勝利の余韻にほっと一息つく夜嵐たち。すると、そこへやっと暴風がやんだことで近寄れるようになったガジェットが彼らの側にやってくる。
"君たち、大丈夫かい?"
「この声……物間!? それは――緑谷君のガジェット!?」
「するってえと、アイツもそこに居るのか!?」
"いや、ガジェットだけ借りている状況さ。とりあえず辺り一帯偵察してるけど、もっと奥の方で常闇君がヤバイ事になってるよ。それに、ちょっとガスでやられた奴らもちらほら見えるし。回収して戻ってきてくれ"
ブラドキングは、施設の護衛。となると、状況を判断できるのは自分たちしか居ない。そして、補習組の中で一番頭が回るのは物間だ。だからこそ、A組とも協力して戦局を全体から見ていた。
「倒れてる人たちの所、案内するよ~!」
「とりあえず、ドローンに付いていってくれ!」
複数のドローンが広域に展開し、様々な場面で発見の報告が入る。それを伝えるため、補習組8人がそれぞれ把握する地区を担当し、まだ健在なクラスメイト達に状況を伝えていた。そして、ピクシーボブの所にもドローンは飛んでいっていて、魔獣が倒れているクラスメイト達を急いで運んでいた。空から見下ろしているので、戦闘地域を避けることも可能だ。赤外線センサー及び暗視にも対応したドローンによる広域に渡る戦闘支援――大規模な戦闘で、それがどれだけ有用かを、特に補習組は身を持って体感していた。
「とりあえず、倒れてる奴の所に案内してくれ! 全部俺が運ぶ!」
「私達は、夜嵐とは別の方を探すわ!案内して!」
"了解、しっかりついていってくれよ!"
無線の向こうでも、気合を入れる声が聞こえてくる。戦場でも、また後方でも、どちらでも戦いは起こっているのだ。
派手な音がしている方に走る緑谷。脳無の様な、強い力を持つヴィランの出す音は闇夜によく響く。音を頼りに暗闇の森を疾走すると、突然黒腕が飛んできた。
「っ!?」
慌てて避けるも、両腕が使えないのでバランスを崩し倒れる。だが、そこに伸ばされる触腕が有った。障子の複製腕である。
「障子君……!?」
「その重症……もはや動いていい身体じゃないな。友を救けたい一心か……今度の敵は、そこまでの相手か」
緑谷を背負いつつ、極々小さな声で会話を始める。距離をとっているが、まだまだ近い。
「うん……今の腕、ダークシャドウの……」
「ああ。ヴィランに奇襲をかけられ、俺が庇った。――だが複製腕が飛んでしまって、それが奴が必死で抑えていた"個性"のトリガーになってしまった」
「暗闇での、暴走……!」
緑谷も散々付き合ってきた特訓だが、その特訓の結果ダークシャドウまでも強化されてしまっていた。ただ、障子が殴られただけであったなら何とか抑えられただろうが、腕が飛ばされるという事態に、完全に制御を失ってしまったようだ。
「みっ、緑谷も……! 俺から……っ離れろ! 死ぬぞ!!」
「常闇君!!」
必死に抑えようとしているが、ダークシャドウが無差別に暴れている。動くものや、音にただひたすら反応して破壊していく。
「~~~~!! 俺のことは……いい! ぐっ……! 他と合流し……!他を救け出せ!! 静まれっ…… ダーク……シャドウ……!!」
苦しみながら、必死で抑えようとする常闇。だが、夜空の明かりしか無い森のなかでは、絶望的に明かりが足りない。
「(光に弱い……火事か施設へ誘導すれば鎮められる。緑谷、俺はどんな状況下であろうと苦しむ友を捨て置く人間になりたくない。緑谷、まだ他に強敵が居ると踏んでここにきたのだろう? ここは、俺が引きつける!)」
「(どっちもまだ距離が遠い――障子君一人じゃ危ないよ――!)」
「(わかっている。だが、お前が友を救けた様に、俺も友を救けたい。危険など承知の上だ。緑谷――このまま俺と共に常闇を救けるか、それとも残る皆を救けるか。……どちらを選ぶ?)」
「(……ごめん、障子くん……僕は、どっちも救けたい……! この先には轟君がいる! 炎なら、ダークシャドウを照らせる! 君の複製腕で、姿を見せず音を出す場所で誘導しながらなら、きっと行ける!)」
「(緑谷……! よし、分かった! お前の案に乗ろう……!)」
「常闇君!! 抗わないでダークシャドウに身を委ねてっ!!」
「み……どりやぁ……!? わ、分かった……!」
何をするつもりかは分からない。だが、緑谷にはきっと考えがあるのだろう。そう思える程の信頼が有った。だから、今は一時ダークシャドウに身を委ねる。視界では二人を捉えきれないが、誘導するように、声が聞こえる。
「(信じてるぞ――! 緑谷! 障子!)」
そして、しばし抵抗を辞める常闇。今できることは、友達を信じることだけであった。
「あはははは。肉、見たいなぁ……!」
体中を拘束された異形の男が、歯を伸ばし轟たちを狙う。
「チッ!」
それをさっきから轟が氷壁で防いでいるが、連発しすぎて体の動きが鈍くなってきている。だが、炎を左から出して回復する暇を相手は与えてくれなかった。更に、横から脳無が突進してくる。それを防ぐのはB組の宍戸。ビースト化をして、力押しで何とか抑えているがミドルレンジの脳無も、相当に手強い。
「ぐっ……! 中々、決定打が与えられませんぞ……!」
押され気味な二人を、要所要所で援護するのは角取だ。二人が競り合っている間、押し切られそうになると角取が4本の角を飛ばし、撹乱する。が、既に何本もヴィランに叩き落とされていた。その度に新たな角を再生しているが、こちらも消耗が激しい。更に尾白も、尻尾で弾き飛ばしたり、轟を移動させたりと要所で地味に活躍をしていた。
「さ、三人共頑張るデース! その内、きっと救けが来ます!」
「っ、ああ……!」「う、うむ! こうなれば根比べですぞ!」「やるしか無いかっ……!」
そして、派手に戦闘を行えば、当然ドローンも状況を見つけやすくなる。
"みんな、大丈夫かっ!? まずいぞ! そっちに暴走した常闇も近づいてくる!"
「なっ!?」「ワッツ!?」 「なんですと!?」「なんだって!?」
突然の言葉に、驚く4人。
"今すぐ逃げ――"
「に、にに、肉じゃない……」
それ以上何か言う前に、異形のヴィランにドローンが落とされた。そして、聞こえてくるのは、木々をなぎ倒す音。
「き、きましたっ!? 早くエスケープをっ!」
だが、慌てる4人が見たのは、暴走するダークシャドウの前を走る障子と、背負われている緑谷。
「轟! 炎で光を頼む!! 常闇が暴走した!!!」
迫りくる、ダークシャドウ。脳無が向かっていったが、一撃で跳ね飛ばされ動かなくなる。
「なっ!? あんなに苦労した奴が……!」「一撃っ!?」
「肉~~~駄目だぁああ……肉~~~~にくめんぉん……駄目だ駄目だ許さない……その子達の断面を見るのは僕だぁあ!!! 横取りするなぁあああああ!!!」
怒り、ダークシャドウに羽を伸ばすヴィラン。だが、貫通はしたが何のダメージにもならない。
「強請ルナ三下!!!」
それどころか、怒るダークシャドウに、歯を根こそぎ砕かれ、木に叩きつけられた。ヴィランと脳無が、一撃で戦闘不能になる威力に、その場の皆が戦慄する。
「アアアアアアア! 暴レ足リン!!」
「落ち着けぇ!!」
だが、轟はようやく身体が待ちに待った炎を左手に纏うと、ダークシャドウを光で無理やりおとなしくさせた。肉体と精神の疲労から、疲れて膝を突く一同。
「う、ぁああああああああああっ!」
そして、一通り落ち着いたからか、脳内物質の放出が止まり緑谷が激痛で悶える。
『緑谷(さん)(氏)っ!?』
「よく見りゃ腕ぐちゃぐちゃじゃねぇか!」「何が有った!?」「は、早くキュアするデース!」「そ、添え木作りますぞ!」
宍戸が適当な枝で添え木を作り、尾白や轟がシャツを脱いで、緑谷の腕に応急処置を施す。
「っ~~~~~~~~!」「耐えろ、緑谷!」
痛みで悶つつ、何とか応急処置を施される。
「……そうなっちまったって事は、やべぇ奴が居たんだな?」
「……うん。脳無と、それ以上のヴィランが。……だから、僕が倒さないといけなくて……!」
緑谷がそう言うならば、余程の相手だったのだろうと確信させられる。現に、自分たちの相手も凄まじかった。
「USJの時みたいなチンピラの集まりじゃねぇな……どいつもこいつもやべぇ奴ばかりか」
「ここにとどまるのは危険、直ぐに戻りましょう!」
「急がばストレートに戻るのデース!」
と、そこへ2機目のドローンがやってくる。
"全員、無事のようだね。大体のヴィランは倒せたみたいだ。ただ、帰り道で蛙吹と耳郎がまだ戦ってる。急いでくれ!" "西側居ないよ!" "東側、見つからない!"
その報告に、7人全員が頷く。先頭は障子で索敵を受け持ち、最後尾は視野の広い常闇が受け持つ。皆それぞれが優秀で隙が無いパーティーになった。ドローンも、索敵をするため先に進む。少なくとも、今できる最善は尽くした。
「よし、行くぞ!」
「ああ」『おう!』「YES!」
障子の声に合わせて、緑谷を除く全員が走り出す。月と星に照らされた闇の中を、木々をかき分け出来る限り早く。ヴィランの気配はまだ無し、そろそろかと皆が思い始めた頃、途中、ヴィランと交戦していた蛙吹・耳郎と合流する。人数差から、撤退する女子高生のようなヴィラン。――だが、背負われている緑谷を見ると頬を染めてから、逃げた。
「とりあえず無事で良かった……そうだ、一緒に来て! これで9人、ここまで揃えばきっと大丈夫!」
「………ん? 9人?」
「ケロケロ、全員で8人よ、緑谷ちゃん?」
『え?』
逃げてきた組が、一斉に振り向く。油断する人間なんて居るはずがなかった。だが――何の音も気配もなく、消えていた。
「常闇か……彼、良いね。俺のマジックで
手に弄んでいる一つの玉。あれが、ヴィランの"個性"なのか。
「返せえええええええっ!」
「返せ? 妙な話だぜ。 常闇くんは誰のモノでもねえ。彼は彼自身のモノだぞ!! エゴイストめ!!」
「返せよ!!」
角取が4本の角を飛ばし、轟が木を伝い凍らせようとするが、軽く避けられる。
「本当は、誰か殺せればよかったんだけどさ……ムーンフィッシュ……"歯刃"の男な。アレでも死刑判決控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ。それをああも一方的に蹂躙する暴力性。ああ、実に良い!」
「待ちやがれ!」「逃げるんじゃねぇ!」
轟が、本気で氷結を放って尚、ヴィランはそれを避け逃げる。
「悪いね俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ! ヒーロー候補生何かと戦ってたまるか。開闢行動隊! そろそろ引き上げだ!」
通信が入ると、ひっそり隠れ残ったヴィラン達は一斉に移動を開始する。そして、常闇を攫ったヴィランだが――速い! 残ったメンバーが必死になって走るも追いつけない。宍戸一人突っ込ませようにも、そうすれば謎の個性を使われる可能性もある。
「……一本で一人、私が飛ばしマース!」
「俺が行く!」「私もですぞ!」「俺もだ!」「……僕も行く!」
轟・宍戸・障子、そして緑谷が名乗りを上げるが、最後だけ反対意見が上がる。
「緑谷、その両手じゃ無理だ!」
「両手がなくても、足が有る! もし、ミドルレンジ以上の脳無が出たら、僕が居ないと……!」
否定したいが、出来る材料がない。ここまでボロボロになっても尚戦わせなければならない現実に、緑谷以外の皆が歯噛みする。
「……分かりました。飛ばしますよ、良いですね!」
『応っ!』
4人が応えると、角取は全力で、4人を送り出した。
ヴィランが射程距離に入ると同時に、緑谷は無理やり角から降りた。
「50%! ジョージアスマアアアアアアアアッシュ!」
集まったヴィランの真ん中に、速攻でぶっ放す緑谷。ワープ持ちの個性が居るなら、時間がない。なら、まずヴィランを散らせば回収に時間がかかる――が。
「―――――!!」
脳無に、止められた。動きも相当に素早い。これは――
「50%が止まる……ミドルレンジ以上……!」
だが、これ以上脳無は居ない。なら、と覚悟を決める緑谷。
「100%! セントルイススマアアアアアアアアアアアッシュ!」
腕以上の、強烈な一撃。轟音とともに地面がひび割れ、脳無が土の奥まで埋まる。
「っ、うぁあああああああああああああああ!!!!」
「っ、あああああ、出久くん、凄い素敵です……♡ そんなに、ぼろぼろになって……♡」
緑谷の悲鳴に心が乱れそうになるが、今大事なのは目の前のヴィランだ。逃さないように氷結で全員を包もうとするが、炎で氷がかき消された。熱量が、とてつもなく高い。
「ちっくしょ……!」
「ははっ、その程度か?轟焦凍――」
どうやら、ヴィランは自分を知っているらしいと歯噛みして、兎に角氷を出しまくる。幸い、冷えた身体は目の前の炎が温めてくれた。そして、炎と氷が相殺しあっている最中に、突撃する宍戸と障子。
「ガオンレイジ!」
宍戸と障子は、初っ端から常闇を狙ったヴィランに狙いを定める。障子が回りを牽制しているあいだに、圧倒的な速度とパワーで、宍戸が迫る。呆気無く、弾き飛ばされるヴィラン。
「今だ!」
障子の複製腕がヴィランのポケットから、見せびらかしていた玉を奪還する。
「奪還した!逃げるぞ!」
「了解しました!」
「っ、ああ!」
障子が緑谷を回収し、逃げようとしたその時。闇夜よりなお暗い漆黒の闇が現れた。
出現したのは、かつてUSJで見た黒霧。
「ワープの……」
「合図から5分経ちました。行きますよ茶毘」
「ごめんね出久くん、またね」
黒い霧に、次々飛び込んでいくヴィラン達。埋まった脳無も、回収された。
「まて、取られたぞ?」
「ああ、アレはどうやら走り出す程嬉しかったみたいなんでプレゼントしよう。悪い癖だよ。マジックの基本でね。モノを見せびらかす時ってのは……
「くそっ……!」
だが、もう遠く、何も出来ない4人。
「それでは、またのご愛顧を」
そう言い、ヴィラン達は全て消えた。
「っ、そ、そんな……」
そして、両手と片足の激痛に、緑谷は意識を手放した。ただ、後悔と無力感を胸に残して――。
最後の最後、青山君が居なかったからなぁ……
そして、保須で暴れなかった3体は先生の助言も有ってここで有効活用されていました。
お陰で緑谷君は原作より酷い怪我に……
そして、ちょっと序盤リメイクしようか考え中です。
何かランキングで上に来たせいか、低評価結構入ってるんで、序盤の序盤を書き直した方が良いか……書いて数話は評判悪かったですし