冷泉麻子、行きまーす!!   作:わんたんめん

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第6話

「どどどどどうしよう!?ねぇ麻子ー!!」

「まずは落ち着け!!車長が慌てふためいてどうするんだ!!」

 

非常に不味い状況になった。バトルロワイヤルが始まって程なくして、バレー部の駆る八九式と鉢合わせた。そのあと、今度は歴女チームとも接敵してしまった。まぁ西住曰く、八九式の主砲ではⅣ号の装甲に大したダメージは与えられないとのことだったが、問題は歴女チームが乗っているⅢ号突撃砲、略してⅢ突だ。これはⅣ号の装甲にダメージが入るため、車長である沙織の指示に従ってとりあえず逃げることにした。

そこまではいい。向こうは両方初心者だから砲弾が当たることはそうそうないと考えている。

だが、こちらで問題が発生した。途中、吊り橋を渡っている最中、操縦手であった華が操縦ミスをし、吊り橋のワイヤーを傷つけた。橋が落ちることはなかったが、そこに付け込みⅢ突の主砲がⅣ号に命中、撃破判定は出なかったものの、衝撃で華が気絶してしまった。

 

「こうなったら、私が操縦をーー」

 

西住が代わりにと操縦桿に手を伸ばそうとするが、俺はその手を掴んだ。

 

「れ、冷泉さん?」

「君が装填手の持ち場を離れると攻撃が秋山に任せっきりになる。操縦は私がやるから、西住はそのまま装填手をしてくれ。」

「で、でも、冷泉さんは戦車の運転は・・?」

「沙織!!そこにマニュアルがあるな!!それをこちらに寄越してくれ!!」

「ま、麻子が運転するのっ!?そんな無茶な!!」

「やってみなければわからん!!」

「わ、分かったよー!!はい!!」

 

沙織からⅣ号のマニュアルを受け取ると迅速に気絶した華を抱え上げ、通信席に座らせる。

操縦席に座った俺は太ももの上でマニュアルを広げる。ペラペラとページをめくっていくと操縦のページに差し掛かった。

 

「これだな・・・!!」

 

俺はページを凝視する。よし、この程度であれば・・・。

 

「ガンダムよりは簡単なんだ・・・!!やってやるさ。」

「冷泉さん・・・?何か言いました?」

 

俺のつぶやきを西住が聞いていたのか心配そうな視線を向ける。

俺はそれに対し、悟られないように一応、サムズアップをしておく。

 

「Ⅳ号戦車、出るぞ!!準備はいいなっ!!」

 

俺の確認の声を西住達は大きく頷く。それを見た俺はまずⅣ号の体勢を整える。

ワイヤーを擦らないように姿勢を整え、Ⅳ号をまっすぐ正面に向かせる。

 

「おおっ!!流石学園首席!!」

 

沙織が流石といった表情で見つめる。そういうのは終わってからにしてほしい。

操縦席に座ったからか、俺のニュータイプとして感性が鋭くなる。

背後から感じる敵意、今のところはこちらの様子を伺っているようだが・・・。

 

「秋山、Ⅲ突に向けて主砲を回してくれ。」

「え?はい、分かりました。」

 

秋山が俺の言う通りに砲塔をⅢ突に回頭させる。このまま焦って先に撃ってくれるとありがたいのだが・・・。

 

「ほ、砲塔がこっちに向きかけているぜよっ!?」

「カエサル!!撃て!!」

「わ、分かった!!」

 

車長であるエルヴィンに急かされ、Ⅲ突の主砲を発射するカエサル。しかし、焦りからか照準がズレ、放たれた砲弾はⅣ号を通り過ぎる。

 

「今ですっ!!撃ってください!!」

「了解です!!」

 

西住の指示により秋山が放った砲弾は見事、Ⅲ突に命中し、白旗が上がる。

撃破したのだ。Ⅲ突を。

 

「Ⅲ突、撃破しましたっ!!」

「次は八九式を狙ってください!!」

 

秋山は西住に言われた通りに今度は砲塔を八九式に向ける。

八九式はⅢ突がやられたことに驚いて、こちらの状態を掴んでいないようだ。

西住の砲弾の手際も良く、ものの数秒で装填が完了してしまった。流石は経験者だな。無駄がない。前の学校では余程の練習をしてきたのだろう。

 

「やばっ!?前前!!」

「撃つ!?避けるっ!?」

「根性で避けろー!!」

 

八九式は回避行動を取っているが、やはりまだ慣れていないのか覚束ない様子だ。

その八九式に秋山は正確に砲弾を直撃させる。黒い煙をプスプスとあげた八九式から撃破を示す白旗が上がった。

 

「やったーっ!!二両撃破ーっ!!」

 

沙織が体を使って喜びを表現する。一応戦車の中は狭いのだから騒ぐのはやめた方がいいと思うのだがーー

 

ガンッ!!

 

・・・案の定手をぶつけたな・・・。自業自得だが、一応声をかけておくか。

 

「大丈夫か?」

「一つだけ忠告があるよ・・・。死ぬほど痛い・・・。」

 

ぶつけた手を抑え、涙目をしているが、冗談が言えるのであれば問題ないか。俺は少し気になったことがあるため戦車を前進させながら秋山に視線を移す。

 

「そういえば秋山、君は戦車道は初めてだったな?その割には当てられているが、独学か?」

 

そう言うと秋山は恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「そ、そうですね。実は昔から戦車に嵌っていまして・・・。その時に砲撃とかの知識を・・・。ただ、一度戦車の話題になってしまうと止まらなくなりますね。」

「・・・・乗った直後の豹変ぶりもそういうことか?」

 

実はこのバトルロワイヤルが始まった直後に突然秋山が人が変わったかのように

 

「ヒャッホーっ!!サイコウだぜー!!!」

 

と戦車の中で叫んだ。俺もその時は大分驚いた。西住は乾いた笑いをしながらパンツァー・ハイとか言ってたな。

秋山はその時のことを思い出したのか、顔を暗くしながら下を俯いてしまった。

 

「・・・そうですね。このせいでクラスメートに微妙な顔をされてしまうのも度々です・・・。」

「まぁ、普通のクラスならそうなるだろうな。女子がそういった男のような趣味を持つのは稀有だからな。かくいう私もその1人だ。だが、ここは戦車道のクラスだ。1人くらいは話の合う奴はいるはずだ。いないか?話が合いそうな人は。」

 

俺がそういうと秋山は1人の人物を思い浮かべる。

 

「そうですね・・・。先ほどのⅢ突の車長殿なら・・・。名前は確か・・・。」

「エルヴィンか。そういえば、彼女の服装もコスプレなのだろうが、元がなんなのか分からなかったな・・。」

「彼女が被っている帽子はエルヴィン・ロンメル少佐が被っていた帽子でーー」

 

秋山がエルヴィンのコスプレの話を話し始めたところで俺は突然感じた敵意に咄嗟に操縦桿を操作し、思い切りバックした。その直後、Ⅳ号がさっきまでいた場所に砲弾が撃ち込まれた。

突然の加速に西住や沙織も驚いた様子で状況の説明を求める。

 

「ま、麻子ぉっ!?なになにどうしたの!?」

「れ、冷泉さん?もしかしてーー」

「敵戦車だ。しかも搭乗しているのはーー生徒会か。」

 

「ほう。悟られていないと思っていたが、直前で避けたか。それでこそ私のライバルだ。アムロ。」

 

茂みの中から顔を覗かせる38(t)、それには生徒会のメンバーが乗っていた。無論杏も搭乗していた。ただし、車長兼装填手としてだが。

 




切りのいいところ探してたら、短くなってしまったであります・・・。

9/21 秋山さんの口調を改訂しました。

最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)

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