「・・・シャア、廃校のことはいつ話すんだ?いつまでも隠し通せるとは思ってはいないのだろうが・・・。」
「それは・・・もちろんだ。だがはっきり言って決めかねているのが現状だ。彼女らは兵士ではないのだ。いらんことを言って士気に関わるのは困る。」
「だが、隠していても何かしらのことで漏れる可能性だってある。そうなればこちらから進んで明らかにするより士気に関わるんじゃないのか?河嶋辺りが思わず漏らす予感がするのだが・・・。」
「・・・・わかった。準決勝が終わった後、遅くとも決勝前には話すとしよう。」
ひとまず、シャアの檄によって悪い意味で高かった士気を元に戻した大洗は西住の当初の作戦であったゆっくり進んで相手の出方を探ることにした。
現在は雪原をおよそ10kmの速度で走っている。
(・・・・左から視線を感じる・・・・。偵察か。)
走行中に左から視線を感じる。おそらくプラウダの偵察がいるのだろう。
となると、さほど敵の先遣隊と距離は離れていないか。
「西住、そろそろ気をつけた方がいいかもしれない。」
「えっ?敵、ですか?まだ敵の戦車は見当たりませんが・・・。」
「意識の隅に置いておくだけで構わない。ただの勘だからな。」
「か、勘なんだ・・・。」
俺の言葉に沙織が引きつった笑みを浮かべている。仕方のないことだろうな。
ニュータイプといっても通じるのはシャアくらいしかいないからな。
しばらくそのまま雪原を慎重に進んでいるとーー
『西住君、カモさんチームが雪でスリップを起こして進めなくなっている。麻子を向かわせてはくれないか?』
「わかりました。冷泉さん、向かってくれますか?」
「了解した。」
操縦席のハッチを開けて、一面雪景色の雪原へと足を踏み入れる。
試合中でなければじっくりと見ておきたいものなんだがな・・・。
俺は駆け足でスリップを起こして動けなくなっているルノーB1bisへと駆け寄る。
「ゴモヨ、大丈夫か?」
「れ、冷泉さん・・・!!」
「少し代わってくれるか?」
操縦席のハッチを開けるとそこには涙目になっているゴモヨがいた。
ゴモヨに操縦席を開けてもらうと席に座り、代わりに操縦桿を握る。
操縦の仕方は練習中に教えるついでに覚えたから問題はない。
そのままルノーB1bisを操縦して隊列に戻す。
「あ、ありがとう・・・。」
「雪原では変に操縦桿を切ったりするとスリップを起こしやすい。だからゆっくりと動かすことを意識しろ。そうすればスリップを起こす確率は格段に減る。そのあたりを気をつけるといい。」
「う・・うん。」
ゴモヨに軽くアドバイスを済ませてルノーB1bisから出ようとすると、そど子の顔が目に入る。
「その・・・助かったわ。私からも礼を言うわ。」
「気にすることはない。むしろ助かっているのはこっちだ。人数が足りなくて戦車を持て余していたからな。だから、ありがとう。」
そど子の言葉に笑顔を見せながら、それだけ言って俺はルノーB1bisを後にした。
「何よ・・・。先輩に対して『ありがとう』って・・・。か、かっこよくなんて思ってないんだからね!」
「ツンデレだねぇ・・・。」
「うっさいわよパゾ美!!」
「カチューシャ、偵察隊から報告です。大洗は雪原をおよそ10kmの速度で進行中だそうです。」
「ふん、カチューシャたちの出方を見ているのね。だけど、やることは変わらないわ。そっちが積極的に出てこないなら、こっちから焚き付けてやるまでよ。」
ルノーB1bisを隊列に連れてきた後、再びⅣ号に乗り込んで雪が降り積もった雪原を進んでいく。
途中、壁のように積もった雪を榴弾で吹っ飛ばしたりした。
しばらく何事もないまま進んでいくとーー
「11時に敵戦車!!各車、警戒!!」
ふむ、11時の方向か・・・。操縦席の覗き穴からは雪の丘の上で群生している木々の近くにプラウダの戦車が何輌かいるのが確認できた。
「どうする?あの部隊は先遣隊の可能性が高いが・・・。」
「敵が3輌だけですので・・。確かに外郭防衛線だと思いますけど・・・。」
西住と話していると件の敵戦車から砲撃が飛んできた。気づかれたか。
「華さん、砲撃用意してください。カバさんチーム、砲撃!」
西住が指示を飛ばすと始めにⅢ突が砲撃を開始する。放たれた砲弾は敵戦車、『T-34/85』を撃破する。
「あんこうチームも砲撃を行います。」
砲撃を行うためⅣ号を停止させると、華がトリガーを引く。砲身を長い代物に換えたことにより貫通力が向上したⅣ号の砲撃はもう1輌のT-34/85に撃破判定を上げさせる。
「命中しました!!」
「すごい!!一気に2輌も!!」
敵の戦力を削いだことによりⅣ号の中で秋山と沙織が喜びの声をあげる。
秋山に至ってはⅣ号でT-34/85を倒すことは凄いことだと言って表情を歓喜そのものにし、興奮を露わにしていた。
ただ、俺は先ほどの撃破に妙なものを感じ、素直に喜べなかった。
「・・・・冷泉さん。」
西住に声をかけられたため、振り向くとそこには険しい表情をした西住の顔が視界に入った。
なるほど、俺と同じ妙なものを感じ取ったか。
「・・・私も同じだ。考え過ぎかもしれないが、事がうまく進み過ぎている。」
「やっぱり・・・。ありがとう。冷泉さんがそう言ってくれると、私も自信が持てます。」
「それはそれで困るものがあるのだが・・・。できれば自分の判断に自信を持ってほしい。」
「そ、そうですよね。ごめんなさい・・。」
困った顔をしながら前を向くとちょうど残ったT-34/85が逃走をしている様子が目に入った。
「全車輌、前進してください!追撃します!」
「いいのか?」
「できる限り、戦力が削げるのであれば削いでおきます。」
「・・・わかった。」
西住の判断を信じて、逃げたT-34/85を追撃する。
他の戦車がT-34/85に砲撃を行うが、行進間射撃だからか直撃弾はなかった。
シャアあたりにお願いするかと思ったが、そもそも38tではT-34/85にはギリギリまで近づかないと効かないことが明らかになりそのまま追撃戦を続けるしかなかった。
「なんで逃げるのかな?」
「決まっている。仲間の援助を受けるためだ。ちっ・・・。タイムリミットか。」
沙織の質問に答えている途中に思わず舌打ちをしてしまう。
なぜなら追っているT-34/85の先に5輌のプラウダの戦車が待ち構えていたからだ。
「あ、ホントだ。でも、5輌だけ?」
「5輌だけでも十分脅威だがな。」
「まぁ、T-34/85は当時ではかなり革新的な性能を持った戦車でしたしね。強すぎてドイツが戦車性能の底上げを図ったほどですし。『T-34ショック』とも呼ばれていますよ。」
「そうなのか・・・。」
秋山の相変わらずの戦車知識に舌を巻いているとーー
『こちらウサギさんチーム!!敵のフラッグ車を確認!!』
っ!?なぜこんなところにフラッグ車がっ!?普通は陣形の後ろに置いておくものだろう!!
フラッグ車を捉えたことを千載一遇のチャンスと捉えたのか他の戦車はフラッグ車に向けて砲撃を開始する。
無論、向こうはフラッグ車を守るように2輌のT-34/85で壁を形成しながら後退していく。
「西住!!フラッグ車を追わせるな!!あれはどう見ても罠だ!!」
「皆さん、停車してください!!」
西住が通信機に呼びかけるが、シャアの38t以外の全車輌がフラッグ車を追っていってしまう。
くそっ!!止められなかったか!!
「ひとまず追うぞ!!あのままではみんなやられる!!」
「う、うそぉっ!?」
「冷泉さん、お願いします!!カメさんチームも続いてください!!」
『了解した!!』
Ⅳ号と38tが追撃する他の戦車の後を追う。西住が果敢に通信機に呼びかけるが聞く耳を持っていないように目の前の勝利に縋り付く。
そのままズルズルとひきずられていき、最終的に建物群へとたどり着いてしまう。その直前で何かを察知したのか、三式だけが止まっていたが、それ以外は建物群の中へと入ってしまっていた。
あれではもうどうしようもない・・・。
おそらく、敵の出方は・・・。
「西住、敵はおそらくあの地点で包囲殲滅をする気だ。建物の影に戦車を隠している。」
「そ、そんな・・!!」
『に、西住さん・・・。少しいいかな・・・?』
俺の言葉に西住が驚いていると建物群の直前の小高い丘で止まっている三式のねこにゃーから通信が入る。
「ねこにゃーさん、どうかしましたか?」
『えっと・・、まずは勝手に行動して、ごめんね・・。流れるままに付いていっちゃった・・・。』
勝手に行動した件について、ねこにゃーが謝罪の言葉を口にする。
というか、よく直前で止まれたな。何か理由があるのか?
そう思っているとねこにゃーの口から理由が告げられる。
『えっと・・これはボクのゲーム知識からなんだけど、あの家屋でギリギリ戦車を隠せるって感じたら、咄嗟に待ち伏せの可能性が頭をよぎってね。それで、なんとか止まれたんだ・・。でも、みんなを止められなかった・・・。』
ねこにゃーから後悔するような声が溢れ出る。
それでも止まれただけで上出来だ。だが、問題は突っ込んでしまったチームをどうするかだ。あのままではやられるのは目に見えている。
「・・・西住、少し通信機を貸してくれないか?」
「そ、それは構いませんけど・・・。」
困惑しながらだが、西住は俺に通信機を寄越してくれる。俺は受け取りながらも西住に頼みごとをする。
「西住、逃げ込むスペースを探しておいてくれ。伝えるのは私がする。」
「え、それはどういう―――」
西住の問いに答えることはできなかった。なぜなら各方面からプラウダの戦車が顔を出し始めたのが見えたからだ。そして、包囲された他のチームたちは砲撃の雨に晒される。
「すまない!!説明する間も惜しい!!」
通信機をつけるとⅣ号のエンジンをフルスロットルにして、一気に加速する。
その際、そばにいた38tに通信を入れる。
「シャア!!手伝え!!」
『む・・・。なるほど、分かった。』
最低限どころか聞く人が聞くと足りなすぎる会話だが、俺の考えていることはシャアには伝わったようだ。
坂道を下ってさらに加速するとシャアの38tも追従してきてくれているのがわかる。
「柚子、運転を少しだけ代わってくれ。」
「え、会長っ!?ど、どうしてなんですかっ!?」
「今は時間が惜しい。頼む。」
そういうと柚子は怪訝な顔をしながらも操縦席を空けてくれる。
私は柚子に感謝の言葉を送りながら操縦桿を握りしめる。
「やってみせるさ!!」
「各戦車、砲撃を中止!!今すぐに逃げる準備をしておけ!!まったく、みんな揃いも揃って目の前の勝利に目がくらみすぎだ!!少しは反省しろ!!」
そう通信機に怒鳴りつけながら、砲火に曝されているⅢ突とM3の間を通り過ぎる。砲弾を避けながらⅣ号と38tはそれぞれ左右に分かれて曲がる。
『ま、まさか、1輌であの数を相手取るのかっ!?』
「救出を最優先だ!今はやらん!!」
エルヴィンにそう返しながらⅣ号を左からドリフトさせる。雪原でやったため、地面の雪が一気に巻き上げられる。
だが、俺の狙いはそれだ。巻き上げられた雪は俺たちとプラウダの戦車の間に天然のカーテンとなって、視界を塞ぐ。
だが、これではまだ薄い。だからシャアにも頼んだんだ。
シャアの38tも同じように右からドリフトすることで雪を巻き上げ、二重の雪のカーテンを形成する。
これで、少しの間だが、プラウダの砲撃をしのげるはずだ。不意をついたはずだからな。
さらにちょうどそのタイミングでーー
「冷泉さん!!あそこの建物に逃げ込みます!!」
西住が指差した先には教会のような建物があった。
「大丈夫なのかっ!?」
「ですが、現状ではこの包囲網を突破するのは・・・。」
「っ・・・仕方がないか。各戦車、Ⅳ号に続け!!」
その教会に向かって全速力で駆け込む。Ⅳ号に続いて、他のチームの戦車も続いていく。途中砲撃に晒され、比較的列の後方にいたⅢ突に直撃し履帯が外れるが、そこはシャアの38tが砲塔に損傷を受けながらも押し込んでくれたことによりひとまず教会の中に入り込むことはできた。
だが袋小路に等しく、外では砲撃音が飛び交っていた。建物にも直撃し、空気が震える感覚を受ける。
しばらくその感覚を味わっていると、砲撃音が止んだ。
「砲撃音が、止んだ?」
ひとまず通信機を西住に返しながら、外の砲撃が止んだことに疑問を露わにする。
外の様子を確認するために操縦席のハッチを開けると、向こうからプラウダの生徒が二人ほどこちらに徒歩で向かってきているのが見えた。そのうちの一人の手には白旗が握られていた。
・・・・こちらに降伏勧告をしにきたか。
まぁ、こんな状況では勝ちを確信するのは普通だろうな。
「カチューシャ隊長の伝令を伝えに持って参りました。『降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる。』だそうです。」
ちっ、土下座させることで自分より身長を低くさせる算段か。
それだけで優越感に浸ろうとするとは・・・子供だな・・・。とはいえ、戦術のセンス自体は認めざるを得ないものがある。
こちらが止められなかったとはいえ、見事に焚きつけられて包囲殲滅に移行。
撃破された車輌はなかったもののほぼほぼ詰みの状態にされた。
降伏するかどうかを考えるために三時間の猶予を与えることを告げたあとそのプラウダの二人が自陣へと戻っていった。
三時間か・・・。修理に全力を尽くせばⅢ突と38tの砲塔は直せるか?
「隊長!!ここは徹底抗戦だ!!」
カチューシャの言い草に思うものがあったのか各チームからはそのような声が挙がる。まぁ、廃校の事情を知っている俺としては戦意がまだ折れていないのは有難い。
だが、当の西住は難しい表情を浮かべている。
無理もないだろうな。完全に包囲されたこの状況で外に出れば、すかさずプラウダ高校からの砲火の嵐に晒される。そうなったら最悪、怪我人が出る可能性だってある。
仲間を大事にしている西住からすればとてもじゃないが看過することはできないことだろう。
「私は西住殿の判断を信じますよ。」
「そうだよみぽりん。土下座だってなんだってするよ。」
「あまり無理はなさらない方いいかと思いますよ。」
・・・やはり西住の性格を知っている沙織たちならそういうだろうな・・・。
完全に負けムード、次の機会を頑張ろうといった雰囲気が出ている。
どうしようかと考えているとーー
「それじゃあダメなんだ!!」
河嶋が突然怒鳴り声を挙げた。建物の中で静寂の空気が流れる。呆気に取られたみんなだったが、西住が説得にかかる。
西住は河嶋に対して、今回のことを糧にして自分が大好きなこの学校とみんなでまた来年頑張ればいいといった。
シャアが西住に対していった言葉が彼女自身の口から出てきたことに戦車道に対する考えを改めていることに表情が綻ぶ。が、河嶋の言う通り、来年じゃあダメなんだ。ここで負けてしまえば、文字通り俺たちに次はない。
西住、君の言う大好きな大洗女子学園も無くなってしまうんだ。
だからーー
「会長、もう限界だろう。あのままでは河嶋は確実に喋るぞ。」
俺が視線を向けながらそう言うとシャアは困った表情を挙げる。
事情は知らない西住はキョトンとした顔をしている。
「・・・あまりこういう使い方で発破をかけたくはないのだがな・・・。」
「そうは言っても、このまま河嶋にボロを出させるよりはマシだろう。」
「私にもツケが回ってきたか・・・。」
「そう考えるのが妥当だろうな。まぁ、私とお前は共犯者だ。咎は一緒に受けるさ。」
難しい顔をしながら腕を組む。壁に寄りかかって、この後のことを考えていると不安気な表情をしている西住の顔が目に入る。まるで事情を説明してほしいといった感じだ。
「冷泉さん、それに会長・・。一体、何を隠しているんですか?」
「隠している、か。そう言われてもしょうがあるまいな。みんな、心して聞いてほしい。この全国大会で優勝しなければ、大洗女子学園は廃校となる。」
大洗女子学園の廃校、その言葉を聞いて西住たちは言葉を失っているのか、目を見開いて、驚きの表情を挙げたまま何も言えなくなってしまった。
あー、結局原作アニメとおんなじ展開になってしまうんじゃあー(白目)
最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)
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