冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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┌(┌^o^)┐ユリィィィィ・・・・・

百合の 波動を 感じるっ!!




第32話 |┌^o^)┐

東富士演習場の広大なフィールドを使った練習は想像以上にいいものとなった。

地平線の向こうまで続く草原や木々が生い茂る森の中限定でチーム戦を行ったりと自然をふんだんに使った練習はサンダースや聖グロほどの学園艦の規模がない俺たち大洗にとっては中々できないことだったからな。

そして、その練習から数日経ったのち、眠れる虎がついに姿を現した。

ポルシェティーガーのレストアが完了したとの報告がシャアから告げられた。

 

 

「・・・・改めて見てみるとやはり大きいな、ポルシェティーガーは。虎の名を冠しているだけのことはあるな。」

「ポルシェティーガーは確かにティーガーⅠとの競争に負けはしましたが、ポルシェ博士の発想自体は後の戦車にも受け継がれているんです。確か、エレファントと呼ばれる重駆逐戦車にはポルシェティーガーに搭載されている電気駆動式のモーターが使われていますよ。」

 

戦車倉庫の目の前のグラウンドでポルシェティーガーが試運転をしていた。

俺はその様子を秋山と一緒に見ていた。

ただ、後で開発された戦車にも搭載されているということはそれだけ性能がいいという裏付けのはずだが・・・。

よほどの欠陥があのポルシェティーガーにはあったのだろうか?

例えば、稼働時間を越すとエンジン部分が自爆するとか。

 

「何故それほどのモーターを搭載しながら競争には負けたんだ?」

「それは・・・採用試験の時に突貫工事のツケが出たのか、自重で地面にめり込んだり、エンジンが過熱で発火したりと、色々不具合が生じて、散々な結果になりました・・・。」

「なるほどな・・・。即戦力を求められた結果、振り落とされた訳か。ある意味、アレ(ポルシェティーガー)は時代の被害者と言った具合か。

人間、切羽詰まると物事を長い目で見れなくなってしまうのは、いつの時代も変わらないか・・・。」

「時代の被害者・・・。中々深い言い方をしますね、麻子殿は・・・。」

「年甲斐にもないことを言ってしまったな・・。」

「いえいえ!!気にしないでください!もう慣れましたから。」

「それはそれで傷つくな・・・。」

 

他愛もないことを話しているとポルシェティーガーが突然停車した。

何事かと思って様子を伺っているとエンジン部分から出火した。

なるほど、あれがポルシェティーガーが不合格になった理由か。

そう思いながら駆け寄ろうとしたが、この程度のアクシデントは予想できていたのか運転していた自動車部がすぐに消火器を持参してきて事なきを得た。

 

「もうこれ以外戦車は無いんですよね・・・・?」

「仮にあったとしてもレストアが間に合わんよ。自動車部も万能ではないのだ。」

 

項垂れる小山にシャアが難しい顔をした。俺はそのシャアの表情に少し違和感を覚えたが、問い詰めるなどはしなかった。大洗の害になるようなことをしないだろうしな。

シャアは消火作業に追われている自動車部に近づくとナカジマに話しかけた。

 

「感じはどうだ?決勝には間に合いそうか?」

「うん、こっちには持ち前のドラテクがあるからね。あと少し動かせば、問題ないよ。」

「なら、本番は頼んだぞ。ポルシェティーガーは黒森峰の戦車に対して唯一まともに張り合える戦車だからな。」

「そこら辺は任せてよ!」

 

会話の内容を聞く限り、ポルシェティーガーには自動車部が乗るようだな。

あの様子だと俺が何か言う必要はあるまい。

 

「あ、冷泉さん、少しいいですか?」

 

そう思っていたところに一緒にポルシェティーガーの様子を見ていた西住が話しかけてきた。

何かあったのだろうか?

 

「どうした?」

「えっと、生徒会の方で今まで義援金を募っていたんですけど、集まったお金でⅣ号にシュルツェンが取り付けられることになったんです。」

 

シュルツェン?聞き覚えのない言葉だな・・・・。

そう疑問符を挙げていると代わりに秋山が嬉々とした表情を挙げた。

 

「シュルツェンですかぁっ!?ということはマークⅣスペシャルになるんですねっ!?」

「うん、そうなるね。」

「お、おい。すまないのだが、私にも分かるように教えてくれないか?」

「うーん、こればかりは見た方が早いですね。というわけで行きましょう!」

「そうですね。あ、華さんと沙織さんも来てもらっていいですか?」

「わかりました。」

「おっけーだよ!」

 

あんこうチームの皆で戦車倉庫のⅣ号の前に来ると、そこには何やら巨大な板が置いてあった。秋山は見た方が早いと言っていたが・・・。あまり使い道が見えないな・・・。

 

「これを・・・どうするんだ?」

「これを砲塔と車体の側面に取り付けます。」

 

砲塔と車体の側面・・・。なるほど、漸く理解した。盾なのか、この板は。

外付けの装甲で耐久力を増やすんだな。

西住は砲塔に登ると手本を見せるためにシュルツェンをつけ方を教えながら砲塔に取り付け始めた。西住がつけ終えると俺たちもそれに続いて各所にシュルツェンを取り付けた。

シュルツェンを取り付け終わると今度目に入ったのは、何やら小型クレーンに釣り上げられている戦車の砲塔部分であった。

小山の指示のもとそれが徐々に降ろされていくと下に置いてあった戦車の車体部分と合体させられた。

何をやっているんだ?車体の部分は38tのように見えるが・・・。

 

「あれは、集まった義援金を使って38tをヘッツァーに改造しているんです。」

「ヘッツァー?砲塔を見る限り自走砲のように見えるが・・・。」

「はい。冷泉さんの言う通り、ヘッツァーは75mmの主砲を持つ自走砲です。38tでは流石に厳しいものがあったんですけど、ヘッツァーは幸い、38tと足回りが似ているのでヘッツァー改造キットを買って自動車部に改造してもらったんです。」

 

本当に自動車部様様だな・・・・。彼女らがいなければどうしようもなかったな。この大会。

しかし、75mmか。ほかの戦車の主砲とだいたい同じ口径か。これならシャアも当てても装甲が貫通できないという歯がゆい思いはしなくなりそうだ。砲塔が回転しないからそこら辺の面倒くささはあるがな。

 

「みほさん。私、今日はここで失礼させていただいてもよろしいですか?」

 

華が何か用事を思い出したような表情をすると、そんなことを聞いてきた。

 

「何か用事でもあるのか?」

「実は、土曜日から生花の展示会が・・・。」

「華さんが生けた花も展示されるの?」

「はい。」

「わぁ〜!私も見に行くよー!」

「本当ですか!じゃあ、是非!」

 

生け花の展示会か・・・。時間もあるから行ってみるか。何より華が生けた花も展示されるんだ。行かないとは言えないな。

 

「麻子殿はどうしますか?私は行きますけど。」

「ああ。私も行くさ。それで、その展示会はどこで行われるんだ?」

「それでしたら―――」

 

華に展示会の場所を教えてもらい、約束の土曜日に展示会が行われる建物にやってきた。

中に入ると何本もの様々な花で生けられた作品がたくさん展示されてあった。

そんな作品がたくさんある中、華の作品を探そうとすると、俺自身は存外手早く見つけることができた。

あんな花瓶を使うのは現状、華くらいのものだろうからな。

 

「華の作品、見つけたぞ。こっちだ。」

 

西住達をある作品の前に呼び寄せる。その作品はオレンジを基調とした、全体的に蛍光色の多い、晴れやかな印象を受ける生け花だった。

まぁ、力強い印象もあるのだが・・・・。花瓶がな、戦車の形をしていた。

西住達は華の作品を見て、感嘆の声を上げている。だがこれでは、一見すると戦車が爆発しているように見えてしまうのは俺が生け花について造詣がないからだろうか。

 

「来てくれてありがとう。」

 

声が聞こえた方向をみるとそこには黄色い着物で着飾った華がいた。

やはり元々大和撫子的な印象を受けた華には着物はとてもよく似合うな。

 

「華さん、この花、凄く素敵です。力強くて、でも優しい感じがする。まるで華さんみたい。」

 

西住・・・。そんな感想が出てくるのか・・・・。

やはり俺の感性では邪推なものしか出てこないな・・・・。

 

「ん?どうしたの麻子?そんな難しい顔をして。」

 

思わず顔に出てしまっていたか・・・。だがな・・・ここで沙織に言うのは憚られるな・・・・。

 

「いや、なんでもない。」

 

ここは誤魔化させてもらうか。俺の返答に多少懐疑的な顔をする沙織だったが、

俺への追求はやめてくれた。

 

「この花は皆さんが生けさせてくれたものなんです。」

「そうなんですよ。」

 

華の声とは別の人物の声が響いた。華が自身が驚いた様子で振り向くと、そこには華の母親がいた。

 

「この子の花はまとまってはいるけれど、個性と新しさに欠けるものでした。

こんなに大胆で力強い作品が出来たのは戦車道のおかげかもしれないわね。」

 

なるほど、オリジナリティに欠けると言った具合か?今までの彼女の生ける花は従来通りのセオリーでしかない花だった、そういうことか?

まぁ、それはともかく華が戦車道を履修することに反対だった華の母親がそのようなことを言ってくれるとはな。

厳しかった表情も少しすると、和やかなものに変わり、華の作品について、彼女と談笑をし始めた。

その瞬間、俺は西住が軽い笑みを浮かべてはいるものの、華と彼女の母親の会話に何かを思い出したのか僅かに悲しげな表情をしたのを見逃さなかった。

 

そして、日をしばらく跨ぎ、決勝戦の前日。いつもの、というよりは最終調整に等しかった練習だったが、それでも皆、気合いの入った様子で練習に打ち込んでいた。

ポルシェティーガーもとりあえずはなんとかなりそうな様子だった。

 

 

「さて、明日はついに決勝戦だ。相手は皆分かっているだろうが、黒森峰女学院だ。彼女らは戦車道の全国大会を九連覇、我々とは成績も戦車の性能、何からなにまで桁違いだ。」

 

まぁ、黒森峰は栄光への架け橋のようなものだからな。戦車道で大成したい奴は悉くそちらに向かうだろうな。だから一人一人が天才的な技量の猛者と考えていいだろう。

そして、その天才達を統べているのが、西住流の体現者であり、みほの姉でもある西住 まほだ。彼女は凄腕揃いのあのチームを二年生からまとめあげている。まさに戦車道の申し子のような人物だ。

そんな堅物で完璧な人間のように見えるが、実のところはなんかポンコツなところもあったがな。

不器用というかなんというか。彼女、もしかしたら戦車道以外ロクにできないというオチもあるか?

 

「だが、君たちはこの言葉を高らかに上げるべきだ。『それがどうした』とな。

君たちは黒森峰にはないものを持っている。性能が上の戦車との戦い方やどんな時にも諦めない気持ち、そして君たちの周りにいるかけがえのない仲間達だ。これまでのことを思い出して欲しい。辛い時、怖い時などあっただろうが君たちのそばにはいつもその仲間達がいたはずだ。」

 

シャアのその言葉にチームのみんながお互いの顔を見合わせる。

 

「その仲間達を信じて、明日の決勝、勝利を収めよう。そして大洗女子学園の未来をこの私たちの手に引き寄せる。これは言うまでもないだろうが、各員、全力を尽くしてくれ。」

『はいっ!!』

「よし、では解散だ。明日に備えてしっかりと睡眠は取るようにな。」

 

そこで練習の終了を告げ、他の人達は思い思いに明日に備えるために帰っていった。

 

「ねぇ、みぽりん。みぽりんの家でご飯会やらない?」

「あ、いいですね。沙織さんの作るご飯食べたいです。」

「前夜祭ですね!」

 

沙織の提案に華が同調の意思を示した。というか、沙織が作ること前提なんだな。沙織自身特に気にしてない様子だからとやかくは言わないが。

 

「秋山、祭りではないのだから、前夜祭とは言わないと思うのだが・・・。」

「ものの例えですよ〜!!」

 

なんやかんや言いながら俺たちは西住の家へと上がり込んだ。

途中材料を買って、沙織を中心にして作ったのはヒレカツだ。

なるほど、ヒレカツの『カツ』と勝利の『勝つ』をかけた願掛けか。

俺は西住のテーブルには人数的に収まり切らなかったため、西住の勉強机を借りて、作ったヒレカツを口の中に運んだ。肉汁とともに味が口の中に広がってとてもうまい。

西住達もうまい、美味しいと言った感嘆の声を上げている。

そんな中、沙織は何やら厳かな雰囲気というらしくないものを醸し出していた。

 

「私、重大な発表があります。」

 

なんなんだ、藪から棒に・・・。しかし、何かあったか・・・?仮に彼氏ができたのであれば大々的に言いふらしそうな沙織だが・・・。

そういえば、アレの結果発表はそろそろだったか?

 

「婚約するんですかっ!?」

「まだ彼氏もいないのに?」

「違うわよっ!!」

 

二人とも、沙織にそれは言うな。それはそれとして、日本の法律上、女性が結婚していいのは・・・16歳だったか?一応してはいいのか。

そう思っていると、沙織が何かを取り出した。それは何かのカードだった。表面を西住達に向けてしまっているため、俺はそれを見ることはできすに沙織の背中を見ているだけに終わった。

 

「アマチュア無線二級に合格しましたー!」

 

どうやら無事合格してくれたようでなによりだ。実はというと西住達には内緒で沙織は無線の資格を取るために勉強していたのだ。なぜ知っているのかと言うとーー

 

「いやー、大変だったよー。麻子にも勉強教えて貰ってねー。」

 

俺が沙織の講師役を請け負っていたからだ。時期は大体、アンツィオ戦のあとだったか?突然沙織が泣きついてきて勉強を教えて欲しいと言ってきたのだ。

こちらとしても中々慣れないところもあったからお互い悪戦苦闘していたがな。

ともかくーー

 

「ひとまず、おめでとう、だな。沙織の努力が実った証だ。」

「凄いよ沙織さん!」

「通信士の鑑ですね!!」

「明日の連絡、指示は任せて!どんなところにも電波飛ばしちゃうから!!」

「変に意気込んで手違いで敵に通信を送らないようにな。」

「あー!?麻子ってばさっき褒めてくれたのにひどーい!!」

 

俺と沙織のやりとりがうけたのか西住達は笑ってくれていた。

その様子に俺と沙織も自然と笑顔になっていった。

その後もしばらく沙織が決勝戦を勝ったら婚約すると言い張ったり、そのままのノリで西住に彼氏作れといびり始めて、西住が困惑気味な表情を浮かべたりと、楽しい時間を過ごした。

 

そして、大体七時ぐらいだっただろうか。そのあたりでお開きとなり、俺は家へと帰った。いつもだったらこの後少しくらいは勉強をしたりはするのだが、明日は早目に起きねばならないからな。最近低血圧がなりを潜めているとはいえ夜更かししていいと言うわけではない。

いそいそとシャワー浴びたり、布団の準備や目覚まし時計をかけているとーー

 

ピンポーン

 

玄関のチャイムが鳴る音が響いた。一体誰なんだこんな時間に・・・。

とはいえ来客が来たのは事実だ。今の服装は青と白のトランクスのパンツ一枚だ。流石にこの格好で出るわけには行かないから適当に制服を着て、扉を開け放つ。

そこにはーー

 

「・・・西住?」

「あ・・・冷泉さん・・・。ごめんなさい・・こんな時間に・・・。迷惑・・・だったよね?」

 

玄関先には申し訳なさそうな雰囲気を醸し出している西住がいた。

とりあえず、いつまでも玄関先に居させるのはよろしくないため室内に上げさせる。

 

「あ・・・。布団敷いてる・・・。もう寝るところだったんだね・・・。」

「気にするな。まぁ、布団の上に腰掛けて構わない。」

 

西住は少々まごつきながらも俺の布団に腰掛けた。

さて、早速本題に入るか。

 

「それで、来た要件は母親のことか?」

「ふぇっ!?ど、どうしてそれを・・・!!」

「君が、華と彼女の母親が談笑している時、なんとなく羨まし気な視線で見ていたからな。察しはついていた。」

 

俺がそういうと西住は恥ずかし気に顔を赤らめて、俯いた。

 

「そ、それもあるけど・・・。」

「なら逸見エリカか?」

「・・・・やっぱり凄いですね、冷泉さんは・・・。なんでもお見通しなんですね・・・。」

 

今度は顔を赤らめることはなく、深刻な表情をしながら顔を俯かせる。

どうやらこちらが本命のようだな。ちなみに俺が西住の悩みの原因が逸見エリカだと思った理由は彼女を見ているとどうにも親しい人物は下の名前で呼ぶ癖がある。

そこで、戦車カフェで逸見エリカを言い負かした後の連絡船で西住は彼女のことを『エリカ』と下の名前で言いかけた。これの意味することは西住はかつて黒森峰にいたころ、逸見とは仲が良かったことを指し示している。

だが、戦車カフェでの彼女の発言は少なからず西住の心に傷を負わせたのだろう。そのことが西住の心の中で心残りになっている。

 

「それで、西住はどうしたいんだ?」

「どうしたい・・・ですか?」

 

おいおい、それも考えずに俺のところに来たのか・・・?

俺は困った顔をしながら西住に選択肢を指し示した。西住がどちらか選ばなければならない選択肢は二つ。

 

「逸見と仲直りしたいのかどうかだ。」

「・・・・私は・・・・。」

 

それからしばらく西住は黙りこくってしまった。が、俺から特にこれといったアプローチはかけない。

これは彼女自身の問題だ。これは絶対に彼女自身で進退を決めなくてはならない。

俺はその選んだ選択を後押し、ないしは確認するだけだ。

しばらく時計の針が進む音だけが部屋の中で響く。

そして、西住が口を開いた。

 

「私は、逸見さんと、仲直りがしたいです!!」

 

意を決した表情で西住は逸見と仲直りをしたいという意志を示した。

 

「でも、逸見さんは許してくれないかもしれない。あの時、逸見さんは黒森峰で一番私を気にかけてくれていました。私はそれに気づくこともしないで、黒森峰を出て行った。逸見さんからしたら多分、黒森峰を捨てたと思っている。

でもそれでも、せめて謝罪とお礼をいいたいんです!!」

 

西住は自分の道を選んだ。最初のころは絶えずオドオドしていたような印象をしていた彼女だったが、大洗のみんなとの交流を経て、彼女は変わった。

その変わった上での選択を、私/俺(同級生/大人)は後押しするだけだ。

 

「・・・・・そうか。そこまで決意が固いのであれば、私としては特に言うことはない。君のやりたいようにやればいい。」

「・・・・・はいっ!!」

 

西住の屈託のない笑顔を見ながら時計を見ると既に時計は8時を過ぎて半あたりまでにさしかかっていた。

む、時間が時間だったためどうしたものかと考えているとーー

 

「あ、あの、冷泉さん。」

「ん?どうかしたか?」

 

西住が何やらモジモジした様子を見せながら顔を俯かせていた。表情は伺えないがなぜか耳まで真っ赤にしているのだけはわかった。

 

「あの、一つだけ、我儘を許してくれますか?」

「・・・・まぁ、内容によるが、やりたいようにやれと言った手前、反故にするわけには行かないからな。別にいいぞ。」

「わ、わかりました・・・・。その・・・あの・・・。」

 

先ほどからモジモジしているのはなんなんだろうな・・・・。

 

「こ、今夜、私と一緒に、寝てくれませんかっ!?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

一緒に・・・・・寝てほしい、だと?

俺はその時めちゃくちゃ微妙な顔をしていただろう。自分でもわかるほどなんだ。確実にしていた。

 




「よし、だいたいこんなものかな・・・。」

額についた汗を拭いながら一息ついた。明日は大事な決勝だからね。念入りにチェックしておかないと・・・。
せめて雨でも降ってくれたらもう少しテンション乗るんだけどなぁ・・・。

そんなことを思いながらⅣ号の前を通ったとき、ふと、なんとなく違和感を感じた。

「あれ・・・・?」

感じた違和感の正体はちょうど操縦席の出入り口だ。よく目を凝らして見てみると出入り口の蓋の接合部が微妙に破断しかけているのが見えた。

「ナカジマー。ちょっとこっち手伝ってもらっていい?ポルシェがちょっとぐずっちゃって・・・。」
「・・・・うーん、分かったよ。今行くー。」

結局、そのⅣ号の破損は治す時間が作れずにそのまま放置した。

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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