女子会で盛り上がった2日目も終わり、3日目。訓練内容は相変わらずだ。技量を伸ばす特訓は雄英で存分に出来るので、今は"個性"そのものを伸ばす特訓を優先させる。
だが、その中でも補習組は特にキツそうだ。通常就寝時間は22時なのに、補習組は26時まで補修を受けているので当然だろうか。
いろいろと出し尽くして休憩中、緑谷はフラっと相澤先生に他の先生方の事を尋ねる。だが、今回は隠密性を重視するために担任二人と外部協力者4人の、必要最低限の同行で済ませているようだ。
「特にオールマイトは、敵側の目的の一つとして推測されている以上、来てもらうわけにはいかん。良くも悪くも目立つからこうなるんだあの人は……」
と、機嫌が悪くなる相澤先生。
「("悪くも"の割合でかそう……)」
微妙に気まずくなる緑谷。トゥルーフォームなら目立たないが、それだとただの骸骨ぽい人に過ぎなくなる。それに、この合宿場にはトゥルーフォームで隠れられる場所が殆ど無いだろう。
そんな空気を変えるように、ピクシーボブが今日の夕方の話題を切り出す。
「ねこねこねこ……それよりみんな! 今日の晩はねぇ……クラス対抗肝試しを決行するよ! しっかり訓練した後はしっかり楽しいことが有る! ザ! アメとムチ!」
「ああ……忘れてた!」「怖いのマジやだぁ……」「闇の狂宴……」「イベントらしい事もやってくれるんだ」「対抗って所が気に入った」
反応はそれぞれ。だが、訓練ばかりでは疲れるしいい刺激になるだろう。
「というわけで、今は全力で励むのだぁ!!!」
『イエッサァ!!!』
そんなこんなで3日目の鍛錬も終わり、今日は肉じゃが。緑谷は竈の用意をしている最中だ。そんな時、鍋を持った轟がやってくる。
「……そういや、昨日の"お節介"はどうなった?」
「あはは……まだまだかな。……その子はヒーロー……いや、"個性"ありきの超人社会そのものを嫌っていてさ……。中々上手く……ね」
見渡すと、今日も洸汰は居ない。恐らくまたひみつきちに行っているのだろう。
「……ふと、オールマイトならなんて言うのかなって考えちゃってさ……」
「……素性も分かんねぇ通りすがりに正論吐かれても煩わしいだけだろ。言葉単体だけで動くようならそれだけの重さだったってだけで……大事なのは"何をした・なにをしてる人間に"言われるか……だ。言葉には常に行動が伴う……と思う」
「……そうだね。確かに……通りすがりが何いってんだって感じだ」
「お前がそいつをどうしてえのか知らねえけど、デリケートな話題にあんまズケズケ首突っ込むのもアレだぞ。そういうの気にせずぶっ壊してくるからな、お前意外と。後、夜嵐の奴もか」
「あはは……」
「……ただまあ、そのお節介も、悪くねえって思うことも有るけどな……」
「轟君……」
お節介に、救われた――されなければ、ずっと囚われていたままだったかもしれない。――なら、少しでも可能性があるのであれば悪くないのかもしれない。そう、轟は思った。
そして皆が夕食を食べ終わった頃。
「腹もふくれた。皿も洗った! お次は……「肝を試す時間だー!!」
と、食い気味に芦戸が叫ぶが、そこに響く無慈悲な声。
「その前に大変心苦しいが、補習連中は……これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ」
見せられない顔になった芦戸共々、7人の赤点組が縛られて連れて行かれる。
「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになっていたのでこっちを削る」
「うわあああああ!? 堪忍してくれええええええ!! 試させてくれええええええ!」
泣きながら引きずられていく七人を、緑谷は黙って見送ることしか出来なかった。
さて、そんな訳でくじ引きだが――A組は7人が補習に行っているので残り13人。必然的に一人余ることになるが……
「………僕が余った」
「クジ引きだから……必ず誰かこうなる運命だから……」
尾白が慰めてくれるも、中学までのぼっち気味の自分を思い出してちょっと泣ける緑谷だった。
だが、そんなのどかだった空気が、かき消される。最後尾、一人寂しく順番を待つ緑谷が感じたのは――幾度となく感じた、ヴィラン独特の――敵意。
「っ!」
見れば、ピクシーボブに、巨大な棒状のものが振り上げられていた。
「危ないっ!」
瞬間、咄嗟のデラウェアスマッシュで弾き飛ばす。
「にゃにゃっ!?」「ど、どうした緑谷っ!」
激しい衝撃波に、皆が一様にそちらを向くと――やってきていたのは怪しい二人組と、人影。一人は巨大な武器を背負い、身体にスパイク状のものを纏い、ステインの
『脳無!』
残ったA組のメンバーが、声を上げる。
「あらん、中々勘がいいのね」「緑谷出久――ステインが認めし者――」
「ステイン……奴のフォロワーか!」
「ああそうだとも! ステインを終わらせた者、飯田天哉!」
こちらを油断なく見据えてくるヴィラン二人。そして、今にも暴れだしそうな脳無。
「ご機嫌よろしゅう雄英高校! 我らヴィラン連合開闢行動隊!!」
「ヴィラン連合……何でここに……!!」
そして、緑谷はピクシーボブを庇う位置に移動しながら、瞬時に今の状況をはじき出す。残っているのは生徒数人とプッシーキャッツ。だが、脳無を相手にするにはパワーが足りない。
「プッシーキャッツ! あの脳無は、僕がやります!! あなた方は、他二人を……!」
「なっ!?」「何言ってるのよ!?」「お前は逃げろ!」
三者三様、緑谷に撤退を促すが、それを切って捨てる。
「あなた方では、"パワー不足"です! それに、洸汰君は多分一人で別の場所にいます」
『!』
そう言うと、身に纏うはフルカウル50%。加減する余裕は、無い!
「あの子が最優先抹殺対象の緑谷出久ねん。あぁら、可愛いわぁ♡」
「奴の相手は脳無がする。では、俺達は他を――」
そう言うと、ヴィラン二人毎衝撃波を飛ばして攻撃しようとするが、一瞬で移動した脳無に受け止められた。
「その子はミドルレンジに、色々とマシマシしたかなりのハイスペックらしいわん♪」
女言葉を使う男のヴィランが、煽るように言う。だが、それに揺らがない緑谷。そして、今の行動を見て脳無の相手を諦めるプッシーキャッツ組。
「ごめん……!」「すまぬ、緑谷……!」「魔獣、森中に放つよ! 索敵!」
だが、ヴィラン側もまずピクシーボブを仕留めきれなかったのが痛かった。無限に生成される魔獣が、あちこちでヴィランを襲う。だが、脳無に対しては足止めにすらならない。
「50%! セントルイススマッシュ!」
速攻を仕掛け、拳より威力の高い足の、限界ギリギリの威力を叩き込む――が。
「―――――!」
それなりのダメージを受けたようだが、直ぐに回復され――通じない。そして、回復上限も不明。更には、このまま手をこまねいていれば――洸汰が殺される可能性もある。フルガントレットを取りに戻る時間も無い。だから、緑谷はまず、利き手と反対側、左手を
「100%! デトロイト……スマアアアアアアアッシュ!」
途端、巻き起こる暴風。耐久力に振ったミドルレンジの脳無では捉えきれないその速さで、思い切り顔面を、殴りつけた。
轟音、暴風――木々をなぎ倒し、脳無は遥か遠くまで吹き飛び、山肌へ激突する。そして、緑谷の叫び。
「っぁぁぁあああああああああああああああああああ!」
100%で殴りつけた左腕が、耐えきれずに折れた。その激痛に、たまらず叫ぶ。――だが、その決死の特攻は脳無を撃破する事に成功する。
「み、緑谷君!」「緑谷ぁ!」
「う、ウソでしょ!? 脳無が一発で!?」「流石は、ステインの認めし者……!これしきでやられるはずが無いと思っていた……!」
呆然とするヴィラン二人を横に、飯田がレシプロバーストで緑谷の元へと走ってくる。
「よくやってくれた! さ、僕が運ぼう!」
「ま、まだ……まだ洸汰君が残ってる……探しに行かなきゃ……! 委員長は、みんなの引率を……!」
「み、緑谷君……わ、分かった。だが、絶対に戻ってくるんだぞ!」
「うん!」
鬼気迫る緑谷の表情に、飯田は頷くしか出来ない。――だが、何処か確信もしていた。彼なら、たとえどんなに傷ついても、助け出すのだろうと。
そして、二人のヴィランをピクシーボブと虎が抑えている内に、マンダレイが辺り一帯にテレパスを送る。
『皆!!! ヴィラン二名に脳無一体が襲来!!! ほかにも複数いる可能性アリ! 動けるものは直ちに施設へ!! 会敵しても決して交戦せず撤退を!! なお、脳無一体は緑谷が撃退!!』
そのテレパスは、合宿場に居る雄英側全員に届いた。そして――
「ラ、ラグドールも襲われてるっ!? い、今ありったけ魔獣送るからっ!」
遠くで、ラグドールも襲われていた。
一方その頃、ひみつきちに居た洸汰は、一人のヴィランと対峙していた。どんな運命の悪戯か――それは、ウォーターホースを殺したヴィラン。マスキュラー。
「あ、おい。景気づけに一杯やらせろよ」
ほんの、遊びのような感覚で、洸汰の命を奪いに来るヴィラン。その逃れ得ぬ死の予感に、走馬灯が洸汰の脳裏をよぎる。
「パパ……! ママッ……!」
だが、そこに一人、訪れるヒーローが来た!
「洸汰君っ……!」
殴り殺そうとするマスキュラーから、洸汰を救けると、対峙する。ぶらりと頼りなくぶら下がる左腕が、痛々しい。だが、涙と鼻水で濡れ、恐怖のどん底に居た洸汰にだからこそ、この状態でも緑谷は言うのだ。
「大丈夫だよ、洸汰君……僕が、助けに来た……!」
そう言うと、身体に50%のフルカウルを纏わせ続ける。
「必ず、救けるって? はぁはははは……さすがヒーロー志望者って感じだな。どこにでも現れて正義面しやがる。緑谷ってやつだろお前? ちょうどいいよ。お前は率先して殺しとけってお達しだ」
そう言うと、マントを脱ぎ捨て、筋肉の筋を膨らませて纏い、緑谷に殴りかかる。――が、そこに蹴りを入れる緑谷。遊びで放った腕を、蹴り飛ばし、更に空中に飛びかかり追撃するが、ガードされる。
「はははぁ! 良いぜ緑谷ぁ! 随分なパワーとスピードじゃねぇか! そんなちっこい身体のくせによぉ!」
笑いながら、また筋繊維を増加させる。更に上がるスピードとパワー。万全の身体ならば避けられたであろう攻撃も、今は必死にガードするしか無い。
「それにしてもどうしたその腕はよぅ! 他の奴にやられて逃げてきたか!」
「ちょっと脳無を倒した時にね!」
威力の高い蹴り技を更に叩き込むが、それを筋繊維で柔軟にガードする。脳無並みにショックを吸収しているようにすら感じてしまう。
「ははぁ! あの出来損ないを倒しやがったか! まぁまぁやるようだが、俺はそれ以上だぜぇ!」
緑谷が、躱し、いなし、弾き、抵抗するたびに、少しずつスピードとパワーを上げていくマスキュラー。緑谷はただでさえ左腕のハンデが有るのに、近くに洸汰が居るせいで躱すのにも限界がある。
「哀れなもんだなヒーローってのはよぅ! そんな役にも立たねぇガキをかばわなきゃいけねぇんだからよ!」
少しずつ、ダメージが蓄積していく緑谷の姿に、涙が止まらない洸汰。あんなに、自分は酷いことをしようとして、拒絶したのに。――なのに、あんなにぼろぼろになって――!
「ウォーターホース……パパ……ママ……も……そんな風にいたぶって……殺したのか……!」
「ああ……? マジかよ、ヒーローの子供かよ? 運命的じゃねぇの!」
辺りを跳ね回り、両腕で殴りつけながら、楽しそうに笑う。
「おまえのせいで……おまえみたいな奴のせいで、いつもいつもこうなるんだ!」
だが、その叫びを鼻で笑うマスキュラー。何の良心の呵責も感じていない、生粋のシリアルキラーの語り様は、おぞましい。
「……ガキはそうやってすぐ責任転嫁する。よくないぜ。俺だって別にこの眼のこと恨んでねぇぞ? 俺は"殺す"ことをやって、あの二人はそれを止めたがった。お互いやりてえことやった結果さ。悪いのは出来もしねえことをやりたがってた……てめぇのパパとママさ!」
ただ、理不尽で、圧倒的な暴力。それに蹂躙されるのが悔しくて、涙が出てくる。――だが、それに、我慢できない者も居るのだ。
「悪いのは、お前だろ!」
特攻しながら、思い切り右を振りかぶる緑谷。だが――
「左が、がら空きだぜ緑谷ぁ!」
その隙めがけて、渾身の一撃を叩き込むマスキュラー。ボキボキと、気持ちのいい音と感触に酔いしれる――が。
「そこを、狙ってくると思ってたぁ!」
左を囮にし、痛みも何もかもを無視して、右に思い切り、力を込めた。
「ワン・フォー・オール120%!デトロイトスマアアアアアアアアアアアッッシュ!」
「何っ!?が、ぁああああっ!?」
筋繊維の防御が破壊される。咄嗟のガードが、根こそぎ引きちぎられ、腕が迫る。お互いの骨を砕きながら、突き刺さる右腕は、マスキュラーを山肌へと叩きつけ、ひみつきちが粉々に砕け散る。岩肌に突き刺さったマスキュラーの、義眼はもう無い。
「……何も、知らないくせに……!」
脳裏によぎるのは、かつてマンダレイに言われた言葉。
"あんたのパパとママ……ウォーターホースはね、たしかにあんたを遺して逝ってしまった。でもね、そのおかげで守られた命が確かにあるんだ"
「何で!! 何も……! 知らないくせに……!」
"あんたもいつかきっと出会う時が来る。そしたら分かる。命を賭して、あんたを救う。あんたにとっての―――……"
「何でっ……そこまで……!」
"僕の―――"
服も、何より両腕もボロボロになり、なお洸汰の前に立つ。とても、とても大きな背中。闇夜の中、それでも今まで見たどんなものより輝いて見える――
"僕のヒーロー"
月夜に、緑谷は勝利の雄叫びを上げたのだった。
改めて見返しても、マスキュラーは学生が相手していいヴィランじゃない……100%も効かないってどんな強個性よ……そして脳無も強いし、序盤から強いの出すぎな気がする今日この頃