からすやの窓   作:石影

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ある来訪者の話


秋の話2

 小春日和の穏やかな午後。

朝は少し肌寒かったが、昼になるれば柔らかく暖かな陽光が窓に射しこんで心地よい。

忙しなかったランチタイムも過ぎ去り、落ち着きを取り戻した喫茶店の内には店主であるアモンだけだ。

いつもはオヤツを強請りにくる灰色の双子も今日は居ない。アモン、ひとりだけのおやつタイムだ。

行儀が悪いがキッチンに立ったまま先月作った渋皮煮の瓶詰めを開ける。煮栗をフォークで刺してそのまま一口放り込むと栗の甘露煮のホロホロした食感とは違う、滑らかな舌触りと控えめな上品な甘さに良い出来栄えだとアモンは満足気に頷く。

時計を見ると、そろそろ夜の開店準備をしなければならない時間だ。CLOSEの看板を表に出そうするとき来客を告げるドアベルが鳴った。

 

 店内に入って来たのは黒いマントを羽織った金髪の青年。

一際、目に惹くのは両目を覆う黒い眼帯。その怪しい不審者めいた雰囲気も相まって、普通はイタそうみえる服装は不思議と彼には品良く似合っていた。

青年はゆっくりと見渡すように左右に首を動かす。

静かな店内に疑問を覚えたのか。

アモンがいるほうに身体を向けると怪訝そうに尋ねる。

 

「あれ?静かだねぇ〜?今はお店は閉まってるのかな?」

「……夜営業の準備をしようと思っていたところだ。ヘズさん、今日もサボりですか?」

 

 店主はカラス頭のわかりづらい表情で顔をしかめる。この男は苦手だ。

ヘズことホズル・イグドラはイグドラの姓を持つ由緒正しい神子の家柄。最高位の悪魔であるアモンでも敵に回すと厄介な部類に入る一族のひとり。

この店にはそんな厄介な客が入らないように結界を張っていたのだが、その強固な結界を突破するのはアモンと同等かそれ以上の存在だ――――

平然と彼が入店したときにイグドラの名前を聞いてカラス頭の血の気が引いたのは苦い思い出だ。

そんなアモンを知ってか知らずか彼は甘ったるい声色でからかうように大きく口を三日月形に釣り上げた。

 

「ねぇ、アモンちゃん冷たくなぁい?もう少し愛想良くしたほうがいいんじゃあない?」

「いや、己を省みろ。どうせ仕事抜け出して来たんだろう。秘書方に怒られるのでは?」

ヘズに振り回される神経質そうなピンクの色男を思い出す。

「うっ……そんなこと言わないでよぉ。ちょっと…、ほんのちょっとだけ罪悪感があるんだよ」

「そうかぁ?罪悪感がある大人は何度も内緒でサボりには来ないぞ?」

「さぁ〜てマスター?今日のオススメは何かな〜?」

 

 彼にとって耳が痛い話を振れば先程の態度とは一変。ヘズは逃げるように話を変えてアモンの居るカウンターへと歩み寄る。

都合が悪くなると分かりやすいくらい態度が変わるのは誰かを彷彿とさせ、アモンがなんだかんだ流されるのは毎度のことだ。

きっと上手く隠すことは出来るだろうが、それが彼らなりの甘え方なのだろうとアモンは無理矢理に自分を納得させている。それにヘズは舌の肥えた良い客なのは間違いないと気を取り直す。

 

「この時期は和栗のモンブランがオススメだ。だが在庫切れだな」

 

 小ぢんまりとしたカウンターのショーケースの中にはアップルパイひと切れ、かぼちゃプリン、スイートポテトが2つと3つがあるにはあるが、オススメのモンブランは入っていない。

 

「ええっ!そんなぁ!せっかくセブンを撒いて、ハルちゃんの居ない時間帯を狙ってきたのにさ〜!」

「残念だったな……あっ栗の甘煮ならあるな」

 

 アモンはキッチンの棚からシロップに漬けた栗の瓶詰めを取り出す。そこから3つほど煮栗を食べやすいように楊枝を刺して小皿をヘズの前に並べた。

ヘズは眼帯に隠された目線をさまよわせ少し困ったように笑うとカウンターにそろりと手を這わせる。

 

「ここにあるぞ」

 

 彼の探るような仕草を見たアモンは彼の手を優しく掴んで小皿の縁に触れさせる。普段は厚かましいタイプなのに、こういうところは遠慮がましい奴だ。

「……ありがとう。こういう細かいところが不自由だから助かるよ」

 

 ヘズは柔らかく笑って素直に礼を言うと場所を教えてもらった渋皮煮の小皿を手に取り食べ始める。

「うん!おいしいね!前に貰ったマロングラッセよりもアッサリしてるね〜」

「どういたしまして」

 甘いモノを食べれて満足そうなヘズの姿を見て、アモンも満更ではないように返事する。苦手な相手でも褒められるのは嬉しいものだ。

最後の一口に取り掛かろうとしたところでヘズは小さく顔をしかめる。そのままマロングラッセを口に放りこむと紅茶を一気に飲み干す。チラリと紅茶の水面にピンクの影が映ったように見えた。

 

「どうかしたか?」

「見つかっちゃったみたいだ。お節介な部下が煩いから帰る。また来ていい?」

「貴方は来るなって言っても来るだろう。次のご来店お待ちしております」

 

「ははっ!そうだね。次はゆっくりお茶でも呑みに来るよ」

「じゃあ、部下の奴も一緒に連れてきたらどうだ?」

「そんなことしたらマスターの美味しいケーキがお預けになるから絶対に嫌だねぇ」

 

拗ねた子供のようにヘズは言うと煙のようにアモンの前から消えた。

カウンターの上に残ったのは小皿とティーカップ。

そしてプロメンガト金貨が数枚と誰かさんが好きな銘柄のタバコだ。

 

「やれやれ……直接、渡してやればそれなりには喜びそうではあるんだが、そうもいかないもんかね」

 

 

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