本当は、6年前から分かっていた。
「"無個性"のくせに、ヒーロー気取りか、デク!!」
人は、生まれながらに平等じゃない。
「勉強が出来るだけじゃヒーローになれねえよ!」
ゲラゲラと笑うクラスメート達の笑い。これ見よがしに、手で爆発を起こすかっちゃん。
「あー、ほら、もうちょっと現実を見据えてだね……」
僕がイジメられていることを見て見ぬふりをして、ただ現実を見据えさせてくる先生。
そして、何よりも――
「出久、ごめんね、ごめんねぇ……」
6年前からずっと、僕に謝り続けるお母さん。昔はほっそりしてたのに、今ではずいぶんと太っちゃった。お母さんはバレてないと思ってるけど、実は夜中にたくさん食べているのを僕は知ってる。だから、僕がみんなにイジメられてる事なんて言えない。そんな事がバレたら、きっとお母さんは倒れちゃう。
それでも、諦めたくはなかった。
『もし、物を引き寄せる個性が僕に現れたら……』
個性研究ノートは、もう10冊も書いた。
「97…98…99……100!」
体だって頑張ってこっそり鍛えた。でも……個性を持ってるみんなと、個性を持たない僕の体は作りそのものが違うみたい。力が増強されない個性でも、個性の存在自体が体を強くするんだろう。身体能力増強系じゃないサポート型の個性を持つヒーローだって、ヴィランとちゃんと戦えてる。
「エンデヴァーの個性だと、空に浮かべるんだ……でも自由には飛べないって事は炎って軽いのかな?」
ヒーロー達の個性も、出来る限り調べた。もし、一緒に戦えたらどんな事ができるだろうって。
「銃は買えないよね……。あ、このプロテクター、凄い高い……」
ヒーローたちはコスチュームに色々な仕掛けを組み込み、ガジェットを使いこなしてる。でも、だからこそとっても高い。僕のお小遣いじゃ、とても手が届かない。
どんなに頑張っても、努力だけじゃ届かない。他の人だけじゃない。社会だけじゃない。この世界のすべてが、
放課後、今日も僕は一人で家まで帰る。僕と居るとイジメられるから、いつの間にか助けていた友達も、僕に近寄らなくなった。
「このまま、ずっと個性が出なくてヒーローになれないのかな……?」
諦めの気持ちと、諦めたくない気持ち。その2つがずっとぐるぐると、僕の心の中で回り続けてる。思わず出た涙を拭って、トボトボと歩く。
「……あれ?」
今日は何か、変だ。夕方、いつもなら人が居るはずなのに妙に静かになってる。不思議に思ってキョロキョロと周りを見たら、いつの間にかそれは居た。
「……緑谷出久、間違い無いな」
写真に向けていた視線をこちらに向ける。深く被っていた帽子の下から、何を考えているかわからない目で、見られた。バクバクと心臓が早く動く。逃げなきゃ。そう思うと、足が勝手に動いた。
「だ、誰k「察しが良いな。だが、無駄だ」」
叫びながら走り出すのとほとんど一緒に、影が足元に伸びてきて、その中に落ちる。意識が無くなる前、僕が覚えていたのはそこまでだった。
「ぐすっ……」 「ふええええええええええんっ!」 「パパ、ママ……」 「出して、ここから出してよ~~!」
色んな声が聞こえて、目が覚める。周りを見ると、色んな年齢の子供たちが居て、透明な壁の向こうから怖い顔をした人たちがこっちを見ていた。広い研究室みたいな所に、沢山の人が居る。
「随分と時間がかかったな」
「無個性で生まれてくる子供は年々減っている。それぞれの行動パターンを調べるだけでも一苦労だったぞ」
「まあこれだけ検体が居れば暫くは問題あるまい。この子らも新しい世界の礎となれる。その名誉が実に羨ましいよ」
ところどころしか分からないけど、恐ろしい話をしているのは分かった。
「では、どの程度の年齢から始めようか?」
「10歳前後ではいかがでしょう? 成長過程であり、あらゆる意味で中途半端です。その結果を基に調整してみましょう。成長してる個体では無理か、そうでないかの指針にもなりやすいですしね」
「ふむ、それで行こう。では、まずは……あの子にしよう」
たくさんの目が、こちらを向いた。見られている。僕に、何をするのか分からないけど、恐ろしいことだというのは分かる。ドアが開いて、怖い人が近づいてくる。みんな一斉に壁際に逃げるけど、僕は捕まってしまった。
「は、離して、離してください!」
「大丈夫、痛くはしない。君たちのお陰で、素晴らしい未来が訪れるんだ」
僕が暴れても、安心させるように話しかけてくるけど、それが怖くてたまらない。どんなに暴れても逃げられなくて、もう駄目なんだって諦めの気持ちが溢れてくる。ドアをくぐって、みんなから見えない別の大きい部屋に連れて行かれる。でも、諦めきれなくて……
「誰か、助けてえええええええええええっ!」
涙と一緒に、
「まっかせなさあああああああいっ!」
ドカアアアアアアン!って大きな音がして、分厚い金属の扉が吹き飛んで、その人は入ってきた。
ボロボロに汚れてるけど、キラキラと蒼く輝いて見える女の人。その人の手がブレると、僕を押さえつけていた人が吹き飛んだ。
「ヒ、ヒーロー……?」
「そう、HEROよ!何でこんな場所に来ちゃったかわからないけど、とりあえず泣いてる子が居るなら助ける、悪党が居るならぶっ飛ばす!」
優しい笑顔で、僕を護るように立ちはだかると、両手に持ってるペン……多分、シャーペンを構えた。え?それが武器?
「プロヒーローか!?」
「画像照合……いや、こんな奴は登録されてない!ヴィジランテか!?」
「どうやって入ってきたんだ!?」
慌てふためく人達の前で、その女の人は不敵に笑った。
「何かよく分からないけど隠し通路っぽいところから!警報鳴らせるほど速い人は居なかったわね」
そのセリフに、悪党の人たちはすごく警戒して、身体を変形させ始めた。
「かなりのやり手か……試すのにちょうどいい」
うねうねと触手が生えてきて、それぞれの触手が炎や電気や氷や風を纏ってる。
「この数の"個性"に勝てると思ってるのかね?」
沢山の腕が生えて、とても筋肉が付いている。
「数は力だよ、無謀なヴィジランテ」
翼が生えて、爪が伸びる。手から毛が生えて、いろいろな動物が合わさったみたい。
「呼吸、心拍数、筋肉の動き、骨のきしみ、服の擦れ……君のすべてが分かるよ」
目が増えて、耳が大きくなって、すべてを見通すような言葉。
他にも、沢山の個性・個性・個性・個性。でも、一人に付き、沢山の……個性が有る。でも、みんなどこか何かが『歪んでる』
「そ、そんな、何で、こんなに……」
僕が目を向けると、変身した人たちがそれぞれ笑う。
「どうだね、少年。これが、『未来』だよ」
「個性の人工的な付与、奪取。『あの方』の個性の人工的な再現、それができれば素晴らしい世界が訪れるのだ……」
「そんなみすぼらしい格好をして、そんなにボロボロで、どうやって私達を倒すのかね?」
恍惚とした表情で、個性を見せびらかしてる大人たち。それが、凄く怖くて、怖くて、でも、何処か"個性"を貰えることを望んでいる自分が居て……。
「だからどうした!」
「何?」
「何度でも言うわ。 数が多いとか、能力が沢山有るとか、だからどうした!あんた達が子供を拐う悪党なのは変わり無いわ。私はそれが気に食わない、だから……ワン・ツー・スリーでふっとばす!」
その女の人の言葉と、動きがもやもやを全部吹き飛ばしていった。邪魔にならないように遠くへ逃げながら、僕はその姿に目を奪われた。
攻撃が飛んでくる前に、シャーペンを投げて攻撃をずらした。沢山の攻撃の中、ほんの少しだけの隙間に身体をねじ込ませて中央に飛び出して。まるで踊っているような綺麗な脚さばきで、ヴィラン達の間から、攻撃を繰り出した。
最初はやや大きめに避けていたのが、攻撃を見る度に、移動を見る度に、身体に近づいていく。躱して光った手足をカウンターで叩き込み、手足の動きで視線を誘導して、置いてある機械やコップやメスやペンを利用して気をそらし、ヴィランとヴィランの間で同士討ちを誘う。
数も個性も無視して、ヴィランの圧倒的な有利を気にもしないで、自分の思うがままに叩き潰していく。
沢山の、本当に沢山のヒーローを見てきた。だけど、あのオールマイトですら見せたことのないような動き。全てを見通すような、別の強さ。
ヒーローを見続けてきたからこそ、なんとなく分かったんだ。この人も、きっと、最高のヒーローなんだって。
「ば、馬鹿な、我々の、我々の力がっ……!?」
「大勢の人から奪った力でしょ? 使いこなすことは出来なかったみたいね」
「ま、まだ、まだだっ……!」
苦しそうな声を上げていた一人が、触手を仲間たちに伸ばした。
「がっ!?」 「うわっ!?」 「や、やめろっ!?」
そうして伸ばした触手が、何かを吸い取っていく。
「ふは、ふはははははは! これだけの個性が有れば、私は、無敵! 『あの方』にさえも、並べる……!」
身体が半分崩れかけながら、今までの奴らの個性を、全て集めたような恐ろしい姿になっていく。だけど、その女の人は、恐ろしい姿のヴィランにぜんぜん怯むことは無かった。
「だから、どうした!」
色々なヒーローやヴィランの個性を集めたような、攻撃の嵐。でも、それは一切傷をつけられなくて。女の人の動きは、全て把握されているはずなのに、全く捉えられなくて。
「何故だ、何故だ、何故だあああああああああああっ!?こんな、でたらめなぁああああぁああぁ!」
狂ったような攻撃を振るうヴィランの叫び。それに応えるのは、静かな声。
「でたらめの中でしか見つけられない輝きもあるのよ。あの人の眼差しのように」
蒼く光る手、それでヴィランの顔面を思い切り殴り飛ばした。そして、光が弾けて、大きく歪んだ身体が、元に戻って。床には、個性が消えたヴィラン達が倒れ伏していて。
「わ、わた、私の、力、が……『あの方』にさえ届く、この、力、がああああああ……」
そう言ったきり、意識を失ったみたい。死んでは、いない。
「お、終わったの……?」
「うん! もう大丈夫よ!」
そう、にっこり笑ってくれるヒーローに、喜びの声を上げたんだ。助けてくれた、僕のヒーロー。聞きたいことは沢山有るけけど、一番聞きたいことが有って。
「ね、ねえお姉さん! ぼ、僕も、ヒーローに、なれるかな!?」
涙と言葉が、同時に溢れ出してきた。
「……そうね、少し昔話をしてあげる。……えーと、これで良いのかな?」 機械をいじって何処かに通信を入れつつ、そのヒーローは話し始めた。
それは、全く別の世界の英雄譚。絶望に支配された世界、それでも明日を見ようと思った人たちの物語。ただの人間から生まれ、自分自身の力と意志で、人でない何かに生まれ変わった物語。消えていた僕の心の火が、また燃え出した。
「あっ、もう時間切れみたい……それじゃ、行かなくちゃ」
「ま、待って、お姉さん、な、名前は!?」
「ニーギ・ゴージャスブルー。豪華絢爛にしか生きられない、そういう女」
「お、覚えたよ! きっと、また会えるよね!?」
「きっと、いつかね。あ、じゃあ……いつか、これ、返しに来て?」
そう微笑みながらシャーペンを僕に渡すと、何処からか現れた……ゲート?に、そのヒーローは消えていった。それからすぐ、沢山のヒーローや警察がやってきて、ヴィランを確保。機械も徹底的に調べて、そして僕たちを助けてくれた。
わんわんと凄く泣いているお母さんに抱きしめられた後、僕たちを助けてくれたヒーローについて色々と聞かれた。監視カメラにも動画が残っていたけど、誰も知らない、ヴィジランテですら無かったみたい。でも、当然なんだろう。あの人は、きっと、沢山の世界を駆けるヒーローだから。
家に帰ったら、お母さんがカツ丼を作ってくれた。僕の大好物。泣きながら笑うお母さんに、僕は誓う。
「お母さん、僕、ヒーローになる」
そう言うと、目を丸くするお母さん。慰めようとしてくれるのか、頭に手を伸ばしてくる。
「違うんだ、お母さん。僕は、もう諦めない」
そう言いながら、まっすぐ目を見る。多分、いつもと違う表情なんだろう。お母さんの表情も変わる。
「……そう、頑張ってね」
何も聞かずに、そう微笑んでくれた。そして、その日から、お母さんの夜食の量は、ちょっとずつ減っていった。
「もう止めなよ! かっちゃん!」
「ああん? んだぁ、デク? 弱ぇくせにまたいっちょ前にヒーロー気取りか?」
また、3人で一人の子をいじめていたかっちゃん。そして、こうやって助けに入ると次は僕をイジメ始める。個性まで使って。かっちゃんは手を爆破させながら、他の二人は羽をはやして、そして指を伸ばして。僕に見せつけるように。だけど、もう、負けない。
「……んだぁ? その目は?」
ギロリと睨みつけてくるかっちゃん。いつも僕が怯えた表情を見せるのに、今日は違うのが気に食わないみたい。そして僕が両手を構えると、もっと不機嫌そうになった。
「僕は、出久だ!デクじゃない!」
「うるせぇ! テメェはでくのぼうのデク何だよ! お前が下だ!」
そう言いながら、手を爆破させて突っ込んでくる。いつもの、右の大振り。それを避けながら手を掴んで思い切り投げる。初めて、かっちゃんを地面につけた。
「がはっ!? て、てめえ!?」
怒って爆破しようとする手を避け……ると後ろの子に当たる。だから手を蹴り飛ばして、爆発をずらした。そして指を伸ばしてくる子の方へ突っ込んで、手の向きを翼の子の方に変える。イジメ方は何時も通り。パターンは、読めてる。
「ふぎゃっ!?」 「痛っ!?」
指が翼に絡みついて、二人共もみくちゃになって地面に転ぶ。倒れた二人を踏みつけ、かっちゃんを睨み付けると、ごちゃごちゃと訳わからなくなってるみたいだけど、だんだんまた怒り出してきた。
「デ、デク……てめぇ……!」
蹴られた手が痛いのか、さすりながらこっちを睨みつけてる。でも、僕はもう怖がらない。
「もう、誰も、イジメるな! イジメるなら、何度だって止めてやる!」
「ふ、ふざけんじゃねえええええええええっ!」
凄く興奮して突っ込んでくるかっちゃん。横に回り込んで足を伸ばすとすぐに転んだ。戦ってる時の判断力が、凄く落ちてるみたい。これでいじめっ子3段重ねの出来上がり。両手を押さえつけてかっちゃんを強く睨み付ける。
「僕は、もう君から逃げない! 負けない!」
「んだとこのクソモブがぁ!テメェが下だ!テメェが一番凄くねぇんだ!」
「それは、君が勝手に決めたことだ。僕はもう、デクにならない!」
立ち上がって離れようとしたら、またかっちゃんが立ち上がった。今まで見たこと無いような凄い顔してる。
「ム・カ・ツ・クなあああああああっ!」
完全に頭に血が登ってる。左手の爆破で加速して、また右の大振り。そして、ムカつくムカつくって言うけど……
「それは、僕も同じだああああああああっ!」
もう負けない。もう屈しない。過去の自分を捨て去るように、右手に想いと力を込めて
「がはぁっ!?」
かっちゃんの顔面を、思い切り殴り飛ばした。
「そっちの二人も、まだやるか!?」
かっちゃんが殴り飛ばされたからか、怯えたように横に首を振る二人。そして、まだ起き上がれないかっちゃんを尻目に、後ろを見る。昔からずっといじめられてたその子は、泣きそうな顔で、僕を見ていた。だから、笑顔でこう宣言しよう。僕が憧れた、ヒーローたちのように。
「もう大丈夫だよ。だって……僕が来た!」
6年前、
緑谷君が最初努力してないから悪いとか心無いことが言われてますが、この世界って個性無しは半ば障害者みたいな扱いなんですよね。言うなれば両足や片腕が無いのに消防士や兵士に憧れていた様な物で、努力云々以前に前提条件すら満たせて無かったと思うのです。
それにステインやサーナイトアイを見る限り、増強系で無くても個性が有るだけで身体能力は個性無しの時代より上がっていると思われます。でなければ身体能力が高過ぎる。
だから、これだけの条件が揃えば夢を諦めてしまうのも無理はないかと……むしろ誰にも相談できない状況でワンチャンダイブしないだけ凄い強いと思います。
緑谷君が出会ったのは新井木勇美ことニーギ・ゴージャスブルー。豪華絢爛に生きた女の子はまた一人男の子の心を奪っていきました……罪作りな。彼女の戦術を間近で見た緑谷君には凄まじい衝撃となったでしょう。