冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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二ヶ月ぶりかー………………お待たせ、待った?





最終章 第5話

『大洗のヨハネスブルク』こと大洗女子学園艦の下層から新たに加わった船舶科の五人、西住命名『サメさんチーム』を迎え入れた戦車道チームはそこから練習を重ねるなどをして、時を過ごして行った。

 

「も、桃さんが二人っ!?」

「さ、流石に呑み過ぎたんかね…………桃さんが二人に見える。」

 

 

カワカミとラムが生徒会室にやってくるや否や、目に飛び込んできた二人の河嶋の姿に面くらうなどという珍事はあったが。

 

「あー…………やっぱりお前たちか。」

「…………雰囲気は違うけど、ほっとんどあたしたちが知っている河嶋さんだねぇ…………。」

 

やってきた五人に俺たちが知っている河嶋こと桃ちゃんが想像通りというような表情を浮かべていると、お銀は訝し気な表情を見せる。

 

「ま、お銀。お前がそう疑いの目を持っている通り、私はお前たちの知る河嶋桃ではない。お前たちを退学の危機から救ってくれた『河嶋桃』はそっちだ。」

 

そのお銀の目に、仕方がないと言うような表情を見せ、ソファに座り込んでいる向こう側の河嶋を指差した。

 

「つまり…………どういうことなんですか?」

「君たちが知る河嶋桃とよく似た人間がいると思っておけばいい。」

 

困惑気味に二人の河嶋を見つめているフリントに、シャアが気にするなと気遣うような声をかけた。

 

 

『大洗女子学園、前へ』

 

まぁ、そんなこんながあったが、俺たちは今、向こうの河嶋のために出る大会の無限軌道杯、そのトーナメントの抽選会場に足を運んでいた。

会場入りする時に辺りを見回したが、サンダースのケイや聖グロのダージリン、そしてプラウダのカチューシャとノンナを始めとした強豪はもちろんのこと、アンチョビのアンツィオの姿を見かけることができた。

黒森峰の集団も見つけはしたのだが、見知った顔は逸見エリカしかおらず、西住姉であるまほの姿を見つけることは出来なかった。

 

「西住、つかぬことを聞くのだが、君の姉のまほはどうしているんだ?この会場に来ていないのか、姿が見当たらないのだが。」

「え、お姉ちゃんですか?確か、留学のためにドイツへ向かったって言ってましたよ。」

「…………ドイツ、か。そういえばそんなことを言っていた気がするな。」

「あれ?アムロさん………?」

 

実はというと俺自身まほがドイツへ留学したこと自体は耳にはしていた。こちらでも同じように向かったのだと納得した表情を浮かべていると、隣の西住が怪訝な表情を見せていた。

なぜ知っている、というような顔だな。

 

「向こうの………私たちが元いた世界の話になるのだが、実は私宛てに個人から直々に手紙が届いていてな。」

「手紙ですか?アムロさんに?」

「その内容が一緒にドイツへ留学してみないかという誘いの手紙でな。」

「え、ええっ!?」

 

俺がまほからドイツへ留学してみないかと言う誘いを受けたということに西住が心底から驚いたような表情を見せていた。

 

「まぁ、その誘いは断らせてもらったが。元はといえば遅刻日数を減らしてもらうために始めた戦車道だ。そこに彼女のように戦車に対する熱意のようなものはなかった。そんな私が行ったところで彼女の邪魔になるだけだ。」

「そう、なんですか…………。」

 

(向こうのお姉ちゃんがドイツに留学を誘うほどの実力を持っているアムロさん…………一体どれくらい凄い人なんだろう。練習中も私たちに合わせてくれているみたいで全然余力とかあったみたいだし。)

(……………?)

 

西住が何か考えているような表情に目線がいったが、その直後に壇上に上がり、抽選を行った河嶋の結果がアナウンスされ、自然と目線が壇上に大きく張り出されたトーナメント表に集中する。

運営の人間が大洗女子学園の名前が入ったプレートを河嶋が選んだ紙に書かれた番号と思われる場所にはめ込んだ。まだ抽選も序盤だったため、空欄になっている箇所も多かったが、俺たちがあてがわれた場所は対戦相手が既に先に決まっていたようだった。

 

その対戦校は『BC自由学園』という名前だった。

 

「秋山。対戦校がどういう学校なのか、わかるか?」

「BC自由学園ですか?初戦敗退がほとんどなので、あまり有力なデータはないんですけどぉ…………。」

 

いつもの癖のようなもので秋山にBC自由学園についての概要を尋ねると、あまりいい情報はないのか、渋い顔を浮かべる。それでも構わないからどういう校風なのかを尋ねようとした時ーーーーーーー

 

「お前のせいで優勝校と当たってしまったではないか!!」

「何をー!?クジを引いたマリー様にケチをつけるか、貴様!!」

 

座っていた座席より下の方から何やら言い争いのような怒声が響いてくる。思わず説明してくれようとした秋山からそちらに意識を向けると、そこには二人組の女生徒が会場の最前列の席で取っ組み合いをしている光景が映り込んできた。隊長と思われる人物も二人の諍いをまるで止めようとせず、ケーキを頬張っている始末だ。

普通は隊長として二人を止めるべきだと思うが………。何か意味でもあるのか?

 

「……………な、なんなんだ彼女ら?」

「えーと…………非常に言いづらいんですけど、あの青を基調とした制服を着ている人達が一回戦の相手のBC自由学園ですぅ…………。」

 

開いた口が塞がらないといった様子を見せていると、秋山から取っ組み合いをしている彼女らこそ、一回戦の相手である学校だと告げられ、さらに開いた口が広がってしまう。

 

「いかにも派閥か何かで争っていますというような生徒達だな………。」

「元々、BC自由学園はお嬢様風の一貫校のBC学園と普通の進学高校の自由学園が統廃合された学校なんです。そのため中等部から上がってきた、いわゆるエスカレーター組と受験で入学してきた受験組の間で、アムロさんがおっしゃっていた通り、派閥争いが頻繁に起こっているようですね。」

 

ため息に似た口ぶりで肩を竦めていると、そこからの秋山の解説にさらに深いため息をついた。

 

「あんなにゴタゴタだと、もしかしたら不戦勝とかないかな?」

「流石にそれは夢を見過ぎだろ…………。」

 

沙織がそう言いながら朗らかな表情を見せるも、冷泉が現実に引き戻す発言をぶつけ、すぐに沙織のその表情は崩れ去った。

まぁ、正直に言えば俺個人としても彼女の意見に賛成だ。いくら死人のでない戦車道とはいえ、やっていることは戦闘行為に変わりはない。たかを括っていると痛い目を見る羽目になるからな。

 

「そういえば秋山。君はあのBC自由学園にも潜入偵察に出るのか?」

「もちろんですよ。それが私の役目でもありますので!!まぁ、勝手に始めたことなんですけどね。ですが、その様子だと向こうの私もあまり変わりないみたいですね。」

 

俺がBC自由学園への潜入について尋ねると気恥ずかしそうな様子を見せながら後頭部の髪を手で摩った。

 

「そうだな。そのおかげで私もいつも通りの感覚で接することができるのだが………少し言っておきたいことがあってな。」

「言っておきたいこと、ですか?」

 

秋山がキョトンと首をかしげる様子を見せると、俺は一度頷き、そこから偵察を行う時に変装をするように忠告をしようとする。

 

「アムロ。彼女には彼女のやり方がある。あまりヅケヅケと入ろうとするのは頂けんよ。」

「………………どういうことだ?」

 

そうしようとしたタイミングでシャアから静止の声がかけられた。思わずシャアに目線を向けるが、その時のシャアの表情は軽く笑みを浮かべており、何か考えがありそうな雰囲気を出していた。

 

「……………何か考えでもあるのか?」

「いや、どちらかといえば少々気になったと言った方がいい。秋山君、偵察に関してはいつも通りにやってくるといい。」

「なんだかわかりませんが……………ひとまず、了解しました!!」

 

 

 

 

 

 

「シャア、なぜ秋山に忠告するのを止めたんだ?お前も懸念していたことではなかったんじゃないのか?」

「もちろんだとも。だが、あのBC自由学園の隊長と思われる人物。彼女からは違和感を覚えてな。」

 

抽選会が終わった後、俺とシャアは少しだけ西住達から離れて、秋山への忠告を止めたことに関して問い詰めた。

シャアが感じた違和感、か。かくいう俺も隊長である彼女には違和感を感じているが……………。

 

「とはいえ、それを確信に持っていくには少しばかり材料が足らんのでな。秋山君からの偵察ビデオが届けば、彼女がただの役目を放棄した愚人かどうかわかるだろう。」

「………………お前がそこまで言うなら、俺からも特に言及はしないことにする。」

 

多少、無理矢理が否めなかったが、なんとか押し留めてシャアの言う通り、秋山のビデオをそのまま待つことにした。

 

 

 

そしてしばらく時間が過ぎると、当の秋山が偵察に向かっていたBC自由学園から帰投し、生徒会室で彼女が編集したビデオを見ることになった。

俺とシャアも頼み込んでその鑑賞会に参加させてもらえることなった。

 

そしてその秋山が偵察してきた映像を編集したビデオを見ると、そこには秋山が言っていた通り、BC自由学園に存在する派閥同士の対立の図式がこれでもかと言うほど収められていた。人々が住む住宅街の時点でくっきりと区画が分けられ、元自由学園の生徒と思われる集団が料理に関しての不満でデモを起こしている中、貴族のような成り立ちのBC学園の生徒はそれを冷ややかな目線を送っていた。それは様々な場所で見られ、ついには戦車道チームに置いてもその図式が丸々と当てはめられるようなイザコザが写っていた。

ただ、それを見ていた俺は妙な気分になったが。いや、この際()()()()()()といった方が正しいか。

 

「……………お前が言っていたのはこういうことか。」

「フッ、やはり気づいたか。それでこそだよ。」

 

シャアの得意気な表情から出る褒め言葉に全く嬉しいといった感情が湧かない俺は、ビデオを見て、それについての感想を述べている西住達を見つめた。

椅子が足らなくて、遠目から見つめる形となったその鑑賞会だが、西住達は案の定、BC自由学園がゴタゴタで隊列を組むどころの話ではないというような意見を交わしていた。その中で西住はわずかに微妙な表情を見せていたが、周りの意見に押され、その表情を引っ込めてしまった。

口出しした方がいいのだろうが、この時間軸の人間ではない俺たちが首を出していいのかと悩んでしまう。

 

「ところで、そこのお二人さんはどう?このビデオを見させて欲しいって言っていたから何か気になるところでもあったんじゃないの?」

 

そこに角谷から俺たちに向けてアプローチがかけられた。思ってもいなかった言葉に俺は隣にいるシャアに目線を向けた。

 

「……………一応、我々二人は形的には部外者だ。それを承知の上でかな?」

「いいのいいの、そんなの気にしなくて。ウチがそんなんじゃないの、そっちだってわかっているでしょ?」

 

シャアの遠慮がちな言葉につづけざまに角谷が返すと、シャアは西住達を見渡すように視線を移した。

 

「では、我々二人が感じた意見を述べさせてもらおうか。秋山君、見事な偵察ぶりだ。君の編集技術もあいまって、さながら()()でも見ているかのような気分だった。」

「ほ、本当ですか!?そうやって面と向かって褒められると照れますよー♪」

 

シャアの言葉に秋山は嬉しいそうに表情を綻ばせながらも、恥ずかしいのか彼女のトレードマークな癖っ毛を掻き分ける。そのやりとりに思わず俺はため息をついた。

 

「おい、御託のような皮肉など言ってないでさっさと中身を話したらどうだ。」

「ひ、皮肉ですかぁ!?」

 

俺の言葉に今度は秋山は驚嘆と言った顔を浮かべながら俺たち二人を見つめる。

 

「フッ…………訂正しよう、秋山君。君が編集した映像は確かに映画と遜色はない出来栄えだ。もっとも()()()()()もいいところではあったがな。」

「や、役者…………ですか?あまり発言の真意が分かりかねるのですが………。」

 

秋山はシャアの言葉があまり理解できなかったのか、訝し気な表情をしながら首を傾げた。

 

「い、一体どういうことなんd……………ですか!?」

 

秋山はシャアに言葉の真意を問い詰めるようにソファから勢いよく立ち上がり、タメ口になりかけた敬語を捲し立てる。沙織や華といった他の面々も秋山と似た、首をかしげるなどの反応を見せ、疑問気にしていた。

 

「も、もしかして、やらせ、ですかっ!?」

「あー……………やっぱりそう考えちゃう?」

「や、やらせ!?つまり、演技をしていたということですか!?BC自由学園の人たちが!?」

「正確に言えば、戦車道の人員だけが、な。」

 

西住と角谷が驚きに満ち溢れたような表情を見せ、秋山は驚きのあまりかなり上ずった声を上げるが、そこは注釈のように俺が一言付け加えておいた。

 

「ど、どうしてBC自由学園の人たちがやらせなんかできるの!?あそこって仲が悪いんじゃなかったの!?」

「それは秋山さんが来たことがわかっていたからだろう。」

 

沙織が喚くが、隣にいた眠たそうな冷泉の声に呆けたような顔を向ける。

 

「…………私達大洗女子学園はこの前の大会で優勝した。優勝したということは今度は私達が他の学校からつきまとわれる立場になったわけだ。いくらか顔が割れていると考えるべきだった。それにも関わらず、変装も何もしていない秋山さんが対戦校に赴けば、大洗が偵察に来たことはバレバレ。後は偽装がし放題というわけだ。」

「つ、つまり、私は嘘の情報を掴まされて、まんまとそれを大っぴらにしていたと!?」

「言葉を選ばずに言うとそうなる。危ないところだったな。二人が気付かなければこのまま仲違いを起こしているという認識で試合に臨むところだった。」

「に、西住殿〜〜〜〜〜!!!!」

 

冷泉の指摘と言葉に秋山は精神的ダメージを許容できなくなり、男らしい雄叫びをあげながら西住に泣きついた。

 

「まぁ…………少なくとも最低限の連携は取れるという認識ではいた方が賢明だろうな。」

「とはいえ、全くの情報がない時点でよく気づけたな。仲違いしているという先入観もあって余程のことがないと気づかないと思うのだが、同じ名前を持った人間とは思えないな。」

 

若干紛糾してきた鑑賞会だったが、周りに聞こえるようにそう呟くと、冷泉から眠そうな目線で見つめられながらそんな言葉が投げかけられる。

 

「……………全く同じ人間など、いるはずがないだろう。違って当然だ。」

「じゃあ質問を代える。どういう生活をしていたらそんな大人びた性格になれるんだ。」

「君も似たようなものではないのか?」

「悪いが、私はどちらかと言えば無口なだけだ。」

 

そう言われてしまい、俺は少しばかり困ったように目線を逸らした。言ったところで、というのが正直なところだ。やれ戦争だ、軍人だの言ったとしても、あまり意味はないだろう。秋山あたりは食いつきそうだが。

 

「まぁ…………コイツと出会ったのがある種の運の尽きだったな。」

「おい、それは私のセリフでもあるのをゆめゆめ忘れないでもらおうか。」

 

シャアを指差しながらそういうとシャアがお返しと言わんばかりのプレッシャーを送りつけてきた。

まぁ、そんなこんなで鑑賞会の時間は流れていき、ひとまずBC自由学園に対してはそれなりの連携が取れるという認識で行く方針が定まった。

 

そして、試合当日。時間ギリギリになってサメさんチームがやってきて、ウサギさんチームの一年生と微笑ましい(?)やりとりがあったが、なんとかチーム内にはうまく入り込んでくれそうだ。

 

しかし、それよりも遅くやってきたのがBC自由学園チームだった。このまま本当に不戦勝になるかと思ったが、沙織から相手チームがやってきたことが告げられ、彼女の端末を覗かせてもらったら、試合の直前だと言うのに、車体をぶつけ合い、砲撃を交わしているBC自由学園の様子が映っていた。

 

予め、それなりの連携が取れる相手という認識をしてはいるとは言え、こうも同士討ち寸前の光景を見せられると、どうしても不安な気持ちになってくる。

それでもなんとか気を引き締め直し、俺たちはこの世界で初めての試合に臨む。

 

……………とはいえ、力加減はさせてもらうがな。




戦略的無双が終わったらならばー……………次は戦術的無双の始まりだーーーー!!

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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