僕がヒーローをまた目指し始めてから、僕の周りは変わった。いや、正確には僕が変えたんだと思う。かっちゃんを殴り飛ばしてから、もう無個性だって事で正面からバカにしてくる子はほとんど居なくなった。
代わりに、物を隠されたり落書きされたりって直接じゃない方法に出てきたけど、そういうのはこっそりカメラを仕掛けてたら一発で捕まえられた。イジメは、犯罪。やられる方もやる方も何も良いことがないから、ヒーローを目指す人として止めておかないとね。
「そのイジメ、ちょっと待ったっ!」
そして、僕以外にされるイジメも、見つけ次第止めている事にした。目標は遠いけど、まずは出来る事から。身近に起きてる悪いことを止める。僕も含めてみんな子供だからこそ、強い個性の子は弱い個性の子をイジメる事がそれなりに有る。だから……
「何だよお前? 邪魔だからあっち行ってろ!」
「ん? テメェが緑谷か? おい、お前らやっちまえ!」
「無個性の癖に、ムキムキ、の俺の個性に勝てるもんか!」
こんな風に、だいたい喧嘩になっちゃうんだよね。怪我させないようにって、凄く難しい。こういう時は先手必勝!隠し持ってたこの手作り催涙弾を……
「シューーーーート!」
思いっきり投げつける!空っぽのクッキーの中に唐辛子とか胡椒とか混ぜて入れた簡単なのだけど、効果バツグン!
「ぶへっ!? ゲ、ゲホッゲホッ!? いたっ、からっ!?」
「て、テメー! ヒキョーだぞ!」
「ふざけやがって!」
打たれ弱いのか、ちょっとした反撃で動揺しちゃうみたい。まだ一人にしか当ててないのに。
「寄ってたかってイジメてるくせに何言ってんのさ! さっ、早く逃げて!もう大丈夫だよ!」 笑顔を見せることも忘れずにっと。
複数を一度に相手にするときは、まず数を減らすこと。だから出来れば遠くからまずは攻撃。銃も弓もボウガンもダメ、なら手で何かを投げる。怪我をさせないように、長引かないように、投げる物もよく選んで。
「どうだ無個性! 俺の個性のバネならそんな奴すぐ避け「シューーーーーート!」うえっ!?」
バネで大ジャンプして避けられた。同じくらいの歳なのに、僕の身長より高く飛んでる。でも、それが命取り。その着地際に縄跳びの縄と大きいスーパーボールで作ったボーラを投げる。足に絡まって……あ、転んだ。
「い、痛い……」
「寄ってたかって殴られる方は心も痛いんだよ!」
そう言いながら、おろおろしていた最後の一人を睨み付けると、気圧されたのか後ずさった。
「またイジメてたら、何度だって止めに来るからね。分かった?」
そう言うと、こくこくと頷く3人。うん、特性催涙弾もこの位の量と比率なら長引かないね。ふぅ、と一息をつくと、後ろから足音。振り向いたら、イジメられてた子。
「あ、あの、その……あ、ありがとう!」
「どういたしまして」
お礼の言葉に、ニッコリと笑って返す。多分、この言葉がヒーローの一番の報酬。
「す、すげー、あれがいじめられっ子のヒーロー、緑谷……」
「本当に無個性なのか……?」
何だか、僕もちょっと有名になったみたい。でも、無個性でこんな事やってたら当然かな?
ヒーローたちが相手をするヴィランより、ずっとずっと弱いけど、それでも個性持ちと無個性の差をすごく感じる。知覚とか、身体能力とか、攻撃手段とか、個性持ちは無個性よりただそれだけで強い。僕のお母さんの物を引き寄せる個性だって、本気で使われたら凄く強い個性だと思う。道のりは険しすぎるけど……だからと言って、諦めてなんてやるもんか。
それから月日は流れて小学生から中学生へ。小学校ではもうイジメをする子は居なくなったし、僕を真似てイジメを止めようって子たちも後輩にそれなりに出来た。だからこっちはもう大丈夫……と思ったら、やっぱり中学にもイジメっ子は居た。しかも、小学校で僕がやった事は有名になってるらしくて、通い始めて1週間で5回も体育館裏や校舎裏に呼び出された。
だから早めに呼び出された場所に行ってトラップを仕掛けたり奇襲したらあっさり片付けられたけど。小学生より、個性の使い方もより強力に、そして洗練されていっている。全くもう、やっぱり今は強力な個性を使いたい時期なんだなぁ。将来を台無しにしないよう、今のうちにちゃんと正さないとね。それに僕も良い訓練になるし。
ただ、中々治らない人もいるけど……。かっちゃん、今も喧嘩売ってくるんだよなぁ。もう中学も3年になるのに、ずっと、ずっと。殴り倒したあの日から、納得いって無いんだろう。あの手この手で突っかかってくるし、個性も使ってくるから怪我させないようにするのが大変。かっちゃん、警察に連れて行かれちゃう前にどうにかした方が良いと思うんだけど。そして、今日も……
「えーおまえらも三年ということで!! 本格的に将来を考えていく時期だ!! 今から進路希望のプリントを配るが皆!!! だいたいヒーロー科志望だねよ」
『ハーイ!』
テンション高く個性を剥き出しにしながら返事をするみんな。そして
「せんせえ―――!『皆』とか一緒くたにすんなよ!」
相変わらず全方位を見下して喧嘩を売ってるかっちゃん。机の上に土足で乗っちゃって独演会……相変わらず行儀悪いなぁ。
「あ、そいやあ緑谷も雄英志望だったな」
その言葉で、途端に静かになる教室。そして睨みつけてくるかっちゃん。先生、何もこんな所でバラさないでも……ああ、ほらやっぱりこっちに向かってきた。
「こらデク!!!」
僕の机を爆破しようとするから、横に……ずらしたら他に当たっちゃうな。ああ、机が焦げた……
「"没個性"どころか"無個性"のてめェがあ~、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」
ちらりと左右を見渡すと、クラスの半分は似たような事を思ってるんだろう。だから言ってやる。
「意志と、そして憧れ」
「はぁ!? それで、てめェが何をやれるんだ!?」
血走った目で叫んでくるかっちゃんに、言ってやろう。
「君に、勝てる」
その言葉の効果は劇的だった。
「う・る・せええええええええっ! てめぇは、俺より下なんだよおおおおおっ!」
叫びながら手を振り上げてくるから、机を蹴り上げて視線を塞ぐ。それから身体を足元に滑り込ませて、足払い。そして打ち付けないように顔と腕を押さえつける。
「ねえ、かっちゃん。こんな事してたら受験どころか警察に捕まっちゃうよ? もう、止めようよ」
「うるせえ! てめェは、てめェごときに、てめェなんかに……!」
どうして、こうなっちゃったんだろう? 昔は一緒に遊んでたのに。先生も面倒そうに僕らを止めてくる。
「あ~、二人共だな、もう止めなさい。ほら、爆豪も戻って」
「チッ!」
机や散らばったノートなんかを戻して……と。はあ、ヒーロー目指すのも大変だ。
放課後、スマホでニュースを見つつ今日のトレーニングの予定を考えているとまたかっちゃんが寄ってきた。
「話はまだ済んでねーぞデクゥ!」
「何なの? 僕、これでも忙しいんだけど」
「無駄な努力にかぁ? 一線級のトップヒーローは大抵、学生時から逸話を残してる。おれはこの平凡な私立中学から初めて! 唯一の! 『雄英進学者』っつー"箔"を付けてーのさ。ま、完璧主義な訳よ」
「で?」
我ながら冷たい目で睨むと、更にかっちゃんはキレ気味になりながら言葉を続ける。
「つーわけで一応さ、雄英受けるなナード君」
「嫌だ」
「っ~~~~~~! てめぇ、てめぇは、何処までも、俺の、邪魔を……!」
「邪魔なんかしてない、何時も突っかかってくるのは君だろ!」
「うるせえ! そんな無駄な努力するより、来世は"個性"が宿ると信じて屋上からワンチャンダイブでもしやがれ!」
そんな捨て台詞を吐いて友達と行ってしまった。あ、あの、かっちゃん、それ僕が飛び降りてたら自殺教唆で下手すると殺人罪だよ?
ため息を吐きつつ、いつもの道を帰る。偏差値79、そして実技テスト……。勉強は何とかなるけど、実技はガジェットを持ち込めるのかな?そんな事を考えていると、ふと変な音が足元からする。咄嗟に、飛び退いたところを、ヘドロ色の何かが通った。
「へぇ、勘が良いじゃねぇか……」
この獲物を見るような目、間違いない……
「大丈ー夫、身体を乗っ取るだ……へべっ!?」
ベルトに下げてたポーチから、催涙弾を目と口へ放り投げる。この、投げる練習はずっとやってきた。外しはしない!
「て、てめええええええ! ふ、ふざっ、ふざけやがってえええええっ!?」
やっぱり、感覚器官が残ってる個性なら刺激物は有効!そして、ただ己の力に溺れてるヴィランは、こういう痛みや刺激の中では集中力を保てない!でも、次はどうする……? 敵は液体、掴めない、拘束できない、パワーは高い。ひとまず、電話して逃げ回るしか無い! そう思ってスマホに手をかけると、その人は僕の前に現れた。
「もう大丈夫だ少年!! 私が来た!」
聞き間違えるわけがない。僕が、憧れ続けた、最高のヒーロー……
「オールマイト!」
「HAHAHA! 私のファンかね? ではご期待に応えよう!」
「TEXAS SMASH!!」
速い! 一瞬で通り過ぎる右の拳、それだけで巻き起こる圧倒的な風圧、そして目にも止まらない回収作業。これが、ヒーローの最高峰!
「あ、あのあの、ありがとうございました! ぜ、ぜぜぜ是非コレに……」
とりあえずサインサインサイン! そう思ってノートを取り出すと一瞬で僕の前に来てサインを書き上げる。さ、流石だ!
「HAHAHA! この位お安い御用さ少年! しかし、さっき投げた物は何だね? ああ言う物は大抵ヴィランを怒らせるから感心しないよ?」
「え、えっと、手作りの催涙弾です。4年前、何も出来ずに拐われちゃったから……」
「なるほど、確かにこんな時代では自衛の手段を持つのも当然かも知れないね、ヒーローとして情けないことでは有るが……って、んんっ?」
僕の顔をじ~と見るオールマイト。どうしたんだろう?
「4年前、この街……拐われた……少年、もしやとある研究所に拐われた少年と言うのは!?」
「あっ、は、はい! 僕です!」
「そうか、無個性の……」
「え、えっと、オールマイトは何故知ってるんですか?」
思案するオールマイトの顔はレアで写真を撮りたくなるけど、とりあえず今は本題の方が大事だろう。惜しいけど、すっごく惜しいけど!
「……君を拐ったヴィラン達は私が追っているヴィランと関わりが有ってね……。あそこで行われていた研究も、正に悪夢としか言い様がない物だった」
「悪夢、ですか……」
今でも思い出せる。力を手に入れた代わりに、崩れていく身体。強すぎて多すぎた力の代償。そして、豪華絢爛な、あのヒーローを。
「そう言えば、君は登録の無いヒーローに救けられたんだったね。彼らの実力は、控えめに言ってもとんでもなかった筈だ。しかし、あの事件以外、どんな記録を調べてもあんなヒーローは見つからない。だから、君に聞きたいんだ。彼女は、どんなヒーローだったんだい?」
「凄く、綺麗な人でした。服装はボロボロで、くたびれてるはずなのに、笑顔で。何よりその戦い方は、どんなヒーローとも違っていました」
「ほう、どんな感じだったんだい?」
「武器を使い、技術を磨き、地形を利用して、敵を操って戦術を行使する……。謡うように、踊るように、戦ってました。離れて見ていたけど、それは……まるで、神話の様でした」
「そうか。君は彼女に憧れたんだね……もっと聞かせてくれるかい?」
「はい!」
そうして、人目につかない所であの日見たことを話した。あの人の言葉、表情、戦い方、武器の使い方、足運びまで。あの日見た戦いは、僕の魂に焼き付いていた。
「……色々とありがとう、少年。色々と、興味深い話が聞けた。しかし、人工的な個性の譲渡に付与、やはり奴の……ゲフッ!?」
いろいろと考え込んだと思ったらオールマイトが……血を吐いた!?
「お、オールマイトオオオオオッ?!」
血を吐いたら煙が出たかと思うと、オールマイトが居た場所にはガリガリの……骸骨!?
「お、オールマイト、その姿は……!?」
「驚いてるけど、私と認識してくれるのだね。そうだな、君になら話してもいいだろう。あれは……」
それから、オールマイトに教えられたのは5年前の戦い。オールマイトにその傷をつけたヴィランこそ、僕を拐った連中と関わりのある奴だったんだ。そして、今では1日3時間しかヒーロー活動が出来ない事、オールマイトの信念、うちに秘めた恐怖など……。
「プロはいつだって命懸け……"
最高のヒーローからの否定の言葉。10年前からずっと分かってた現実、だけど。
「はい。だからどうした、です! 諦めてなんて、やりません!」
まっすぐオールマイトを見据えると、ほんの少しだけ、優しく微笑んでくれた。
「そうか……君の行く末に、幸多からんことを祈るよ、少年。では、またな……」
歩いて去っていく背中。あの、筋肉に包まれた姿より随分と小さくなってしまったけど。その背中は前よりもずっとずっと大きく見えた。……って、あ、フォームを戻して飛んでった!? あ、時間はちょっとだけ残してたんだ……。
オールマイトに救けられ、サインを貰った帰り道、商店街前へ差し掛かった時、突然大きい爆発音が聞こえた。でも、聞き覚えが有るような……まさか、かっちゃん!?慌てて野次馬の居る方へ近づいてみると、さっきとは違う色のヘドロ。まさか、双子なんだろうか!? 取り込んで、かっちゃんの個性を利用してるから爆風であちこちに被害が出て、ヒーローも迂闊に近寄れない。しかも、周りにいるヒーローは相性の悪い個性ばかり。近くにいるであろうオールマイトはもう活動限界。どうすれば……
「が、があああああああっ!」
その時、遠くから見えたのは、かっちゃんの、本当に助けを求める顔。そうだ、こんな時……救けないで何がヒーローだっ!
近くのコンビニへ突撃して……有った、激辛スナック!そして義務付けられてる消火器!
「すいません、お金後で払いますからちょっと待ってください!」
「なっ!?何するつもりだ!?」
「人助け、です!」
そう叫んでハバネロを開けて中に消しゴムを放り込む。たっぷり粉をまぶして手に持って、突撃!
「馬鹿ヤロ――!!止まれ!!止まれ!!!」
「何だあのガキ」 (デク!!?)
何か有れば当然こっちを向く!そこを狙って!
「シューーーート!」
目に、直撃させるっ!
「GYAAAAAAAA!?」
目への刺激物の直撃! これで拘束が緩んでかっちゃんの口が出たっ!
「なっ、で、デク、何でてめェが!!」
「君が、救けを求める顔してた!」
「やめっ……r……」
「大口開けてくれてありがとうっ!」
その馬鹿口に、一袋全部突っ込んでやる!
「辛ええええええええええええええ!!!」
更に暴れて、拘束が緩む! 最後のダメ押し消火器っ!ヴィランとかっちゃんの間にホースを差し込んで
「離れろおおおおおおおおおっ!」
噴射させながら全力で引っ張って……取れたっ!
「こ、の、デクっ、俺は別に一人でもっ……!」
「後でいいから、逃げるよ!」
手を引っ張って避難をしようとしたら、直ぐ側に、一陣の風。
「君を諭しておいて……己が実践しないなんて!!!」
もう、活動限界の筈なのに……!これが、プロの覚悟か!
「プロはいつだって命懸け!!!!!!DETROIT SMASH!!!!!!」
僕とかっちゃんを確保しつつ、たった一撃で、ヴィランを吹き飛ばして風圧で天候まで変えちゃった。周りは熱狂的な歓声……と、僕に怒った顔で近づいてくるヒーロー達。
この後散ったヴィランはヒーローたちに回収され、オールマイトの1本と一緒に無事に警察に引き渡されたみたい。そして僕には凄いお説教。プロのヒーロー達が、本気で僕の身体を心配して怒ってる。あ、でも激辛スナックと消火器の代金は勇気に免じてってことで立て替えてもらっちゃった。色々と凄く、申し訳ない。そして逆に称賛されるかっちゃん。確かに、あのヴィラン相手に粘ってたのは凄い。サイドキックにも誘われてるし、性格さえどうにか出来たら将来は安泰……かな?
帰り道、かっちゃんがやってきてお礼を言われるかな……と思ったら自分で助かれた、か。プライド、また傷つけちゃったと思うけど、救けたことは間違ってないと思う。さて、改めて帰ろ「私が来た!!」 「わっ!?」
「オールマイト!? 何でここに!?」
「抜けるくらいワケないさ!! なぜなら私はオールマゲボォッ!!!」
「無茶しないでくださいっ!?」
心配したけどいつものことなのか落ち着いて血を拭うと、オールマイトはまっすぐこちらを見てきた。
「少年、礼と訂正、そして提案をしに来たんだ」
「?」
「君が居なければ…君の身の上を聞いていなければ、口先だけのニセ筋となるところだった!!ありがとう!!」
「に、ニセ筋……い、いえ、こちらこそ仕事の邪魔して、迂闊に飛びだしちゃって……」
「そうさ!! あの場の誰でもない、"無個性"の君だったから!!! 私は動かされた!!」
頭の中がごちゃごちゃする。言いたいことが湧き出てくるけど、胸がドキドキして止まらない。
「トップヒーローは学生時から逸話を残している……彼らの多くが、話をこう結ぶ!!『考えるより先に体が動いていた』!!と」
思い出したのは、もう一人、心に残っているヒーローの姿。
「君も、そうだったんだろう!?」
「……はいっ!……」
個性を調べた日、あの時お母さんが言ってくれなかった言葉。あの日、もうひとりの最高のHEROが、僕に言ってくれた言葉。それを、
「君は、ヒーローになれる」
諦めていた夢、再燃した夢、そしてそれは今、最高のヒーローにも、認められたんだ。
これが、僕の――オリジン
本当は1話の次の日に投稿しようとしたのですがかなりの難産でした……。いや、話の大筋は出来てたのですが1巻を見返すと爆豪の所読むのが凄い苦痛で……。もうちょっとこう、どうにかならなかったんでしょうか?
ともあれ、これにてオリジンは終了。次話から個性を譲渡され、緑谷君の大幅パワーアップが始まります。