真・恋姫†夢想~それゆけ袁渙ちゃん!~   作:くまべあー

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袁渙、登場するのこと。

 はいはい。お仕事ですか?

 まとめてその辺りに置いといてください。

 え? あー、そーゆーメンド……難しいのは張勲さまか閻象(えんしょう)さんに持ってってくださいよ。舒邵(じょしょう)ちゃんでも良いですし。

 そーそー、私じゃ無理ですからね。

 は? 紀霊(きれい)将軍に言われた? 袁渙(えんかん)ちゃんに持ってけって? ホントに? 袁術さまには……あ、内緒?

 はー、何考えてんでしょうか、あの人は。私みたいな下っ端にこんな書簡扱う権限ないんですけど。

 ――ああ、なるほど。下書きやらせて自分は楽しようって魂胆ですね、これ。

 さすが脳筋……いえ、なんでもないです、ほんとほんと。

 けどまー良いですよ。偉い人からの指示なら仕方ないですもん。

 それじゃ、戻るついでに伝言お願いできますか?

 えーと内容は「カキベクオデサラハミラウノコ」で。

 大丈夫だいじょーぶ。わからなくて良いんですから。

 

 ……さてと、お仕事お仕事。

 

 ✝✝✝

 

 ども、初めまして。袁曜卿です。

 袁が姓、曜卿(ようけい)が字。で、名前は渙。

 親しみを込めて「袁渙ちゃん」とお呼びください。

 一応女の子なんで。凹凸ないですけど。

 あ。

 ないと言えば、やる気もあんまりないです。

 なんていうかほら。

 息をするのもメンドクサイ、みたいな感じ。わかります?

 いえいえ、まぁ実際はしてますよ。そりゃね、息しなきゃ死んじゃいますから。

 死ぬのって、たぶん苦しいと思うんです。その、死ぬ間際とかですね。

 だって息をちょっと止めてみるだけで…………ぶはっ! ごほごほごほっ!

 ね、もうダメです。こんなに苦しい。本番なんて考えただけで眩暈がします。

 ぽっくり逝けちゃえば言うことないんですよ、実際。

 けど、なかなか綺麗には死ねないでしょう? こんな時代ですし。

 病気か飢えか殺されるのかはわからないですけどね。

 

 ……あー、やだやだ。

 

 ほんと、嫌ですね。

 たまには飲まなきゃやってられんです。

 そして、二日酔い。

 つらいです、生きるのって。

 

 ✝✝✝

 

 私こと袁渙ちゃんはわりと裕福な家に生まれました。

 陳郡袁氏って言ったら分かりますかね? 分かんないかもですね。

 今は汝南の袁紹さんや、我らが主君袁術さまが有名ですもん。袁氏って言ったらそっちを思い浮かべるのが普通ですよ。

 で、その裕福な家なんですがあっという間に没落しちゃいました。

 袁渙ちゃん、齢十くらいの頃でしょうか。

 朝廷の結構高位にいた父が政争に巻き込まれたあげく殺されて、それから面白いように坂を転げ落ちた感じ。

 こういうの、なんて言うんでしたっけ?

 栄枯盛衰、しょぎょーむじょー……これ、仏教、でしたか? アレはなかなか興味深いモノだと袁渙ちゃんは思います。布教がんばってる人たちもいますけど、どうですかねー? 広まるかなー、どーだろうなー。わかんないですね、はい。

 ま、話を戻しましょう。

 父がいなくなった後の私たち家族はですね、住み慣れた屋敷をすぱーんと捨てて逃げ出しました。

 罪人ってわけでもないですから、いきなり連座して殺されたりはしないかもですが、なにがあるかわかりません。息を潜め、しばらくあちこち転々として。

 その間に流行り病で母が死に、まだ小さかった弟と妹も逝き、私だけ残りました。

 このとき本当に一人だったら、たぶんどっかで野垂れ死んでたでしょうねー。

 一緒に逃げてくれた従者の人には感謝しなくちゃいけません。当面の食い扶持を稼いでくれたり、袁渙ちゃんが働ける歳になると仕事を見つけてくれたりしましたからね。

 もっとも、その人も今はもういないんですが。

 私が仕官した後、住んでいた村が野盗に襲われたんだそうです。

 人伝に聞いた話では、なんでも手篭めにされそうだった村の娘さんを助けようとして斬られたとか。三十絡みの男の人でしたが、奥さんはいなかったみたいなので、もしかしたらその娘さんと恋仲だったのかも知れません。

 詮無いことですしそれ以上聞きませんでしたけど。

 

 ……まぁ。

 そんなこんなあった末に、袁渙ちゃんは今こうして、南陽の一官吏として生きているわけです。

 

 ✝✝✝

 

「へいほー、へいほー♪ 李衛公問対♪ そーんしごーし尉繚子ー♪ りーくとう三略、しばっ、ほう♪ っと」

 今日はお仕事がお休み。ここ数日、余計な書簡をこなしてたせいか、ちょっとお疲れちゃんでしたから助かります。

 でも休日とはいっても特に何の予定もなく、寝すぎても逆にもっと疲れちゃう。

 なので私は、ふらふらと城壁の上へやって来ました。

 鼻歌はむかし誰かから聞いた「武経七書おぼえ歌」です。陽気な拍子に合わせて歌うことで、自然と七つの兵法書の名前が覚えられるという、優れもの。

 ……はー。それにしても。

 暇なときは高いところへ登るに限りますね。

 場所にもよりますが、基本あんまり人がいなくて静かだし、もし突然わけのわからない不安に襲われても「ここから落ちれば、死ねる」と思うことで心がすっと落ち着きます。

 当然、実際飛び降りたりはしません。だいたい下を覗くのだって怖すぎるのに、落っこちるなんて恐ろしくてとても無理です。

 ところで、自分のことは脇に置くとしてですね。

 

「うははー! 南陽の民らよー! 妾の歌を聴くのじゃー!」

 

 城壁の縁に立って城下に向かい、なんかノリノリで歌ってる金髪幼女ちゃんを見つけた場合、ヒトはいったいどうするのが正しいのでしょうか?

 

「きゃー! 美羽さまかわいいっ! ステキー! 政務放り出して全力で歌い踊る君主さま! そこに痺れる憧れるぅー!」

 

 そしてその金髪幼女ちゃんが己の主君で、さらにそれをやんやと囃し立ててるのが自分の上司だった場合、官吏の端くれとして取るべき対応とはさて如何に。

 

 答え:特になにもせず、しばらく眺める。

 

 ……や、ホント良いんです。別に。

 袁術――美羽さまの歌う姿を見て、ほら、今もわーわーきゃっきゃっと歓声が聞こえますけど南陽の民の皆さんも喜んでるわけですし。

 正直、知にも勇にも秀でておらず英邁なんてとても言えない美羽さまの、最も秀でている部分は要するに。

 愛らしい容姿と可愛らしい声。見た目良ければ全て良し。

 これはアレです、わりと本気なんです、私。

 容姿が優れてるって、十分な才能ですよね?

「ふー……よし! 今日はこんなところかの!」

「はいはーい、美羽さまお疲れ様でしたー♪」

 と、ぼんやり眺めているうちにお歌の披露を終えたらしいお二人。

 ここは無視してこの場を立ち去る……のもナニなので、こちらから近づいて挨拶を。

 えー、おはようございます。

「おおっ、袁渙ではないか! うむ、おはようございます、じゃ!」

 両手を腰に当ててぐっと胸を張り、「えっへん!」みたいな雰囲気出しつつお返事の美羽さま。

 歌と踊りを終えたばかりのせいか頬は紅潮、おでこには前髪が汗でちょっと張り付いてますけど、ご機嫌は良さそう。 

「おはようございますー♪ んん、袁渙ちゃんは、今日お休みじゃありませんでした?」

 ピンと伸ばした人差し指を口元に寄せながら何か思い出すように言うのは、張勲こと七乃さま。

 はいお休みです、なのでかくかくしかじか。

「成程。まるまるうまうま、ってことですねー。……折角の休日に職場をうろうろしてるなんてー、枯れちゃってません?」

 枯れてる。あー、どうなんでしょう? そんな自覚があるような、ないような。

「な……なんじゃとっ!?」

 ……んう?

 そんな会話をしていると、突然美羽さまが驚いたような声を上げました。こっちを見て、なんだかわなわな震えてます。いったい何が――。

 

「え、袁渙! お主、か……枯れておるのかの!? 人が草木のように枯れるとは……妾、ぜんっぜん知らなかったのじゃ……! へ、平気なのかの? あっ、み、水が要るのではないかのっ?」

「…………」

「…………」

 

 ふー。

 

 美羽さま……かっわいい。

 

 ✝✝✝

 

 で、その後。

 

「ところで美羽さま? 汗をお拭きしましょうか? 体が冷えて、お風邪を召されたら大変ですし!」

「うむ、頼むぞ七乃……って、お主どこまで拭いておるのじゃあーっ!?」

 

 なんてイチャコラしながら去って行くお二人を見送った袁渙ちゃん。

 とりあえず、「枯れてる」っていうのがモノの例えだってことは美羽さまにお教えできた(と思う)ので、良かった良かった。

「さて……」

 思ったより騒がしい時間でしたが、もともと暇つぶしに城壁へ来てたわけで結果は上々。

 せっかくだし、このまま街へ繰り出してカワイイ服や小物なんか見ちゃおうかな! ……的な考えが、ほんの一瞬脳裏を過ったものの、やっぱりちょっと色々面倒臭いかもって気持ちには勝てず。

 私はとりあえず、空を見上げることにしました。

 それくらいしか、やれることもやりたいことも無かったから。

 空は、こう、ずぅぅと高くにあって、青くて、太陽があって、あと小さな雲が幾つかありました。鳥は飛んでませんでした。

 …………。

 えーと、私が作詩に長けてたら、もっと上手いこと言えるんですけどね?

 まぁこんなもんです、こんなもん。

 

 ――と。そんな誰に向かってかわからない、強いて言えば自分に向けて言い訳をしていた時。

 

 空の東側から、一筋の白い流れ星が――。

 

 ……最初はあれです、わー、って見てたんです。

 

 でもそれが、なんか、だんだん大きくなって、大きくなって。

 

 つまり、こちらにどんどん近づいて――落ちてきて。

 

 あれ、この今落ちて来てるのお星さまじゃなくてもしかして人間じゃない?

 

 や、もしかしなくても人間じゃない?

 

 ああ、やっぱり人間だったー。

 

 ――とか、認識できた次の瞬間。

 

 ものすっごい、ヤバイ衝撃が自分の体を襲い、私は意識を手放しました。

 

 なぜなら、その落ちてきたヒトがぼけっと突っ立てた私に直撃したからです。

 

 たぶん「げふぅ!?」とか「へぶぅ!?」とか変な声が出てたかもしれません。

 

 ……あれでお互い良く生きてたものだなぁ、って、いま思います。ホント。   




袁術さんの配下って……
「閻象(えんしょう)」――「袁紹」と読みが同じだったり、「舒邵(じょしょう)」――「徐庶(じょしょ)」に読みが似てるっていうか、「じょしょう 三国志」で検索しても徐庶のことしか出てこなかったりと……うん。
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