「「「服がねえええええええっ!!!!」」」
午前の訓練が終わった土曜の昼、突如として3人の叫び声が響いた。峰田、上鳴、瀬呂の3人の魂の叫びである。ロビーに居たA組B組のメンバーは何事かと注目する。
「やっべーよ、おいやっべーよ、お嬢様学校のお嬢様達に会うのに着て行ける服がねーよ!」
「これチャラいよな!? 絶対にチャラいよな!? うわどーすりゃ良いんだよこれえええええっ!?」
「フツーの服はそりゃ有るけどめかしこんで行ける服がねえ……」
顔を突きつけ合わせて深刻な表情をする3人。思いがけず聖愛のお嬢様方を紹介してもらえることになった。それはものっすごい嬉しい。だがしかしそこで気がつく。お嬢様学校という事は相手のレベルも物凄く高い。つまりは自分達もそれに合わせなくてはならない。だが、今まで彼女というものが居なかったこの3人……というより雄英1年彼女居ない男子にそんな備えがあるかと聞かれたら断じて否である。
そして焦ったのは何もこの3人だけでなく、周りで何だ何だと聞き耳を立てていた切島、回原、円場、砂藤などの彼女が欲しいと常々思っている面々にも冷や汗が流れる。そういえばそんな服、用意してねえ。
「どうする、どうするよ!?」「どうするもこうするも、明日だろ!? もう時間ねえだろ!?」「今からでも買いに行くっきゃねぇ! とっとと申請するぞお前ら!」
どやどやと慌てて校舎に駆け込もうとした時、「あれ、どうしたの3人共?」なんて気の抜ける声と共に緑谷が現れた。シャワーを浴びていたのか、髪が仄かに濡れている。そして、緑谷の着ているTシャツを見る3人。白地に「頑張るTシャツ」なんて文字が書かれている。恐ろしくダサい。緑谷の両肩に瀬呂と上鳴の手が伸び、ガシッと掴まれる。
「緑谷ぁ! お前も今すぐ外出申請して来い!」「服買いに行くぞ服ぅ! おめー、そんな服で聖愛のお嬢様方に会いに行く気か!?」「そんなTシャツ何処で売ってんのか逆に不思議だよ! お前のセンスどうなってんだよ!?」
迫真の表情で迫る3人。流石にこの友人のセンスをほっとけなくなったようだ。
「え?え?え? あ、明日は3人で会いに行くんじゃ……」
「ばっかおめーハードルたけーよそれ!」「付いてきてくれよぉ! 俺ら3人で会いに行くとか難易度高いんだよ!」「主催がお前なんだから取り持ってくれよ頼むよ!」
「で、でもでも……」尚も渋る緑谷。だがそこにさらなる追撃が降りかかる。
「あ~、緑谷、ごめん、それウチらから見てもどうかと思う」「ぐはっ!?」
耳郎の口撃により1HIT
「うんうん、正直ものすごいダサいよね」「がはっ!?」
葉隠の口撃により2HIT
「センスがゼロじゃなくてマイナスデース」「ごはっ!?」
角取の口撃により3HIT
「ヒーローって格好良さも大事じゃない? 正直、今の緑谷ってヒーロー失格レベルでダサいからどうにかしたほうが良いと思うの」「かはぁああああああああああっ!?」
小森の本気の心配によりトドメの4HIT
吐血して床に崩れ落ちる緑谷。意識が無い、どうやら致命傷の様だ。
『み、緑谷ぁあああああああっ!?』
そしてこの場にいる男子全員からの悲痛な叫び。頼れる友人の今までで一番情けない姿に涙が止まらなかった。
「……どうする?」「どうするよ?」「とりあえず、連れてくか」
瀬呂と上鳴がよっこいせと上半身と下半身を持ち、えっほええっほと部屋まで運んで起こす。それから重傷を負い虚ろな緑谷をあの手この手で準備をさせて、またえっほえっほと肩を貸して外出許可を取りに行く。なお、今日の担当はミッドナイトだった様で
「あら、4人揃って外出? 何処に行くのかしら?」
「えーっと、買い物ッス。明日、ちょっと出かけるんで皆で服をって……」
「う~ん、若人の青み、良いわぁ♪ よし、行ってらっしゃい! 特に緑谷はそのダサい服をなんとかしないとね」「うわぁああああああああっ!?」
『み、緑谷ぁああああああ!?』
そしてまさかの何気ない追撃の5HIT目である。もう緑谷の心はボロボロだ。完全に意識が吹っ飛んだその身体を、ショッピングモールまで上鳴と瀬呂が交代で運ぶ羽目になるのであった。
「はっ!? ここはどこ? 僕は誰?」
あまりの精神ダメージに記憶も曖昧になりながら覚醒する緑谷。ふと周りを見渡せばショッピングモールである。
「ここは雄英近くのショッピングモールだぜ」「それでお前は緑谷出久、雄英1年A組所属」「は~、重かった」
そして、ようやく一息ついたとベンチに腰を下ろす瀬呂と上鳴。
「あ、ご、ごめんね?」
「いや、良いさ」「そっ! 女の子紹介してくれたしこれくらいは余裕っしょ!」
だが流石に鍛えているヒーロー科だけあって休憩もそこそこ、すぐに回復したようだ。
「よし、じゃあ服に靴にアクセに、一通り見てくか」「地図確保しといたぞ。とりあえず手近な所から見てみるか」「オイラに合ったサイズの服探さねえと」
既に準備は終えていたようで、よしと立ち上がる3人。それに、緑谷も続く。何だが、笑顔になって。
「お? 緑谷、もう回復したのか?」
そんな様子に、目聡く瀬呂が気がつく。
「うん、なんだか……こうして友達と一緒に外を回るって思うと楽しくなってきて!」
普段とは違う緑谷の喜び方に、色々と察してしまう瀬呂だ。だが、それを表に出さず、同じく微かに笑う。
「そっか、んじゃ全員で選ぶか!」「おっしゃぁ!」「行くぜぇ!」「うんっ!」
男4人、モテる為に頑張ろうと歩き出すのだった。
「しっかし、いざかっこいい服を選ぼうってなると悩むもんだな……」
「女の子に会う時の服とか、デート用の服とか、多分何時もと勝手が違うよな?」
「オイラの場合特注になるから早めに決めないと」
この"個性"社会、服は基本的にオーダーメイドである。普通人の一番多い体格の服は既製品がそれなりにあるが、異形型も多いので、一人ひとりに合わせたオーダーメイドが店で出来ることが基本である。男4人、持ち寄ったファッション雑誌を見比べたりスマホでファッションサイトを大量に見ていったり身を寄せ合い真剣に選んでいる。全員が全員必死で有る。が、この手の経験が無い緑谷は特にどうしたら良いかという基準が自分の中に無いので堂々巡りである。
だがしかし、ここはそれなりな大きさの洋服店。そんな悩んでいる男子はいいお客様とばかりに、店員が寄ってくるのである。
「何かお悩みでしょうか?」
やって来たのは営業スマイルのお姉さん。声をかけられると4人が一斉に振り向く。
「あ、あのえーっと」「ご、合コンみたいな感じのイベントが有って、それに着てく服を選ぼうと思ってるッス!」
経験がないのでしどろもどろな緑谷に、多少は慣れてるのか受け答えをする上鳴。
「はい、お相手はどの様な方々でしょうか?」
「えーっと、聖愛の……多分お嬢様っぽい上品な感じだと思うんですよ」
柔らかな口調で根掘り葉掘り、男子4人の要望や条件を掘り下げていく。夏・相手は上品・服一式にアクセサリーなども考えているとの事で、相槌を打ちながら話を引き出し、女性目線で次々とアドバイスを送っていく。何より、この4人は素材が良いのである。ヒーロー科であり、全員が毎日鍛え身体が引き締まり筋肉が付いている。ガッチリした体格と筋肉は、男の身体を映えさせるのだ。
女性が御洒落をして来る分、男性はあまりゴテゴテせずにシンプル、爽やかに。ネックレスなどのアクセサリーで身を引き立たせ、瀬呂や峰田は"個性"で変形した身体を装いの一部として取り込むように。
女性から褒められ、言葉巧みに芽生えた見栄やオシャレ心をくすぐられると財布の紐も緩くなろうという物。特に職場体験で臨時収入が有ったことも有り、両手に次々と商品が積み上がっていく。
「えーっと、それじゃあこれも! あ、このシルバーのネックレスとかこのシャツと合いそう……」
「俺としてはエスニックに攻めたいけど……浮きそうだからアクセ辺りで主張しておくか」
「これ、良くね? 普段のギャップで攻められね?」
「オイラはモギモギが有るから……いっそそれに合わせて……」
男4人、それと店員さんが代わる代わる来て話し合いながら商品を選んでいく。そして気がつくと
「ありがとうございました~♪」
両手にどっさりと戦利品を抱えた4人の姿が有ったのだ。
「やべぇ、めっちゃ買い込んだ」「俺、こんなに買ったの始めてだぜ……」「へ、部屋に戻ったら整理しないと……」「オイラはこれからモテる男になってやるぜええええええっ!」
何はともあれ、オシャレの土台は整った。すっかり日も暮れた辺りでえっちらおっちら学校へ戻ると、ロビーの面々から出迎えられる。
「あ、おかえり~!」
元気に手を振る芦戸を筆頭に、男女問わず抱えている物の多さにびっくりだ。そして、やはり気になるのは買い物の中身だ。特に緑谷や峰田は一体どんな変身を見せてくれるのか。
「ねーねー、着替えてきてよ!」「お、俺もちょっと参考にしてみたいわ……」「新たなる装い――俺も興味が有るな」
そしてそれから暫く、有志によるファッションチェックが始まったのであった。
そういえば私服とかってどうなってるっけと考えてたらいつの間にか出来ていた話です
しかし、日本一のエリート校の生徒がガチでおしゃれして性格も悪いところ見せないようにしたら他校の生徒からは割とモテるようになる気がする