豪華絢爛たる緑谷出久のヒーローアカデミア   作:両生金魚

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 いわゆる繋ぎ回という奴です。


変わる日常、変わる人々

 とある病室で、神聖な誓いの儀式が終わった。これからの時代についてそれぞれが思いを馳せる中、途端にまたまぶたが重くなる緑谷。連日の激闘に次ぐ激闘に、相次ぐリカバリーガールの回復は体力を根こそぎ使い尽くさせていたのだ。

 

 それが分かっているグラントリノ、サー・ナイトアイ、デヴィットの3名は見舞いもそこそこにそれぞれの仕事場へと戻っていく。平和の象徴(オールマイト)はもう居ない。今まで以上に、彼らも己の職務に邁進するしか無い。一人に頼りすぎるのではなく、これからは更に個々の力を合わせて激動の時代に対処していかなくてはならない。

 

 

 それを誰よりも強く感じているのは、No.1を継ぐ事になったエンデヴァーであろう。抜かすならば、実力で追い抜きたかった。誰よりもその背中を遠く感じ、誰よりも焦がれて追い求めたあの背中に追いつくこと無く、そしていつの間にかもう二度と見えなくなった。追うべきその背は何処にも無く、そして後ろには大勢のヒーローが続いている。こんな事で頂点に立ちたくなかった。託されたくもなかった。そして、居なくなってから改めて分かる奴の存在の大きさと、No.1の重み。様々な感情が胸の中を吹き荒れ続ける。その感情を誤魔化すように、自宅の鍛錬場でひたすらに身体を虐め抜いた。

 

「ちょっ、お父さん、そろそろいい加減休まないと……」

 

 娘が心配そうに話しかけてくる。だが、まだだ。

 

「まだ、大丈夫だ。あのバカ(オールマイト)は、この程度で弱音など吐かんっ……!」

 

「お父、さん……」

 

 悲痛な顔をさせてしまった。だが、止まるわけには行かない。今まで自分のしてきた事の償いのためにも、未来のためにも。平和の象徴としての力がなくとも、オールマイトが生涯を賭けて作り上げてきた平和のためにも、絶対に。

 

 そんな気力で無理に体を動かし個性を使っていると、身体に熱が相当に蓄積されていった。少しずつ鈍くなっていく動き。だが、それに構っている暇は無い。奴の様に、自分を超えていこうとする息子や後進達の様に、ブルー(緑谷出久)の様に、更に向こうへ(PLUS ULTRA)と。だが、気力だけでどうにかなるものでもない。視界が歪んでくる。

 

「何やってんだよ、クソ親父」

 

 意識も朦朧とし始めてきた時、突然身体が氷で包まれた。体中から噴き上がる蒸気に、鍛錬場が白く染まる。

 

 振り向くと自分の息子が苛ついたような、不安なような、なんとも言えない表情でこちらを見ていた。

 

「フウ……焦凍か……」

 

 本来ならば凍傷になってもおかしくない冷気に包まれても、体に心地良いだけだ。それ故に今の異常さを知らせてくる。

 

「オーバーワークは身体を壊すぞ。常識だろうが。ヒーロー活動もしねぇ内から体壊してどうするつもりだ」

 

 そう言うと、こちらにペットボトルを叩きつけるように投げつけてきた。キャッチして手元を見ると、味の不味い経口補水液のラベルが見えた。

 

「……すまん」

 

「今はテメェがNo.1だ。不安がってたら、みんなが不安に思うだろうが」

 

 ぶっきらぼうにそう言うと、踵を返して離れていく。息子にすら苦言を呈される有様に肩を落とすが――

 

「……それと、オールマイトと緑谷を助けてくれてありがとな。……親父としては認めてねぇが……ヒーローとしてのエンデヴァーは凄い奴だった」

 

「!!」

 

 息子から、初めて認められた。父親としてではない、ヒーローとして、だが。それでも、認めてくれたのだ。

 

 あの夜からずっと、様々な物がのしかかって来た。その重さに、潰されそうにさえ感じた。――だが、簡単なことだった。今まで通り、全力を尽くせば良い。元々最近では事件解決数はオールマイトよりも上だったのだ。そう悟るとペットボトルを空にして床に倒れ込む。ひんやりした床の感覚が、心地良い。身体と意識がようやく休息へと向かい、意識が薄れていく。今度は、悪夢は見なかった。

 

 

 

 世間の大きなうねりの中で雄英もまた迅速に動いていた。ヒーロー科全員のために急ピッチで寮を作ると同時に、それぞれの生徒の家に家庭訪問を行う。1年はA組B組の担任二人の他に、校長と腕は折れているが退院したばかりのオールマイトも共に向かう。直接の被害者の保護者達だ。学校側も特に気を使って人を送り込む。

 

 教師たち全員が、保護者の方々に強く非難されることを覚悟していた。だが、予想は大凡外れる事になる。

 

「いや、是非通わせてくださいとこちらが頼みたいくらいです!」

 

「そッス! 俺も雄英で勉強続けたいッス!」

 

 最初に訪れた夜嵐の家では、挨拶もそこそこに二人から熱い言葉が飛んできた。先生二人が面食らってしまった。特にイナサは危険な最前線に居た一人だっただけに父の反応は予想外ですら有った。

 

「確かに大変な事も沢山有りましたが、その一つ一つを乗り越える度にコイツは大きく変わっていったと思います。それも、いい方向に! それに、コイツの熱さに付いていける友人もたくさんできた様です。是非、このままコイツを通わせてください!」

 

「俺からもお願いします! みんなと一緒にヒーローを目指していきたいッス!」

 

 親子揃って、テーブルに勢いよく頭を打ち付けて逆に教師二人に懇願する。その勢いに少々驚くも、教師二人は姿勢を正して深々と礼をする。

 

「謹んでご子息をお預かりさせて頂きます」

 

「ご子息を含め、ヒーロー科全員が素晴らしいヒーローになれるよう、粉骨砕身努力していきます」

 

 失態続きの雄英だが、それでも信頼しご子息を預けてくれることがとても有り難かった。自分たちの努力が認められたのだと、少し誇らしげな気持ちにもなる。

 

 他の家庭でも、反応は大同小異であった。合宿で大きなダメージを受けた耳郎や葉隠の家でも最初こそ苦言を呈されたものの、後から出てきたのはオールマイトへの好意と感謝であった。

 

「今日、一杯奢るかい?」

 

「……そうですね、是非頂きましょう」

 

 普段、あまりこういった事に関わらない相澤だが、返事をした表情は普段よりも柔らかく見える。その日の夜には何時もよりも多くアルコールを体内に摂取し、非合理なことに判断力をやや低下させてしまった。だが、何故だかそれは悪くないように思えた。

 

 

 それから時は流れて8月上旬、築3日の出来たての寮の前に教師含め1-Aの全員が集まった。生徒の皆はそれぞれ、無事に全員喜びや安堵の笑みを浮かべているが、唯一相澤先生の表情だけはあまり良くない。

 

「とりあえず1年A組、無事にまた集まれて何よりだ」

 

「皆許可降りたんだな」「私は苦戦したよ……」「フツーそうだよね……」「二人はガスで直接被害遭ってたもんね」「ウチは大賛成だったッス!」「親父さんも同じノリかっ!」

 

 と、話に出るのはそれぞれの家の事情と

 

「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」「うん」

 

 心配気に先生を見る複数の生徒の視線。

 

「…………俺もびっくりさ。まァ……色々あんだろうよ」

 

 あからさまに大人の事情を匂わせる相澤先生だが、手を一つ鳴らすと、話題を変える。

 

「さて……! これから寮について軽く説明するが、その前に一つ」

 

 鋭い視線が5人へと向く。

 

「轟、切島、八百万、飯田、夜嵐。知っての通りこの5人はあの晩あの場所へ常闇救出に赴いた」

 

 とたんに、少し表情を曇らせる5人、そして常闇。他の面々もなんとも言えない表情をしている。

 

「…………本来なら除籍処分にしている……と言いたいが。一人、緑谷だけが仲間の中から戦いに行ったからな。居ても立っても居られなかったか」

 

 ふぅ、と一つ息を吐く相澤先生。

 

「我々大人が不甲斐なく、諸君らを色々な事件に巻き込んですまないと思っている。だが、そんな状況を棚上げするが一つだけ言わせて欲しい」

 

 そう言うと、視線を動かし20人を見渡す。

 

「ヒーロー活動とは、何事も手続きが必要だ。免許を取得した後も事件の報告・損害の報告・各ヒーローの働きの報告。そしてこれらは、正規の手続きによって行われなければならない。できれば……次回からは仮免を取り、正規の働きができるようになってから動いてくれるとありがたい」

 

『はいっ!』

 

 揃って皆が返事をすると。相澤先生もこくりと頷き、踵を返す。

 

「以上! さっ! 中に入るぞ、元気に行こう」

 

「新築だヒャッホー!」「ク、クーラーは!? お風呂は!? ひょっとして使い放題!?」「この大きさだと一人一部屋位ありそうだよね!」「キッチンが大きいと嬉しいわ。全員分のお菓子作れるくらい」「待て待て皆少し落ち着くんだ!」

 

 暗い空気を吹き飛ばし、ワイワイガヤガヤ騒ぎながら寮に入っていく一同。

 

「(茶番……も偶には良いだろう。この後また特訓が続くしな……)」

 

 そんな教え子たちを、相澤先生は特別に見逃すのだった。




 物凄く遅れて申し訳ございません……。本誌、ヴィラン編めっちゃ長いよ……しかも敵がめっちゃ強大になってる。
 ここらで日常回とか入れとかないとまたシリアス&本編に関わる話が続きそう……!
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