冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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昨日の夜、今日の朝と評価を確認したらとんでもないことになっていて、思わず乾いた笑いが出たわんたんめんです。

まさかこのような異色極まりない作品にこれほどの評価をいただけるとは思ってなかったです。

これからもこの作品を読んでいただけると有り難い限りです^_^



第5話

「ふむ、集まってくれたのは22人か。」

 

杏が手を顎に当てながら吟味するように見つめる。

視線の先には戦車道を履修してくれた者達が全員倉庫のような場所に集められていた。

生徒会の小山と河島のほかに、おそらく一年生のグループに6人。そして明らかにバレーボールのユニホームを着ているのが4人。さらに歴史が好きなのかと思われる集団に4人。そして俺、沙織、華、西住、それと少し離れた場所にいる奴と杏で22人だ。

・・・俺がいうのもなんだが、大丈夫か?このチーム。結成早々バラバラになりそうな気がするのだが・・・。

 

「まぁ、はじめはこれくらいのものだろう。」

「会長ー!!戦車道でいい成績残したらバレー部を復活させてくれるって約束、本当なんですよねーっ!!」

「ああ、勿論だとも。」

 

杏の奴、また餌で履修者を釣ったな・・・。思わず眉間に手をあててしまった。

だが、廃校がかかっている以上、奴の言う通り手段を選んでいる訳にはいかない。

まず、目前の問題としてーー

 

「会長。根本的な問題なのだが、戦車はあるのか?そもそも戦車がなければどうにもならないぞ。」

 

一応、公然の前だから杏のことは当面、会長呼びだ。

杏はふっ、と軽く笑みを浮かべると背後にあった倉庫の鉄製の巨大な扉が開かれる。

そこにはオンボロな戦車、見た限りだと動きはするようだが、外装が汚れている戦車が一両ポツンとあるだけだった。

西住がその戦車の近くに近づき、確認するように手を置く。

周囲からはあまりに汚れていたからか動くのかどうかの声が飛んでくる。

 

「うん。転輪も大丈夫だし。いける。」

 

西住が確認し終えたのか、こちらに笑顔を向ける。周囲では感嘆の声が響いていたが、俺は再度根本的なことを杏に聞いた。

 

「・・・・一両しかないのか?他はどこにあるんだ?」

 

俺がそう聞くと杏は視線を逸らして、顔が見えないようにそっぽを向いた。

・・・・まさかとは思うが。

 

「これしかなかったのか?」

「・・・・すまん。」

 

その一言で十分に察してしまった。この倉庫には稼働できる戦車はこれしかないのだ。

一機だけでは天地がひっくり返っても全国大会を優勝するのは無理だ。

どうしたものかと思っているとーー

 

「だったら探してみませんか?」

「西住、戦車はそこら辺に落ちているものじゃないんだぞ・・・。」

 

西住の言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまった。一応、大洗も20年程前までは戦車道をやっていたと杏から聞いてはいたが、そう簡単に見つかるはずはーー

 

 

 

 

 

・・・・あった。

 

結論から言えば学園艦中をくまなく捜索した結果、なんとか倉庫にあったⅣ号戦車(西住曰く)の他に38(t)、Ⅲ号突撃砲、八九式、M3、三式の合計5両を見つけることができた。できたのはいいんだが、それぞれ見つけた場所がまた奇抜なものでな・・。

 

「森や洞窟はともかく、なぜ池の底と沼地、ましてやウサギ小屋にあるんだ?」

「・・・私に聞かんでほしい。私とてこの大洗の全景を把握しているわけではないのだ。」

 

杏もこの結果、というか過程には困惑気味のようだった。

特にM3の見つかったウサギ小屋だ。そこにウサギ小屋を建てた奴もそれが戦車だと気づかなかったのか?というか、探した一年生チームもそうだな。よくそのようなところを探そうと思ったな。普通は探さないだろうそんなところ。

 

「あはは・・・・。とりあえず全部揃って汚れたりしているので、ひとまず洗車しましようか。」

 

西住が苦笑いを浮かべながら掃除用具を片手に掃除をするように促す。

麻子も制服の袖を捲り、掃除に取り掛かった。その際に西住達が制服を脱いで、ジャージに着替えてたが、彼女たちの柔肌を見て何にも思わなかった自分に対し、自身が年を取っていることを自覚する。

アムロ・レイ、もとい冷泉麻子。精神年齢だけを言えば既に45歳という世間一般に言えばおっさんである。

 

(・・・すっかり老けたな・・・。俺も。)

 

戦車は結局、縁を理由にしてⅣ号戦車となった。残念ながら残ってしまった三式は倉庫行きだ。そのうち乗り手が現れるといいが。

今日のところは戦車のメンテナンスだけで終わってしまった。

そういった機械に触ること自体が久しぶりだったから中々疲れた。

 

次の日、眠気に苛まれながら戦車のおいてある倉庫に向かうとちょうど飛行機のようなエンジン音が聞こえてきた。

 

音源の思われる方向を向くとそこにはこちらに向かって飛んでくる輸送機が見えた。その輸送機は後部ハッチを開くと中から一両の戦車を空中から降ろし、飛び去っていった。飛び去っていくのは別として、俺の視線が釘付けになったのは、その戦車が降りたあとであった。その戦車をグランドの砂を巻き上げながら進んでいく。

ブレーキは掛けているようだが最初の空中降下の勢いが大きすぎたのか、止まりきれずに一台の高級車をスクラップにしてしまった。

俺の記憶が正しければ、あれは理事長の高級車だった気がするのだが。

西住達もあまりの出来事に言葉を失っている。

杏に至っては無表情だ。

ただ、なんとなくだが、奴はなにか企んでいることは察せた。まぁ、この状況からやることと言ったらーー

 

「その、真面目にごめんなさい。」

 

杏がやったことは至極単純だ。こちらに頭が上がらないようにした。

理事長の高級車をスクラップにした10式戦車の車長、蝶野亜美はどうやらカッコいいところを見せたかったらしい。その結果があれではなぁ・・・。

いくらなんでも看過できる範疇を超えている。何しろ、自衛隊隊員が民間人の所有物を壊しているのだからな。

普通であれば器物損壊とかの罪に問えるのだろうが、杏はそうはせずに示談に応じることによって向こうがこちらに頭が上がらないようにした。

なぜそうしたのかは奴のみぞ知るところだがな。

 

「そもそも、なぜ彼女はこの大洗に?」

「理事長が教官として呼んでくれたらしい。」

「・・・それをお前はよく脅せたな。」

「私はただ事実を述べただけだ。あとは向こうが勝手にやったことだ。」

「お前という奴は・・・。」

 

腰に手を当てながら、ため息をついていると蝶野亜美の視線が西住に向けられていることに気づく。

 

「あら、あなた・・・西住流の・・・?」

 

そこまで言いかけたところで俺は西住と彼女の間にかばうように割り込んだ。

西住の目が不安気なものに変わったからだ。

 

「教官、今日の訓練はなにをするんだ?」

 

割り込んだ俺の目を見て察してくれたのか彼女は少しオーバーなリアクションを取りながら今回の訓練の内容を教えてくれた。

 

「バトルロワイヤル・・・。いきなり実戦か・・・。」

 

俺は悩まし気な顔をしていた。教官はいきなり実戦を行う旨を伝えてきた。

まぁ、全国大会まで期間がないし、もはや習うより慣れろな状態なのは否めない。

 

「あ、あの、冷泉さん。」

「なんだ?どうかしたか?」

 

Ⅳ号に乗り込みながら西住が沙織や華に聞こえない程の声量で話しかけてくる。

俺は振り向きながら彼女に声を返す。

 

「その、さっきは・・・ありがとう・・・。」

 

おそらく先ほどかばってくれたことを言っているのだろう。

俺としてはさほど大したことはしてないのだがな。

 

「なに、気にすることはない。人には何かしら言われたくないこと、聞かれたくないことの一つや二つはある。私は君のそれをある程度察しているからやっただけだ。」

 

そういいながら俺は無意識に彼女の頭の上に手を置いていた。なんとなく西住に小動物的なナニかを感じたからだろうか。

突然の行動だったからか、西住も反応出来ずに顔を赤くしている。

 

「・・・・すまない。無意識だった。」

「えっ!?あ、ああいや、その・・き、気にしないでください!」

「麻子ー?西住さーん?何やってるのー。早くー。」

 

Ⅳ号の中から沙織の呼ぶ声がする。俺は手早く戦車の中に駆け込んだ。

西住は数秒遅れてやってきたが、戦車の入り口のキューポラを閉めた際に頭をぶつけたりしていた。

 

「・・・大丈夫か?」

「だ、大丈夫・・です・・!!」

 

心配する声をかけたがそれは無用だったらしい。

ちなみに誰がどこに座るかのことは戦車に乗る前になぜか沙織が持っていたくじで決めた。おそらくある程度、事を見越して作っていたのだろう。

くじの結果、沙織が車長、西住が装填手、華が操縦手、そして、茶髪のボブカットが印象的な少女、秋山優花里が砲手、そして、俺、冷泉麻子が通信手だ。

・・・俺個人の印象としては沙織が通信手の方が適任だとおもったが、くじで決まってしまった事だから割り切ることにした。

というか、このバトルロワイヤル、通信手がいる意味はあるのか・・・?

そう思ったが、教官がバトルロワイヤル開始の合図を挙げる。

 

(仕方がない。やれることをやるだけだ。)

 

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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