豪華絢爛たる緑谷出久のヒーローアカデミア   作:両生金魚

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保須市、炎上

 職場体験の3日目、早朝4時。昨日の深夜から続けていたパトロールがやっと終わった。昼寝していたとは言え、すっごく眠い……。田舎だから、犯罪もちょっとした暴走車とかそれくらいで、やることは殆ど無かった。けど、全く知らない街の深夜の寝静まった姿は、それはそれで凄く珍しくて興味深かったかけど。

 

「ふぁ……」

 

 あ、思わずあくびが。

 

「退屈だったか緑谷?」

 

「え、えっと……正直、あまり事件が起きなくて割と退屈でした」

 

 サー・ナイトアイがこっちを見て聞いてきた。下手な誤魔化しなんかはしないで、本音を話すほうが良いだろう。きっとそれが聞きたいはずだし。

 

「うむ。ヒーローの敵の一つが、この退屈だ。ヒーローは四六時中仕事があるわけでもなく、また事務所待機で居ることも多い。その様な心に隙が出来る時間を、どう消化するかもヒーローの手腕の一つだ。今の内から慣れておくと良い」

 

「は、はい! 分かりました!」

 

 プロヒーローだからこその視点や、実際に起きる問題のアドバイス……サー・ナイトアイとグラントリノの二人の指導は、全てがとても勉強になる。だからこそ、3日目の体調も万全にしないと。歯を磨いて着替えて、ぐっすり眠る準備はオッケー。

 

 そして、起きたのは丁度お昼。顔を洗って歯を磨いて。皆になにか有ったかスマホチェック。

 

"よう、緑谷。実はサー・ナイトアイの所行ってたんだな" "グラントリノって、サー・ナイトアイの別名?" 

 

 あ、あれ? 何人かに誤解されてる……って、理由が何となく分かっちゃう……。グラントリノって検索してもあんまり情報出てこないし、それに比べてサー・ナイトアイは現役活躍中のヒーローだし……。

 

 SNSのまとめサイトを見ると、僕がサー・ナイトアイと一緒に写ってる写真が結構乗ってた。……引退してて、ネットにも乗ってない横の小さいご老人が本命ってそりゃ思われないよね……。

 

「何か失礼なことを考えとりゃせんか?」

 

「い、いえいえそんな事はっ!?」

 

 流石ヒーロー、勘が鋭い!?

 

「まあ、疲れが残っとらん様だったら良い。今日は夜の渋谷に繰り出すから書類仕事は終わらせとくんだぞ」

 

「は、ハイカラな街にコスチュームで……!?」

 

「おう。ヒーロー同伴でなきゃ着られん服だろ? 最高の舞台で披露できるのを喜びんさい!」

 

「はい、分かりました!――てなると……甲府から新宿行き新幹線ですか?」

 

「うん」

 

「(保須市、横切るな……飯田君、大丈夫だろうか……? ちょっと連絡を入れてみよう)」

 

 僕がそう思っていると、エプロン姿で昼食を作ってくれていたサー・ナイトアイが顔を出して「おはよう緑谷。昼食を食べたら早速書類作成だ」なんて言ってくれた。サー・ナイトアイの手料理とか超レア……!? そう思うと、僕は急いでリビングに向かうのだった。

 

 

 

 一方その頃、保須市にいた轟と夜嵐の二人は暇を持て余していた。エンデヴァーが"ヒーロー殺し"に狙いをつけての出張及びパトロールであったが、当然現地のヒーローたちも警戒している。いわば街中が厳戒態勢のようなものであるので、一般のヴィランも鳴りを潜めていた。

 

「よし、そろそろ昼だ! 各員昼食にするぞ!」

 

『はいっ!』「オッス!」「……あぁ」

 

 人間としては不信感を持っているが、時々起こる"個性"犯罪の対処の素早さ、判断力、事後処理の的確さなど、ヒーローとしての実力には舌を巻かざるを得なかった。万年No.2と揶揄さえされるが、逆に言えば、上にはオールマイトしか居らず、ずっとNo.3以下を寄せ付けさえしなかったその実力は本物なのだ。

 

「……お前、何を食う?」

 

 そんな中、ふと隣のデカくてうるさいのに何気ない会話を振ってみる。熱くてまとわりついてくる奴だが、悪い感情は抱けなかった。

 

「そばにしてみるッス! ザルの!」

 

 どうやら、自分の好物を試すらしい。まったく、何処までも愚直な奴だと思う。だけど――

 

「……そうか。じゃあ、俺は温そばにしてみるか」

 

 そんな奴に、何故か影響されていた。

 

「おっ!? これは親友への第一歩ッスか!?」

 

「………………………違ェ」

 

 否定する轟。だが、否定するまでにたっぷり10秒はかかったのだった。

 

 

「何だと!? そばか! よし、お前ら! そばを食いに行くぞ! いい店にだ!」

 

 そう言うと、スマホでおすすめの店を探し始めるエンデヴァー。

 

『(……社長、割と親バカだよな……)』

 

 それを、やや呆れる目で見るサイドキック達。普段は厳格で有能で、怖く感じるヒーローだが、自分の息子と……その友達にだけはどうしていいか距離感を測りかねている様だ。

 

「ほら、焦凍!この店なんかどうだ!」

 

 親父から差し出されるスマホを見れば、実に美味そうな店だった。それも高そうで、自分としても興味がある。

 

「………………………………………………そこでいい」

 

 親父の言う通りにするには癪を通り越して嫌悪の極みだが、それでも食欲には勝てない。否定する材料も無いし、消極的賛成だと轟は自分に言い訳を聞かせつつ、蕎麦屋に向かった。

 

「いらっしゃいませ……って、エンデヴァー!?」

 

 がやがやと、料亭の雰囲気を感じる高そうな蕎麦屋に入るエンデヴァー御一行。時々、ヒーローが来ることも有るが、流石にNo.2ヒーローの来店には面食らう。おまけに、沢山のサイドキック達も同伴であった。

 

「エ、エンデヴァー……?」「ウッソだろ!?この街に!?」「すげぇ! サイン貰えるかな!?」「お、あっちには雄英の学生も居るじゃん!」「この前の体育祭、凄かったぞー!」

 

 途端、一斉に沸き返る店内。その人気を見て、二人共改めてエンデヴァーが凄まじいヒーローなのだと実感する。……尤も、気に入らない様な目をしている人も居るのにも納得したが。

 

「しょ、少々お時間をいただきますが大丈夫でしょうか?」

 

「この人数で来たのだ。承知している」

 

「では先にご注文を取らせていただきますね」

 

 そう言うと、テキパキと注文をこなしていく店員さん。皆がそれぞれ席につくと、思い思いに注文する。

 

「俺ざる!」「俺はおろしそば!」「鴨南蛮を……」「ランチセット、カツ丼付きで!」

 

 普段は凛々しいヒーローたちだが、やはりお腹が空いたら美味しいものを食べたいもの。普段見えない微笑ましいレアな光景に客達は沸き立つ。そしてエンデヴァーは……

 

「ざると温そば、それとカツ丼を」

 

 どうやら、二人が頼むものを頼むようだ。思わず、目を見合わせる轟と夜嵐。この人は、何処まで不器用なんだ……。見れば、エンデヴァーはチラチラとこちらを見ている。

 

「……何か、意外ッスね、エンデヴァー」「………………」

 

 ぽつりと呟く夜嵐に、顔を背ける轟。憎い憎い父の一面が意外過ぎて、思考が停止してしまう。

 

「はい、お待たせしました。ざるそば特盛と、温そば大盛りです。ごゆっくりどうぞ」

 

「どうも!」

「ども」

 

 そしてやってくる二人の注文。それぞれ、口をつけ始める。いつも食べてる物とは違う温かさ。でも、それだけで印象がこうも変わる。

 

「美味いッス!やっぱりザルもいいッス!」

 

 美味そうにズルズルと食う夜嵐に、やっぱりざるのほうが良かったかと思いつつ、温かいそばを口に運ぶ。温かさと香りが口いっぱいに広がり、そばの香りが柔らかく感じられる。

 

「どうスか! 美味いッスか!?」

 

 うるさく聞いてくる夜嵐。だけど、まあ……

 

「……悪くねぇ」

 

 ズルズルと、そばを腹に入れていく轟。本当は美味かったけど、本当のことを言うのも、癪だった。

 

「かーっ! でもまあ、近づいた気がするッス!」

 

「…………かもな」

 

 今度は、否定はしなかった。

 

 全員が食べ終わると、エンデヴァー持ちで会計を済ませる。大きい金額をカードで支払うエンデヴァーに、近づく一人の子供。

 

「どうしたんだ?」

 

 見下ろすと、ちょっとびっくりして一歩下がるも、意を決したように色紙とペンを取り出す少年。

 

「あ、あの! ずっとエンデヴァーのファンでした、サイン下さい!」「!」

 

 サインをねだる子供に、一瞬固まるエンデヴァー。その子の目を見た。純粋に自分に憧れる、温かい目。ふと鏡で見た、絶対零度の己の目とはまるで違う。

 

「(今まで、何も見えていなかったのか……)」

 

 遠くを、先を、オールマイトを、絶望を見続けてきた。ずっと変わらぬNo.2の地位は呪いだとさえ思っていた。だが――

 

「(私は、こんなにも見られていたのだ!)」

 

 あまりにも簡単で自明の事だった。自分も、憧れられるヒーローだったのだ。

 

「…………ああ、分かった」

 

 ゆっくりと色紙を受け取り、そこに自分のヒーロー名を書いていくエンデヴァー。普段サインなどまるでしなく、オールマイトと比べあまりにも下手なサインが書かれる。

 

「(……こんな所も、奴に劣っていたのか)」

 

 だが、その下手くそなサインを貰った子は、満面の笑みを浮かべると胸に抱いて「ありがとうございます!」と言ってくれたのだ。

 

「……どういたしまして」

 

 そんな光景に驚愕する一同。

 

「あ、あの……是非うちの名前を書いたサインも……割引しますんで……」

 

 すると、恐る恐るこっそりよって来た店長からも

 

「あ、あのエンデヴァー! 是非これにサイン欲しいです!」

 

 ヒーロー雑誌のエンデヴァーのページを広げ、写真を見せるサラリーマンも

 

「しゃ、写真一緒に撮っていいですか!?」

 

 お昼を堪能していたOLからも。沢山の人が、エンデヴァーに群がる。

 

「あ、ああ、分かった! 並んでくれ!」

 

 押し合いへし合い、サインを求められる経験なんて無かった。拙い対応で、下手くそなサインを書くエンデヴァー。そうか。

 

「(これこそが、ヒーローなのか……!)」

 

 慣れぬ歪んだ笑を浮かべるエンデヴァーを、見続ける夜嵐と轟。少しの後、血が出るほどの勢いで自分の顔をぶん殴る夜嵐。

 

「エンデヴァー!!!!!」

 

「何だ?」

 

 振り向いたら血を流している姿に少し驚きつつ、不思議に思う。こちらを見る目が少し、変わっていた。

 

「――俺も、サイン欲しいッス! 後で書いてくれるッスか!?」

 

「………………ああ。勿論だ」

 

 かつて拒絶した相手。――だが、もう一度だけ、自分を見てくれるようだった。

 

 

 

 午後5時50分、グラントリノとサー・ナイトアイ、緑谷は新幹線の席に座っていた。そして、そこで行われているのは濃厚なオールマイトトークであった。

 

「僕はこの顔もいいと思いますね」

 

 そう言うと、顔をオールマイトの笑顔に変形させる緑谷。だが、普通とほんのちょっぴりだけ違うようだ。ぶっちゃキモいとグラントリノは思ったがツッコミを入れてくれる人は誰も居なかった。

 

「ほう、"ビネガースーサイド事件"か……中々良いところをチョイスするな」

 

「はい!インタビューで事も無げに答えるけど、それでもほんのちょっとしみちゃう顔の歪み具合が何時もと違って凄いレアで……」

 

「うむ。救けられた中学生への返しのセリフが実に彼らしいウィットさに富んでいたな」

 

「はい!「こちらこそ君のお陰でお肌10歳若返ったよ」って!」

 

「「お肌」というところが実に彼らしい言葉のチョイスだ。これだけで可愛ささえも引き立てる。やはり彼は凄い……」

 

 基本、同じ趣味の話が合うオタクトークというのは際限が無い。緑谷は、本人も居るし友達とも出来なかったうっぷんを晴らすように。サー・ナイトアイは久々に自分の会話に着いてこれるレベルのオールマイトオタクで有る緑谷との会話にのめり込むように、オールマイトトークを続けまくっていた。そして横のグラントリノはいい加減辟易している。周りの客の、オールマイトオタクも戦慄するレベルの知識の深さのガチトークである。一人ほっとかれて寂しい老人であった。

 

 

 ―――が、その平穏は唐突に破られた。突如、轟音とともに一人のヒーローが新幹線の外壁を突き破り、反対側の壁へと叩きつけられる。凍りつく車内、だが――

 

「「「!!」」」

 

 瞬間、ヒーロー二人と見習い一人は、即座に戦闘態勢へと移行する。そして、姿を確認した緑谷は驚いた。見間違える筈のない、異形の姿。あれは……

 

「脳無!?」

 

「小僧、フォローを頼む!!」

 

 年季の長さから培ってきた判断力は、一瞬であの異形を驚異と判断する。すると、グラントリノは一発で脳無を車両の外に押し出す。

 

 あっという間に見えなくなったグラントリノだが、即座にHALを起動すると、緑谷も追いかけようとする。

 

「サー・ナイトアイ! 無線は常時ONにしておくので、ここの収拾と情報収集をお願いします!」

 

 そう言うと、周波数を書いたメモを渡し、新幹線から飛び出ていった。

 

「了解した!」

 

 まずは、叩き込まれたヒーローの所に走る。どうやら命に別状はないようだ。次に、事態の収拾を図る。

 

「い、一体何が!?」

 

 慌ててやってきた車掌に、話しかける。

 

「失礼。私は偶然同乗していたヒーロー、サー・ナイトアイと申します。少し車内無線をお借りして宜しいですかな?」

 

「ひ、ヒーローですか!? ぜ、是非お願いします!」

 

「サー・ナイトアイ!」「ヒーローだ!」「助かるぞ!」

 

 いざという時、ヒーローはその名だけで人々に安心感を与えられる。勿論、彼は最大限自分の名を利用するつもりだ。無線を受け取り、車内に放送を入れる。

 

「皆さんこんばんは。私は偶然同乗していたヒーローで、名をサー・ナイトアイと申します。この車両を襲ったヴィランは、プロヒーロー・グラントリノと更に、雄英生の緑谷出久の手によって車外の遠い所へと隔離されました。よって、この車両は安全です。皆様、パニックにならぬよう落ち着いて行動して下さい。繰り返します――」

 

「サー・ナイトアイだって!? 凄いヒーローだ!」「緑谷出久って、あの……体育祭で1位を取った!? 凄い、さすがだ!」「新聞で見たぞ! 流石雄英トップだ!」 「流石ヒーローだ!」

 

 サー・ナイトアイの言葉に、急速に車内のパニックが収まっていく。それを確認したら、無線を車掌に返した。

 

「ご協力ありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそこんなにも早く対処していただきありがとうございます。何か出来ることはありませんか?」

 

「このヒーローは怪我を追っていますので、災害現場に対応できる救急隊の要請を」

 

「はい、分かりました!」

 

 車掌もプロである。この様な災害や犯罪への対応は、マニュアル化されており、乗務員と合わせテキパキと行動していく。

 

「(こちらはもう大丈夫だ――頼んだぞ、グラントリノ・ゴージャスグリーン。それに――)」

 

 先程、緑谷の名前を出した時、それだけで車内の空気が変わったのを感じた。既に、もうその名前だけである程度の安心を与える事が出来る事を成し遂げたのだろう。

 

「(その名は、君に栄光をもたらす。だが――確実に深い闇も呼び寄せる。どうか、無事で居てくれ……)」

 

 そう思うと、サー・ナイトアイはノートパソコンと無線を横に起動させ、飛び込んできたヒーローの治療を始めるのだった。




エンデヴァーは、所謂、爆豪と同じく初期でやりすぎたキャラの一人だと思います。爆豪の事も、作者は「やりすぎた」って言ってましたし……。
まあ、エンデヴァーは反省しまくってるのに爆豪は全くお咎め無し何で、その差が酷いとは思いますが。
ともかく、エンデヴァーはこれから己の過ちを償い、許されずとも変わっていくのでしょう
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