提督をみつけたら三次創作〝君が提督を見つけたら〟 作:ジト民逆脚屋
白亜の建物の中、紫煙が煙る一画があった。透明なアクリルの窓から見えるのは、紙巻きから紫煙を燻らす小柄な姿ともう一つ、黒があった。
小柄な方は明らかに幼く、黒い方は明らかに不健康そうな真っ白い肌で煙草の煙の中に居た。
その異質な二人に、入ってきた他の喫煙者は一瞬、目を見開くが、二人だと解るとすぐに何時も通りに火を点けた。
「この場合、どっちに驚いてんねやろな」
「先生にでありましょう。明らかに童女でありますから」
「ははは、こんな年寄り呼びつけといて、よう言うわ」
「ははは、それは申し訳ないであります」
どうにも薄っぺらい笑みを貼り付けた、真っ黒黒助が言えば、赤い童女が口の端を吊り上げる。
気付けば喫煙所には二人以外の誰も居なくなっていた。
「何やろ、こんな可愛らしい軽空母捕まえて、バケモン見るみたいに」
「龍驤先生でありますからなあ」
「なんや、どういう意味やねん」
「ははは、そういう意味でありますよ」
軽い調子で受け答え、新しい紙巻きに火が点いた。
喫煙所の前を通る者、こちらを見て怪訝に見るのは艦連外の者、こちらを見て一瞬怪訝に見るも、すぐに納得するのは艦連の者か。
そう暇潰しに検討をつけていると、隣の真っ黒黒助から何かが差し出される。
「細やかな、感謝の印の様なものであります」
見れば龍驤の若かりし頃から、高級品として在った銘柄、その中でも指折りに高値の細巻きであった。
「奮発したやん。完全に趣味の物やで、これ」
「龍驤先生の名前を出せば、これ一箱分の追加予算は簡単に出る訳でして」
「……つまりは賄賂か」
「……まあ、自分達も中々に入り用でして」
やけに重たい笑みが、喫煙所の空気に粘度を加えていく。
視界が白に占領されるかされないか、そろそろ喉が渇いたと、龍驤と真っ黒黒助が吸殻を灰皿に押し込むと、喫煙所の扉を叩く音が転がった。
見れば、眉間に皺を寄せる青年が居た。
「お、なんや、終わったん?」
「大婆さん、煙草は減らせって言ったろ」
「生意気な坊んやね。ウチの楽しみや、見逃しや」
「大婆さん、また母さんに叱られるぜ?」
「ああ、嫌や嫌や。またそうやって、親子揃ってウチを苛める……」
気付けばまた新しい紙巻きが口の端にあった。
青年は溜め息を吐くと、何やら諦めがついたのか、懐から一枚のラミネートを取り出した。
龍驤にそれを見せると、重そうに肩を回した。
「ほら、これでいいんだろ」
「ん、そうそう。ちゃんと終わったみたいやね」
「しかし、手続き面倒だな」
「なにを、ウチらの頃に比べたら、こんな面倒な手続き無かったからな」
名乗ったもん勝ちやったわ。
そう言うと、実に嫌そうな顔がある。
それを見て、確かに姉弟なんやなと納得し、口の端の紙巻きを箱に納めながら、言葉を続ける。
「ま、その分自己責任やったわ」
「そんなもんなのか」
「そやで。ウチらの頃は黎明の時代、……山の上に廃線になった駅があるやろ。あの周りに人が集まっとったからな」
「それは関係無い」
「いやいや、つまりやな。こんな証明書くれる確かな機関なんぞ、存在せんかった訳や」
仮に在っても、信頼は無かったわな。
「この町に集まっとった連中は、言ってしまえば無頼者。信用信頼に関しては話すに及ばなんだ」
「嫌な歴史を聞いたよ」
「まあ、ウチもその一人やな」
「自らのルーツが無頼者だった件について」
「問題ないやろ。君らにはもう関係無い話や」
くつくつと喉奥で笑い、己よりも背の高い青年の背中を叩く。
快音が響き、叩かれた背中を押さえる。だが、眉間に寄せた皺が緩んでいた。
「君らはホンマに姉弟やね。気負うのもかまんけど、気負い過ぎて余計なもん背負い過ぎや」
「大婆さん、ごめん」
「気にしなや。ウチの仕事やったんや」
引き攣る様に凝っていた肩が楽になっていた。
「というか、姉貴もか」
「おお、そうや。あのアホ娘、長門も面倒なんに目付けられよってからに」
小さな背中が肩を回せば、青年に黒が並んだ。
「それじゃ、ウチの子のお祝いといこうや。真っ黒黒助」
「ははぁ、いいでありますな」
「ははは、なに他人事言ってんねん。君は財布や」
「はい?」
「まさか、ウチの名前出しといて、これ一箱分の追加しか出んかったはないやろ」
黒い笑みがそこにあった。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「まったく、先生にはやられるものであります」
「若造が、百年生きてからにせえや」
「いくら艦娘でも、百年はキツいでありますな」
「なら、ウチはなんやねん」
「ややあ? こんな所に新種の俎が」
「ははは、祟るで、マジで」
おお、堪忍を。と、ふざけた調子で真っ黒黒助が両手を上げる。
龍驤が猪口に満ちた酒を煽り、紙巻きに火を点けた。
「まあ、言うて君も長いよな」
「提督殿に会いたい一心であります」
「会うだけでええんか」
「いや是非にも、そこから先も」
真っ白い顔に紫煙が吹き掛けられる。
「大婆さん、飲み過ぎだ」
「ええやんか、坊ん。今日はええ日や」
「俺が提督だって分かった事がか」
声に堅い響きがあった。見れば表情にも堅さがある。
それを見て、さてどうしたものかと視線を巡らせれば、何やら落ち着かぬ真っ黒黒助が酒を煽っていた。
何とも可笑しかったが、それを置いて龍驤は青年に向かう。
「坊んは、艦娘嫌いか?」
「そうじゃねえよ」
言えば即答が返る。
「ただ、艦娘が起こしちまった事故を見た人間としては、少し構えちまう」
艦娘は人間とは違う。殆ど変わらないとは言え、やはり根本が決定的に違うのだ。
どうしても人間よりも強く、そしてそれによる事故も起きる。
だから、艦娘をよく知らぬ人間は、艦娘を怖がる傾向がある。
「まあ、母さんが母さんだから、大丈夫だろうよ」
「おお、そうやった。おかん、どうよ」
「まさかの三人目……」
「やるやないか」
「いや、でも、母さん……」
「坊ん、言いたい事は分かるで。やけど、現実を見なアカン」
諭す様に龍驤が言えば、青年はテーブルに突っ伏した。
「母さん、松輪じゃんか。あの見た目で三児の母親はキツいものが……」
「坊ん……、呑むか?」
猪口に酒を注げば、一息に干した。
二度、三度と繰り返し、合間に肴を口にして、徳利が三つ並んだ時、青年は鼾をかき始めた。
「ウチには似んかったか」
「いやいや、龍驤先生と何世代離れていると?」
「坊んの母親、あの子は強いで」
「嘘でありましょう」
「マジや。ウチが潰されかけたわな」
言うと真っ黒黒助は参ったと、猪口を空にする。
「挨拶、あの娘も中々に骨が折れそうでありますな」
「瑞穂やったか。あの子の相手」
「ええ、艦連の食堂で働いているでありますよ」
「なら、飯の心配は要らんな」
空になった猪口に新しい酒が注がれ、また空になる。
静かな鼾を肴に、龍驤は新たな幸いを祝し、また一つ徳利を空にする。
「しかし、三人目。どっちやろな?」
「双子ならどうなるであります?」
「両方艦娘か提督、若しくはどっちか艦娘で提督」
「その通りでありますな」
「まあ、ウチの子や。幸せになれん訳がないわな」
空の猪口に言葉が落ちた。
やったぜ!