静寂と闇の中、常闇は目を覚ます。自分は――どうなったのか。皆は何処だ? とあたりを見渡すが、暗闇で何も見えない。そして、動こうとした時に、自分が縛られているのに気がついた。
「わ、俺は今何処に居るのだ……!?」
不安そうに辺りを見渡すが、誰も何も答えない。
「ケーッケッケッケッ! 居心地イイゼェ!」
その代りに、
「ナンダカヨクワカラネーガ、ブッコワシャナントカナンダロ!」
「待て、状況をよく把握してからでなくては!」
慌てて制御しようとするが、完全な闇の中ではダークシャドウの力の方が強い。
「そうだ、暴れちまえよ。遠慮することなんか無いんだぜ?」
そして、何処からともなくねっとりと絡みつくような声が耳に響く。この声は、確か――
「死柄木弔……!」
「ヒャッハー! ヴィランダ! ブットバサセロ!」
「おお、覚えてくれていて嬉しいねぇ! ダークシャドウ君も元気そうで何よりだ!」
「俺を、どうするつもりだ……!」
「のぞき見したようで悪いんだが、君とダークシャドウ君が脳無とムーンフィッシュを一撃でボロキレにした上に、クラスメイトまで殺そうとしたと聞いて、是非とも僕らの仲間に誘いたいと思って招待したんだ! いや、不自由をさせてすまない!」
「そう思っているのなら、すぐに俺を解放しろ……! 俺はヒーローになる男だ……! 決してヴィランなどにはならん!」
「イマスグコノヘヤブチコワシテヤンゼー!!」
耳障りなヴィランの声、仲間たちを害した事への怒り、そして、何をしてくるか分からないヴィランへの恐怖。様々な負の感情が混ぜこぜになり、ダークシャドウが更に強大になっていく。
「いやいや、表の君はヒーローになりたいのかもしれないけどさ、裏の
「テメェラマトメテブチコロシテヤルゼー!!」
「止めろ、ダークシャドウ……!!」
このやり取りを聞いて、死柄木だけでなく、他のヴィラン達もクスクスと笑う。それがまた、常闇の心をざわめかせる。
「うん、そうか。無理やり連れてきちゃったからね、そう思うのも当然だ。――だから、ダークシャドウ君、君にチャンスをあげよう。この部屋を壊せたら俺らを自由に攻撃するチャンスをあげよう――」
「ナラスグニブチコワシテ「ただし。この部屋の上か、下か、右か、左か。それとも前か、後ろか。何処かに俺たちとは違うヴィランが居るんだ。ああ、心配しなくていい。人殺しの悪いやつさ。君の力で壊せば、諸共巻き込まれて死んじゃうだろうけど、悪党を懲らしめるのはヒーローの仕事だろう? 気にする事は無いさ」ヒャッハー!!」
「や、止めろ……俺は……人を……殺さない……!」
ありったけの精神力を使い、ひたすらダークシャドウを押さえつける常闇。
「その強がりが何時まで持つか――ああ、君たちの"話し合い"に俺たちは邪魔か。じゃあ、時間は幾らでも有るんだ。じっくり話し合ってくれ」
そう言うと、常闇は完全な闇と静寂に包まれる。そして、対面するのはもう一人の自分、ダークシャドウ。
「アバレサセロヨテメェ!!」「そんな事は……させん……!」
もう、二度とむやみに傷つけさせないと、ダークシャドウを抑え続ける。常闇の孤独な戦いは、何時まで続くか――誰にも分からなかった。
"……それに小僧。お前も、魂が叫んどるんじゃろ? 救けたい、と"
"……何せ、目の前で救けられなかったのだからね"
"はいっ!"
「なっ……んだよ、それっ! 何で、緑谷だけっ……!」
「俺たち……だって……!」
「緑谷ちゃん、あんなに大怪我したばかりなのに……」
「出久君に、これ以上無茶させちゃうん……?」
スピーカーから流れる音声を聞いた者の表情は様々であった。憤るもの、心配するもの、不安に思うもの――そして。
「(イズク君、それが、君の選択なんだね……)」
ただ、信じて見守る者。デヴィットはつい先程まで、緑谷のヒーロースーツのカラー変更と改造に着手していたのだ。きっと、こうなるだろうと信じて。
「……仕方ねえよ、緑谷だもん。……あいつ、入学した時からずっとスゲー奴だったしよ……」
ぽつりと、峰田が呟く。USJで救けられてから、緑谷の凄い所はずっと見てきた。一緒に訓練して、お互いの技の意見も出し合ったりして、付き合うのが凄い楽しい友達で、誰よりもヒーローになろうとする熱意が有って……本当に、凄い奴なのだ。――自分とは違うと思ってしまう程に。
「……っ!」
その峰田の呟きに、否定できない者が多数。それほどまでに、緑谷はクラスの中心であり、凄い奴であり――だからこそ、あそこまでボロボロになったのがショックだった。そして、ひどい状態になっても直ぐにまた、死地に赴く――。その姿に、居ても経ってもいられない者たちがいた。なぜなら、彼らもまたヒーローを目指すものだからだ。
「スゲー奴なのは端っから分かってんだよ! 入学前から、あいつは熱い奴だったんだよ! でも、あいつだって、ボロボロになって、手が届かないもんだって有るんだよ! んなダチを、俺はほっとけねぇ!」
「――俺もだ。……あいつを、常闇を、救けてぇ」
「俺も、行く! 出るのは、今日の夜! 行きたいやつは着いてきてくれ……!」
『………………』
男3人の熱い想い。それに、皆が何も言えなくなる。デヴィットも、ただ黙って見ている。やがて、誰が言うともなく解散した。それぞれの想いを胸に秘めて。
夜、病院前では夜嵐・轟・切島の3人が八百万を待っていた。やる気は十分漲っているが、それでも八百万が受信機を創ってくれなければどうしようも無い。
「おっ」「出てきたな」
悩んだ表情をして、八百万が出てくる。
「八百万、答え……」
「私は――「待て」……」
八百万が答えようとした時、3人の後ろから声がかかる。飯田だ。歯を食いしばり、怒りに震え、4人を見据える。
「…………何で、よりにもよって、君たちなんだ……! 俺の私的暴走をとがめてくれた……君たち二人がっ! 何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!? あんまりじゃないか……!」
「……ヒーロー殺しの件、か……」
震えて怒り、心配する飯田に、皆が何も言えない。
「俺たちはまだ保護下にいる。ただでさえ雄英が大変な時だぞ! 君らの行動の責任は誰が取るのかわかっているのか!?」
「飯田、俺達ぁ……」
説得しようとする夜嵐を、飯田が思い切り殴りつけた。
「俺だって悔しいさ!! 心配さ!! 当然だ!! 緑谷君一人を送り出す羽目になって、俺だって今すぐに飛び出したい!! だが、俺は学級委員長だ! クラスメイトを心配するんだ!! 常闇君や緑谷君だけじゃない!! 皆の怪我を見て、ガスで昏睡している葉隠君を見て、頭を強く打った八百万君を見て、僕の兄にその姿を重ねた!」
感情のまま、義務感を押し出し、叫ぶ。
「君たちが暴走した挙げ句、兄のように取り返しのつかない事態になったら……っ!! 僕の心配はどうだっていいっていうのか!! 僕の気持ちは……どうでもいいっていうのか……!」
「飯田……」「委員長……」
「飯田」
夜嵐の両肩に手を置く飯田を、振り向かせるように強く言葉を出す轟。
「俺たちだって何も正面きってカチ込む気なんざねぇよ」
「そうッス! 絶対に戦わねぇ!」
「戦闘無しで救け出す」
「ようは隠密活動!! それが俺ら卵の出来る……ルールにギリ触れネェ戦い方だろ!」
「私は、夜嵐さん、轟さん、切島さんを信頼しています……が!! 皆さん熱くなりがちですので、万が一を考え私がストッパーとなれるよう……同行するつもりで参りました」
「八百万くん!?」「「八百万!」」
そんな八百万の言葉に驚く飯田に、嬉しそうな切島と夜嵐。
「委員長、お前の熱い思い、確かに受け取った! だけど、俺のこの魂の叫びも、重いんだ! これは、譲れねぇ!」
「……常闇の"個性"は、暗闇だと自分でも制御できない程に危ねぇ。アイツらに何されてるか分かんねぇ以上、出来る限り早く救けてぇ」
「俺も…じっとしてなんて居られねぇんだ!」
3人の目を見て、説得が無駄だと悟る飯田。このままでは、自分を気絶させてでも行ってしまうだろう。そんなのは、駄目だ。
「平行線か……――ならば、俺も連れて行けっ!」
『!?』
「もし、君たちが無茶をしようとするならば……俺が止める――!」
「委員長……」「飯田……」「……」「飯田さん……」
それに、4人が頷いた。と、そこへ更に足音が。
「……全く、皆さん本当にお熱いですわね……」
「印照さんっ!?」
意外な人物の登場に、驚く4人。ひょっとして、また止められるのだろうか――。
「どうせ、止めても無駄なのでしょう?」
「ああ。……あんたもついてくるのか?」
「いえ、私は自分の身の程を知っていますの。――あなた方と一緒ではきっと足を引っ張ってしまいますわ。だから、これを持っていって下さい」
と、アタッシュケースを八百万に差し出す。
「これは?」
「ドローンに、GPS通信機、タブレットに立体映像投射装置に……と。I・アイランドのサポートアイテムですの。いざという時には使って、こちらに連絡をしなさい。明日の朝まで、寝ずに待機していますわ」
「……ありがとうございます!」
そう言うと、深くお辞儀をする八百万に、続く男3人。だが更に声がかかる。
「それなら、私のベイビーも持っていって下さい!」
「発目さん!?」
驚く飯田。彼女の手にも、大型のアタッシュケースが。
「ジェットパックに、スタングレネードです! いざってときに使って下さい!説明書は、中に入ってます!」
「ウッス! ありがたく預かるッス!」
ずしりと重い大型のアタッシュケースを軽々と持ち、夜嵐は思い切り地面に頭を付けて礼をした。
「……必ず、無事に帰ってきなさいね。でないと、緑谷さんも救けられる常闇さんも悲しみますわ」
「はい、必ずや!」「ウッス!」「ああ」「はい!」
こうして、5人は急いで駅へと向かいだした。
ギプスを外すと、緑谷は変装し、デヴィットから改造されたスーツを受け取り、ヒーロー二人とこっそり病院を出た。そのまま高速に乗り、急ぎ神野区の集合地点へ。そこには、名だたるヒーローが集まっていた。その周りは、機動隊が固めている。
そこに、グラントリノと共に緑谷が入る。改造されたコスチュームの色は、蒼く輝いていて、印象が変わるように各パーツの形も変えられているので、見ただけではゴージャスグリーンだとは分からない。フルフェイスヘルメットを被り、顔を隠しているから尚更だ。
「ん? そのスーツ……彼は誰ですか? グラントリノ?」
「お前の教え子だよ」
「どうも、オールマイト」
「な、ななななななっ!? 緑谷少年!?」
知らされていなかったのか、超絶驚くオールマイト。そして、エンデヴァーもだ。
「な、何故彼がここに!?」
「儂がサー・ナイトアイと呼びに行った。ミドルレンジ以上の脳無に対抗できる奴は一人でも多いほうが良い」
その言葉に、ざわつく周囲。ゴージャスグリーン……緑谷出久。雄英体育祭1位、ヒーロー殺しの捕縛、I・アイランドでのテロの鎮圧に、今回の襲撃でもマスキュラー・脳無を撃破している。実績としては十分過ぎたが、不安に思う者はヒーロー・警察問わず多い。
「……俺は賛成だ。この子は強い。そして、敵は手強い」
「エ、エンデヴァーまで……っ!」
だが、エンデヴァーの賛成で、空気がざわめく。No.2ヒーローエンデヴァーは、お世辞や気休めを言う性格ではない。その彼が認めたというのは、大きな意味を持つ。
「I・アイランドでは貴様とも共闘していただろう。……ガジェットを装備したその子は、必ず役に立つ」
オールマイトはあくまで反対のようだが、エンデヴァーの後押しと、ヘルメットを脱いで真っ直ぐ自分を見据えてくる緑谷を見ると、何も言えなくなる。ヒーローは、身体が勝手に動いてしまうものだと。
「しかし、グラントリノ。……奴が」
「だからこそ、だ。ナイトアイの予知では、お前が死ぬ。――だが、あの子が居れば……覆せるかもしれん」
「……」
しばし、考え込んでから大きく息を吐くと、緑谷に向き直った。
「……無茶はするなよ、少年」
「状況次第、です!」
その言葉に、周りも苦笑するしか無い。だが、確かな戦力なのだろう。
「あ、それと、この戦いの間は僕はただ"ブルー"とだけ呼んで下さい」
かつて見たあの人の輝きのように。この一夜の間だけ現れて、日が昇れば去っている、そういう存在。
「そうか、ブルー。……ラグドールが拐われたままだ。是非、宜しく頼む」
「虎さん! はい、勿論です!」
こうして最後のヒーローが集まり、ブリーフィングが始まる。目標はアジトの複数同時制圧。拉致被害者の今いる場所へ主戦力を投入し、奪還を最優先とする。そして、緑谷は勿論奪還側だ。敵主力の脳無を、叩き潰す為に居る。
「今回はスピード勝負だ! ヴィランに何もさせるな! 先程の会見、ヴィランを欺くよう校長にのみ協力要請しておいた! さも難航中かのように装ってもらっている! あの発言を受け――その日の内に突入されるとは思うまい! 意趣返ししてやれ! さァ反撃のときだ!」
「流れを覆せ!!!! ヒーロー!!!」
決戦が、始まる。
ちょっとこの後の展開ものすごく悩んでます。……コミック勢の超絶ネタバレになる展開にするか、それともネタバレ無しの展開に行くか……
チラシの裏で、"豪華絢爛たる緑谷出久のこぼれ話"のページを作成しました。前に書いた逆行物の外伝が今は有るだけですが、時々覗いてみたら増えてるかもしれません