儚い夢想、ココロに届け。   作:バ烏@(°∀。)ノウェ

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ただの少年の独白

 

 

『弦巻こころに会ったのはただの偶然だった。

 たまたまあの日俺はあそこを歩いていて、その時にたまたま彼女らがあそこでライブを行っていた。ただ、それだけ。

 

 だけど、今でも思う。俺が彼女に逢ったのは、本当に偶然だったのだろうかと。

 運命だとかそんなものを信じるようなガラじゃないのは分かってる。それでも、そんなものの存在を錯覚してしまうほど彼女との出逢いは鮮烈で。

 

 どうしようもなく、憧れてしまった。

 

 始めは、憧れ。それと少しの嫌悪感。

 

 その嫌悪感が彼女に対してのものだったのか、或いは彼女越しに見た俺への嫌悪感だったのかというのは未だに自分でもわかっていない。ただ一つ言えることは、そんな氷のような俺の心をあいつは絆しつくしてしまったということ。

 

 彼女と出会った頃は随分邪険に扱っていたと思う。それはさっきの嫌悪感だとか、自分とあまりに違う生き方を歩める彼女への嫉妬だとか……まあ、いろんな負の感情が一緒くたになっていたからなんだろう。

 

 事実、理想論を掲げる彼女が始めは苦手──いや、有り体に言って嫌いだった。

 自身がリアリストであるとは思っていない。それでも、彼女の語る大言壮語は妙に癪に障った。

 

 普通なら一度強く言われればもう近づかないだろう。こんな語調だ。きっと、普通に言われるよりきつく聞こえる。しかも完全に初対面の相手なのだから。どう考えてもあれっきりの関係。そう思っていた。

 

『普通やない普通やないとはずっと思ってたけどまさかなあ……』

 

 いつか俺は彼女にそう言った。その考えは今でも揺るいでいないし、彼女はまさしく奇人変人の類いだろう。

 俺は普通が好きで、そうじゃないのは嫌いだ。それは、こんな身体に産まれてしまったせいもあるし、そんな身体で育ってきたせいでもある。

 

 人間というコミュニティで生きていく以上、その表面を均一化させる必要がある。

 出る杭は打たれるなんてことわざが残っているように、この社会は異質なものに対してとことん狭量だ。

 

 どうしてなかなか俺もこれまでの生活では苦労してきたし、きっと彼女も異様な目で見られているんだろう。

 それでも彼女は、燻らず、曇らず今でも燦々と輝いている。

 何かしら陰は持っているようだがそれをおくびにも出さずにあれだけ煌めいている。

 

 そんな生き方をしている彼女に、いつしか心惹かれていたのだ。

 たった数か月。しかも過ごした時間だって大したこともない少女にそんな感情を抱いてしまったのは自分でもどうかとは思う。

 それでも俺は、あの輝きに焦がれてしまったから。

 

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 ギリシア神話において、イーカロスは太陽に並び立たんとしたその傲慢さ故に命を落としたという。

  イーカロス()太陽(こころ)とともに歩もうなどと、思い上がりも甚だしい。

 

 必ず。近い将来俺は彼女のもとを去ることになる。

 正直言ってこころが俺に対して並々ならぬ感情を抱いていることは理解できる。

 それでも敢えて彼女に対する態度は変えないでやってきた。

 

 俺を喪ったときに彼女が心に負う傷を少しでも小さくするために。

 少しでも早く、前を向いてもらうために。

 

 ……まあ、これが俺の思い上がりだとしたらとんでもなく恥ずかしいことを考えているわけだけど。

 

 そうするのが、きっと。彼女にとって一番いい選択肢だから。

 どうしようもなく手の届きようのない光を、俺のために堕としてしまっては、あまりにも。

 それはあまりにも傲慢(エゴ)が過ぎる。

 

 その思いを抱えたまま往け。この想いを抱えたまま逝こう。

 

 儚い夢想、ココロに届け。

 

 希望も何も抱けなかった俺に光を射してくれた貴女に。

 なにも遺せない俺が残せる精いっぱいを。

 

『あたし、貴方にあたしたちのライブを見てほしいの』

 

『貴方にはぜーったいに生で見てもらうの!』

 

 幾度となくみたあの映像が頭をよぎる。

 いつか見たあの光景が脳裏にちらつく。

 

『今度のライブ、見に来てくれないかな。こころ、多分理想だけを言ってるんじゃないと思うんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に、もう一度くらい。

 あいつのライブを見に行って、そこで告げようと思った』





 あちらを立てればこちらが立たぬ。エゴを嫌って彼女を想う彼のその考えは果たして、エゴではないと言い切れるのでしょうかね。
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