冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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┌(┌^o^)┐ユリィィィィィィィィ!!!




第26話

シャアがアンチョビにウイスキーの入ったグラスを渡しに行ってから数分すると奴が戻ってきた。その手には別の飲み物が入った紙コップがあった。

 

「今度は普通の飲み物なんだろうな?」

「ああ。ちゃんと飲んで確認した。今度は普通のフルーツジュースだ。」

 

ならいいのだが・・・。そう疑いながらも持ってきた紙コップに口をつける。

・・・・普通のフルーツジュースだな。

 

「それで、酒が混入した理由はわかったのか?」

「アンチョビ曰く、アンツィオの生徒の誰かが持ってきたのだろうが、それ以上は分からないとのことだ。」

「お得意のノリと勢いか?それが取り柄というのも考えものだな・・・・。」

 

ため息を吐くと、そこから先はパーティーの喧騒を背景に静かにジュースを嗜む。

しばらくそのジュースと一緒に料理を食べているとーー

 

「・・・・・ん?」

 

後ろから何かの気配を感じた。それと何やら騒がしい雰囲気になっている。

何事かと思い、後ろを振り向こうとしたがーー

 

「れいぜいさーん♪」

 

それよりも先に後ろから飛びつかれて衝撃が体を襲うが、なんとか持ちこたえる。

飛びついてきた人物ははっきり言って、さっきの声で察しはついていた。

 

「・・・・どうした?西住。」

「えへへー♪」

 

何かあったのかと思ったが、西住は妙な笑顔を浮かべたまま俺の肩を腕を回して抱きついてくる。

そして、その西住からほのかに感じた酒のような匂い。これはウイスキーか?

 

「・・・・まさか、呑んだのか?」

「・・・アンチョビ?まさかとは思うが・・・。」

 

俺の発言に驚いたのかシャアはアンチョビに問い詰めた。返ってきたのは、申し訳なさげに手を合わせるアンチョビの姿であった。

本当に呑んでしまった上に酔っ払っているのか・・・。

 

「どうする?引き剥がすか?」

 

シャアが西住を引き剥がすかどうかを尋ねてくる。それでもいいかもしれないが・・・。

 

「いや、このままで構わない。変に引き剥がそうとして西住が何をしでかすか分かったものではないからな。」

「れいぜいさーん♪わたしがんばったんですよー♪」

「ああ。君はいつも頑張っているよ。」

「お前がそういうのならいいのだが・・・。」

 

いつもの労いを兼ねて褒めると西住は嬉しそうな表情をしながらすり寄ってくる。猫か?君は。

しばらくじゃれてくる西住に適当に相づちを打っていると眠くなってきたのか頭をかくつかせて舟を漕ぎ始めた。流石に後ろから俺に腕を回している体勢で寝られると、西住自身が危ない。どうしたものか・・・。

 

「西住君、そのまま麻子の太ももの上に乗っかるのはどうかね?」

「ふにゅ・・・?」

 

し、シャアの奴、余計なことを・・・!!西住は眠たそうな目をこすりながら俺の太ももの上に乗っかってくる。

くっ、西住が酔っ払っているから迂闊な対応を出来ないことをいいことに・・・!!

西住は微妙に熟れた瞳を俺に向けて見下ろしている。

・・・・いろんな意味で大丈夫か?これ、社会的に死なないか?

そう思っていると西住が座っている俺に抱きついてきた。

 

「れいぜいさーん・・・・♪だいすきです・・・♪」

 

誰か止められる人はいないのか?

そう思って辺りを見渡すが、皆揃って顔を赤くしてその状況を目を見開いてじっと見つめてくる。見世物ではないんだがっ!?

 

「な、なぁ、杏。あの二人、その、できてるのか?」

「二人が付き合っているという意味であれば答えはNOだ。」

「あ、あんな激甘空間を形成しているのにか・・・?周りはみんな顔を赤くしてるんだけど・・・。」

「アンチョビ、手で顔を覆い隠しているように見えるが、やけにじっくりと見ているんだな。指と指の間が開いているが。ああいうのは好きではなかったか?」

「お、お前、何でそのことをっ!?」

 

視線を元に戻すと西住が穏やかな寝息をたてていることに気づく。

寝てしまったか・・・。これからどうしたものか・・・。

そう決めかね、悩んでいるとーー

 

「あー、その、取り込み中悪いんだが・・・。」

「・・・別に取り込んでいるわけではないのだが?」

 

アンチョビが話しかけてきた。こちらとしては別に何かしていたわけではなかったから普通に対応をする。

アンチョビは何か予想とは違ったのか拍子抜けな表情をしていたが。

 

「え、あ、そ、そうか。ならいいんだ。今回酒が混じってしまったのはこちらの手違いだ。すまなかった。」

「ああ、どんなことにも不都合や不備は出るものだからな。こちらとしては気にしてないからそちらもあまり気にしなくて構わない。というより穏便に済ませないと色々と不味いことが・・・。」

「それもそうなんだよな・・・。だが、それではこちらの面目もないのでな。せめてもの詫びで学園艦まで先に送らせてくれないか?」

「それだとⅣ号は誰が戻すんだ?」

「うちのペパロニにやらせる。今回の騒動の原因だからな。」

「姐さん、ちゃんと迎えにきてくれますよね・・・?置いていったりしないっすよね?」

「そこまで非情じゃないから安心しとけ。」

「・・・それじゃあ、よろしく頼む。この様子ではしばらく起きないだろうからな。」

 

スヤスヤと寝ている西住を横目に見ながら俺はアンチョビの提案を承諾した。

試合の挨拶のときにアンチョビと一緒にいたカエサルの友人、カルパッチョの運転でほかのみんなより先に学園艦へと戻った。

ただ、西住が離れてくれなかったため、アンチョビとカルパッチョの二人からの視線は痛いものがあったがな。

 

「なぁ、学園艦までとは言ったが、西住を担いだ状態で家まで大丈夫なのか?」

 

道中、アンチョビがそんなことを聞いてくる。ふむ、それもそうか・・・。

学園艦自体、とても広いから西住を担いだまま家まで帰るのは無理があるかもしれない。

 

「・・・・厳しいものがあるな。家まで頼めるか?学園艦内の案内は私がする。」

「任せてくれ!カルパッチョ、予定変更!学園艦の中に入ってくれ!」

「了解です。ドゥーチェ。」

 

アンツィオのジープは大洗学園艦に入り、しばらく俺の道案内で市街を進んでいくと西住の住むマンションに到着する。

 

「すまない。今回は助かった。」

「礼には及ばないさ。あ、そうだ。もし何かあったら連絡してくれ。私達はペパロニを拾わなければならないから、ここら辺をうろついている。これ、私の連絡先。」

 

アンチョビは俺に携帯を渡して連絡先の交換を行う。確かにもしかしたら俺一人ではどうにもならないときがあるかもしれない。これは有難いな。

 

「ありがとう。何かあったら頼む。」

「ああ、任せてくれ。だが、いいのか?西住を置いた後、家まで送らなくて?」

「家自体、それほど離れているわけではないから大丈夫だ。」

「そうか。わかった。それじゃあな。頑張れよ、準決勝。」

「元よりそのつもりだ。」

「・・・・何というか、シュールだな。西住を抱っこしている光景は。」

「・・・あまり言わないでくれ。」

 

俺の言葉に乾いた笑みを浮かべたアンチョビは手を振りながらジープに乗ってそのまま去っていった。

俺はそれを見送った後、マンションの階段を登り、西住の部屋の前に到着する。

部屋自体は全国大会前に来たことがあったため特に調べることはない。

俺は西住のバックから部屋の鍵を拝借して中に入る。

 

「西住ー。部屋に着いたぞ。大丈夫か?」

「う・・・う〜ん。」

 

俺の声にも曖昧な反応を示すだけでまだ意識がはっきりしていないことを察する。

とりあえず、ベッドに寝かせるか。

俺はベッドに向かい、西住を寝かしつける。西住が俺に回していた腕はすんなりと解け、晴れて俺は自由の身になる。

とはいえ、すぐに西住の家を出るわけにはいかなかった。

あまりないとは思うのだが、急性アルコール中毒とかあるからな。

もしものことを考えて水を持ってこようとしたがーー

 

グイっ

 

「ん?なんだ?」

 

ズボンを引っ張られるような感覚を覚えたため、何事かと思って振り向くと、西住が俺のズボンを摘んでいた。

その摘んだ手からは何となく行かないでほしいと嘆願しているようにも思えた。

 

「・・・・寂しいのか?」

 

俺は困った顔をしながらしゃがんで、ズボンを摘んでいた手を握りしめる。

手を握りしめると西住はしっかりと握り返してきた。心なしか表情が穏やかなものに変わったと感じられる。

 

「・・・とりあえず、俺はここにいる。まぁ、こんな中身がおじさんな同学年では大した支えにもならないだろうけどな。」

 

とはいえ、どうしたものか。西住の様子をしばらく見たら帰ろうとしたのだが、その西住が手を握りしめたまま離そうとしてくれない。

これでは帰れないな・・・・。

それに今日の夜は夏が近づいてきた割には中々冷えている。

そのまま何も対策を取らなければ最悪風邪を引くだろうな。

 

「・・・・・いや、流石にそれは不味くないか?」

 

ふと視界に入ったのは西住のベッド、頭の中をよぎったのはつまるところ西住の隣で寝るということ。思わず自問自答してしまったが、ダメじゃないか?年頃の女の子の隣で寝るのは。

 

「とはいえ、おそらく離してはくれないだろうしなぁ・・・・。」

 

毛布を取りにいかせてもくれないらしい。行こうとしても掴んだ手に力が込められていて、離してくれない。

 

「・・・・腹をくくるしかないのか・・・。」

 

観念して、制服の状態で西住の布団に潜り込んだ。現在進行形で何かやらかしている気がしてならないが、ほかに手が思いつかないため頑張って寝た。

 

 

 

 

 

ん・・・んん・・・あれ?ここは・・・私の家?

どうしてだろう。昨日はアンツィオ高校と戦って、勝って、パーティーに誘われて、何かお茶みたいなものを飲んでからの記憶があんまりない・・・・。

あれ?何か手に感触がーー

 

「ん・・・んん?・・・・起きたか。おはよう。」

 

・・・・え?冷泉さん?どうしてここに・・・・?

そこで、自分がここに至るまでの経緯を一部分、思い出した。

 

『れいぜいさーん♪わたしがんばったんですよー♪』

『れいぜいさん・・・だいすき・・・。』

 

(・Д・) ( ゚д゚)(´・ω・`)\(^o^)/

 

 

「西住、どうした?先ほどから固まっているが・・・・。」

「き・・・・・。」

「き?・・・・あ、待て!!」

「きゃ「ストップだ、西住!!」むぐっっ!?」

 

 

 

あ、危なかった。ここで悲鳴を上げられては近所の住民に多大な迷惑がかかってしまう。咄嗟に西住の口を塞げたが、西住は未だに顔を真っ赤にしてパニック状態になっていた。

 

「むぐんぐぐっ!?」

「に、西住、まずは落ち着いてほしい。ここで叫ばれては最悪警察沙汰だからな。」

 

俺の言葉に気付かされたのか、西住はひとまず落ち着いた様子を見せ始めた。

な、なんとかなったか・・・・。冷や汗をかいたぞ・・・・。

 

「あ、あの・・・冷泉さん、どうして私の隣で?」

「まずはそれについては謝る。だが、これには中々深い事情があってだな・・・。」

 

そう言って、俺は西住に事のあらましを包み隠さず話した。

それを聞いた西住はーー

 

「・・・・穴があったら入りたいよぉ・・・・!!」

 

布団に顔をうずめてしまった。自身の失態を言われるのはかなり恥ずかしいものがあるのはわかる。だから仕方ないのことだろうな。

 

「あの・・・。冷泉さん?ちなみにそれは、みんな見てました?」

 

・・・・中々答えづらい質問をしてきたな・・・・。

どうする・・・。どう答える。言い方に寄っては後々大変なことになるな・・・。

 

「・・・私はあまり周りを見てはいなかったが、ほぼ全員が見ていた、と思う。」

「・・・・・。」

 

そう答えると西住は顔をふとんにうずめたままピクリとも動かなくなった。

・・・西住の顔を伺えないが、なんとなく感じさせている雰囲気はわかる。

非常に不味い。

 

「・・・フ、フフ・・・。」

「に、西住?」

「フフフフフフ、アハハハハハ!!!」

 

突然、顔をガバッとあげて不敵な笑みをすると狂ったように笑い始めた。

その時始めて西住の顔が見れたが、その目は濁っていたように見えた。

そして、この西住から感じる黒いオーラは・・・!?

 

「西住!!お前の纏っているソレは危険だ!!抑えるんだ!!」

「ダァメなんですよ・・あんなのをみんなに見られて平静を保っていられるわけがないじゃないですかぁ・・・!!」

 

西住がさながら何かのシステムの制御に失敗して暴走を始めたような状態になってしまった。まぁ、ただの羞恥心が限度を超えてしまって感情が暴走しているんだと思うのだが。とはいえ、このまま放置したら本当に不味いことになりかねない。

 

「西住、それ以上はよせ!自分の黒歴史をこれ以上積み重ねる気かっ!?」

「ううっ・・・で、でも・・・!!」

「あれは酒のせいだとみんな分かっている!君が心配することはないんだ!!だからもうよせ!!」

 

そこまで言ったところで西住は纏っていた黒いオーラを引っ込めた。

なんとかなったようだ・・・。

 

「・・・今考えてみれば冷泉さんもだいぶ恥ずかしかったよね・・・。それなのに私を止めに来てくれて・・。」

「恥ずかしいという気持ちはわからないわけではない。だが、周囲に当たり散らすようではどうしようもないのでな。」

「その、ごめんなさい。」

 

さて、一段落したところで、体調の確認とかしておくか。

 

「西住、体調とかはどうだ?二日酔いなどはあるか?」

「それは・・大丈夫みたい。そもそも飲んだ量が少なかったからかな。」

「ならいいんだ。朝飯だが、コンビニで適当なものを買ってくる。少し待っていてくれ。」

 

そういいながら靴を履き、扉を開け、コンビニへと向かった。

 

 

 

 

「・・・・・はぁ・・・どうしてあんなこと言っちゃったんだろ・・・・。」

 

ベッドの上で体育座りをして顔を隠すように自分の膝を抱く。

あれは、誰がどう見たって告白だよね・・・・。

 

「まぁ・・冷泉さん、本当に頼りになるからなぁ・・・。その、甘えさせてもらっても普通に応えてくれるし。お姉ちゃんとのわだかまりをなくすきっかけも作ってくれたし・・・。

 まるで、大人の人みたい・・・。沙織さん曰く、本人はだいぶ気にしているみたいだけど。」

 

冷泉さんのおばぁちゃんも冷泉さんは小学校の頃からクラスで頼りになっていたみたいだと言っていたし、もうその時点で精神が成熟していたんだよね・・・。どうしたらそうなるんだろ?

 

「西住、戻ったぞ。適当なものを買ったから好みに合うかは分からないがそこは割り切ってくれ。」

 

あ、冷泉さんが戻ってきた。とりあえず朝ごはんを取らなきゃ。

 

「今日も学校だからな。手早く済ませられるものにしてきたが・・・。」

「・・・・・忘れてた。」

 

そ、そうだった。今日も今日で学校だったんだ。

ってあれ?そういえば、昨日って冷泉さんは私につきっきりだったよね?

 

「冷泉さん、学校の荷物は・・・?」

「自分の家だが?」

 

・・・・急いで食べなきゃ・・・!!私のせいでこれ以上迷惑をかけるわけには・・・!!

 

「お、おい西住、そんなに急いで食べることはないんだぞ?」

「で、でも・・・早くしないと・・・冷泉さんが・・・ングッ!?」

「だからそれほど急いで食べる必要はないと言ったのに・・・。」

 

へ、へんなところに食べ物が入っちゃった・・・。

あ、お水だ。何か何まで申し訳ないです・・・・。

 

 

 

 

 

西住がなんとか朝食を済ませたあと、学校の荷物を取りに家へと向かう。

時間自体には余裕があるためゆったり行っても間に合うだろう。

 

「あー!!冷泉センパイと西住隊長だー!!」

 

後ろから俺たちを呼ぶ声が聞こえたため振り向くとそこには登校途中なのだろうか、バックを片手にこちらに駆け寄ってくる桂利奈と紗希の姿があった。

 

「桂利奈に紗希か。朝早くからもう学校に行くのか?」

「あい!そういえば、冷泉センパイは昨日はあのあとどこにいたんですか?」

 

桂利奈の質問に西住が思わず顔を真っ赤にしている様子が目に入る。

・・・ぼかした言い方をした方がいいみたいだな。

 

「西住を家に送ったあと、自分の家に帰ったぞ。」

「そうですか!それじゃあ私達はこれで!」

 

桂利奈はそういうと元気よく走り去っていった。

よくもまぁ、あそこまで元気はつらつに動けるものだ。

あと、それと後ろから感じるのは紗希か?

俺は後ろを振り向くとそこにはやはり紗希がいた。

あいかわらずの仏頂面な顔だな・・・。

 

「・・・・・(グッ」

 

紗希はなぜか親指を上に立てたハンドシグナルをして、一瞬だけいい笑顔を見せると桂利奈を追って走っていった。

・・・思ったより感情豊かなんだな。

とはいえ、あれはおそらくこちらの嘘を見抜かれていたようだな。

西住にもそれはなんとなくわかってしまったらしくーー

 

「ふ、ふぇ・・・!?」

 

口をパクパクさせて、顔を真っ赤にしていた。

・・・・なぜ顔を赤くしているんだ?

 

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

  • 見たいです
  • 見たくないです

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