冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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ただの激励回・・・。


第29話

「お、大洗が廃校って・・・なくなっちゃうんですかっ!?」

 

みんな驚きの表情をしていて声を出させない中、かろうじて沙織の声が建物の中で響く。シャアはそれに頷きながら廃校になるまでに至った経緯を説明し始めた。

学園艦の経営には莫大な費用がかかる。まぁ、そうだろうな。あんな巨大な船を維持していくにはとてつもない金額がかかっているだろうな。

そこで文科省は、費用削減のために学校の統廃合を進めているらしい。そこでまずは大した成績も残せていない学校をなくすことにした。そこで白羽の矢が立てられてしまったのが、俺たちの大洗女子学園ということだ。

 

「は、廃校になったら、私達、どうなっちゃうんですかっ!?」

「・・・大方、他の学園艦に転校扱いでバラバラになってしまうだろうな。」

「そ、そんな・・・!!」

 

梓も表情をうつむかせてしまう。他の面々も似たような表情を挙げている。

 

「バレー部の復活どころか、学校がなくなっちゃうなんて・・・!!」

「なんとかならないんですか!?」

「それをなんとかするために私達はこの大会に出場しているんだ。会長も言っていただろう。優勝しなければ、と。」

 

河西の言葉に俺がそう返すとみんなの間でキョトンとした顔を挙げられる。

 

「実績がないのであれば作ってしまえばいい。何も、戦車道の全国大会で優勝した高校を廃校させるとは中々言い出せないだろうな。」

「な、なるほど・・・!!ですが・・麻子殿はいつ廃校のことを・・・?」

「そ、そういえばそうだよ!!どこで知ったのっ!?」

 

秋山の言葉に沙織が同調する発言をし、視線が俺に集中する。

 

「私が、会長から戦車道の履修を迫られたあとですね?」

「流石だな、西住。そうだな、その時に私は会長から廃校のことを告げられた。」

「それなら、みんなに話してもらっても良かったのでは?」

「それは厳しかったのが現実だ、華君。せっかく受けてもらったみんなにいきなり学校の未来を背負わせるのは酷なのでな。」

 

華の言葉にシャアは首を振る。その理由にも納得するものがあったため、華はそれ以上は何も言わなかった。

 

「では、廃校がかかっている手前だが、ここで諦めるか、否か。この場でみんなの意見を聞きたい。」

 

そう質問したシャアに皆の返答はーー無言であった。だが、その目には揃ってまだ諦めないと言った闘志が見えていた。

言葉は不要か。シャアもそう思ったのか、軽い笑みを浮かべる。

 

「皆の総意はこう言った感じなのだが、西住君、君はどうする?君は大洗の隊長だ。意見を尊重するのも良し、反対を押し切って安全を確保するのも選択の一つだ。」

「え、この状況で私に聞くんですかっ!?」

「全権を担っているのは西住だからな。決定権は君にある。」

 

シャアに突然話を振られて困惑している西住にちょっとした追い討ちをかける。

 

「・・・私も皆さんと同じです。私はこの大洗に来て本当に良かったって思っています。だから、これからもみんなと一緒にいるために私もまだ諦めません!」

 

西住の決意の固まった強い声を聞いて、俺とシャアは軽い笑みを浮かべながら顔を見合わせる。

 

「であれば、時間はかけていられないな。損傷を受けている車輌は修理が可能な範囲であれば直ちに作業にかかってくれ。その他はこの寒さでエンジンがかかりにくいはずだ。不調を訴えないように調整しておいてくれ。」

 

シャアが迅速に指示を飛ばすと、みんなそれぞれ自分の戦車に戻って作業に取り掛かる。

 

「会長、作戦の立案を手伝ってくれませんか?」

「それでは38tの修理がな・・・。先ほど逃げ込む時に砲塔が故障してしまっているんだ。」

 

シャアが西住に作戦の立案を手伝って欲しいという要望に難しげな顔を挙げている。

そういえば、38tは砲塔に損傷を受けていると言っていたな。

なら、俺が代わりにやるか。

 

「なら、私がそっちへ回ろう。Ⅳ号は大した損傷は受けていないからな。秋山が居てくれればエンジン周り程度なら問題はないはずだ。」

「分かった。ならば私も作戦の立案に回るとしよう。」

「冷泉さん・・・修理出来るんですか?」

「自動車部程ではないがな。大きく破損しているならともかく、ちょっとしたものならどうにかなる。」

「・・・わかりました。お願いします。」

 

俺は常備されている工具を手にとって38tの確認を行う。

なるほど、砲塔が回らなくなっているのか、衝撃で部品が外れたか?

そんなことを考えながら、俺は38tの整備に取り掛かり始めた。

 

 

 

 

「それじゃあ、この紙に書いていきましょうか。」

 

西住君は机に用紙を広げるととりあえず、ここから見える範囲の敵車輌の位置と建物の配置を記していく。

 

「情報が足りなすぎるな・・・。だれかを偵察に出した方がいいかもしれん。」

「二人一組で両翼から偵察を出しましょう。とりあえず、秋山さんと・・・。」

「エルヴィンあたりでいいだろう。エルヴィン君、偵察を頼みたいのだが、請け負ってくれるか?」

「了解だ。グデーリアンと共に偵察に行けばいいのだな?」

 

グデーリアンという言葉に疑問気な表情を挙げざるを得ない。会話の展開から察するに秋山君のことを言っているのだろうが・・・。

 

「あ、グデーリアンっていうのは私のことです。戦車の捜索のときにエルヴィン殿につけてもらったんです。」

「いや、会話の内容から君だと言うことは察せてはいるのだが・・・。ところで、Ⅳ号のエンジン周りの調整は済んだのか?」

「大丈夫ですよ。それで西住殿、偵察ですか?」

「うん、左翼から敵の陣形確認のための偵察をお願いします。」

「わかりました!!エルヴィン殿、行きましょう!」

「ああ!!」

 

秋山君はエルヴィンを伴って外へと偵察に行った。さて、もう一組は・・・・彼女らでいいか。

 

「園。偵察を頼まれてはくれないか?君の視力は確か2.0だった気がするのだが。」

「わ、私?良いけど・・・。」

「なら頼む。カモさんチームからもう一人連れて、この建物を出てから右周りに偵察をしてきてほしい。」

「分かったわ。パゾ美、行くわよ!」

「ん〜。分かった。」

 

気怠げな声を上げている彼女を連れて指示通りに偵察に行ってくれた。

ひとまず、彼女らの報告を待つとしよう。

しばらく暖かい飲み物や毛布にくるまって暖をとりながら待っていると外から何やら楽しげな歌声が聞こえてきた。

声を聞く限り、秋山君とエルヴィン君か。どうやら無事に帰ってこれたようだな。

 

「ただ今戻りました!!」

「こっちもなんとか偵察を済ませてきたわ。」

 

秋山君達が帰ってくると彼女達が仕入れてきた情報を直ちに紙に書き記す。

すると、一箇所だけ包囲が薄い部分があった。だが、これはどう見てもーー

 

「一箇所だけ包囲が甘いが、罠だろうな。」

「罠ですね。おそらく突破したとしても挟み撃ちになるはずです。」

 

西住君がそういうのであればそれで確定だろうな。包囲網の緩い箇所の反対にはフラッグ車がいるが、奥にいる『街道上の怪物』KV-2による足止めを食らって、同じように挟み撃ちになりこちらの敗北。となると、ほかに突破口になりうるのは・・・。

 

「消去法だが、ここを狙うしかないようだな。」

 

そういいながら指を指したのは一番包囲の厚い部分だ。

 

「ええっ!?ここですかっ!?一番包囲の厚い部分ですよ!!」

「だからこそだ。包囲が一番厚いということは逆にここを抜けてしまえば後続が待ち構えている可能性は低いし、相手の不意をつける。私個人としてはここ以外にはないと考えるが、君の視点からはどう考える?」

「・・・確かにあえて一番堅い場所を狙ってみるのも良いかもしれません。」

「なるほど、『島津の退き口』か。」

 

秋山君に驚愕といった表情をされるが、西住君とエルヴィンには好意的な反応を見せてくれる。

『島津の退き口』か。確かにそういう言い方もありだな。

 

「やっぱり会長の言う通り、この包囲が一番厚いここを狙うのが最善手だと思います。」

「なら、決まりか。我々はこの一番包囲の厚い箇所に突撃を仕掛ける。」

 

よし、作戦の方は決まった。あとは戦車の整備の方だが・・・。

そう思いながら戦車の方を振り向くと、ちょうど一息ついたのかふぅ・・・と息を吐くアムロの姿が見えた。

 

「おーい!!こっちも手伝って欲しいぜよー!!」

「分かった。今そっちに行く。」

 

おりょうに人手が足りないのか呼ばれたアムロは工具箱を持ってⅢ突の方へと向かっていった。

 

「私も行ってくる。流石に私だけやらないわけには行かないからな。」

「何か温かいものを持っていくといい。体を冷やさんようにな。」

「ああ、お気遣い、感謝する。」

 

Ⅲ突に向かっていくエルヴィンを見送って西住君と最後の確認を行う。

ちょうどその時、外の風景が白くなってきた。天気が崩れてきたようだ。

 

「・・・余計に寒くなるな・・・。プラウダは東北地方の高校だからこの手の寒さには慣れているのだろうが・・・。」

「私たちには少し、こたえますね・・・。」

 

士気に関わらんといいのだが・・・。

それはそれとしてーー

 

「西住君、実は一つ頼みごとがあるのだが・・・。」

「はい?なんでしょうか。」

 

 

 

 

「学校、なくなっちゃうのかな・・・・・。」

 

建物を見てみるとプラウダ高校の人たちが焚き火を囲んでなんか踊っている姿が目に入った。正直言って楽しそう。

 

 

「そんなの、いやです・・・。私はずっとこの学校にいたい。みんなと一緒にいたいです!」

 

それは私もおんなじ。私だって、できればみんなと一緒にいたい。でも、私たちの学校はこの全国大会で優勝しないと廃校となってなくなっちゃう。

さっきまでは廃校のことを伝えられて、やる気はあったけど、時間が経つにつれてどうしようもないっていう気持ちが押し寄せてきて、今はもう、気持ちを上げることもできない。

 

「どうして、廃校になってしまうんでしょう・・・。ここでしか咲けない花もあるのに・・・。」

 

華の言う通りだよ・・・。確かにこの大洗女子学園が無ければみぽりんやみんなと出会うことはなかったと思う。

本当にどうして・・・!!

 

「おおっ!!さっすがは麻子殿じゃか!!履帯が完璧に元に戻ったぜよ!!」

「Ⅲ突は現状、大洗の最高火力だからな。おそらくそれに頼らざるを得ない。頼んだぞ。」

「任せるぜよ!!」

 

顔にススをつけた麻子がⅢ突の修理を終えたのか、カバさんチームからお礼の言葉を受けている。それに軽く手を振ると今度は何か目に止まったのか工具箱を持ったままそこに立ち寄った。

そこにはウサギさんチームがいた。でもそこにはいつもみたいに笑顔を浮かべてはいなくて、完全に表情が沈んでいた。

 

「大丈夫か?いつもみたいな無邪気な笑顔はどうしたんだ?」

「れ、冷泉センパイ・・・。負けちゃったら本当に廃校になっちゃうんですか?みんなと、離れ離れになっちゃうんですかっ!?」

「・・・・ああ。その通りだ。」

 

桂利奈ちゃんにそう問い詰められた麻子は表情を取り繕うこともなく事実を言い切った。その言葉に桂利奈ちゃんは涙目になってしまう。

 

「そうだな・・・。少し例え話をするか。」

 

突然麻子が例え話をするという訳の分からない状況にみんなの視線が集中する。

いや、ホントにどうしてそうなった!?

 

「もちろん、例え話だからな。全部鵜呑みにする必要はない。」

 

あ、ああ・・・。そういうこと、桃太郎とか浦島太郎とかそっち方面の昔話ね。

いや、それでも突然どうしてっていう気持ちもあるけど・・・。

 

「ある日、君の目の前に大きな岩があったとしよう。普通であれば逃げるが君自身の後ろには大切な人、ないしは守りたいモノがある。君はどうする?その大切なモノを守るために大きな岩を止めようと立ち向かうか、はたまた目もくれずに逃げるか。」

「それは・・・やっぱり止めようとするよ。」

「無理だと分かっていてもか?」

 

麻子がそう聞くと桂利奈ちゃんは強く頷いた。これ、もしかして私たちの今の状況に当てはめているのかな・・・・。大きな岩は廃校という現実、そして、守りたいモノは大洗女子学園。

 

「でも、やっぱり無理だよ・・・。一人じゃあ止められっこない・・・。」

 

無意識で溢れた自分の言葉にハッとする。気づいたときにはみんなの視線が私に集中していた。は、恥ずかしい・・・!!多分今私は絶対に顔が赤くなっている。でも、そんな中でもわかったのは麻子は笑顔を浮かべて頷いていた。

 

「そうだな。一人では無理だ。それははっきりしている。だが、その現実に諦めずにみんなでそれに立ち向かうことができれば、活路を見出せるかもしれない。」

「みんなで・・・?」

「ああ。一人では無謀だ。馬鹿だと言われても、その馬鹿が二人、三人と集まっていけばどんなことだって乗り越えられるはずなんだ。」

「そして、その馬鹿が集まる時は今まさにこの瞬間。そうだな?麻子。」

 

作戦会議が終わったのか会長がフッと笑みを浮かべながら麻子の後ろに立っていた。麻子は頷きながら私たちに向き直った。

 

「ああ、みんな、諦めるにはまだ早い。まだ試合も、私達の学校も、なにもかも終わったわけではない。むしろ、これからだ。これからが勝負なんだ。」

「各員、自分達の学校を守りたいという意志があるのであれば、ぜひ立ち上がって欲しい。君たちの底力を見せつける時だ。」

 

二人がそう言い切った瞬間、今まで荒れていた外の吹雪が止んだ。

まるで、本当に私たちはまだ終わっていないというようにーー

 

「お、おお・・・!!吹雪が、止んだ・・・!!」

「て、天啓ぜよ・・・!!錦の御旗は、こちらで翻っているぜよ!!」

「お、お二方はかの第六天魔王、織田信長であったかっ!?」

「いや待つんだ左衛門佐!!それでは二人が最終的に死んでしまう!!ここは、専門外だが、こういうしかない・・・!!まさに、かの三国志の『赤壁の戦い』!!まさしく東南の風!!」

『それだぁーー!!!!!』

 

カバさんチームが興奮気味で過去最大級の掛け声を上げていた。まさにその通りだと思う。

ウサギさんチームや他のチームもカバさんチームの気迫が移ったのか、闘志が目に舞い戻ってきた。

 

「ふっ、お前もやってみれば案外やれるではないか。」

「私一人では無理さ。根気よく、一人一人回って元気づけるのがせいぜいだ。」

 

その時の二人の姿は疲れているのかわからなかったけど、金髪のオールバックの人と茶髪の天然パーマな人の姿がそれぞれ二人と重なって見えたように感じた。

目を軽くこするとその姿をすぐに消えたから多分幻覚だったのだろう。

 

「す、凄い・・・。まるで映画でも見ているみたいです!!」

「ええ、おふたりのまさに奇跡とも言える御技、思わず言葉を失ってしまいました・・・。」

「奇跡・・・か。それはこの戦いを乗り切ってからにして欲しいな。」

「それもそうですね。私、この試合、絶対に勝ちたいです!!」

「沙織さんもそうですよね!!」

 

ゆかりんが私にそんなことを聞いてくる。今は、とりあえずいっか。私も二人の言葉に触発されて今までになくやる気に満ち溢れているんだから!!

 

「うん!!私もまだ諦めないよ!!」

 

 

 

「ふぅ・・・・、なんとか調子を元に戻すことができたか。」

「・・・・若干士気が高すぎる気がするが、まぁ、許容範囲内か。」

「あはは・・・・。でも凄いですね。あんなちょうどいいタイミングで吹雪が止むなんて、まるでアニメみたいですね。」

「あれに限っては完全に運に恵まれたがな。」

「同じくだな。あんな完全に狙ったようなタイミングで晴れるとは思わなかった。」

「それで、西住君、先ほどの頼みごとだが・・・。」

「はい。それでしたら大丈夫だと思います。この調子だと、むしろ会長の提案の方がいいかと・・・。」

「何か西住に頼みごとでもしたのか?」

「冷泉さん、会長と河嶋さんと一緒にⅣ号に搭乗してください。」

 

・・・・シャアと一緒に乗るのか・・・・。河嶋がついていけるかどうかが疑問だが・・・。

 

「桃は装填手に集中させる。心配はいらんよ。装填は一流だ。」

 

装填『は』か。まぁ、いいか。

 

「わかった。となると西住や華は38tに乗るんだな?」

「はい。それで冷泉さん達は先陣を切って敵を引きつけてほしいんです。」

 

西住が敵の陣形を描いた地図を見せながら、引きつけて欲しい敵を指さす。

それは陣形の一番厚い箇所、前後に4輌ずつの計8輌、その後ろの方、T-34/85が2輌とT-34/76が2輌の部隊だった。

 

「わかった。任せてくれ。時間なら幾らでも稼いでみせるさ。」

「お願いします!」

 

西住の頼みを承諾すると、視界の端に先ほど降伏勧告をしてきたプラウダの二人組が来ていた。そうか、もう三時間たったのか。

 

「西住、言ってくるといい。私たちはまだ終わっていないとな。」

「はいっ!!」

 

西住は笑顔を浮かべながらプラウダの生徒へと近づく。

一応、俺たちも後ろについておくか。

 

「もうすぐタイムリミットです。降伏は―――」

「しません。」

 

西住がきっぱりと降伏勧告を突っぱねた。

 

「私たちは最後まで戦います。」

『オーッ!!』

 

西住の言葉に乗っかってみんなが声を張り上げた。

さて、まだ試合は終わっていない。それを証明しに行くとしよう。




プラウダに彗星を伴った悪魔が襲いかかる。

彗星は古くから厄災を告げる不吉な星と呼ばれている。それを伴ってやってくる人物など、悪魔以外のなんと表現できようか。

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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