冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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第25話

「冷泉さん!カメさんチームを護衛しつつ斜面を下ってください!」

「分かった。」

 

斜面を下りつつ、フラッグ車であるシャアの38tをⅣ号の車体で覆い隠す。

斜面ではスピード調整をうまくやらねばすぐ速度が出るからな・・・。

と、言っているそばから38tの車体がⅣ号からはみ出たな。

覗き口からは微妙に見えないが、感覚でわかる。

相手のP40からすかさず砲撃が飛んでくるだろうからわずかにⅣ号のスピードを上げる。

 

カァン!

 

Ⅳ号の装甲が何かを弾いた音を響かせる。

その何かとは大方P40の砲弾だろうな。こちらのスキを見逃さないとは中々やるようだな。向こうの砲撃手は。いやアンチョビの指示もあるか。

だが、狙いは正確だがそれ故に読みやすいがな。

 

ん?シャアの奴、何かするつもりなのか?

何か邪魔だからどいてほしいと言っているような気配を感じる・・・。

・・・タイミングはこちらで取らせてもらうぞ。

狙いはP40が砲撃を撃った瞬間だ。要するにカウンターだ。

そして、P40から放たれた砲弾がⅣ号の装甲に弾かれた瞬間、

 

「西住、少しブレーキをかけるぞ。」

「え、は、はい。」

 

西住に一応通達しながら俺はわずかにブレーキをかけた。わずかとはいえスピードは落ちるものなので必然的に38tはⅣ号の車体からはみ出る。

その瞬間、38tの砲塔が火を吹いた。

放たれた砲弾は護衛のCV33の履帯に山の木々をすり抜けながらピンポイントで直撃し、白旗をあげながら吹っ飛んでいった。

流石だな。聖グロとの試合の時もそうだったが、まだ衰えてはいないようだな。

さて、手早くスピードを元に戻しておくか。

 

 

 

「す、すごい・・・。」

 

私は冷泉さんの操縦を見ながらそんなことを呟いていた。

今はキューポラから身を乗り出して周りの状況を把握しているけど、冷泉さんは操縦手というあまり周りの状況がわからない立場にいるはずなのにまるで見えているような動きを見せていた。さっきのカメさんチームを守った時も私は指示を出そうとしたけど、その前に冷泉さんが実行に移してしまった。

冷泉さんのおばぁさんも言っていたけど、本当に頼りになる人だなぁ・・・。

同い年なはずなのにどうしてこんなにも頼りにしたくなるんだろう・・・。

 

「西住、そろそろ斜面を下りきるが、どうする?」

「あ、はい。わかりました!」

 

冷泉さんの言う通りそろそろ斜面を下りきる。とりあえず、今はこの試合のことを考えなきゃ・・・!!

 

「冷泉さん、こちらが追う形にできますか?」

「やってみせるさ!!」

 

冷泉さんはそう言うと斜面を降り切ると操縦桿を左に切って、同じく斜面を降り切ったP40とすれ違う。

その瞬間、操縦桿を操作してすぐさまUターン。私達がP40を追いかける形を作った。38tも少し遅れてだけど私達に追従する。

なんとかこっちに有利を持ってくることはできた・・・。

あとはP40の重装甲をどう撃ち抜くか・・・。

普通に撃ってもⅣ号と38tの主砲だと難しい・・・。なら・・・。

 

「会長、また囮をお願いできますか?」

 

私は通信機で会長にサンダース戦の時と同じように囮をお願いすると共に作戦の内容を伝える。

 

『・・・了解した。うまく引きつけるとしよう。』

「お願いします。」

 

 

 

「あいあいー!!」

 

操縦桿を右に切って、セモヴェンテから飛んでくる砲弾をなんとか避ける。

 

「おー。避けてる避けてるー。」

「凄いよ桂利奈!!」

「流石やれば出来る子!!」

「桂利奈、そのまま相手のセモヴェンテと付かず離れずの距離を保って!」

「あいあいー!!」

 

セモヴェンテの砲撃ははっきり言ってM3の装甲では受け止めることはできない。

だから、一発でも当たればやられちゃう。いつもなら焦っちゃうけど、冷泉センパイに言われたみたいにこういう状況でも焦らないように気をつける。

するとなんとなくだけど、後ろからの視線?っていうのかな。それっぽいものを感じるようになってきた。この調子ならなんとかーー

 

「っ!?な、なんか嫌な予感がする・・・。」

「か、桂利奈!!前前!!」

 

妙な寒気を一瞬感じたその時、梓の焦った声が聞こえた。覗き穴から前を見ると向かい側からCV33とそれを追っている八九式が突っ込んできた。

 

「う、うええっ!?」

 

咄嗟に操縦桿を切って追突しそうだった八九式を避ける。でも操縦桿を切りすぎたのか、M3が少しばかり片輪走行の状態になる。

 

「わわわわわ!!」

「か、傾いてるー!?」

「このままだと横転しちゃう!桂利奈、戻せる!?」

「あ、あいー!!」

 

なんとかバランスを保ちつつ、M3の車体の角度を元に戻す。

キャタピラが再び地面についたのを確認するとM3の中でみんなの安堵した息が揃った。

 

「し、死ぬかと思った・・・。」

「正面から衝突してたらメガネだけじゃ済まないよー!!」

 

 

 

 

 

「あ、危なかったー・・・。」

 

思わず額の汗を腕で拭う。一歩間違えれば大惨事は免れてなかっただろうから仕方のないことだと思う。

 

「キャプテン、大丈夫ですか?」

「こっちは大丈夫!気を取り直してもう一回気合いを入れ直すよ!!バレー部ファイッ!!」

『オーっ!!!』

 

八九式の中で気合いを入れ直してCV33を追いかける。隊長からCV33のウィークポイントを教えてもらったけど、試しに普通に5輌のうちの1輌に砲弾を撃ち込んでみた。

結果は隊長の言う通りしばらくするとその1輌は戻ってきた。やっぱり的確に砲弾を撃ち込まないと倒すのは難しいみたいだ。

 

「よーし、隊長に言われた通りに相手の弱点を狙っていくよ!まずはエンジン冷却部!!」

 

CV33の後ろに見えるエンジン冷却部に砲弾を撃ち込む。直撃を受けたCV33は火をあげながら白旗を出した。

 

「よし!どんどん行くよー!!次はフロントライト!!」

「はいっ!!」

 

フロントライトに砲撃を撃ち込むとCV33はさっきと同じように炎上して白旗を出した。

よし、この調子なら・・・!!

 

「次はバックライト!!」

 

続けて砲塔を旋回させて、前方のCV33のバックライト部分を撃ち抜いた。

確実に減らせてる。あと2輌・・・!!

 

「ここも弱点・・・・!!」

 

横にいたCV33は排気口部分に砲弾を当てることで撃破する。

最後に残った1輌を撃破しようとしたが、そのタイミングで残ったCV33が西に進路を切った。

 

「あれ?確か、これって・・・・。」

 

それが集合の合図だと思い出した瞬間、河西に指示を出して、逃げたCV33を追い始めた。

 

 

 

 

「さてと、そろそろだな・・・。」

 

私は今、木の陰に隠れてP40を待ち伏せている。これでアンチョビが何も気づかずに行ってくれるとありがたいのだが、そう易々と罠にハマる彼女ではない。

追ってこないことに気づけばすぐに待ち伏せを警戒するだろう。

 

「む・・・来たか。」

 

P40が視界に入ったが、すでに砲塔はこちらに向いている。やはり看破されているようだな。

だが、待ち伏せをして、失敗したと思わせるために一応攻撃はしておくとしよう。装甲に弾かれるだろうがな。

 

「そこか。」

 

P40の動きを予測して砲撃を行う。とりあえず当たればいいという大雑把な撃ち方をしたため放った砲弾はP40の車体上部に当たり、堅牢な装甲に弾かれる。

P40はこちらに針路を変更して向かってきた。

 

「こちらの誘いに乗ったか。柚子、指定ポイントまでの移動を頼む。」

「はい。わかりました!」

 

サンダースのときと同じように鬼ごっこを開始する。しかし、前回と違うのは目的が時間稼ぎだったのに対して、今回は敵をキルゾーンまで誘導することだ。

Ⅳ号はそこに先回りしている。

 

「桃は装填をしておいてくれ。定期的に撃っておかねば、向こうが不審がるからな。」

「了解です!」

 

そういえば、サンダースのときは泣きべそをかきながら装填していたが、今回は特にないのだな。

 

「前回のように泣きべそはかかないのだな。」

「ま、まぁ・・・サンダースのときと比べたら・・・。」

「それもそうか。君も成長しているようで何よりだ。あとは高圧的な態度だな。」

「そ、それは言わないでくださいぃぃ・・・。」

「それが桃ちゃんらしさでもあるけどね。」

「桃ちゃん言うなー!!」

 

柚子の『桃ちゃん』という呼び方に声を大きくするがその様子に嫌がる様子はあまり見えなかった。なんだかんだであまり嫌とは思っていないのだろうな。

 

「さて、茶番はここまでにしておこう。報告によると既にセモヴェンテとCV33が1輌ずつP40の許に向かっているらしいからな。時間との勝負だ。このわずかな時間でカタをつける。」

 

私がそういうと二人の表情が引き締まったものに変わった。

よし、なら行こうか。

柚子の操縦で山の森の中を駆け抜ける。途中砲撃が飛ぶが運よく一度も当たることはなく進んでいく。しばらくすると森を抜け、切り立った崖に到着する。

一見、私たちが追い詰められたように見えるが、ここが大洗のキルゾーンだ。

重戦車は確かに装甲が硬いがそれは横から当てればの話だ。狙い所によっては装甲が薄い箇所もある。

だが、その前に今までの砲撃の間隔を考えるとそろそろ向こうの装填は済んでいるはずだ。

ならばーー

 

「柚子、前に出ると見せかけて後退しろ!フェイントをかける!」

「はい!!」

 

柚子が38tを前に出す。そして、すぐさま操縦桿を後ろに引き、後退する。

その瞬間、先ほどまで38tがいた場所に砲弾が撃ち込まれた。

 

「今だ!撃て!!」

 

私は切り立った崖の上にいるⅣ号に向けて声を荒げた。

 

 

 

 

「華!敵の足が止まったぞ!」

「華さん、撃ってください!!」

「一意専心。外す訳には、いきません!!」

 

意気込んで放たれた華の砲弾はP40の装甲の薄いはずである排気口付近に着弾した。

いくら重戦車といえど、排気口付近に砲弾を叩き込めば・・・!!

そう思いながらP40の様子を伺う。煙が晴れてくるとそこには白旗の上がったP40の姿があった。つまりーー

 

『P40、行動不能。大洗女子学園の勝利!!』

 

勝ったか・・・。これで準決勝に進出か。

 

 

 

 

みんなで勝った喜びを陣地で噛み締めていた。皆、ハイタッチなどで思い思いの反応で勝利を喜びあっていた。

 

「やりましたね、西住殿!次は準決勝ですよ!」

「うん!順調に行けば決勝に行けるかも。」

 

西住と秋山も笑顔を浮かべている。その様子を見ているとーー

 

「いや〜、今年こそは勝てるとおもったんだけどな〜。」

 

アンチョビがやってきた。その様子はどこかやりきったような表情をしている。

隊長として西住が近づくと互いに握手して、イタリア式の挨拶をした。

 

「決勝まで頑張れよ。私達も全力で応援するからな!だよなぁ!?」

『おーっ!!!』

 

アンチョビが振り向いて手を振るとそこにはアンツィオの生徒達がいた。

彼女らは笑顔で腕をこちらに振っている。本当に応援してくれているようだ。その様子に慣れていないのか西住は若干引き気味な笑いを挙げていたが。

するとアンツィオの生徒達はトラックから何やら机などを出して準備をし始めた。

 

「・・・・何をやっているんだ?彼女らは。」

「アンツィオの生徒は試合の勝ち負けに関わらず、終わったあとは試合相手も引っくるめてパーティーを行うんですよ。」

 

俺がふと思った疑問に秋山が答えてくれる。パーティーか。中々食費がかかりそうなことをするのだな。

パーティーの準備を見ているうちに彼女らの作る料理のクオリティがとても高いことに気づいた。これは、悪くないかもしれないな。

瞬く間にパーティー準備が整えられ、机の上には綺麗なイタリアの料理が並んだ。

俺もアンツィオの生徒に用意された机の前に案内された。

 

「せーの!!」

『いただきまーす!!』

 

アンチョビの音頭と同時に試合後のパーティーが始まる。俺もパエリアやピッツァといった料理に手をつけた。こういう論評は苦手だからあまり具体的には言えないが、とりあえずうまい。

舌鼓を打ちながら食べること、体感時間で一時間ほどたったころ、俺は少しパーティーの喧騒から離れて、置いてあった椅子に座っていた。

 

「ここにいたか。」

 

そこにシャアがやってきた。手にはお茶のような色合いをした二つのグラスがあった。シャアはその内一つを俺の前に置いた。

 

「持ってきてくれたのか。すまないな。」

「今回も見事な活躍だったな。」

「よせよ。お前の方が今回は活躍しただろう。」

「ふっ、お前の口からそういうのが出るとはな。」

 

そういうとシャアも置いてあった椅子に腰かけた。

俺は奴の言葉を無視して用意してくれた飲み物に口をつけた。

だがーー

 

「っ!?おい、これお茶じゃないなっ!?」

「ん?違うのか?」

「これはウイスキーだ!!一応未成年の俺たちが呑んでいいものじゃないぞ!!」

 

俺の剣幕に圧されたのかシャアも自身のグラスに入った飲み物を口につける。

すると奴は困った顔をしだした。

 

「すまん。どうやら紛れ込んでいたようだ。私がアンチョビに処理を聞いてくるから渡してくれ。」

「ったく。気をつけろよ。」

 

俺は奴にグラスを返して料理に手をつけ始めた。

 

 

 

 

 

まさか、ウイスキーが紛れていたとは・・・。気づかなかったな・・・。

とりあえずアンチョビに伝えるとするか。

 

「アンチョビ、少しいいか。」

「ん?杏じゃないか。楽しんでるか?」

 

アンチョビに声をかけると彼女は屈託のない笑顔を向けてきた。

 

「ああ、楽しんでいるとも。だが、少し不味いものがあってな。」

「何!?口に合わないものがあったか?」

「そういうワケではない。」

 

私はアンチョビの前に件のウイスキーの入ったグラスを置いた。

アンチョビは疑問符を浮かべている。

 

「どうやら酒が紛れていたようだ。これはそれの入ったグラスだ。」

 

それを耳にしたアンチョビは一転して青ざめた顔をしだした。

 

「な、なんでそんなものが!?の、呑んだんじゃないだろうな!?」

「一口付けたが、それ以上は呑んでいない。」

「す、すまない!!多分ウチの誰かが持ってきてしまったんだと思う!それはこっちで処分するからそこに置いといてくれ!」

 

そう言われたため、私はアンチョビのそばの机にグラスを置いた。

だが、私はその時点で知らなかった。まさかあんなことになろうとは・・・・。

あのときのアンチョビの顔は今思い返すと傑作だったな。

 

 

 

うーん・・・。ずっと誰かと喋っていたから少し喉が渇いちゃった・・・。

 

「ん?大洗の隊長さんじゃないっすか。どうかしたっすか?」

「あ、えっと・・・。」

「ペパロニっす。それでどうかしましたっすか?」

「少し喉が渇いちゃって・・・。」

 

そういうとペパロニさんはアンチョビさんが座っていた机に置いてあるお茶のような液体の入ったグラスを私に寄越してくれた。

 

「はい!お茶っすよ。これで大丈夫っすか?」

「はい。ありがとうございます。」

「いいってことっすよ。」

 

ペパロニさんから受け取ったグラスを口につける。

口に含むと変な味のするお茶だったけど、多分イタリア特有のお茶なのかなと思い、全部飲み干した。

って、あれ・・・?なんか頭がポヤポヤしてきた・・・。

 

 

「ああっ!?ペパロニー!!お前何ていうことを!!」

「うぇえっ!?姐さん、どうかしたっすか?」

「どうもこうもあるかー!!よりによってお前はなんていうことをしでかしたんだ!!」

「え?何って、お茶を渡しただけっすよ?」

「あれはお茶じゃなくてウイスキーだ!!お、おい西住っ!?どこに行くんだーっ!?」

 

あー♪れいぜいさんだぁー♪ヒック。

 




戦犯、ペパロニ

忠告だけしておく。次の回は死ぬほどイタいぞ。

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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