薬の香り……包帯や布の香り……ここは?
「ん、んん……」
目を開けると、白い天井が見えた。記憶にない、白い天井。
「おや、目が覚めたようだね」
目が覚めると、隣にはオールマイトが同じ様に横になっていて、更に奥にはリカバリーガールが座っていた。
「全く、無茶をしたもんさね。だけど、事情が事情だけに仕方ないか」
手には点滴が付けられていて、起き上がろうとしたら身体が酷くだるくて起き上がれない。
「ああ、もうしばらく寝てなさい。私の"個性"は治癒はできるけど、体力を凄く使うんだよ」
「あっ、そうなんですか……すみません」
「謝るんじゃないさね。オールマイトだって苦戦する相手を倒したんだ。胸を張りな」
「あっ、は、はい……」
そうか、倒せたんだ……。ほっと一安心すると、今更ながらどっと疲れが身体に押し寄せてくるようだった。
「だが、私は言いたいことが有るぞ……」
「お、オールマイト?」
「何故、あんな危険なことをした? 私でも、倒せていたんだ」
珍しく、怒ったような声。でも、ここは引けない。引いちゃいけない。
「だって、オールマイトは既に活動限界でしたよね? これ以上無茶したら、命も縮みかねない位に……」
「それが、私の役割だ」「嫌ですっ!!」『!?』
リカバリーガールも、オールマイトも驚いたような目でこちらを見る。
「オールマイトは、今までずっと沢山の人を助けてきたんです。だから、そんなオールマイトが早死にするなんて、絶対に、嫌なんです……」
「少年……」
「あんたの負けだよ、オールマイト」
「リカバリーガールまで……」
「あんたは常に誰かを心配してるけど、あんたを心配してる人だってたくさん居るんだ。あんたの元サイドキックみたいに。あたしだってそうさ。……だから、もうちょっと他人に甘えてもいいんだよ」
「…………」
オールマイトは何も言わない。……でも、少しは想いは届いただろうか。
その後、オールマイトの友達の塚内さんが来て、他の人達の無事を伝えてくれた。本当に良かった……
そして、ふとスマホを見たら、みんなからのメールが来ていた。どれもこれも僕の身を心配してくれるメールで、なんだかとてもうれしくなった。全部にちゃんと返信をして……っと。
翌日は臨時休校になって、僕は無理やり休まされ。そして、更に翌日。
「緑谷だ! 緑谷が来たぞー!」
と、峰田君が叫ぶ。
「おい、大丈夫か緑谷ぁ!?」 「緑谷ちゃん、もう平気なの?」 「緑谷君、あのヴィランに立ち向かってもう平気なのかい!?」
普段は落ち着ける立場の飯田君まで、みんなに混じって僕の心配をしてくれている。
「うん、うん、メールで書いた通り、もう大丈夫! さすがリカバリーガール、凄いよね!」
ちょっと疲れたけど、傷はもう治ってすっかり元気だ。それに、あの程度の怪我で済んだのはフルガントレットのお陰だったみたいだし、メリッサさんにも御礼のメールを送っておいた。壊れちゃったのは残念だけど、また送ってくれるらしい。
ああ、良かった……。いざってときに100%を出せるのと出せないのとでは、安心感が違うし。そんな事を考えていると、相澤先生がやってきた。
「うるさいぞお前ら、もうホームルームの時間……って、緑谷か。もう良いのか?」
「はい!」
「なら大丈夫だな。よし、お前ら席に着け!」
『はいっ!』
「ヴィランとの戦いを生き延びてホッと一安心と言ったところだろうが、まだ終わってねぇ」
「戦い?」「まさか、まだヴィランが!?」
「雄英体育祭が迫ってる!」
『クソ学校っぽいの来たあああああ!』
それからは、みんなで体育祭の話題で持ちきりだった。みんなの体育祭に掛ける思いや、麗日さんのヒーローになるための目的……色々と知れた。でも、それでも、僕は負けられない。
そして、そう思ってるのは当然僕だけでは無いようで……
「うわっ、何だこりゃ」 「敵情視察だろ」 「もう戦いは始まってんのか! 熱いな!」
放課後、1-Aの前には、人がズラリと取り囲んでる。正直、見に来た人たちの表情を見てると見世物にでもなったみたいだけど……見渡すと、本気の目をした人もいる。そのうちの一人と、目が合った。
「――あんた、凄い目してるな」
「僕?」
凄い目って言われたことは無いや。
「なるほど、あんたみたいのがまだ学生なのにヴィランと真っ向から勝負するんだろうな……。でも、負けたくない」
っ! 本気で、僕を睨んできている。超えていこうとする、その目――多分、僕もしていたことが有る。
「うん、僕も負ける気は無い」「み、緑谷君!?」
麗日さんがちょっと慌ててるけど、真っ向から睨み合う。同じヒーロー科だけじゃない。彼らだって、ライバルなのだろう。
「体育祭のリザルトによっちゃ、普通科がヒーロー科に転入したり、その逆もあり得る――だから、俺はここに宣戦布告しに来たつもり」
「受けて立つよ」
ヴィランだけじゃない。お互い、プロに登るために戦う、ライバル。
「ようよう熱いなぁ!」
と、別の人が大きな声を上げる。その制服はヒーロー科だから……B組?
「隣のB組のモンだけどよぅ!! ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだが、今駄目な感じか!?」
「いや、別に大丈夫だよ? これから体育館γに行くんだけど、そこに行きながらでも良い?」
「体育館? 放課後に何やってんだ?」
「特訓かな?」
「おお、熱いな! 是非俺もさせてくれ!」 「あ、私も!」 「俺も俺も!」
「うん、良いよ!」
そんな訳で、B組まで一緒に特訓することになった。
「いや、しかし意外だったね」
「何がです?」
色々と話しながら体育館に着き、セメントスにフィールドを作ってもらってさあ特訓を始めようかと言う時に、B組のまとめ役らしい拳藤さんが話しかけてきた。
「実はA組もプライド高い人ばっかりでさ、特訓を一緒にやろうって言っても『来るんじゃない!』みたいな事言われて追い出されるかと思ってた」
「あはは……そんな事言う人は多分A組には居ないと思いますね」
「そうなんだ。B組には一人いるんだよなあ」
「そ、そんな人が……」
「うん。恥ずかしながらね……そこまで悪いやつでもないんだけど」
言い淀むってことはやっぱりちょっと問題有るんだろうなぁ……でも、そんなB組でも鉄哲君や骨抜君なんかも参加してくれて、普段交流が少ないA組とB組が仲良くなる切っ掛けになれるかな?
そしてもう一人、意外だったのが……。
「あれ、君は……」「っ……」
さっき、僕に宣戦布告をしてきた人。敵情視察――と言うより、羨ましそうにこちらを見ていた。
「君も訓練したいの?」
「っ、悪いかよ……。普通科は中々こういう所も使えないんだよ……」
じっと観察してみる。そこそこ鍛えては居るみたいだけど――。異形型でもないし、多分直接戦闘向けの個性でも無いんだと思う。
「何だよ……?」
「ねえ、ガジェットとかアイテムとかは持ってる? 例えばあいz……イレイザーヘッドの捕縛布みたいな」
「? 持ってねえよ」
そう言う彼の前で、ポーチから訓練用の玉を取り出して……ショット! 驚いた顔をしているけど、こんなのまだまだ。指弾で弾いたり、手首の動きだけで的に当てたり、横っ飛びをしながらぶつけたり、一通り見せる。
「それが、お前の"個性"「個性は使ってないよ」 っ……!」
この光景を初めて見るB組の人たちも驚いてる。特に、鱗君とかが。
「僕は14まで個性が発現しなかった……。でも、ヒーローになるのを諦めたくなくて、ずっとこんな事を練習してたんだ」
「えっ!?」 「マジか!?」 「個性が出てたった1年であのコントロール!?」
まっすぐ目を向けて、彼に言う。
「君は"個性"も有るんでしょ? なら、個性にプラスしてなにか強みを持ったほうが良いと思う」
「…………」
しばらく、驚いたような顔をした後、困った顔をしたり、考え込んだりしながらこっちを見てる。けど、最後には
「……ありがとうな。お前、名前は?」
「緑谷出久。君は?」
「心操人使。――絶対、追いついてみせるからな」
「その時は、僕はもっと先に行くよ」
「ふっ、そうか……」
ちょっとの間二人で笑いあったけど、少しすると心操君は出ていった。また、将来の強力なライバルができちゃったかも。
「うおーっ! 緑谷! やっぱりお前熱いな! すっげー熱いッス!」 「緑谷ぁ! お前良いな! 俺も負けねぇぞ!」
うわっ!? 夜嵐君や鉄哲君がこっちにっ!?
その後、もみくちゃにされて特訓の開始が数分遅れちゃうのだった。
心操君が好きです。最近のジャンプの話でもっと好きになりました。