冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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第三話

「・・・就任したばかりの生徒会長に任せるような案件ではないような気がするのですが。」

「それは私も重々承知している。だが、話が回ってきてしまった以上仕方のないことなんだ。すまない。」

 

生徒会長となったシャア、もとい杏は理事長室に呼ばれていた。

いつもは人が良さげな顔をしている理事長も今回はかなり思いつめた顔をしている。

 

「大洗女子学園の廃校。よもや会長に就任して早々このような難題を突きつけられるとは、私も中々運がない。」

 

杏は苦い顔をしながら理事長に聞こえないほどの声量で呟く。

 

「理事長、この廃校は免れないものなのですか?」

 

杏が問うと理事長はまたもや苦々しい表情をする。

 

「ない、といえば嘘になる。だが、ほぼ無理難題にも等しい内容だ。」

「と、いいますと?」

「戦車道の全国大会にて優勝。これを成し遂げば考えてくれる、とのことだ。」

 

考えてくれる。このフレーズで杏は察した。向こうは仮に大洗が優勝しても廃校を覆すつもりはない、と。普通、こういうのは誓約書を書かせるものだが、大洗に廃校を言い渡した文科省に問い詰めてもそれを手にすることはできなかった。

つまりは所詮は口約束、その一言でその約束はなかったことにされてしまうだろう。

 

「確かにほぼ無理難題にも等しい内容ですな。この大洗には戦車道はおろか、戦車すらないのですからな。仮にあったとしてもせめて一人は戦車道の経験者が欲しいですがーー」

「いや、それはなんとかなる。」

「なんと、いるのですか。この大洗に。」

 

いないでしょうなーーそう言いかけた言葉に割り込んだ理事長の言葉に杏は驚いた表情をする。

理事長は一枚のプリントを杏に差し出す。

 

「『西住 みほ』?どこかで聞いたような・・・。黒森峰?」

 

黒森峰。戦車道の全国大会の常連校で9連覇の偉業を成し遂げた高校だ。

前回の大会で10連覇を目の前にして、決勝で敗れたと聞いている。

ゴシップでいくつか見たがその原因は副隊長にあるとも書かれてあった。確か、その副隊長の名前はーー

 

「・・・・彼女をまた戦車道に引き込むのですか?」

 

杏がそう尋ねると理事長は重い顔をしたまま頷く。

 

「確認のため聞かせてもらいますが、彼女はおそらく戦車道をやりたくないがためにこの大洗に転校してくるのでしょう。そんな彼女の願いを踏みにじっている。その認識はおありで?」

「ああ。頼めるかな?」

「・・・了解しました。私も全力を尽くします。」

 

理事長に一礼をし、理事長室を出る杏。

 

「ふぅ、・・・やはり気が引けるな。しかし、こちらも廃校がかかっている。やれることはやらせてもらう。」

 

理事長に渡された紙を握りながら、杏は生徒会室へと向かった。

 

次の日、麻子はいつも通り低血圧にうなされながら登校していた。

 

「くっ・・・!!そろそろ遅刻回数が3桁に突入しそうだというのに、なんなんだこの低血圧はぁ・・!!」

 

それでも本来の冷泉麻子よりは回数は少ない。フラフラとした足取りで学校に向かっている時、

 

「あ、あの〜。大丈夫ですか?」

 

声のした方向を振り向くとこちらを心配そうな視線で見つめている人がいた。

茶髪のショートカットにした優しげな雰囲気を纏った女子だ。

大洗の制服を着ている以上、生徒なのは確実。だがーー

 

(あまり見かけない顔だな・・?新入生か?)

「か、肩、貸しましょうか?」

 

若干おどおどした様子で質問してきた。人の好意を無下にするとあとあと苦労するからな。ここは素直に応じておこう。

 

「すまない、助かる。低血圧で朝はどうにも堪えるんだ。」

「そ、そうなんですか。大変ですね。」

「重くないか?少し鍛えてるから君には重く感じると思うのだが・・。」

「い、いえ。この程度でしたら大丈夫ですっ!!」

 

彼女の肩に乗っかりながらなんとか学校にたどり着いた。が、門は既にしまっており、案の定おかっぱ頭が特徴的、というかなぜか全員おかっぱ頭の風紀委員会の長『園みどり子』が正門前で仁王立ちしていた。

 

「冷泉さん、これで通算100日目ですよ。成績がいいからって、このままだと留年ですよ?」

「こればかりは体質なんだ。もう少しくらい融通を利かせてくれてもいいんじゃないか?」

「遅刻は遅刻ですー。えっと、西住さん、だよね?あなたも冷泉さんを無理して連れてくる必要はないからね。」

「え、えー・・・。」

 

この子は頭は硬いが、何だかんだ言って悪い奴ではないのは分かっている。

よく遅れてくるが、いつも校門は閉めないでいてくれているからな。

 

「巻き込んで悪かった。ここから先は私でなんとかするから君は自分の教室へ向かってくれ。えっと西住さん、だったか?」

「あ、はい。2年A組の西住 みほです。冷泉さん、でいいんでしたよね?」

 

A組・・・。沙織と一緒のクラスか。彼女に西住の話し相手になってほしいと根回しでもしておくか?この子、何か妙なもの抱えている気がする。

 

「冷泉麻子だ。クラスは別だがいつでも気軽に話し相手になろう。今回の礼だ。」

「あ、はい!!ありがとうございます!!」

 

礼を言うと西住は学校へと走り去ってしまった。

 

「おい、別にそんなにかしこまった言い方はしなくていいのだが・・・。」

 

咄嗟に声を掛けたが、西住はもう校舎へと向かってしまい、声が届かなかった。

 

「全く・・・。なぁ、そど子。彼女の今回の遅刻、私の方につけておいてくれないか?」

 

そど子が面を食らったような顔をしている。そんなに驚くことか?

少し傷つくな・・・。

 

「これは私の責任だ。それに今更遅刻の一回や二回、どうとも言うまい。」

「最後のその一言がなかったら考えてた。」

「・・・・手厳しいな。」

 

その日の授業もなんとか眠気など耐えきった。

本当にどうにかできないものなのか・・・。

 

『大洗の全生徒に告ぐ。今すぐに体育館に集合せよ。』

 

何だこの放送は・・・。いきなりにも程があるぞ・・・。

襲いかかる眠気に耐えながら体育館に集まる。

ざわざわした空気が体育館を包み込んでいる中、杏ら生徒会を確認できた。

 

「・・・・何が始まるんだ?」

 

そう思っていると杏が壇上の机の前に立ち、今回の集まりの理由を述べた。

なにやら新しい選択科目のレクリエーションらしい。

杏の背後にあるスクリーンにその新しい選択科目の説明映像が流される。

そいつの名は『戦車道』。

 

「戦車道・・・?シャアが言っていたあの女性に流行っているとか言う奴か?」

 

映像では生徒会副会長の小山の説明と一緒に女性が戦車に乗り、主砲を発射しているシーンや凱旋シーンが取り上げられていた。

 

「戦車道、か。シャアは安全性が確立されていると言っていたが、どうなんだ?

調べていない以上、あまり推測の域を出ないが・・・。」

 

少なくとも、俺はあまりやりたくないな。スポーツとは言え、やっていることは戦いだ。

それに授業の時間も取られそうだ。ただでさえ遅刻回数を重ねているのだから頑張らなければならないというのにーー

 

「そして、戦車道の履修者には遅刻回数200回を免除、さらに通常の三倍の単位が付与されます。」

 

なん・・・だと・・・っ!?おのれシャアめ、そんなものをつけてしまえば、誰だって戦車道を履修するぞ・・!!

しかし、同時に妙だな。なぜたかが一つの選択科目にそこまでのメリットをつけるんだ。

そう思いシャアを見ていると奴の視線が一点に向かっていることに気づいた。

その視線を辿っていくとーー

 

「西住?なぜあそこまで沈んだ顔をしているんだ?」

 

先程世話になった西住にあたった。隣に沙織がいるが、彼女は戦車道の説明に目を輝かせて食い入っている。その沙織とは対照的な西住の顔に麻子は少なからず引っかかるような感覚を覚える。

 

「・・・・一番は彼女に聞くのがいいのだろうが、そう安々と聞いてもよいことなのだろうか?」

 

おそらく西住は戦車道の関係者だ。俺と同じ2年にも関わらず見かけない顔だったのは転校生だからか。そして転校してきた理由は前の学校における戦車道のトラブルが原因か。そうじゃなければ、戦車道と聞いてあそこまで絶望的な表情をするはずがない。

 

(いや、待てよ。そうであればただ単に別の選択科目を選べばいいだけの話だ)

 

ではなぜ・・・。そう思っていると、再度杏の顔が目に入る。そこで麻子ははっとする。

 

「まさか・・。シャアの奴、無理矢理西住に戦車道を履修させるつもりか・・!!」

 

レクリエーションが終わった後、選択科目の用紙が配られた。

・・・戦車道の欄だけ大きすぎる・・・。どれだけやらせたいんだ・・・。

俺個人としてはなんでもいいのだが・・・。だが、仙道とかなにやら訳の分からないものもあるからな・・・。

それに遅刻日数の免除か・・・。

 

「奴の口車に乗せられているような気持ちだが、背に腹は代えられないからな・・・。」

 

かなり苦い顔をしながらだが、俺は戦車道の欄に丸をつけた。

 

次の日、できる限り余裕を持って学校に来ると案の定、西住が生徒会室に呼ばれた。おそらく戦車道を履修させるためだろう。あの表情のうちだと戦車道を選ぶことはしないだろう。

俺はクラスのみんなに体調が悪いと伝え、一人、生徒会室に向かった。

 




ようやくアニメ一話と言ったところですかね・・・
ちゃんとアニメを見なければ・・・

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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