「しまった・・・。迂闊だった・・・。」
俺は苦い顔をした。38(t)から放たれた砲弾は直前に敵意に気づけたからよかった。だが、避けた先が悪かった。
せっかく橋を渡りかけていたのに先ほどのバックで元に戻してしまった。
つまり現在は橋の真上。これでは避けるにも避けられないぞ・・・。
「麻子さん!!早くこの橋を渡りましょう!!このままだと・・・!!」
「分かっている!!次弾まではまだ時間はあるはずだ!!」
西住の声になるべく迅速に橋を渡ることで応えようとする。
Ⅳ号が橋を渡ろうと靭帯を動かす。
しかしーー
ガクンッ!!
突如として起こった揺れに思わず俺はⅣ号を止めてしまう。
「な、なんだっ!?今の揺れは!!」
「麻子さん!!38(t)がっ!?」
「しまったっ!?」
咄嗟に備え付きの窓をみるとそこには既にこちらに主砲を向けている38(t)の姿があった。
この時、俺は知りもしなったが、後で確認してみるとどうやら華が傷付けた橋のワイヤーが負荷に耐えきれずピンポイントで切れてしまったらしい。
ここまでか・・・・!!
奴に負けるのはとてつもなく癪だが・・・!!
38(t)の主砲が火を噴いた。放たれた砲弾はⅣ号に真っ直ぐとーー
進むことはなく見当違いの方向へと着弾した。
Ⅳ号と38(t)の間で沈黙の空気が漂った。
「そこで外すのかっ!?」
俺は思わずそう叫んでしまった。
「ふはははっ!!ここがお前らの死に場所だぁっ!!」
杏だ。アクシデントで動きが止まったⅣ号をみて38(t)の砲手である桃が嘲笑とも取れる笑い声をあげる。まだ勝ったわけではないのだがな・・・。
とはいえ、ここに来る途中一年生チームが乗っていたM3は倒しておいた。
ほかの戦車は奴が乗るⅣ号が撃破しているのを見ていたため確かにⅣ号を倒せばこちらの勝ちなのだが・・・。
いかんせん、M3と戦った時に分かった。桃はある意味天才的な技能を持っている。いや、天災か?
砲弾が狙ったところに一切向かわない。むしろどうやっているのか尋ねたいレベルで砲弾が見当違いの方向に吹っ飛ぶ。
M3を撃破した時にも私の指示がなければ当てられなかっただろう。
「桃、しっかり照準は合わせているな?」
「はいっ!!見ていて下さい会長!!奴らを倒して、会長に勝利の美酒を捧げましょう!!」
本人はすごく意気込んでいるのだが、いかんせん不安しかない。
指示したとはいえ、最終的に撃つのは桃だ。それ故に彼女が何をやらかすか分かったものではない。
そうこうしている間に桃が主砲のトリガーを引いた。放たれた砲弾は、私の不安の通りに照準通りに飛ばず、Ⅳ号に掠めることもなく川に着弾した。
38(t)の中で沈黙が続く。
「桃ちゃん、ここで外す〜?」
小山の呆れとも取れる言葉と共に衝撃が38(t)を襲った。
十中八九、こちらのミスに付け込んでⅣ号が主砲を放ったのだろう。
直撃を受けた38(t)は黒煙を吐きながら白旗をあげる。
私は38(t)の中で軽い笑みを上げた。
「ふっ、真の敵は身内にあり、か。よく言ったものだな。」
まさか動いていない敵にも当てられないとはな・・・。桃のコントロール性のなさは化け物か?
『勝者、Aチーム!!さすがね!!』
38tを倒した瞬間、通信機から教官の蝶野亜美の声が響く。
一年生チームのM3とは会わなかったが、おそらく38tが倒していたのだろう。
「か、勝ったっ!?」
「そのようだな。一先ずおつかれだな。華は、体調は大丈夫か?」
「はい・・。ですが申し訳ありません。お役に立つことができなくて・・・。」
通信席で申し訳なさげに俯く華。
むしろ俺個人としては初心者でありながらよく動かせた方だと思うのだがな。
「いや、むしろ君はよくやれていたよ。今回は通った場所が悪かっただけさ。」
「そうでしょうか・・・。」
「西住もそう思わないか?」
援護が必要だと考えた俺は西住に話を振った。突然振られたため当然西住は驚くだろうが、やはりここは友人の言葉が頼りになるだろう。
「はい。華さんはよく動かせてましたよ!!」
西住の笑顔が移るように華もそれを見て笑顔になった。
こうした人の良さが西住の魅力なのかもしれないな。
「ですが、私少し考えていたんです。私にはどの役割があっているのかって。」
「操縦手でも別に構わないぞ。」
「いえ、それは冷泉さんの方が適任でしょう。貴方の方が私より断然上手でしたもの。」
「はい!!私も冷泉殿が適任かと!」
秋山につられるように西住と沙織も同意の頷きをする。
「わ、私か?いいのかそれで。」
「もう、ノリが悪いよ麻子!!そこはもうドーンと引き受けたら?」
「・・・・分かったよ。それで華はどうするんだ?」
観念した口調で了承する。そのまま華にどうするかを尋ねた。
「はい。私は集中力が取り柄なので、砲手をやりたいですね。」
「でしたら、私が装填手をやりますよ。」
俺が尋ねるより先に秋山が譲り、自身で装填手をやると言った。
「私はどうしようかな・・・。車長は絶対に向いてないし・・・。」
「なら通信手か?沙織の人付き合いの良さならいけるんじゃないか?」
「・・・・うん。それがいいかも。それじゃあ残っているのは・・・。」
そういいながら俺たち4人は西住に視線を向ける。
西住はおろおろした様子で見回す。
「わ、私が車長ですかっ!?」
「正直言って君が適任だろう。皆もそう思うだろ?」
俺がほかの3人に同意を求めると今度は西住に向けて顔をうなずかせる。
外堀を先に埋められてしまった西住は困りながら、それでいてどこか嬉しそうな顔で頷いた。
とりあえず、俺たちの初陣は勝利で飾れたようだ。
今回も少しばかり短いですね・・。
そして、どう見たって父親ポジションに落ち着きつつあるアムロ・・・。
最終章、見たいですか?(モモチャンズリポートのあとがき要参照)
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見たいです
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見たくないです