冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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はい、ようやくビデオ屋で最終章1話をレンタルしてきたので初投稿です


最終章 第二話

俺が名乗った瞬間にグラウンドに響き渡ったみほたちの声に思わず耳を塞いでしまうが、無理もないと思う。

何せ四十人近くの声が重なるのだから、その揃った声の大きさは自然とかなりなものになる。

 

「な、何もそこまで驚くことでもないだろう?少なくとも君たちと初対面の筈だが…………。」

 

そんなことを言っているが、もちろんブラフだ。本当はニュータイプの直感でそこで寝ぼける奴が俺と同じ冷泉麻子であることはわかっていた。

ただ、そのことをこちら側から言うより向こう側からそのような雰囲気を出してもらう。

 

「え、ええっ!?いや、麻子って…………!?」

「……………うるさいぞ沙織………一体なんなんだ…………フゥア………。」

 

向こうの沙織がさながらドッペルゲンガーでも見てしまったかのような様子で俺と隣で大あくびをしている少女の間を行ったり来たりしていた。

 

「…………そこの君、何故私と彼女の間を行ったり来たりする?」

「だ、だって………麻子はここにいるし………!!ちょっと、麻子!!お姉さんとかいたのっ!?」

「なんなんだ、一体。いるわけがないだろう。」

「じゃあ貴方は誰ですかっ!?」

 

うつらうつらとしながらも姉などいないと言った彼女の言葉を聞いた向こうの沙織は俺を指さしながらこちらの素性を尋ねてくる。

そのことに俺は困った様子で髪をかき分けるしかなかった。

 

「誰と言われてもな…………私は冷泉麻子だとしか言いようがないのだが…………。そこの君も冷泉麻子なのか?」

「………………乗ってる戦車は違うがな。」

「……………それもそうか。」

 

眠たそうにしながら答える彼女に俺は苦笑いを浮かべていた。どうやら向こうの麻子は低血圧がまだ続いているようだ。

 

「んーまぁ、込み入った話は中でしない?こんな雪が降る中で質問責めは嫌でしょ?その戦車の中にいる人たちもさ。」

 

そんな時向こうの生徒会長であろう角谷杏からそんな提案が挙げられる。まぁ、どうやら今の季節は冬。雪がしんしんと降ってきている寒さでは流石に長話は勘弁したかった。

 

「それもそうだな。ぜひ君の提案に乗らせてもらおう。」

「………………マジで?」

 

俺が彼女の提案を承諾するより先にシャアがコメットの中から顔を覗かせる。突然自分とよく似た人間が現れたことに向こうの角谷も表情をひくつかせていた。

 

「か、会長が二人…………!?」

「でも、向こうの杏の方が身長高いよ?」

 

向こうの河嶋と小山がシャアを見かけるや否やそんなことを口走る。もっとも河嶋に至っては完全に同一人物の存在がコメットの中にいるのだが…………。

 

「あの…………一応お名前をお聞きしてもいいですか?」

「…………そうだな、名乗るにはこちらからが礼儀というものか。大洗女子学園前生徒会長、角谷杏だ。」

「うぇーっ!?麻子が会長とおんなじ戦車に乗ってるってどういうことー!?」

 

みほからの言葉にシャアがそう答えると、沙織が訳がわからないというように顔を青ざめながらありえないというような様子で喚いていた。

 

「…………あれ?失礼ですが向こうの会長。そのコメットは一体何人で乗っているのですか?五人ほどは必要な筈ですが………。」

「私は車長兼砲手、麻子は操縦と通信だ。」

「あれ?じゃあ装填は…………?」

 

秋山の質問にシャアがそう答えると再度秋山が疑問気に首を傾げながら装填手の存在を確認する。

そのことに俺は苦い顔をしながら隣に立っているシャアに視線を向ける。

 

「……………見せるのか?」

「さっきも言ったろう、隠してもしょうがないと。」

 

シャアの全くもってその通りの言葉に俺は観念したようにため息を一つついた。

その間にシャアがコメットのキューポラに顔を突っ込み、何かやりとりのようなものを行うと再びコメットから降り立った。

そして、コメットの中から、まぁ…………河嶋が姿を現した。

 

「えっと……………コメットの装填手、もとい大洗女子学園前広報の、河嶋桃だ。とは言っても向こうにも私がいるようでみんなに混乱を与えるだけだと思うが…………。」

 

河嶋が気が引けてるようにおずおずとコメットから降りる。こちらの河嶋と向こうの河嶋。二人の河嶋が相対したことにみほたちは呆けた様子でこちらの河嶋に視線を向けていた。

 

「河嶋先輩だ…………。」

「すっごく見慣れた河嶋さんだ…………。」

 

声の性質的にウサギさんチームの誰かの声だろう。二人ほどから声が上がるとその言葉に同調するように頷く様が各所に見られた。

 

「お、おい!!見慣れた河嶋さんとはどういうことだー!!!」

「まぁ…………無理もない反応だな…………。お二人と比べて、一番代わり映えしないからな………。」

 

微妙な反応のされ方に向こうの河嶋は癇癪を起こし、怒りの面相を浮かべているのに対し、こっちの河嶋は納得しているのか、わずかに苦笑いを浮かべていた。

 

「……………あっちの河嶋さん、意外と違うところがありそう………。」

 

そんなことを言っている向こうの梓の姿が垣間見えたのはまぁ、よしとしよう。

その後、俺たち三人は向こうの角谷杏の誘いで生徒会室に招かれた。

そこでそれなりの説明を行うところなのだが…………その話を聞くメンツが旧生徒会組の三人とあんこうチームの計八人だった。

 

「……………どこから話した方がいいのか…………。どうする?」

 

ソファに腰掛けさせてもらった俺はまずどこから話した方がよいのか、その判断をシャアに押し付ける。

シャアは一瞬こちらに訴えるような視線を向けるが、それはすぐに考えているようなものに変わる。

 

「…………まず、私たちは君たちがいるところとは違う時間軸からやってきた、と思っている。」

「…………はい?」

 

シャアの言葉にその場にいる全員の頭に疑問符が浮かび上がる。まぁ、それはそうだろうな。突然時間軸だのどうのと言われてもわからんだろう。

 

「…………要は私たちはパラレルワールドからやってきた、ということだ。ゲームか何かで見たことはないか?君たちが歩んできた歴史とはまた違う歴史を歩んでいる世界、例えば、君たちのところでは起きたことが私たちの世界では起きなかった。もう一つの現実、のようなものだ。」

「う、うーん?あまりよくわからない…………。」

「それはそうだろうな。我々とてそのパラレルワールドの原理を理解しているわけではないからな。」

 

悩ましげな表情を浮かべる沙織に向けてシャアがそういうと一度話しを打ち切った。

 

「つまり、三人はこことは違う世界の大洗女子学園の生徒ってこと?」

 

向こうの角谷杏の言葉に、俺たち三人は無言で頷く。信じてもらえるかどうかはわからないがな。

 

「…………とりあえず、その仮定で話を進めようか。考えてもどうしようもないことだしね。」

「…………感謝する。ではまずはこちらの歴史との相違を埋めておこうか。まず今の季節は冬のようだが、全国大会は無事優勝したという認識でいいのかな?」

 

向こうの角谷の話を進めるという言葉にシャアが軽く頭を下げると、その歴史の違いをはっきりさせるためにこれまで俺たちの方で起こったことに関しての質問をする。

 

「それに関してはもちろんだよ。そっちの大洗でもあったんだよね?その口ぶりだと。」

「ああ。全く、突然廃校だの連絡を受けた時には耳を疑った。生徒でさえ、7000人を超えるにもかかわらず、ろくな代替え案のプランすら無いなど、極めてナンセンスだったからな。」

「あー………それはよく分かる。私も最初に聞かされた時は耳を疑ったよー。」

 

シャアの言葉に向こうの角谷がウンウンと頷く。どうやら意気投合しているようだ。俺個人としても廃校には良い感情を抱かなかったからな。

 

「その後は大学選抜との試合だったな。役人共にはかなり振り回されたが、こちらはではどうなのだ?カール自走臼砲とかを出されたか?」

「自走臼砲に関しては出されましたね。私たちは継続高校のBT-42、アンツィオのカルロ・ヴェローチェ、そしてカメさんチームのヘッツァーとアヒルさんチームの八九式をどんぐり小隊として編成することで撃破しました。」

「すごいな………その編成で撃破したのか。それはそれとしてアンツィオはカルロ・ヴェローチェだったのか?こちらは普通にP40できてくれたのだが………。」

「なんだか………資金不足だったらしいですよ?」

 

みほの言葉にこちらとの差異があったため、それを聞いてみると、秋山からアンツィオが当時資金難だったことが告げられる。

 

「……………そういえば、全国大会の決勝の前、アンチョビに電話をかけていなかったか?」

「…………そういえばそうだな。全国大会の前に各校の隊長が挨拶に来ていのだが、アンチョビの姿だけ見えなかったから彼女にかけたのだが…………前日の夜から会場の近くでドンチャン騒ぎをやっていたからかけた時には寝起きのような状態だったな。」

「ああ、決勝でそれなりに稼いだと言っていたな。彼女ら。」

 

シャアとそんなことを話しているとふと口元を手で覆っている沙織の姿があった。

 

 

「嘘………向こうの麻子、こっちより社交性が高い………!?それに低血圧も無さそうだし………完全に上位互換じゃない………!!」

「失礼だな、沙織。」

 

沙織がそんなことを言っていることに向こうの冷泉は不服というようにじとっとした目線を沙織に向けていた。

 

「はは…………少し前までは私も低血圧に悩まされていたよ。遅刻して、そど子に怒られてしまうのも珍しくなかった。」

「へぇー・・・向こうの麻子も遅刻してたんだー・・・やっぱり200回くらいはしていたの?」

「やっぱりとはなんだやっぱりとは、というより流石に200回は盛りすぎではないのか?しかし、恥ずかしながら100回は超えていたのは事実だな。」

『完全に上位互換じゃないですか!!!』

 

少しばかりの気恥ずかしさを感じながら遅刻回数が100回は超えていたことを伝えると向こうの冷泉を除いたあんこうチームの四人が机から身を乗り出すほど驚いた様子を露わにしていた。

 

「ほら麻子!!向こうの麻子だってちゃんと起きれるようになってるんだから貴方ももう少し頑張りなよ!!」

「…………できないものはできない。朝は辛すぎるんだ…………。」

「………あー、とだな。私にはその低血圧を克服しようとする気概があったからいいのだが、彼女の言う通り、しばらく朝は辛かった。沙織に起こされるのもたびたびあった。だから、できないことを無理強いするのはあまり褒められたことではないと思うが。」

「えー……………。」

 

俺が二人の仲介に入ると沙織がすごく残念そうな表情を浮かべる。

 

「…………して、これから我々がどうするか、だが。はっきり帰る目処が全く立つ見通しがないのが今のところの現状だ。」

「んー、それだったら、しばらくウチで戦車道やって行かない?」

「この大洗でもか………?」

 

これからのことを考えようとしたところで向こうの角谷からそんな提案が挙げられる。

 

「かわりに3人の身分はこっちで保証する。対価としては十分だと思うけど………どう思うかな?現生徒会長さん?」

「…………えっと、そちらの麻子さんたちも同じように戦車道をやっておられるのですよね?戦車に乗って現れたのですし………。」

「まぁそれはそうなのだが………。いつ消えるかわからない我々をチームに加えるのかね?」

 

角谷と華の言葉にシャアがそう確認すると、二人はーー特に華がどこか訳ありというような顔を浮かべていた。

 

「何か事情がありそうだな。」

 

そう俺が華に聞いてみると視線を右往左往させ、何やら話していいのか悩んでいるかなような深刻な様子を出し始める。

 

「……………今は一輌でも多くの戦車が必要なんです。」

「ん?廃校問題は脱したはずではないのか?」

「実は、私たちはこの大会に出場する予定なんです。」

 

華の言葉に首を傾げているとみほが一枚のポスターを見せてくれる。そこには『無限軌道杯』の文字がデカデカと表情されていた。

 

「無限軌道杯…………?」

「確か、長年開催が中止されていた大会ではなかったか?」

「はい。そうなんですけど、戦車道のプロリーグの開催などを記念して今回開催されることになったんです。」

 

シャアの説明にみほが補足を入れるも、俺は華がそこまで深刻そうな表情を浮かべるのに理由がわからずじまいになっていた。

 

「…………なんだかあまり話が見えてこないな………先ほどの華の深刻な表情を浮かべる理由とかな。」

 

「…………わかったぞー。これ、私も通っていたかもしれない道だなこれは。」

 

ふと隣に座っていたこちらの河嶋がそんなことを口にすると視線をとある人間に向ける。

その視線の先を追っていくと、すごく張り詰めた表情をしている向こうの河嶋の姿があった。

 

「…………生憎だが、自分の知力が劣っているのはわかっている。多分、どこの大学もかなりの力の入れ方で勉学に励まなければ進学することすら難しいだろう。」

 

「故にこのままでは進学も危ぶまれるため、この大会で隊長をして成績を上げ、AO入試で合格を勝ち取る、といったところか?」

 

「うわーお。向こうのかーしまは中々冴えてるじゃないのさ。」

「色々と隔ててはいますが、自分のことですから。」

 

手にしている干し芋を頬張りながら驚いた様子でこちらの河嶋にそういう角谷にわずかに表情を緩めることで返した。

そんな二人のやりとりを視界に収めながら俺とシャアは向こうの河嶋に視線を向けていた。

等の本人は額から脂汗を流しまくっており、そのままの様子で放置したらそのうち脱水症状でも出てくるんじゃないのかと言うようなレベルだった。

 

「まぁ、ぶっちゃけるとそうなんだよね。この無限軌道杯に私たち大洗女子学園はかーしまのために出るようなものだ。もちろん、それはみんなの総意でもある。みんなかーしまの進学のためにすごくやる気を出してくれてる。」

「そうなのか…………。」

「そこで今は少しでも戦車の頭数を揃えたいんですけど…………そのお察ししてもらえると、ありがたいです。」

「まぁ、コメットはイギリスでも結構最近の方に入る戦車だからな…………。さっき戦車を見させてもらった時もこちらとさほど違いはなかったからな。」

「そうなんですよ!!性能も申し分ないので、是非コメットが戦列に加わって頂ければ、戦力アップも間違いなしです!!」

 

みほからのお願いに俺が苦笑いを浮かべていると秋山が瞳の瞳孔をしいたけみたいに形を変えながら表情をキラキラと輝かせて詰め寄ってくる様子が視界に入る。

 

「…………私個人としては手を貸したいな。」

 

意外にも一番に手伝う意志を示したのは河嶋だった。そのことにシャアも同じく意外に思っているのか、彼女に驚いたように目を見開いていた。

 

「元の世界とは違うとはいえ、一応自分が迷惑かけているのはみんなに申し訳ないからな。」

「桃ちゃん…………。」

「あ、こっちでもその呼び方は変わらないんだ柚ちゃん…………。」

 

小山がぽろっとこぼした言葉に苦笑いを禁じ得ない河嶋。彼女がそういう意志を示したのであれば、俺たちも腰を上げるしかあるまい。

 

「桃、君がそういうのであれば、私たち二人も手を貸すとしよう。お前もそれでいいな?」

「…………ああ。どのみち向こうから既に条件は提示されていたから承諾するつもりではいたがな。」

「お二人とも、巻き込んでしまってすまない。」

「ここまでくれば一蓮托生とみるしかあるまい。」

 

河嶋の謝罪にシャアは気にしていない様子で笑みを浮かべることでそれを示した。

そしてシャアは角谷の向こうのみほに視線を移すとーーーー

 

 

「我々、コメット搭乗員総勢3名だが、そちらの指揮下に加わることを宣言させてもらう。短い間になって欲しいところだが、その間よろしく頼む。」

「…………わかりました。こちらからも改めてお礼を言わせてもらいます。」

「西住、いいアドバイスをやる。困ったらこの二人を頼れ。どんな状況でもとりあえずなんとかしてくれる。」

「河嶋、それは言い過ぎではないのか?」

「操縦手でありながら撃破カウントが存在するお前が言えることか!!これでも足りないくらいだ!!」

 

河嶋の言葉に先ほどから船を漕いでいる向こうの冷泉以外の一同はその言葉にピンとこなかったようだ。

 

まぁ、戦車で回転蹴りみたいなのをしたくらいだから別に言うことでもないか。




とりあえず、どこまで書いていいかわからないので、2話に差し掛からない程度まで進めていきたいと思います_:(´ཀ`」 ∠):

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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