雄英体育祭までの2週間、僕らの特訓は更に進んだ。
峰田君が、僕の投擲技術を覚えようとしてきたり(「って言っても結局投げ込みまくりじゃねーかよー! いてえええええっ!?」)尾白君と、5%フルカウルの状態でひたすら組み手をしたり(「武術家でない……のに凄いな緑谷、その動き!」「尾白君こそ、しっぽを使った連続攻撃は本当に変幻自在で凄いや!)」常闇君のダークシャドウを暗いところでも扱えるようにするべく、暗闇の中でずっと彼のダークシャドウを一緒に抑えてたり(「すまん、緑谷……!」「大丈夫、個性を使いこなすためにも、どんどん訓練しようよ!」)すごく有意義だった。
それに、僕以外でも、みんなそれぞれいろいろな個性の組み合わせで訓練しているのが凄く楽しそうだ。切島君と鉄哲君なんか、凄く良いライバルになりそうだ。
そんなこんなで体育祭までの時間がどんどん近づいてきて、残り1日。そんな時にオールマイトから連絡があった。
「HAHAHA! やあ、緑谷少年、これからちょっと時間はあるかな?」
放課後、オールマイトから呼び出された。もちろん、断るはずがない。他の参加者に謝りつつ、呼び出された部屋へ行く。
「何があったんですか? オールマイト」
「ちょっとしたサプライズでね……ほら!」
そう言うと、目の前に居たのは……デヴィットさんとメリッサさん!?
「やあ、久しぶりだねイズク君」
「イズク君、久しぶり!」
「お、お二人ともどうしてここに!?」
メリッサさんとは軽くメールとかではやり取りしてたけど、教えてもらってないから凄くびっくりした!
「雄英体育祭はオリンピックにも匹敵する注目度だと言ったろう? I・アイランドでも学年優勝者は招待されるほどのイベントでね。メリッサが是非見てみたいと言うので招待したんだ」
「私はその付き添いさ。それに、トシの様子も気になるし」
「まあ、そんな訳でこっちは旧交を温めるのでね。もし良かったら、メリッサの案内は君がしてくれないかな?」
「えっ!? 僕がですかっ!?」
「イズク君は、私と一緒は嫌?」
「そ、そそそそそんな事は無いですっ!?」
お、落ち着け……前だってI・アイランドでは案内してもらったし……逆に、今度は僕がお礼をする番だ!
「僕もそんなにここに来て長いわけじゃないですけど、こちらへどうぞっ!」
「うん、宜しくね!」
部屋を出るとメリッサさんと二人……うわ、周りの視線が気になる。
「まずは、雄英の名所の一つ、食堂から。ランチラッシュって言うヒーローが作ってるんですよ」
「まあ、ヒーローが? 凄いのね!」
楽しそうに、興味深げに雄英を見て回るメリッサさん。女の人をエスコートするのなんて初めてだけど、何とかなるかな?
「いや、すまないねデイヴ。いきなり来てもらって」
「本当だよ。いきなり呼ばれてスケジュールを開けるのが大変だった。一体どんな風の吹き回しだい?」
親友同士の軽口を叩くも、デヴィットの口調には常に心配する響きが混じっている。彼の目から見ても、この1年でオールマイトの体調は更に悪化しているようだった。
「……トシ、一体どうしたんだ。前よりさらに悪化しているように見える」
「……それを、今から話そうと思ってね」
咳をしながらトゥルーフォームに戻ると、オールマイトはソファーに腰掛ける。ただならぬ雰囲気を察したデヴィットも、その正面に座り相対する。
「これから言うことは信じられないかも知れないが……」
「トシの言うことだ。信じるさ」
「ありがとう、デイヴ」
迷わず信頼してくれる親友。そんな親友にも今までひた隠しにしてきた事に胸が痛みつつ、一つ深呼吸する。
「もう、私には"個性"が無いんだ」
「―――は?」
オールマイトの言うことは全て信じようと思っていたデヴィットだが、想定外の回答に流石に一瞬思考が停止する。だが、デヴィットの記憶の中には幾つか心当たりが有った。
「ひょっとして、オール・フォー・ワンや、それに付随する研究の……!?」
「いや、違うんだ」
デヴィットの推察を、ゆっくりと、しかしはっきりと否定する。
「私が持っていた個性は、オール・フォー・ワンと対となる個性。ワン・フォー・オール。これは、オール・フォー・ワンと同時代から、聖火の如く引き継がれてきた個性なんだ」
「っ―――!?」
初めて聞く情報ばかりだが、デヴィットの頭脳は衝撃を抑え、事実を知っていく。
「じゃあ、君の個性数値が急激に下がっていたのは……」
「そう。個性が消えたんじゃない。個性を、次の者に受け継がせたんだよ。それが――」
「イズク・ミドリヤ……」
身体も声も震えるデヴィットに、こくりと頷く。だが、デヴィットは足元がなくなり、ふらつくような感覚を覚える。この親友は、もうナンバーワンヒーローではいられないのだ。自分が彼のためにしてやれることも、もう無い。だが、そんなデヴィットにオールマイトは安心させるように声を掛ける。
「そう悲観しないでくれデイヴ。彼は、少しずつ私を超え始めている」
「トシを……?」
学生時代から、オールマイトの活躍は散々見てきた。そのオールマイト以上だとは、到底信じきれなかった。
「ワン・フォー・オールは聖火の如く引き継がれてきた、と言っただろう。この個性は、それぞれの想いと力を次へと託す。……私も、昔は"無個性"だったんだ」
「そんな、トシが……!?」
あの、圧倒的な強さを持ったオールマイトが、もともと無個性だとは信じられなかった。
「実際、もう彼は全盛期の私ですら100%を超えなければ倒せなかったであろうヴィランを、一撃で吹き飛ばしてしまったんだ」
「なっ!?」
驚くが、同時に納得もしてしまうデヴィット。あのオールマイトの力すら引き継いだのだ。それ位は出来て当然だろう。
「最も、反動が強すぎてメリッサのガジェットを付けていても腕が折れてしまったのだが……。だが、今の状況でももう40%は出力を出せる。もう少し、もう少しなんだ……」
「何がだい、トシ?」
「もう少しで、彼は私を完全に超える。それまで、私の身体が、ワンフォーオールの残り火が持ってくれればいい。それが――お師匠様が私にそうしてくれたように、ワン・フォー・オールを持つものの宿命……」
「トシ……」
今までオールマイトが背負ってきたであろう物の重さを想像し、そして自分にも言ってくれなかったことを悲しみ、そしてもうあのオールマイトは戻ってこないのだと知って絶望し、デヴィットの胸中はぐちゃぐちゃであった。
「大丈夫だ、デイヴ」
「……トシ?」
だが、頭を抱えるデヴィットに、オールマイトは安心させるように言う。
「彼を、緑谷少年を見てやってくれ。新しい希望は、新しい希望達は確実に育っている」
「……そのために、呼んだのか?」
「ああ。私の真実を君に話すため。そして、新しい希望を見てもらうために」
オールマイトの目に有ったのは、昔と変わらぬ深い信頼。それが変わらず、デヴィットに向けられていた。その事に、オールマイトもずっと悩んでいたことを察する。
「……分かった。見させてもらうよ、彼を」
「……ありがとう」
ほんの1年前、何でも器用にこなし、底知れぬポテンシャルを見せつけてくれたイズク。それが、今ではどれだけ成長しているのか――少しずつ、それを楽しみにしているようになってることに、デヴィットは気がついた。
「えーと、それでこっちが技術科です」
「わあっ、技術科! 雄英では、一体どんな物が作られてるのかしら!」
技術科に案内すると、メリッサさんは今までで一番の反応をした。やっぱり、自分も技術者だからとても気になるのだろう。あちこち、物珍しそうに研究成果を見て回るメリッサさんの後ろに居ると、突如轟音が……
「うわわわわわわわわっ!? そ、そこの人っ、どいてくださいっ!?」
「っ!? フルカウル! 5%!」
ガジェットの暴走かっ!? 何だかブースターが暴走しているようだし、それを止めて……!
「わわわっ!?」
落ちてきた人をキャッチ! わわっ、お姫様抱っこになっちゃった!?
「~~っ、ありがとうございます、おかげで助かりました! いや~、ベイビーちゃんの機嫌がちょっと悪くなっちゃって!」
「へ? ベイビーちゃん?」
「はい! 私のベイビーちゃんたちです!」
そう言うと、外したブースターのところまで行く女の子。でも、その先にはメリッサさんも居て……興味深げに覗いていた。
「あ、回路のここの部分が……」 「分かるのですかっ!?」
うわっ!? 凄い早く食いついたっ!?
「えっ、うん、私も技術者だから……」 「それは凄いです! この子の特徴をすぐに掴むなんて! ささ、そっちの人もいっしょにぜひ来て下さい!」
「えっ? うわわわわっ!?」「きゃっ!?」
メリッサさんと二人連れ込まれたのは、メリッサさんの部屋とも又違う、秘密基地みたいな部屋。飾り気のない無骨な部屋だけど、見るだけでワクワクするような道具やガジェットが並んでいる
連れ込んだ女の子は、早速今のブースターの中身を開けて、メリッサさんと二人で色々と話し込んでいる。
「ここの構造が……」 「なるほど! こう変えると……!」 「あっ、こんな材質で加工できるんだ、凄い!」 「あなたのアイディアも、とても参考になります!」
とても楽しそうだ。でも……いったい、いつまでかかるかな?ちょっと嫌な予感がしたけど……結局その嫌な予感が間違うことは無かったんだ……。
混ぜるな危険な気もする、発目ちゃんとメリッサの顔合わせでした……。この二人が合わさると、果たしてどんなガジェットが出久君の元に届くことやら……