冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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ありふれた日常回。


第31話

「やったー!!勝ったよみぽりんー!!!」

「う、うん。あの小山さん、ありがとうございました。」

「ううん。西住さんの作戦のおかげよ。むしろお礼を言うのはこっち。ありがとう。」

 

陣地に戻ってきて、沙織さんから飛びつかれたところで、ようやく自分たちが勝ったことを認識できた。

フラッグ車を見つけたあと、向こうは時間稼ぎに徹していることに気づくと、Ⅲ突を家屋と家屋の間の道に埋めて、そこに誘い込ませるように誘導させた。

結果としてはうまく作戦がいって、私たちはフラッグ車を倒せたけど何より今回お礼を言いたいのはーー

 

「あ、冷泉センパイ達が帰ってきた!!」

 

阪口さんが指を指した方向を見るとⅣ号が戻ってくる様子が見えた。

砲弾が直撃したような損傷はなく、あるとすれば敵の戦車と正面衝突したのだろうか、前部の装甲が大きく凹んでいるくらいだった。

 

「冷泉さん!!」

 

自分を筆頭にⅣ号へ駆け寄ると操縦席のハッチから冷泉さんが顔を出した。

ただ、その表情は少し焦ったような顔をしていた。

 

「西住、今すぐにバケツと飲み物を頼む。」

「え?どうかしたんですか?」

「桃が吐きそうなんだ。下手に動かすと暴発してしまう。」

 

冷泉さんの代わりに砲塔の出入り口から顔を覗かせていた会長が答えてくれた。

うん、それは焦るよね・・・。

私はみんなにすぐさまバケツと飲み物を持ってくるように指示を出した。

用意が完了すると慎重に河嶋さんを引っ張り出してバケツの前まで連れ出した。

そして、河嶋さんがバケツに手をかけた瞬間ーーー

 

ーーーーーしばらくお待ちくださいーーーーー

 

 

「あー、スッキリしたぁー・・・・。」

 

清々しい顔をしながらもらった飲み物を飲む河嶋さん。なんか一緒に悪いものを吐き出したのか今なら怒るなんてことはなさそうな感じがする。

 

「吐いちゃうほど冷泉さんの運転がめちゃくちゃだったんですか?」

「んー・・・。私自身、ついていくので精一杯だったからな・・・。もう一心不乱に装填だけをしていた。辛うじて言うなら―――」

「辛うじて言うなら?」

「えげつなかった。」

 

澤さんの言葉に河嶋さんが苦笑いを浮かべながらそう答えた。ただ、その一言だけではよく伝わらなかったのか、みんなの間でも疑問符が浮かび上がった。

冷泉さんにどういう操縦をしたのか聞こうと思って声をかけようとするとーー

 

「せっかく包囲の一部を薄くして、そこに引きつけてぶっ叩くつもりだったのに、まさか、包囲網を突破されるとは思わなかったわ。」

 

カチューシャさんがノンナさんに肩車されながらやってきた。

カチューシャさんは包囲網を突破されたことを驚いていたけど、突破できたのは冷泉さんや会長さんが先陣を切ってくれたからだと思っている。

だからーー

 

「私自身突破できるかは半信半疑でした。あそこで一気に攻撃されていたら負けていたかも―――」

「それはどうかしらね〜・・・・。あ、一つ聞くけど、あなたが足止めとしておいたⅣ号って誰が乗っていたの?」

「えっと、冷泉さんと会長と河嶋さんです。」

 

そう言うと二人とも、特にノンナさんがまるで越えるべき目標とでも言うような視線で冷泉さん達を無言で見つめていた。

 

「冷泉 麻子さん、あなたの操縦技量の高さは全国大会を勝ち進む度に耳にしていました。ですが、今回目を引いたのは、あなたです。角谷 杏さん。一応、確認ですが、あなたはあのⅣ号に砲手として乗っていましたね。」

「ああ、そうだが?」

「・・・あなた方の技量は一体どこで会得したのですか?砲弾に砲弾をぶつけたり、片方だけの無限軌道で走行するなど、正気の沙汰とは思えないのですが。」

『は?』

 

 

ノンナさんの言葉に思わずみんなの言葉がかさなった。そんなことしてたの・・・?冷泉さん達・・・・。

 

「いやいや〜砲弾に砲弾をぶつけるなんて・・・。いくらなんでも冗談―――」

「いえ、会長さんはやっていましたよ。私達をIS-2からの砲撃を守った時、そのやり方で放たれた砲弾をブロックしてました。」

「ど、道理でノンナが八九式に撃った時、爆発した割には損傷が少ないと思ったら、そんなことしてたのあなた達!?」

 

沙織さんの言葉が磯辺さんの言葉で遮られる。磯辺さんは少なくとも嘘をつくような人物ではない。となると、本当にそんな荒技をやったと思っていい。

カチューシャさんの反応を見てもほぼ真実と思ってもいいだろう。

 

(冷泉さんが会長はほぼ同じ技量を持っているって言っていたけど、それって会長ができることは逆に冷泉さんもできるってことだよね・・・?)

 

ほ、本当に何者なんですか、おふたりは・・・。

 

 

 

 

「まぁ、あれは一か八かだったがな。IS-2の装甲が抜けない以上、ああするしかなかった。」

「そんな常識の範疇にないことを一か八かで済ませるあんた達何者なのよ・・・・。」

「大洗女子学園生徒会長、角谷 杏だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「そう言うことを聞いてるんじゃないわよっ!!グーで殴るわよっ!!」

「・・・・戦車道のイベントによく顔を出していたからな。砲撃のコツはそこで学んだ。」

 

シャアにケイの時と同じ返答をされ、はぐらかされたカチューシャは怒り気味だが、『まったく・・・』と言いながらノンナに降ろすよう指示を出すと西住の前に立った。

そして、手を差し伸べた。カチューシャが西住に握手を求めたのだ。

少しばかり理解が追いつかなかったのか、西住は呆けていたがカチューシャが差し出した手を握って、握手した。

 

「決勝戦、見に行くわ。カチューシャをガッカリさせないでよ。」

「・・・・はいっ!!」

 

握手を交わしたカチューシャは再度、ノンナに肩車をさせながら常套句なのかピロシキ〜と言いながら帰っていった。

なんだ、ちゃんとしているじゃないか。

彼女のことは子供だと心の中で思っていたが、認識を改めておいた方がいいな。

 

 

 

「・・・・・ねぇ、ペコ。」

「・・・はい、なんでしょう、ダージリン様。」

「・・・・私達、一応大洗に勝ったわよね?」

「・・・・はい。それは間違いないです。」

「・・・あの動き、どう感じたかしら?感想を聞かせてくれる?」

「・・・彼女らが動かしていたのは戦車なんですかね?」

「・・・・私も同じよ・・・。あんなの見せられたら、なんで私達、大洗に勝てたのか疑問が浮かんでしまいそうだわ・・・。麻子さん、それに杏さん、一体どこまでの実力を隠し持っているのかしら・・・・。」

 

 

「アンビリバボー・・・。思わずトリハダが立つような試合だったわ・・・。」

「八九式、IS-2の砲撃を受けた時、妙に損傷が少ない気がしたんですが・・・。」

「あれは、IS-2が放った砲弾が八九式に当たる直前で爆発したからだな。」

「え、どういうこと、ナオミ?」

「別の角度から放たれた砲弾がIS-2の砲弾に直撃したんだ。おそらくやったのはあのⅣ号だろう。」

「はぁっ!?砲弾に砲弾をぶち当てるとか、ありえないんだけどっ!?」

「だけど、事実としてはその砲弾が八九式の窮地を救った。」

「ふぅーん・・・。ナオミは出来る?私がアレをやれっていったら。」

「そんなまさか、私でもそれは無理ですよ。でもいつかはやれるようになりたいかな。」

「ふふっ、オーケー。ナオミのやる気に満ちた表情を見るのは久しぶりね。」

「あんなのを見せつけられたんです。砲手としては燃えてこない方がどうかしてる。」

 

 

 

「・・・・まるで軍人ね。」

「お母様?」

「あのⅣ号からは何がなんでも守りたいという意志を感じた。さながら自分の国を護ることが義務の軍人。まさか、高校生ながらあんな強い意志と実力を有しているなんてね。でも、あの足止めの部分だけはみほが考えたとは思えないわ。」

「あ、お母様、どこに。」

「帰るわ。そして、まほ。邪道は正道を以って叩き潰しなさい。」

「っ・・・・。わかりました。西住流として、必ず大洗を叩き潰します。」

 

 

準決勝の舞台から学園艦に戻って海を航海している途中、俺は海の景色が一望できる公園のベンチに座っていた。外の空気はまだ冷えていて、上着をしていなければ少々堪える。

 

「ふぅ・・・。準決勝もなんとか勝利を収めることができたか・・・・。だが、ただでさえ実力を疑われているというのに、余計に疑われるようになってしまっただろうな・・・。」

 

そのうち、俺とシャアのことも話さねばならない時とかも来るのかもしれないな。

それだけのことを、俺たちはやりすぎたのだから。

 

しばらくして、温暖な気候の海域まで戻ってきた。上着を着る必要もなくなって普通の夏服で学校に登校する。

そういえば、最近低血圧が鳴りを潜めてきたな。俺としてはかなり頭を悩ます問題だったから嬉しいことこの上ない。

 

「それで、今日の練習は無しにして明日は皆の労いを兼ねてキャンプに行こうと思っているのだが、君たちはどうしたい?」

『行きます!!』

 

戦車道の時間となったため、戦車倉庫に向かうとシャアが開口一番にそんなことを言った。

キャンプ、つまるところ休息だ。まぁ、ここ最近は根を詰めていた気がするから息抜きにはもってこいかもしれないな。

そんなシャアの提案に口を揃えて行く意志を伝えたため、今日の練習は取りやめにして、次の日、寄港した港からキャンプ場へと向かった。キャンプ場では木々が生い茂り、風は学園艦でいつも浴びている海風とは違って新鮮な感じがして、中々心地よい。

ただ移動手段が戦車だったのが気になる。それにこの場所・・・俺の記憶が正しければ自衛隊の演習場だった気がするのだが・・・。

 

「なぁ、会長。ここ、どうやって借りたんだ?」

「・・・教官のご厚意で貸してもらった。」

 

シャアに尋ねるとそう言った答えが返ってきた。教官、となると蝶野教官か?

まさかとは思うがーー

 

「・・・脅したのか?」

「人聞きが悪いことを言わんでほしい。私は丁寧に『お願い』しただけだ。」

 

お前という奴は・・・。思わず眉間に手を当ててしまう。今度会ったら謝っておかねば・・・!!だが、蝶野教官に連絡を取ることで取れる場所など十中八九、ここは自衛隊の演習場で間違いないようだな。

 

「このキャンプが終わったあと、練習するのか?」

「そのつもりだ。せっかくご厚意で貸してくれたんだ。使わない訳にはいかんだろう。」

 

それもそうか。この演習場はおそらくいつも学園艦で使っている場所より広い。

練習にはもってこいかもしれないな。

 

「だが、今は純粋に楽しんでもらいたいの一心だ。」

「まぁ、最近まで息をつく間もなかったからな。」

 

ふと視線を向けるとすぐそばの川に飛び込んだら足が攣ったのか溺れているウサギさんチームがいた。それも六人全員だ。

 

「準備運動していなかったのかっ!?」

「どうやらそうらしい。手早く助けるぞ。」

「ったく、世話の焼ける・・・!!」

 

俺とシャアでさっさと救助する。だが、そのおかげで着てきた服がずぶ濡れになってしまい、西住達に着せ替え人形にされた時に買わされたと思われる水着でしばらく過ごした。無論、女物だったために中々辛いものがあった。

唯一の救いが水着の種類がビキニではなく短パンのようなものにノースリーブのタンクトップのような感じだったことだ。ノースリーブはシャアあたりが着るものだと思っていたら、シャアも水着の上はノースリーブだった。

一回ふざけてクワトロ大尉と呼んでみるか?

 

その後何だかんだ言ってみんな水着を持ってきていて、それに着替えてからテントの設営をすることにした。

テントを留めるための杭を地面に打ち込んでいると、何やら秋山の周りに人だかりができているのが見えた。

会話を聞いているとどうやら第二次世界大戦中の雰囲気を味わいたくて当時のテントを持ってきたらしい。それも人数分。

毎回思うのだが、どこからそんなのが出てくるんだ?あのテント一式以外にも色々持ってきているみたいだが・・・。

 

「まったく、そう準備をされてしまうとこちらも付き合わざるを得なくなってしまうな・・・。」

「ま、麻子殿・・・?」

「せっかくキャンプに来たんだ。こういうのも、悪くない。それに向こうよりはマシだからな・・・。」

 

そういいながらテントのボタンをつけていると自然と目につくものがあった。

戦国時代の本陣を再現したようなものに各々の歴史の得意分野の服装に扮したカバさんチームがそこにいた。

 

「こらー!!キャンプにそんなの持ち込んだらダメでしょー!!というか、どうやって持ってきたのよ!!」

「まぁそう怒るな、園。ここはキャンプ場だ。学校ではない。風紀委員としてではなく一個人として楽しんだらどうだ?」

 

水着姿のそど子がカバさんチームに怒っているがシャアが諭すと、唸りながらもそれを承諾した。

 

「でも、流石に過度なことは注意していいですよね!?」

「まぁ、君が危険だと判断したら、それで構わない。」

 

少しするとなんとか人数分のテントを仕上げることができた。

そして、テントの設営が終わるがいなや、みんな揃って川に入って水遊びをし始めた。それぞれ水鉄砲で遊んだり、お互いに水を掛け合ったり、はたまた川の流れに身を任せて、ゆらゆらと漂ったりと、思い思いのことをしていた。

まぁ、川の流れに身を任せていたアリクイさんチームは流石にどこかに行きそうだったため、そど子達風紀委員が止めにいっていたが。

そして、一頻り川の中で遊んだらキャンプの定番、バーベキューが始まった。

腹が先に空いていたのかウサギさんチームが一足先にあらかじめ準備しておいた野菜や肉の刺さった串を焼こうとしたが、そこはたまたまそど子達が見つけたため、普通にみんな揃ったあとに焼き始めた。

 

「む、少々材料が余っているようだな。」

「そうらしいな。沙織あたりでも呼んで、何か作ってもらうか?」

「いや、私が腕を奮うとしよう。」

 

その発言に思わず驚いた表情をしてしまう。料理ができたのか・・・っ!?

シャアは鉄板を用意するとその上に余った食材を乗せて炒め始めた。

 

「・・・・どこで学んだんだ?」

「母親にしこたま仕込まれてしまってな。気づけば簡単なものは自在に作れるようになっていた。」

「なるほど、母親か・・・・。」

 

シャアは適当に炒めた野菜と肉に塩、こしょうを振りかけて、味見をした。

どうやら納得をいく味ができたようで、手早く皿に盛ると俺に渡してきた。

 

「すまないが、運んでくれないか?」

「ああ、分かったよ。」

 

シャアが作った野菜炒めを持っていくと、みんなもシャアが料理をできることは意外だったのか、驚いた様子を露わにしていた。

安心してほしい。俺もおんなじ気持ちを味わった。

皆がご飯を食べ終わった頃には既に日は沈み、月の光が代わりにあたりを照らしていた。周りに都会特有の人工的な光もないからか空には星の光が天の川を形成していた。

 

「わぁ・・・・綺麗・・・。」

 

西住が空の光景を見て、感激といった声を上げる。俺も純粋に星空を楽しんだのは初めてかもしれないな。

 

「なんというか、幻想的だな。」

「そうだね・・・。ここで戦車を動かせたら、気持ちいいんだろうな〜。」

「その願いは、案外すぐ叶うかもな・・・・。」

「えっ?どういうことですか?」

「会長のやつ、おそらくここで練習するために借りたんだと思うぞ。ここは私の記憶が正しければ、『東富士演習場』。自衛隊の演習場だった気がするからな。そうなんだろ?会長。」

「そうだな。そうでなければ、わざわざ戦車でここに来させたりはせんよ。」

 

シャアの言葉に全員が驚愕といった表情をした。

 

「明日から本格的にやるつもりだったが、今でも別に構わないぞ。」

「どうする?動かすか?」

 

西住にそう尋ねると、少し逡巡した後、表情を緩ませながらーー

 

「それじゃあ・・・お願いします!!」

「了解だ。暗いからそれほどスピードは出せないが、むしろそっちの方が風景を楽しめるか。」

 

そういうとすぐさまみんなを集めて星空の下で、戦車を動かした。

静寂な風景の中を戦車のエンジン音だけが響いて突き進んでいく。

今回のことはかなりいい息抜きになったな。

そういえば、ふと気になったが、ポルシェティーガーはそろそろレストアが済んでもいい時期だろうか?

決勝まではそれほど時間がないのだからな。そろそろ試運転でもしとかないときついものがあるぞ。

まぁ、今は気にすることではないか。

そう心の中で思いながら、西住の指示のもと、星空の下で戦車を走らせた。

 




もう少しだけ日常回が続くかもしれないっす。

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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