まさか、フラッグ車が狙われていたなんてね・・・。アナタのやっていたこと、全部時間稼ぎだったのね。」

「そういうことだ。フラッグ車が出てくれば確実に狙ってくるだろうと思ってな。」

 

私がそういうとケイはうなだれた様子でシャーマンの車体に上半身をさらけ出す。

 

「Oh・・・・。その様子だと通信傍受も気づいていた感じよね?」

「ああ。序盤の方から薄々は感じていた。あれは君の指示かね?」

 

そう聞くとケイは首を横に振った。つまり部下の勝手な行動か。

 

「あれはアリサの……ああ、私のそばにいたツインテールの子ね。あの子、割と手段を選ばないから・・・。はぁ、この後反省会ね。私も含めてだけど。」

「ん?何故反省会なんだ?」

「フェアじゃないことは好きじゃないのよ。通信傍受って、相手の通信を盗み聞きすることでしょ。あまりやりたくないの。」

 

ふむ、どうやら彼女はフェアプレイ精神が強いようだな。スポーツにおいてその精神には驚嘆に値するものがある。

 

「そのアリサという人物を責めるのか?」

「そんな訳ないじゃない!あの子だって本当はいい子だって分かってるわ。ただ、勝手にやったことをちょっと問い詰めたいだけ。」

「ふむ、まぁ、部下の勝手な行動を戒めるのは隊長の役目だ。だが、そう彼女に怒らないでやったらどうだ?」

「Why?どうして?」

「今回彼女が君にも相談せずに君の主義にも反して通信傍受をしたのは、まさに君を思ってのことだったのだろう。」

「ワタシを思って・・・?」

「おそらくだがな。その人物はわかっていたんだろうな。君の主義に反するのは。」

「ふーん・・・。」

 

ケイは腕を組み、考え込んでいる。あとは特に言う必要はないだろうな。

 

「あとは君自身が知ることだ。これ以上はただのお節介になりそうなのでな。」

 

私は柚子に指示して、その場を後にした。

 

「ワタシのため・・・ね。」

 

 

 

 

私が試合用の陣地に戻ってくるとすでに大洗の面々は一種のパーティー状態であった。

 

「ふむ、賑わっているようだな。」

「遅かったな。道草でも食っていたのか?」

「少しばかり、お節介をな。」

「そうか。それはいいんだが、お前はこの風景をどう思う。」

 

アムロに言われ、大洗のみんなの様子を見ると未だ興奮冷めやまぬ様子で騒ぎまくっている。はっきり言ってこれはーー

 

「居辛いものがあるな・・・・。女子高生のテンションとは凄まじいものだな・・・。」

「なら、向こうへ行くか?」

「・・・そうさせてもらおう・・・。」

 

 

 

大洗女子の喧騒から少し離れたところで静かに勝利を喜ぶ。

 

「勝ったな。」

「ああ、勝ったな。しかし、よくフラッグ車を囮に使うことを許してくれたな。」

「それに関して、後で西住にお礼でもいっておいたらどうだ?」

「ふっ、そうだな。」

 

確かに西住君には後でお礼を言っておかねばならんかもな。フラッグ車を囮に使うなど中々やらないだろうからな。

とりあえずそこら辺の自販機で買ったお茶を飲む。

私とアムロ、二人でまったりしているとーー

 

「あ、冷泉さんと会長。こんなところに居たんですか。」

「Hi!!アンジー!!探したわよ!」

「・・・アンジーってお前のことか?」

「ああ。試合前の挨拶の時にあだ名をつけられてしまってな。」

 

西住君とケイがやってきた。しかし、二人揃って何用なのだ?

 

「どうかしたのか?」

「その、ケイさんと話していたら共通の疑問を持っていたようなので一緒に二人を探していたんです。」

「共通の疑問・・・・?」

 

・・・あまりいい予感がしなくなってきたな・・・。

 

「アンジー、アナタ、タンカスロンでもやっていたの?」

「タンカスロン?知らない名だな。」

「・・・本当に?じゃあ、何処で戦車道をやってたの?」

 

ああ、なるほど。ケイは私が戦車道の経験者だと思っているのか。

 

(・・・俺も西住に似たような内容の質問を受けたがその時は初心者で押し切った。だが、技量は俺と同レベルだと言ってしまっている。)

 

アムロが隣で私にしか聞こえないレベルの声量で情報をよこしてくれる。

ふむ、なるほど。その発言を考えて矛盾の少ない解答の仕方は・・・

 

「私は初心者だよ。とはいえ、戦車を動かす機会がなかった訳ではない。

イベントとかでたまたまそういった機会があってな。それで動かし方は学んだ。」

「ふーん・・・。」

「イベントですか・・・。」

 

いい感じにはぐらかせたとは思うが、まだ疑いの線を消せていないようだな。

とはいえ、これ以上はなにも言えることはないのだがな・・・。

 

「大洗の会長がおっしゃっていることは事実ですわよ。」

 

何やら面倒な雰囲気が漂ってきたと同時に車のエンジン音と共にピンク色のオープンカーが現れた。

紅茶片手に育ちの良さそうな感覚を覚える人物と言ったらーー

 

「ダージリン。来ていたのか。」

「ええ。友人の試合を見に行くのは当然のことでしょう?そして、一回戦突破、おめでとうですわ。」

 

・・・対戦した相手の目の前でそれを言うのか・・・。

内心、頭を抱えてしまう。ケイも不機嫌な顔つきに変わっている。

 

「それで?アナタは何の用なの?それと、アンジーの言っていることが事実ってどういうことなの?」

 

どこか怒気の含んだ口調でダージリンに話しかけるが、当のダージリンは優雅に紅茶を嗜んだ後に口を開いた。

 

「聖グロの誇る諜報機関、『GI6』からの情報ですわ。一通りのタンカスロンの非公式な試合や小学校から中学校に至るまで戦車道チームの名簿など確認したが、お二人の名前はかけらもなかった、とのこと。」

 

・・・聖グロには諜報機関まであるのか・・・。どこまで戦車道に力を入れているんだ・・・。

 

「つまり、彼女らは正真正銘、全くの初心者ですわ。」

 

これは思わぬ援護射撃が入ったな。しかしだな・・鵜呑みにするのは不味い感覚がする。聖グロはイギリス風な校風。歴史を鑑みるに二枚舌や三枚舌にもなるからな。

 

「うーん。GI6ねぇ・・・。それなら事実かもね。となると凄いセンスの持ち主なのね。アンジーたちは。」

「そうですね。冷泉さんは乗り始めた初日からドリフトとかしてましたからね。」

「Reallyっ!?センスの塊じゃないの!!」

「あら、そこまでの技量をお持ちなのね。ますますお二方が気になりますわね。」

「・・・確か、こんな状況を表す諺がなかったか?」

「・・女三人寄れば姦しい、じゃなかったか?」

「それだな。」

 

各校の隊長の三人が会話で盛り上がっている中、お茶を口に含む。

お茶の渋みが口の中に広がって心が落ち着く・・・。

 

「みほ?」

「・・・お、お姉ちゃんっ!?」

 

そんな声が聞こえたので顔を上げると、そこには戦車道をやっているものなら誰でも知っている人物がいた。

 

「なぁ、私の見間違いか?」

「いや、あれは本物の西住まほだな。」

 

・・・・なんだこの混沌と化した状況は。

 

 

 




サンダース戦、終わりましたー!
だがしかし、アムロたちの心労はまだ続きそうです^_^

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

  • 見たいです
  • 見たくないです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。