冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

27 / 65
あかん、書いてたらすっごく長くなった・・・。文字数が大体いつもより倍近い・・・。


第27話

家に学校の荷物を取りに行った後、いつも通り学校へ登校して授業を受けた。

ただ、西住が桂利奈と紗希と出会った時からずっと顔を赤くしていて、登校した際にそど子に変な言われ方をされてしまったが。

そして戦車道の時間となり、倉庫へ向かうとーー

 

「あ・・・・冷泉さん・・・。」

 

猫耳をつけた金髪にグルグルと模様を描いたメガネをかけたねこにゃーがその場にいた。後ろに二人ほど連れがいたが、ひとまずここにいたということはーー

 

「戦車道、受けてくれるのだな。」

「う、うん。その、二回戦、見に行ったよ。凄かった・・です。」

「戦車ってあんなに動かせるんなもしな!」

「ねー。そんなに早くないイメージだったぴよ。」

「君たちがねこにゃーが言っていたゲーム友達か?」

 

俺がそう尋ねると思い出したようにねこにゃーのゲーム友達が自己紹介を始めた。

 

「ももがーです!!」

「ぴよたんです。」

 

なるほど、ピンク色のオールバックの髪型に特徴的な桃の眼帯をつけているのがももがーで、おっとりとした印象を受ける灰色がかった髪のロングヘアを後ろで束ねているのがぴよたんか。

というか二人ともこれ本名ではなくハンドルネームだな。今更些細なことか、本名不明の奴らがだいぶいるしな。聖グロとかサンダースとかカバさんチームとか。

 

「冷泉麻子だ。Ⅳ号戦車の操縦手をしている。よろしく頼むよ。」

「Ⅳ号戦車って、もしかして二回戦の相手のボスを倒した戦車なりか?」

「ボス?・・・ああ、フラッグ車のことか。まぁ、そうだな。」

「あの戦車、冷泉さんが運転してたんだ・・・。凄かったよ・・・。戦車であんな動きができるんだってみんなで驚いていたよ・・・。」

 

ねこにゃーの言葉に二人がうんうんと頷いていた。

そうか・・・。そんなに俺の操縦は凄いのか・・・やれることをやっているだけなのだがな。

 

「ところで、君たちは戦車は何に乗るのかは決めたのか?」

「う、うん。会長が三式中戦車とルノーB1bisのどっちにするか聞いてきたけど、ボク達は三式にしたよ。」

「そうか。ところで誰がどの役割をするのかは決めたのか?」

「ボクが車長と通信手で・・・。」

「操縦手なり!!」

「私が装填手と砲手をするぴよ。」

 

ふむ、ももがーが操縦手か。まぁ、このチームはみんな初心者だからな。準決勝まで期間は短いがどこまでできるようになるかは、俺たちの援助次第か。

 

「ももがー、三式のマニュアルはしっかりと読んでおいてほしい。その上で分からないことがあればすぐに周りを頼ってくれて構わない。私とかが教えるからな。」

「お、お願いしますなりっ!!」

「ももがー氏、良かったですな。冷泉さんはⅣ号戦車の操縦手、ゲームで役立つこともあるかも・・・。」

「はは・・・・。ゲームの方はあまり期待しないでくれ。」

 

ゲーム仲間というのは本当の様だな。ゲームの話題になると三人の目に闘志のようなものが見えるからな。

少し乾いた笑いを挙げていると、河島の号令が倉庫内に響く。

 

「練習の時間か。初めてだから慣れないだろうが、気をつける様にな。」

 

 

俺はねこにゃー達にそれだけ言って、Ⅳ号戦車の下へ向かった。

 

「ねぇねぇ麻子、新しく入ってきた人達と知り合いなの?」

「ん?アンツィオ戦の前に少しだけだがな。」

「あ、それと、今日一日みぽりんが上の空だったんだけど。麻子何か知ってる、というか絶対何か知ってるよね。」

 

沙織にそう言われて思わず冷や汗をかいてしまった。そういえばと思い、西住の方を見ると顔がほのかに赤い。風邪、ではないのだろうな。

 

「んー・・・。昨日の酒がまだ残っているんじゃないのか?すまないが、私には見当がつかないのだが・・・。」

「お酒ってそんなに残るものでしたっけ・・・?優花里さん。」

「私に聞かれても・・・。そもそも飲む機会がありませんし。」

 

華が疑問気に秋山に尋ねているが、秋山は首を振るだけだった。

その時はなんとか押し通すことができた。

そういえばねこにゃー達は・・・別の場所で練習しているな。

流石に初心者に行進とかやらせる訳には行かないからシャアあたりが別メニューの指示を出したか。

西住は若干上の空なところが目立ったが指示自体には特にこれといったことはなかった。

 

 

そして、次の日、また戦車道を新しく履修してくれたものが現れた。

その人物が中々意外な人物でな・・・。

 

「まさか、そど子達風紀委員が入ってくるとはな・・・。」

「うるさいわね。あとそど子言わないでよ、今更だけど。私にはみどり子って言う名前があるんだけど?」

「そちらの方がなんとなく呼びやすいのだが・・・。それはそれとして、なんで戦車道を?風紀でも正しにきたか?」

 

俺がそういうとそど子は周りの視線を気にしながら俺に耳打ちしてきた。

 

「・・・会長から聞いたんだけど、全国大会に優勝しないと廃校になっちゃうんでしょ?戦車道の履修者も少ないみたいだから少しでもって思って・・・。」

 

・・・そうか。そど子達は俺たちの手助けをするために履修してくれたのか。

風紀を正しにきたなどと失礼なことを言ってしまったな。

 

「・・・ありがとう。今は少しでも人員が欲しいから助かる。」

「私たちはルノーB1bisっていう戦車に乗るわ。それで操縦手はゴモヨがやってくれるんだけど、会長があなたに預けるのが一番手っ取り早いって言ってたから練習中はあなたに預けるわ。だから、準決勝までに戦車を自由に動かせるようにしておいて。」

「・・・・了解した。なんとかそこまで持っていけるようにする。」

「・・・もし、優勝したら今までの遅刻の記録は無くしてあげるわ。」

 

どうやらなんとか、という答え方では不満だったようだ。

そこまで必死になってくれるのであればこちらもそれに応えるしかないな。

 

「わかった。そこまでの条件を言ってくれるのであれば、必ず、そこまで持っていく。だが、その分こちらもスパルタにならざるを得ないが、そこは了承してほしい。」

「大丈夫よ。ゴモヨは気は弱いけど我慢強いから!」

「が、頑張ります!!」

 

その日からはしばらくはももがーとゴモヨの指導に掛り切りになっていた。

練習が終われば30分から一時間程残って練習を行っていた。俺も多少熱が入ったのもあったが、なんとか試合の前日までには二人とも隊列から遅れない程度には操縦できるようになった。そんなチームメイトの成長ぶりに触発されたのかアリクイさんチームと名付けられたねこにゃー達、カモさんチームと名付けれたそど子達も普段の練習の後にも俺たちと同じように居残って練習する姿が目立つようになってきた。

それと、これはある意味余談なのだが、Ⅳ号の砲身をこの間の戦車探しの際にルノーB1bisと同じ時期に見つけたものと取り替えた。砲身が長くなったことにより貫通力が上がり火力を底上げされた。

 

「明日はいよいよ準決勝だが。相手は去年の優勝校、プラウダ高校だ。今までサンダースやアンツィオと戦って勝ってきたが、プラウダは実力と戦車の性能共々黒森峰と同等のレベルだ。迂闊な行動はすぐに撃破されると思った方がいい。各員は気を引き締めて望んでほしい。」

『はいっ!』

「それと、準決勝のステージは雪が降り積もった雪原だ。カイロやマフラー、それに上着といった防寒対策もしっかりとしておいてほしい。試合の途中で風邪などひかれたら目も当てられないからな。」

 

シャアが明日の試合についての大まかな説明を行う。

プラウダ高校か・・・。去年の優勝校ということは西住が大洗に飛ばされる要因となった試合の対戦相手か。これは、かなり苦戦を強いられるだろうな。秋山曰く、準決勝からは車輌の制限が15輌までに緩和されてしまうため三式中戦車とルノーB1bisを加えても総数はこちらの倍はある。

今まで以上に気を張らねば、すぐにやられるだろうな。

 

「プラウダ高校・・・。」

 

西住が重い顔をしたまま俯いている。おそらく去年の光景がフラッシュバックしているのだろう。

そんな西住の肩を俺は軽く叩いた。

 

「あ・・・。冷泉さん・・・。」

「今の君は大洗の生徒だ。黒森峰じゃない。それほど思いつめた表情(かお)をする必要はないんだ。いつも通り、君らしく、君の戦車道をやればいい。」

「・・・・・はいっ!!」

 

西住の表情が軽くなったのを見届けると俺は最終確認ということでももがーとゴモヨの下へと向かった。

彼女らにも何かしらの不安はあるだろうからな。精神面で支えてやらねばな。

 

 

「・・・私の戦車道・・・。やるよ、私!!」

 

 

 

そして、試合当日、準決勝の舞台である雪原ステージは軽く雪が降るだけという比較的優しい天候だった。それでもやはり気温は低いため、息は白くなり、肌には突き刺さるような風が吹く。

 

「けっこう寒いな。中に色々着てきたつもりだが、それでもくるものがあるな。」

 

独り言を漏らしてあたりを見回していると、ウサギさんチームが楽しげに雪合戦をしているのが目に付いた。

準決勝なのだから、そろそろ緊張感を持ってほしいのだがな・・・。

と、いうのも野暮な話だな。変に緊張した面持ちでいられるより笑顔でいてもらうほうが一番彼女達に似合っているからな。

俺の視線に気づいたのか梓が申し訳なさげに頭を下げてくるが俺は気にしてないという意味合いで笑顔を返しながら手を振った。

そのまま辺りを歩いているとそれぞれのチームが皆雪に対して思い思いの反応を見せていた。

カバさんチームは安定の歴史関係のことで盛り上がっているのか雪で鎧武者の雪像を作り上げていた。あの軍配の持ち方を見る限り、武田信玄かそのあたりか?

アリクイさんチームは元々こういったアウトドアなことはしたことがないのかブルブルと体を震わせて身を寄せ合っていた。

 

「・・・大丈夫か?」

「あ、ああー・・・。冷泉さん・・・。冬って、こんなに寒かったんだねぇ・・・。」

 

思わず声をかけるとねこにゃーが歯の根をカチカチと鳴らしながら答えてくれた。

 

「試合が始まると戦車の中はエンジンの熱であったまるはずだ。それまでの我慢だ。」

「うう・・・。早く試合始まらないかなぁ・・・。ボク寒さで固まりそう・・・。あー・・・なんか、川が見えてきたよー・・・・。」

「ねこにゃー氏ー!?頑張るなりよー!?」

「それは渡ったらダメなやつぴよー!!?」

 

「これは・・・無事を祈るしかないな・・・・。」

 

俺はその場を後にして今度はカモさんチームの下へ向かう。

ルノーB1bisの下に向かうとそど子が厳しい表情をしていた。

 

「ちょっと、大丈夫なんでしょうね?みんななんか凄い気楽な顔になっているけど、負けたら廃校なんでしょ?」

「私達はいわゆる寄せ集め集団だからな。変に規律に厳しくするよりそっちの方がらしくはなるだろう?風紀委員的にはもどかしく思うだろうがな。」

「ええ・・・!!さっきから血が疼いて仕方がないわ・・・!!」

 

そういうとそど子は目に炎を宿しながら手のひらを握っている。どうやら風紀を正しくしたくてしょうがないようだ。ある意味平常運転のようで安心した。

 

「・・・お前も案外それに染まっていることを忘れずにな。」

 

俺がそういうとそど子は「はぁっ!?」と声を荒げながら追求してくるが、俺はそれをスルーしてゴモヨの下へ向かう。

 

「ルノーB1bisは重戦車に分類されている。その重さ故にこういった雪といったコンディションの悪さの影響を受けやすい。そこには細心の注意を払って動かしてくれ。」

「わ、分かりました。」

 

ゴモヨが若干不安気な表情をしながら頷く。その表情を見ながら、俺は頰をあげ、表情を緩ませる。

 

「そんなに硬い顔をする必要はない。もしものことがあればすぐに助けを求めてくれ。すぐに向かうからな。」

「あ、ありがとう・・・。」

 

 

それだけ伝えると俺は自分の乗る戦車であるⅣ号戦車の下へ向かった。

途中、バレー部の姿が見えていたが、こんな寒い場所でもバレーボールの練習に勤しんでいた。頑張りどころをあまり間違えて欲しくはないのだが・・・。

風邪を引かないようにな、と心の中で心配しながら俺はⅣ号と38tの下へ向かった。

その場所には既に西住達とシャア達カメさんチームがいた。ちょうど俺がそこに着いたタイミングで雪原の向こうから車で何かやってくるのが見えた。

その車は俺たちの前で停車するとドアが開いて、中から三人組が現れた。

白銀色の髪を肩まで下げた外国人のような女性と艶やかな黒髪を同じように肩まで下げたクールな印象を受ける女性にしてはかなり高身長な二人組に挟まれて、小学生みたいな女の子が現れた。

 

「誰だ、彼女ら。大方隊長かそのあたりなのだろうが。」

「あ、冷泉さん。戻ってきていたんですね。冷泉さんの言う通り、あの人達はプラウダ高校の隊長と副隊長です。」

「黒髪か白銀色の髪のどちらかか?」

「いえ、隊長は真ん中のカチューシャさんです。隣の黒髪の人は副隊長のノンナさんです。ですが・・・。」

「隣の白銀色の髪の人は見覚えがありませんね・・・。」

 

・・・・隊長ということはあの子供みたいな女の子も高校生なのか。

流石に身長が低すぎないか?だが、それよりも隣の白銀色の方が気になる。秋山も知らないとなれば・・・何者だ?

 

「外国人、という可能性が挙げられるが、いかんせん他にも外国人のような見た目で日本人というのを見てきたからなんとも言えんな・・・。」

 

シャアが彼女が外国人であるという可能性を挙げるが全くをもってその通りだ。

ダージリンとかケイとか、一見して外国人のような見た目をしているやつが多いんだよな・・・。それはそれとして、俺はシャアに鋭い視線を向けた。

 

「おい、私は気づいているからな、ロリコン。さっきから真ん中の子供に視線が向いているのは分かっているからな。」

「それは誤解だ、麻子。確かに視線を向けていたのは事実だが私は子供に欲情するような外道ではない。」

「よくいうよ・・・。」

「アッハハハハハッ!!」

 

そんなことを話していると突然響いた笑い声に視線を持っていかれる。

その声の主はカチューシャだ。

 

「このカチューシャを笑わせるためにこんな戦車を用意したのね!!」

 

・・・仕方ないだろ。戦車がこういうのしかないんだから・・・。

とはいえ、ああいう言い方をされると少なからず嫌悪感を抱くな・・・。

身長だけでなく性格まで子供だな。思ったことをストレートに話して、周りに嫌悪感を抱かせる。・・・・あまり思い出したくない人物を思い出してしまったな。

 

「・・・彼女を見て、誰を思い出した?」

 

シャアが険しい表情をしながらそんなことを聞いてくる。そう聞いてくるということはシャアの中でも俺と同じ人物が思い浮かんでいるのだろう。

 

「・・・・クェス、だな。」

「・・・・やはりか。私も同じだ。」

 

クェス・パラヤ。俺がまだガンダムのパイロットだったころの連邦軍の高官の娘だった彼女。

彼女は確かにニュータイプの素質を持っていた。だが、まだ子供というのもあったのか情緒が不安定で周りと衝突することも多かった。何より、彼女には父親がいなかった。別段彼女自身が父親を知らずに育った訳ではない。しっかりとあの時はまだ父親は存命中だった。だが、父親はあろうことかクェスに対して親として何一つしてやっていなかった。その結果、彼女は俺とシャアに父親を求めーー

彼女があの闘いでどうなったかはわからない。仮に生きていたとすれば、ハサウェイあたりがそばにいてくれるとありがたいのだが・・・。

 

「彼女も父親から何ももらっていないのだろうか。」

「それは・・・私達が知ることではないな。だが、クェスのようにはならんだろう。彼女のそばには支えてくれているものがいるからな。」

 

軽くノンナの方に視線を向けたシャアは代表としての挨拶をするためにカチューシャの下へ向かう。

 

「私は角谷 杏だ。よろしく頼む。」

 

そういいながらシャアはカチューシャと視線を合わせるためにしゃがみながら握手を求めた。

対応が完全に子供に対するソレだが、大丈夫か?

ああいうタイプは対応を間違えると面倒なことになるぞ。と言っているそばからカチューシャの目つきが不機嫌なものに変わる。

 

「ノンナっ!!」

 

傍にいたノンナを呼びつけると彼女はかがんだノンナをよじ登り、肩車を姿勢をとり、勝ち誇ったような顔を浮かべた。

やはり身長に対してコンプレックスを持っていたか・・・。

 

「貴方達はね、全てにおいてカチューシャより下なの!戦車も技術も身長もね!」

 

子供だ・・・。どうみても子供だ・・・!!肩車をしてもらってようやく俺たちを見下ろせる身長だと言うのに、凄い言い草だな・・・。まぁ、身長はともかく戦車と技術が下なのは認めざるを得ないがな。

 

「肩車してるじゃないか・・・。」

 

河島の思わず漏らした言葉に眉間に手を当てる。そういうのは指摘しない方が良かったというのに・・・!!

ああいうのは言わせておくのが一番対応がしやすいんだがな・・・!!

 

「っ!?聞こえたわよ!!よくもカチューシャを侮辱したわね!!粛清してやるわ!!」

 

ほらみたことか・・・。余計に話がこじれていく・・・。

カチューシャは怒り心頭といった様子でノンナに命令をし、車へと戻ろうとする。そのまま帰るのかと思ったがーー

 

「あら、西住流の・・・。」

 

西住の存在に気づいたのかそんなことを言ってくる。

なんだ、まだ何かあるのか?

 

「去年は勝たせてくれてありがとう。貴方のおかげで私達は優勝できたわ。」

 

・・・ここは我慢だな。ここで怒りに身を任せてしまえば試合で見えることも見えなくなる。

リラックスするには深呼吸だったか?

深呼吸を数回繰り返すとフツフツと煮えていた怒りが静まっていくのを感じる。

 

「今年もよろしくね。じゃあね、ピロシキー。」

 

ノンナの上から手を振って帰っていった。その際、ノンナと白銀色の髪の女性からはダビスターニャ。つまるところロシア語でさよならの言葉が聞こえた。

だが、最後のピロシキとはなんだ?確かロシアの伝統的な料理だったような気がするのだが・・・。

よし、なんとか心の平静を保つことはできたか。

そして、西住は・・・。やはり沈んだ顔をしているか・・・。秋山達も先ほどの言葉に思うものがあったのかカチューシャに対して敵愾心を露わにしている。

不味いな・・・。さっきのは精神的に揺さぶりをかけるためだったか。

試合は既に始まっている、そういうことか。

ひとまず西住に声をかけておくか。

 

「西住、大丈夫か?」

「あ・・・冷泉さん・・・。うん、大丈夫。ご、ごめんなさい。気を遣わせて・・・。」

「気にすることはない。むしろあのようなことを言われて動じないというのも難しい。だが、これはやられたな・・・。」

「え、どういうことですか?」

「・・・・とりあえず、作戦の最終確認だ。おそらく、そこでわかるかもしれない。」

 

 

西住はひとまず、メンバーを全員集合させ、作戦の最終確認を行った。作戦はやはり戦車の性能の差が激しいためフラッグ車である八九式を守りつつゆっくりと前進し、相手の出方を探る。流石だな、西住は。

少しくらいは動揺していてもおかしくはないと思うが、しっかりと状況把握ができている。

だがーーそれは西住だけの話だ。

 

「ゆっくりというのもいいが、ここはやはり一気に攻めるのはどうだろう。」

「え・・・?」

 

カエサルからそんな声が挙がる。思ってもいなかった言葉に西住は言葉を詰まらせてしまう。っ・・・!!不味いな。やはり俺が一番危惧していた状態になっているか・・・!!

カエサルの言葉に続いてカバさんチームがカエサルの言葉に同調の意志を示した。

 

「気持ちは分かりますが、リスクが―――」

「大丈夫ですよっ!!」

「私もそう思います!」

「勢いは大事です!」

「ぜひ、クイックアタックを決めに行きましょう!」

 

反論しようとした西住の言葉にバレー部の言葉がかぶせられてしまう。

続けて一年生達も負ける気がしないといった、楽観的な言葉を飛び出してくる。

一見すると士気が高いようにも見えるが、はっきり言って状況がみんな揃って見えていない。カチューシャに自分たちを侮辱されたことにより怒っているのだ。

だが、思った以上に深刻だ。俺が言ってもいいが、それではチームの間で亀裂が生じる恐れがある。どうする?止められないにしても出来る限り削いでおきたいが・・。

 

パンッパンッ!!

 

そんな乾いた音が俺たちの間で響いた。全員の視線が音源に集中する。先ほどの音はシャアが手を叩いた音だった。

 

「みんな、ひとまず落ち着いてほしい。カチューシャに侮辱されて怒っているのは分かるが、それで相手の思う壺になってどうする。」

「だが、会長。相手は舐めていると思うのだが・・・。」

「それこそ相手の思う壺だと言っているんだ、カエサル。相手の戦車はこちらより性能がいいのは火を見るより明らかだ。そんなところになんの調べもなしに突っ込んでどうする。相手の砲撃に晒されて、撃破されるのが落ちだ。

少しは現実を見てもらいたいものだ。」

 

シャアはカエサルにそう言い放つと今度は一年生チームに目を向ける。

 

「一年生もそうだ。勝てる気がする、などという甘い考えはそろそろ捨てた方がいい。相手は去年の優勝校だ。戦車の性能も技術も向こうが上。むしろ舐められて当然だ。楽観視するのも程々にしてもらいたい。バレー部もだ。君たちはフラッグ車という大役を背負っているんだ。君たちがやられてしまえばいくらこちらが優勢だったとしても敗北が決まってしまう。大局を見失うな。」

 

シャアがそこまで言い切ったところで、チーム全体に沈んだ雰囲気が漂う。

士気は下がってしまったが、油断して罠にはまってしまうよりはよっぽどマシだな。

まぁ、こんなものかと思っているとーー

 

「今は西住君の指示に従ってほしい。だが、ゆめゆめ忘れないでほしい。君たちをここまで連れてきたのは西住君の作戦あってこそだと言うことを。」

 

そこまで言ったところでカバ、アヒル、ウサギチームのメンバーがはっとした表情をする。

 

「私たちは西住君の指示の下、性能が上の戦車を倒してきた。今回もそれを繰り返すだけだ。やることは変わらん。わかったか?」

『はいっ!!』

 

・・・見事だ。流石はネオ・ジオンの総帥をやっていただけのことはある。

一気に士気の高さを元に戻したか。

 

「助かった。私が言っても士気の低いまま試合をさせるだけだと思ったからな。」

「構わんさ。この程度であれば造作もない。」

「あの・・・ありがとうございます。」

「お膳立ては出来る限りした。あとは君次第だ。カチューシャに言われたこともあるだろうが、気に止めることはない。子供の癇癪程度だと思っておけばいい。」

 

西住がシャアに対して頭を下げた。シャアは軽く笑みを浮かべ、38tへと乗り込んだ。

 

「よし、西住。私達も行こう。士気はいい方向に向いたが、いつ暴れるかはわからないから手綱はしっかりと握っておいた方がいい。」

 

俺がそういうと西住は無言で頷いた。

ここまで来たら、負けるわけには行かないな。

 

 




原作との相違点

アリクイさんチームの早期合流。及び士気の高さの調整。

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

  • 見たいです
  • 見たくないです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。