豪華絢爛たる緑谷出久のヒーローアカデミア   作:両生金魚

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区切りどころが見つからず、結局こんな長さになってしまった……


保須市の長い夜

東京にほど近い場所にある、保須市。そこそこの人口を抱えてそこそこ栄え、ヒーロー殺しの脅威は有るものの一般市民には平和だったその街は爆発が起き、多数のヒーローが脳無と乱戦をしている、個性災害地域となっていた。

 

「ガチ戦闘は何年振りかな。まったくとんだ巻き添えだ! はっちゃけやがって! 何だお前!?」

 

 吹き飛ばした脳無と相対するグラントリノ。だが、その不気味な4つの目からは何の知性も感じられない。

 

「くっ!」

 

 獣の様な姿勢からの右手の一撃をジェットで躱すグラントリノ。

 

「(速い! が、まだまだ対応圏内!)」

 

 だが、知性のない相手に後ろに回ったのがまずかった。興味をなくした脳無は、そのまま後ろに居た市民へと襲いかかる。

 

「(見境なしか!)」

 

「やめとけ この……!」

 

「うおおおおおおおおっ! 間に合ええええええええええええっ!!!」

 

 だが、グラントリノが攻撃する前に、風と炎が通り過ぎていく。風は市民を舞い上げ安全圏へと運び、炎は脳無を焼く。

 

「もう大丈夫! 市民、救出完了ッス!」

 

「よくやってくれた、"レップウ"。ヒーロー殺しを狙っていたんだがタイミングの悪い奴だ……存じ上げませんがそこのご老人、"俺達"に任せてもらおう」

 

「あ! あなたは!! マジ!?」「何でここに―――……」

 

「ヒーローだからさ」

 

 そう言うと、下手な笑顔で笑いかけるエンデヴァー。そして、その後ろには轟と夜嵐が居た。二人共息を切らせているが、エンデヴァーは事も無げだ。基礎体力の差も、思い知らされている二人だった。そして、もう一人この場にヒーローが到着する。

 

「グラントリノオオオオオオオッ!って、ええええっ!? エンデヴァーに、夜嵐君に轟君!? どうしてここに!?」

 

「君は――」

 

「そりゃこっちのセリフッス! 何でこんな所に!?」「お前は甲府に居たはずだ」

 

「東京に向かっている最中の新幹線の丁度真ん前に、この脳無が突っ込んできたんだよ!」

 

 驚くエンデヴァー一行。だがそれよりも――。

 

「むっ、虚仮威しの低温とは言え、意識を保ったままでいられるのは初めてだな」

 

「グラントリノ、エンデヴァー! コイツは様々な個性を複合して持ってます! 前のはオールマイトの100%にすら耐える衝撃吸収と、再生能力を持ってました!」

 

「何ぃ!?」「チッ!厄介な! 並のヒーローたちでは苦戦するぞ!」

 

 オールマイトの100%にも耐える。その情報はどれほど衝撃か。だが、目の前のは低温の炎でもダメージを負っている。だが、それでも楽観していられるのは自分がNo.2だからであり、並のヒーローでは命すら危ないだろう。

 

「とっとと焼き尽くすか……!」「いや、お前さんの個性は周辺への被害が大きい!」

 

 そう言うと、加速・減速・加速の3噴射からの一撃で、脳無を押し潰す。その一撃で、脳無はノックダウンしたようだ。あまりの威力に、アスファルトの地面が粉々に砕け散る。

 

「道路割っちまった……久々だと加減がなァ……」

 

「何だ、この程度か? コレじゃオールマイトに苦戦すらさせられんじゃないか」

 

 事も何気に倒したグラントリノに、驚く他4人。

 

「すげぇ、すげぇッス! グラントリノ!」「こんなに凄かったんだな……」

 

 緑谷から初めて聞いた名前のヒーローの実力に驚く二人。脳無は、彼ら自身も見ているから尚更だ。身長の低い老人だが、人は見かけによらないとはこの事だろう。

 だが、ホッとしたのもつかの間、少し離れたところから爆発と叫び声が聞こえる。先程ヒーローが集中していた区画であり、だからこそエンデヴァー達は任せていたのだが、それほどまでにこの脳無といった連中のスペックは高いのだろうか。

 

「チッ! そちらに向かいたいが誰かが拘束せねばならん……!」

 

「ワシに任せろ! サー・ナイトアイも呼んで一緒に拘束しとく! お前たちは早く向こうへ!」

 

「はい、分かりました!」「うっす!了解ッス!」「ああ」

 

 その指示に従う学生3人。エンデヴァーも、その方が良いと思ったようだ。

 

「ご老人、そちらは任せる。緑谷君! レップウ! 君らは先に向かってくれ!」

 

「はい! それと、僕のヒーロー名は、"ゴージャスグリーン"です! 行こう、夜嵐君!それと背負うよ、轟君!」

 

「悪ぃ、任せる」

 

 そう言うと、緑谷は轟を背負い、夜嵐の風を受け加速し、3人共爆心地へと向かっていく。その背中はまるでプロヒーローのように頼もしかった。そして――脳裏によぎるのは、オールマイトの姿。あの、いつまでも追いつけない背中……。だが、オールマイトと違うのは、その周りには友人たちが居た事だ。

 

「……"ゴージャスグリーン"か……」

 

 走りながら、ふと思う。自分の息子も、レップウも、ゴージャスグリーンも皆ヒーローとして育っている。もうすぐ、次代に託せる日が来るのではないかと。だが、それはまだだ。彼らのためにも、まだ自分のようなものが先でこの平和を守らねばならないのだ。

 

 

 三人が辿り着いた時、そこでは2体の脳無と多数のヒーローが相対していた。だが、皆一様に苦戦していて状態が悪い。そして、その中でも特に一人は、今にも脳無に攫われようとしていた。そして、自分にふさわしい優先順位を割り振る。

 

「ワン・フォー・オール……フルカウル、50%ぉ!デトロイトスマアアアアアアッシュ!」

 

 虚空を見て、こちらを見ていない空を飛ぶ脳無を、下から思い切り殴りつけた。その衝撃で、思わずと言った形にヒーローを離す。それを、下から風でキャッチする夜嵐に、すかさず自分の出せる限界温度の炎をぶつける轟。さっきのエンデヴァーの攻撃で、生半可な火力では通じないのは見ていた。半ば殺すつもりで本気の炎を放ったが、それでもその中で暴れている。だが、夜嵐の風のコントロールにより、翼が役に立たなくなっており外に出られない。

 

「轟ぃ! 手伝うぜ!」

 

 その炎に更に風を送り、炎の嵐を作る夜嵐と轟。流石に、その熱風には苦しむ脳無だが、決定打が足りない。炎の中で再生を続けているようだ。

 

「緑谷ぁ! もういっちょ頼むぜ!」

 

「応!! HAL,火災モード!」「YES.火災モードへ移行」

 

 フルフェイスヘルメットとコスチュームで炎への防御を固めると、足に力を込める。目標は、脳無のやや下。巻き上げられる力を計算して――

 

「セントルイス……スマアアアアアアアッシュ!」

 

 炎の渦の中へ突っ込むと、踵落としで地面に叩きつけた。炎の渦は、二人が一瞬で消してある。あまりの衝撃に、地面が陥没する。そして、脳無は動かなくなった。

 

「ウソだろ……!? 俺らが苦戦していた奴を、こうも簡単に……」「雄英生!? 何でここに!?」「えっ、雄英生だって!?」

 

 突然の登場からの撃破に驚くヒーローたち。残った脳無は、一斉に飛びかかられたので地面を殴り、衝撃波で吹き飛ばす。知性が無いように見えるのに、戦闘での攻撃は一々的確だ。まるで、何者かが操っているかのように。

 

「うわっ、見えねぇ……!?」「何処だ……!?」

 

 土煙の中、脳無を探るヒーローたち。だが、その僅かな隙が致命傷となりかねないのが戦場だ。

 

「危ねぇ、避けろ!」「――え?」

 

 一部晴れた煙幕の中から、脳無が拳を振り上げるのが見えた。――間に合わない。

 

「――ふんっ!」

 

 だが、そこに炎を使い猛スピードで脳無を殴りつけた男が居た。

 

「あっ、あれは……」

 

『エンデヴァー!?』

 

 エンデヴァーだ。だが、殴りつけたところが、あっという間に再生する。

 

「こいつも再生持ちか。なら、これはどうだ!」

 

 エンデヴァーが脳無の頭を掴むと、そのまま膨大な熱量の火を放つ。赤色だった炎は、やがて収束し青色となる。息子との火力の差が、如実に現れていた。あっという間に、頭が炭化する脳無。そのまま倒れ伏し、起き上がることは無かった。

 

「炭化した細胞では再生できまい――と。出てきた脳無はこれで全部か?」

 

 確認すると、サイレンの音は未だ鳴り続けているものの、戦闘音は無くなっていた。その事に、ほっと一安心する一同だが――緑谷は違和感に気がつく。ノーマルヒーロー・マニュアルがいるのに飯田が居ない。

 

「あ、あの、マニュアル! 飯田くんは何処に居ますか!?」

 

「あ、ああ。それだ! こいつらが出てから、いつの間にか居なくなっていたんだ!」

 

「「「!?」」」

 

 ここは、ヒーロー殺しの現れる保須市。そして、飯田の兄インゲニウムを再起不能にしたのはヒーロー殺し……杞憂、と片付けるにはあまりに条件が整いすぎていた。3人共、即動く体勢に出る。

 

「多分、飯田は……」

 

「ヒーロー殺しを探してる!」

 

「やべぇ……プロヒーローを何人も殺してるやつだ、止めねぇと!」

 

 緑谷は、ガジェットの一つ、GPS付き簡易無線を二人に渡す。

 

「無線だよ! 状況は逐一報告して! 何かあったらGPSも有るから!」

 

「「分かった!」」

 

「む、どうした三人共」

 

 ただならぬ様子に、エンデヴァーが尋ねる。一体何が有ったのか……。

 

「マニュアルの所に来ている友達が、インゲニウムの弟なんです!」

 

『!』

 

 その言葉で、事態を察する周りのヒーローたち。相手はヒーロー殺しだ。ひょっとしたら――

 

「ヒーロー殺しが現れるのは路地裏……マニュアルの事務所の近くの路地裏を、虱潰しに探しに行きます!」「俺もだ」「俺も!」

 

 3人共、今にも駆け出しそうだ。

 

「分かった! 見つけたらすぐに連絡しろ! だが、俺はこの2体を拘束せねばならん!」

 

 もし脳無に何か有った時、止められるのはエンデヴァー位なものだろう。3人共、了承と頷く。

 

「俺達も探すぞ!」「ええ、こいつら相手には何も出来なかったけど、ならせめてヒーロー殺しの方は……!」

 

 各々が気合を入れると、ヒーローとヒーロー見習い達は、それぞれに散っていった。

 

 

 

 保須市のとある路地裏。爆音が聞こえなくなってきたことにより、そこに居る3人は状況を知る。

 

「もう終わったのか……ヴィラン連合とやらは情けないな……ハァ……」

 

 飯田の頭を踏みつけ、腕を指すヒーロー殺し。血を流すためにあえてボロボロにしている刀の刃が、より強く痛みを伝える。

 

「あ゛あ゛っ!!」

 

「おまえも、おまえの兄も弱い……偽物だからだ」

 

「黙れ悪党……!!」

 

 刺されながらも、飯田の目に宿るのはそれ以上の憎しみ。眼の前のヒーロー殺しが、どうしても許せなかった。そして、兄の仇を目の前にしながら、何も出来ない自分も。

 

殺してやる!!!

 

あいつをまず救けろよ

 

 ヒーロー殺しから言われた言葉に、飯田の声が止まる。今の飯田は、ただ己の復讐のために力をふるおうとする――ヒーローでは無くなっていた。

 

「自らを顧みず他を救い出せ。己のために力を振るうな。目先の憎しみに囚われ私欲を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ……ハァ……だから、死ぬんだ」

 

 刀に付いた血を舐めると、飯田の身体が麻痺する。押さえつけられもせず、何もできなくなる。

 

「じゃあな、正しき社会への供物」

 

「黙れ……黙れ!!!」

 

 脳裏によぎるのは、兄の言葉。

 

 "天哉が憧れるっつーことは俺、すげえヒーローなのかもな!! ハハ"

 

 涙が止まらない。仇も取れずに、ここで自分の命さえ終わるのか。

 

何を言ったっておまえは、兄を傷つけた犯罪者だ!!!

 

 飯田の命が終わろうとした時、彼は現れた。地面に氷を走らせ、

飯田とネイティブをヒーロー殺しから離し、なおかつ炎を飛ばす。だが、ヒーロー殺しはとっさの判断で躱すと、やや距離を取る。

 

「最初に見つけたのは俺か。救けに来たぞ、飯田」

 

 そう言うと、轟はこっそり緑谷から渡された無線のスイッチの一つを押す。これで、緑谷と夜嵐にも通信が行った。後は時間を稼ぐだけだ。

 

「轟くん!? 何故……!?」

 

「(こいつ……雄英体育祭の……!)」

 

「うちの親父がヒーロー殺しを捕まえるために保須に来て網を張ってたんだよ。もっとも、まさか俺が先に見つけることになるとはな」

 

「ハハァ……偽物の息子か……。だが、貴様はいい目をしてるな……」

 

「人殺しに褒められても何も嬉しくねェよ。兎に角、二人共動けるか? 大通りに行きゃ他のヒーローとも合流しやすくなる」

 

「身体を動かせない……! 斬りつけられてから……恐らく奴の"個性"…」「!」

 

「成る程、ニュースでやってる推察ってのも中々馬鹿にできねぇな(救助対象は二人……とりあえず氷で覆うか……)」

 

「轟くん……手を……出すな……君は関係ないだろ!」

 

「飯田、お前……」

 

「仲間が「救けに来た」。良いセリフじゃないか。だが俺はコイツラを殺す義務が有る。ぶつかり合えば当然……弱いほうが淘汰されるわけだが、さァ、どうする」

 

 途端に、轟の肌が粟立つ。USJに現れたガキのような奴らの目じゃない。そこいらのチンピラみたいな目でもない。静かに燃える、思想犯の目だ。

 

「(相手は何人もヒーローを殺している……当然戦闘力も高いはず……なら、時間を稼ぐしかねぇ)」

 

「やめろ!! 逃げろ!! 言ったろ!! 君には関係ないんだから!」

 

「関係有る。俺はヒーローだ。殺されそうになってる人を見つけたら救ける。当然だろ?」

 

 そう言うと、ゆっくりと構える。そして、そのセリフを聞いて笑うヒーロー殺し。

 

「ハァ……」

 

 だが、そう言うと即座にナイフを飯田とネイティブに投げた。目にも留まらぬ早業で、轟は一瞬で余裕がなくなる。

 

「ちっ! あくまで狙いはそっちかよ!?」

 

 こちらも一瞬で氷壁を出し、飯田とネイティヴを囲うが、氷にナイフが突き刺さる。

 

「どんな威力してんだ!」

 

 だが、とっさに出した氷壁は、自分の視界も塞ぐ。一瞬見失ったと思ったら、既に頭上に居た。対応するため、少しでも出が速い火を使うが、火事にならないよう範囲を絞るので、空中で壁を蹴ったステインに避けられた。

 

「これを避けやがるのか!?」

 

「ハハァ……大雑把だが……良い!」

 

 頭上から、幾つものナイフを轟に向かって投げる。氷壁を出して防ぎつつ、同時に飯田とネイティブを更に遠ざけながら必死に避けて距離を取る。しかし、そのうちの一本がほんの、ほんの少しだけ掠ってしまった。地面に落ちたその1本を拾うと、そのナイフを舐めるヒーロー殺し。途端に、動けなくなった。

 

「なぁっ!?(バカな、ほんの少し掠っただけで……!?いや、血……!?)」

 

「とっさの判断……人救けを優先する姿勢――時間稼ぎを試みるクレバーさ……お前は、良い。口先だけの人間はいくらでもいるが……お前は生かす価値が有る……こいつらとは違う」

 

「んなもん……勝手に決めんじゃねえ……! そいつは、俺のクラスの委員長で、何時も真面目にクラスの事を考えていて――俺らの……友達なんだ……!」

 

「うっ、轟、君……!」

 

「ハハァ……動けなくなっても更に会話で時間稼ぎをしようとするか……良いな……だが、それならコイツは学級委員長で終わらすべきだったな……」

 

「ぐっ……!(畜生、動けねぇ……個性も、出せねぇ……)」

 

 改めて、ヒーロー殺しが飯田にとどめを刺そうとしたその時

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」「間に合えええええええええええええっ!」

 

 再び、ヒーローが現れるのだ! イナサの烈風が、倒れている3人をこちらに吹き飛ばし、更に緑谷がステインへと殴りかかるが、バックステップで大きく避ける。だが、深追いはせず、まずは安全確保を最優先する。

 

「次から次へと……今日はよく邪魔が入る……」

 

「てめぇがヒーロー殺し……その目、俺の嫌いな熱さだ……」

 

「もう誰一人殺させないぞ!」

 

 夜嵐が、ヒーロー殺しの目を見て思わずそう呟く。遠いところを見ている、妄執の目――かつてのエンデヴァーと同じ類の目だった。

 

「悪ぃ……しくじった……そいつの能力は、多分血の経口摂取で相手を麻痺させる……」

 

「成る程、それでそんなに刀がギザギザしてるのか……!」

 

 それを聞いて、緑谷は一瞬で武器の性質を看過する。他の刃物や武器はよく手入れをされているのに、刀だけがギザギザな理由……刀の一撃で殺す必要は必ずしもなく、動きを封じれば殺したも同然だからだ。

 

「ハハァ……お前らの目も、良い……"ゴージャスグリーン"と、2位の夜嵐か……お前らも本物の様だ……」

 

「本物ぉ!? 俺は一人しか居ねぇ!」

 

「熱いヒーローの目……友を助けようとする熱さ……殺させない姿勢……貴様らも、良ぃ……」

 

 そう言うと、緑谷と夜嵐にナイフを投げつける。その速さに、二人共避けるが、その間に急速に間合いを詰める。驚くべき身体能力だ。イナサが風で吹き飛ばそうとするが、風の切れ目を狙いナイフが投げ込まれる。

 

「その歳で良いコントロールだ……だが、やはりまだ大雑把だ……!」

 

「っ!」

 

 味方に飛んでいくナイフを、弾く緑谷。このままでは、いつ後ろに飛んでいくか分からない。

 

「やめてくれ……どうして、君たちが……」

 

「うるせぇ!お前"も"救けるぞ飯田ぁ!」「余計なお世話は、ヒーローの本質だってオールマイトが言っていた……!それに、僕も君を、友達を救けたい!」「そうだ……!止めてほしけりゃ、立て……! そして、俺たちを救けてくれ……! なりてえもんちゃんと見ろ……!!!」

 

 仲間たちの熱い言葉に、よぎるのは、己の言ってしまった言葉――"インゲニウム。お前を倒す、ヒーローの名だ"

 

「(どこがだ……! 友に守られ 血を流させて!!)」

 

 "あいつをまず救けろよ"

 

「(罪を思い知らせんが為に、僕は兄の名を使った――そんな、資格なんて有りはしなかったのに――!)」

 

 己の未熟さに、涙を流す。押し寄せる後悔。だが、それでも――

 

「(それでも、今ここで立たなきゃ二度と!! もう二度と彼らに、兄さんに追いつけなくなってしまう!)」

 

レシプロ――バースト!!

 

 ヒーロー殺し以上の、目にも留まらぬ速さで、ステインの刀を蹴り飛ばし、へし折る。その速さは、まさにターボヒーローの名にふさわしい。

 

「今だ! スマアアアアアアアッシュ!」

 

 そして、その隙を逃す緑谷ではない。刀が折れ、無防備となった腹に、思い切り拳を突き入れた。

 

「ゲホァ……!」

 

 容赦のない一撃に、そのまま吹き飛ばされるヒーロー殺し。ロクに、身体が動けなくなった。

 

「ハァ……まだだ……まだ、世界を正すために……!」

 

「終わりだ、ヒーロー殺し! もう、何もかも……!」

 

 そう言うと、緑谷はガジェットの一つの特殊繊維製の縄を使い、武器を取り外しながら念入りに縛っていく。

 

「俺は捕まるかも知れない……だが、俺の思想は……死なない……!」

 

 捕まって尚、静かに燃える目に、皆が一瞬言葉を失う。――妄執。まさに、そう言うのが正しいだろう。そして、よろよろとネイティブと轟も起き上がる。効果時間切れの様だ。

 

「悪ぃ……俺、ヒーローなのに救けられちまった……」

 

「いえ、大丈夫ッス!」「俺もやられちまった……コイツが強すぎたから……」「一対一でヒーロー殺しの"個性"だともう仕方ないと思います……掠っただけでアウトは強すぎる」

 

 申し訳無さそうなネイティブに、皆がフォローを入れる。実際、恐ろしい相手だったからだ。ほんの少し、結果が違っていれば飯田かネイティブのどちらか、あるいは両方が死んでいたかもしれない。

 

 そして、両手両足を縛った緑谷は、そのままヒーロー殺しを担ぐ。

 

「じゃあ、表通りに出よう。そろそろ他のヒーローも来るはず」

 

 だが、その前にぞろぞろと歩いていく4人の前に立ち、飯田が頭を下げる。

 

「三人共……僕のせいで傷を負わせたり……街中を駆け回らせたり……本当に済まなかった……何も……見えなく……なってしまっていた…………!」

 

 泣きながら、頭を下げる飯田。大粒の涙が、ポタポタと地面に落ちる。

 

「……僕もごめんね。君があそこまで思いつめてたのに、全然見えてなかった……友達なのに……」

 

「俺も同じくだ、ごめん!!!」

 

 緑谷も謝り、夜嵐は凄い勢いで頭を下げて地面にぶつけて血を流す。

 

「―――!」

 

 更に、後悔がよぎる。"どうしようもなくなったら言ってね。友達だろ"

 

 そして、謝るだけではない。轟も発破をかける。

 

「しっかりしてくれよ。委員長だろ」

 

 クラスをまとめるのはお前だと。よくやってくれていると。

 

 

 

「全員、無事か!」「有精卵共、大丈夫か!?」「どうやら無事のようですよ」

 

 表通りへ出ると、ぞろぞろとヒーローたちが走ってきた。エンデヴァーやグラントリノ、サー・ナイトアイに他のヒーローたちも。更には、マスコミも現着しているようだ。カメラが、路地裏から出てきた5人に向く。

 

「ほう! そいつが"ヒーロー殺し"か! よくやったぞ、焦凍、それに皆も!」

 

 自分の息子が活躍できたことに、我が事の様に喜ぶエンデヴァー。だが、轟の心中は複雑だ。

 

「……俺一人じゃ無理だった。全員でかかったから勝てた……まだ、修行が足りねぇ」

 

「なら、もっと強くなれ、焦凍。"努力"は、往々にして実を結ぶのだから」

 

「…………」

 

 複雑な心境の轟。だが、彼らにヒーロー殺しが反応する。

 

「偽物……貴様のような奴がNo.2に居座るから……偽物が蔓延る……! 正さねば――……誰かが血に染まらねば……!"英雄"を取り戻さねば……!!」

 

 縛られているのに、その妄執に圧倒される周りのヒーローたち。縛られてる筈の男に、思わず倒れ込むカメラマンやリポーター。異常な執念は、ヒーローすらも怯ませる。

 

「殺してみろ……俺を殺して良いのは……オールマイトだけだ!!」

 

 だが、その言葉に、一際強く反応した男が居た。他でもない、エンデヴァーだ。

 

「ふん、どんな男か、どんな執念かと思っていれば……貴様はただのミーハー(オールマイトのファン)で、しかも己の理想を押し付けているだけだったようだな」

 

「何だと…………!」

 

 馬鹿にするように、憮然と、ヒーロー殺しに言葉を投げかけるエンデヴァー。その目には、覚えがある。勝手なものを押し付ける、妄執の目。鏡で見た、自分のあの目だ。凄まじい妄執。だが、もう気圧されることも無くなっていた。

 

「殺して良いのは、あの馬鹿(オールマイト)だけだと? あいつがそんな事をする筈がないだろうが。ヒーローが皆あいつの様になるだと……?ふざけるのも大概にしろ。あいつは、他を救うために全てを投げ出す狂人の類だ」

 

「何を……!」「貴様……!」

 

 その言葉に、ヒーロー殺しだけでなく、サー・ナイトアイも激昂する。

 

「あいつの様な……すべてを投げ出す男を量産し、あいつの様に、偶像を作り全てを押し付けるつもりか……! あいつ、一人の背中にすべての重荷を背負わせ……!」

 

 エンデヴァーの言葉に、その場の全員が驚く。万年No.2だった男は――ある意味、誰よりもNo.1の背を見ていたのだ。

 

「そうならないように、"希望"は、あいつだけではないと知らしめるために、ずっと"努力"してきたのだ……!!追いつくために、あいつを、追い抜くために――全てを、犠牲にしてしまって――!」

 

 その威圧感に、周りのヒーロー全てが気圧される。これが、No.2の矜持――

 

「貴様は己がヒーローになって正そうともせず、希望になろうともせず、ただ弱い者を殺して世を直すだと……? 己がNo.1になろうとする気概もないものが――正義を……あいつを語るなど――巫山戯るなぁ!

 

 今度は、その場の全員が、ヒーローの威に圧倒される番だった。

 

「―――っ!?」

 

 その言葉に、ヒーロー殺しでさえ、何も言えない。英雄(ヒーロー)という存在から、己が真っ先に逃げた男に語る術は何もなかった。




きっと、誰よりもオールマイトの背中を見てきた男エンデヴァー
原作では、ステインの妄執が広まりましたが、今作品ではそれを否定する熱さも広まります

そして、ステイン戦も中々難しかったです。ハンデ無しだと、順当に倒せてしまいますし。だから、その異常な身体能力を常に人質に向けて意識を分散させました。

しかし、原作の"無個性"はヒーローになれないって、身体能力的なものもあると思うんですよね。多分"個性"持ちは、身体を個性に合わせるために強化された新人類的なもので、無個性とはまるで違うんじゃないかと思ってます。
でなければ、身体能力増強系や異形系でもないステインやらサー・ナイトアイの身体能力が高すぎるような気が
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