A組の面々がヒーローネームを決めている頃、オールマイトに1本の電話が入ってきた。知らない電話番号だ。
「(一体誰だ……?この番号を知っている人はあまり居ないはずだが……)」
首を傾げつつも、とりあえず出てみるオールマイト。
「もしもし、こちら八木ですがどなたでしょうか?」
「おお、お前か俊典。電話番号位教えておけ」
電話越しにも、聞き間違えのないその口調。途端、オールマイトの膝がガクガクと震え、冷や汗が吹き出てくる。
「ぐ、グググッグググググググラントリノっ!?」
「おう、俺だ。随分長い間連絡がなかったじゃねえか」
恐怖を刻まれているオールマイトには、積極的に電話をしたい理由がなく、忙しさにかまけて意識の外に逃していたのが実情である。
「ほ、ほほホホホホホ本日はどのようなご用件なのでしょしょしょしょしょうか・・…!?」
「おう! テレビで見たぞ! お前の弟子、緑谷出久! ありゃすげぇな!」
緑谷を褒められた瞬間、声の震えが止まる。
「ええ、私の――本当に自慢の弟子です」
「おお! まさかお前にも教師としての資質があったとは驚きだ!」
「も、ももももももモチロンデスヨ!」
途端、震えが再開した。
「……俊典?」
「ハ、ハハハハハイ!何でしょう!?」
「まさかとは思うが、ほとんど弟子が独力で力をつけたとか言わないよな……?」
体の震えがもっと大きくなるオールマイト。初めて見るそんな姿に周りは奇異の目を向けている。
「い、イイイイイイイイエそんな事はははははっはははは!」
「まあいい、それは本人に聞けば分かることだ」
「(た、頼む緑谷少年! 何とかとりなしを……!)……へ? 本人に?」
「何だお前、アイツの力を受け継いだ後継者を、俺に見せないつもりか?」
「いえそんな事は全く!」
緑谷の事を師匠の一人に伝えない……確かに、これは不義理なので何も言えない。
「まあ、急に連絡した訳はな、それだ、俊典」
「はい?」
「あんだけ活躍をしたんだ。お前の弟子に、オファーが大量に来とるんだろ?」
「は、はい……5121件の指名が来ています。リスト化するだけでも大変でした」
「そりゃ凄いな! ……だが、そいつらには悪いんだが、是非ウチに来て貰いたい。ワン・フォー・オールを使いこなしているのは、あの体育祭を見れば分かる。……だからこそ、会っておきたい。頼む」
「……分かりました。伝えておきます。尤も、彼は断らないでしょうが……」
「ありがとうな、俊典。さて、じゃあ俺はこれから準備をしてくる」
「準備?」
「最近あんまり活動しとらんのだ。ちょっくら勘を取り戻してくるぜ」
「は、はい、行ってらっしゃいませ!」
そして、通話が終わる。
「(し、師匠か……少年、無事で居てくれたまえ……)」
オールマイトには、ただ緑谷の無事を祈るしか出来なかった。
皆のヒーローネーム決めも終わって、今日も普通授業が終わってやっと放課後だ。今日も体育館γに寄っていこうかな?と思っていると……
「わわ私が独特の姿勢で来た!!」
わわわっ!? オールマイトがっ!?
「ど……どうしたんですか? そんなに慌てて……?」
「ちょっとおいで」
と、誰も居ない所に連れて行かれる。
「君に――特別な指名が来ている」
「え? と、特別……? どういう……」
「指名を入れたヒーローの名は、グラントリノ。かつて雄英で一年間だけ教師をしていた……私の担任だった方だ。そして、ワン・フォー・オールの件もご存知だ。そして、だからこそ君に来てもらいたいと願ったのだろう。他のオファーを押しのけてでも」
「そんな凄い方が……! っていうか、"個性"の件知ってる人がまだいたんですね!」
「グラン・トリノは先代の盟友……とうの昔に隠居なさっていたのでカウントし忘れていたよ……」
そして、ガクガクと震えるオールマイト。こ、こんな姿見たこと無いよ!?
「み、みみみ緑谷少年、お願いがあるのだががががが……?」
「な、何でしょう!?」
オールマイトの頼み事は断れない!
「そ、そのだね、君の個性の扱いは、是非私てずから色々と教えたことに……」
「…………オ、オールマイト……そ、その……ヒーローなんですから大事な人に嘘を吐くのは……」
「た、たたた頼むよ少年!? あ、あの人ガチで怖いんだだだだあ!」
ものすっごいガタガタ震えてる!?で、でも、う、嘘をつくなんて……!
「あ、それとそうだ、コスチューム!」
「!」
「あのUSJでぼろぼろになったコスチュームだが、あの結果を見てデイヴ達がコスチュームをアップグレードしてくれるらしい。改良し次第、超特急で送ってきてくれるそうだ」
「本当ですかっ!? でも、お金凄いかかるんじゃ……」
「それくらいは私が出すさ。むしろ、出させてくれ。――お金の工面は、私が君にしてやれる数少ない師匠らしいところだからね」
「オールマイト……やっぱり、あなたは最高の師匠です!」
「ああ、ありがとう! …………だからその、グラントリノには……」
「そ、それはダメです……」
「そ、そんな……」
そう言うと、オールマイトは震えながらトボトボと歩いていってしまった。
そして、職場体験当日。僕らは大きいターミナルへとやってきていた。ここで学校の引率は終わり、それぞれの場所へと別れていく。
そんな中、気になるのは飯田君だった。再起不能になったインゲニウム。自分に当てはめると、オールマイトがヴィランによって再起不能にさせられたようなものだ。何も思わないはずがない。……でも、でも、僕らには何も言ってくれなかった。
「……飯田君。本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」
「ああ」
返事をしてくれる飯田くんの顔に浮かぶのはいつもの笑顔。でも、僕はまだ不安を感じるのだった。
新幹線で揺られて45分、やってきたのは山梨県甲府市。スマホの地図アプリを頼りに歩く。歩いてる最中も、色々な人に声をかけられて、ついでに道も聞きつつグラントリノの事務所へ向かう。
「オールマイトすら恐れるヒーロー……"グラントリノ"聞いたことない名前だけど、すごい人に違いない!……ちがいな……」
指定された地図にあった建物は、4階建てのボロッボロな建物で、壁も剥がれ落ちて危ないのか、工事現場の衝立で囲われていた。い、引退してたって言ってたけどこんな場所に住んでるのだろうか……? と、とりあえず入ろう。
「雄英高校から来ましたー……緑谷出久です。よろしくお願いしま……ああああああああああっ!? し、死んでるっ!?」
「生きとる!!」「生きてる!!」
血糊と内臓かと思ったら、よく見たらケチャップとソーセージだった!?
「いやぁあ、切ってないソーセージにケチャップぶっかけてたやつを運んでたらコケたァ~~! 誰だ君は!?」
「雄英から来た緑谷出久です!」「なんて!?」「緑谷出久です!!」「誰だ君は!!」
や、やべェ!!オールマイトの先生だ……相当なお歳とは分かっていたけどコレは……
「飯が食いたい。飯が!!」
あああ、服が汚れるっ!?
「俊典!!」「違います!!」
「ま、まずい……オールマイトに連絡をしてきた時より急にボケちゃったのか……病院?老人ホーム?いや、まずはご家族に連絡を……オールマイトにも……」
「撃ってきなさいよ! ワン・フォー・オール!」「!」
「テレビで見たけど、実際に体感しておきたい!」
えっ、きゅ、急に何だ……!?
「や……えと……そんなことし「良いコスじゃん、ホレ着て撃て!……誰だ君は!?」うわああ!?」
だ、ダメだこの人、大外れだった!?
「僕は……早く!色々と学んでオールマイトを超えないといけないんです! もう、時間は残されていないから……! だからこん……おじいさんに付き合ってられる時間はないんです!」
途端、空気が変わる。後ろからの轟音と、数回の反射音。そして、出ようとした僕の頭上に来た。
「だったら尚更、撃って来いや受精卵小僧!」
さっきまでのはフェイク!? とりあえず、迷わずに!
「!?」
室内だし、最小限15%の力でコインを弾くように空気を飛ばす! それを、避けるグラントリノ。そのまま、上下左右内装が壊れるのもお構いなしに動きまくる。常に僕の死角に来るように! なら! 次に来るのはそこぉ!
「14%……キャッチ!」
屋内だし、衝撃波を出さない程度の速度で動かして、グラントリノを怪我させないように両脇をキャッチ!
「っ!? ……まさか、俺がとっ捕まるとはな……しかも、抑えてそれだろ?」
「は、はい……部屋を滅茶苦茶にしないように……」
「個性のコントロールもよぅできとる! 俺の個性を瞬時に把握と分析もしてるし、その判断も速い! うん、良いぞ君! 本気を出すと、どれ位まで出せる?」
「え、ええと……骨を折らない限界ギリギリが、大体50%程度ですかね……?」
「そのコスチューム、随分と金がかかってるようだが特注か?」
「は、はい! オールマイトがお金を出してくれて! I・アイランドのデヴィットさんとメリッサさんに作ってもらいました!」
「ほぅ! あの、オールマイトのスーツの開発者にか!そりゃいい! ガジェットもたくさんあるし、俊典とはまた違うタイプだな!」
こうして、色々なことを質問される。表情を見る限り、感触は悪くなさそうだ。
「―――で、だ。君はアイツがやらないいろいろな技を使っとるし、ガジェットも持っとるが……俊典の奴が教えたのか?」
あっ、オールマイトが怯えてた内容だ……で、でもウソは言えないし……
「あ、あの……こ、これ、全部自分で考えて……」
「…………あの野郎」
ひ、ひいっ!? グラントリノの目が剣呑にっ!?
「あっ!? で、でもでも! デトロイトスマッシュなんかはオールマイトの姿を見て「そりゃただの見稽古じゃろが!」ひぃっ!? おっしゃるとおりです!?」
す、すみませんオールマイト……お、怒られて下さい……。
「と、まあ今は良い。それよりも大丈夫そうなので、これを渡しておく」
「? これは……」
それは1枚のカードで、グラントリノの名前と顔写真が貼ってある。そして、手書きの名前欄。
「これは、職業体験生に渡す、仮免のようなものだな。俺の権限と責任で、職業体験の間、渡したものに"個性"の使用をしたヒーロー活動の許可をする。まあつまりだ、これを持ってヘマをやらかせば俺の責任って事よ」
「っ!」
これが、グラントリノの信頼の証……!
「良い目をしとる。説明の必要はなさそうだな。じゃ、早速行くぞ」
そう言うと、グラントリノは新しいコスチュームに着替え、事務所の入り口へ。
「へ? ど、何処へ?」
「決まっとるだろ。パトロールだよパトロール。ここは県庁所在地だからな。それなりに事件も発生する。グダグダした説明は必要ない、実戦形式で学んでいくぞ。さ、着替えた着替えた!」
「は、はい!」
グラントリノに渡された信頼の証に、初めてのヒーロー活動。その事に、僕は緊張とワクワクが止まらないのだった。
えー、本作品は爆豪アンチですが、もう一つのアンチ……ヒロアカ世界の制度へのアンチの登場です。
いくらなんでも殺されそうな人を助けたら問題になるとか、あまりに制限厳しすぎ&ヒーローにキツすぎる世界観です。
よって、こんな制度をでっち上げることに。この許可証を持っている間は、個性を使った活動ができますが、もしそれでなにか問題を起こしたら、許可を出したヒーローにも責任が及ぶ――そんな制度です。
これは、林間合宿時、相澤先生が皆に自分の責任に置いて個性を使うことを許可したことから思いつきました。
他は最低限、自分の身を守るためなら個性使ってもOKみたいな感じにしようと思ってます。