提督をみつけたら三次創作〝君が提督を見つけたら〟 作:ジト民逆脚屋
「で、実際のところはどういったタネなので?」
実に胡散臭い笑みを浮かべたあきつ丸が廊下の長椅子に座り、彼女の健康診断を終えるのを待つ彼に問い掛ける。
しかし、この少年。追っている時は気にしなかったが、何故にスーツ姿なのか。
「男とは常在戦場、つまり勝負服だよ」
「はあ……?」
母は江風の筈、どうしてこんな風になったのか。
疑問するあきつ丸の横で、少年はあきつ丸の問い掛けに答え始める。
「しかし、タネ、か……。ふむ、君は我々の血統についてどれだけ知っている?」
「粗方は」
「ならば時折、人には見えぬものが見える者が産まれる事もかね?」
「それは……」
情報だけなら知っている。だが、そういった報告は対象が幼年の時分のみで、成長と共にそういった現象は見られなくなっていた。
「私は幼い時より人には見えぬものが見えていた。そして、己が子孫を見守る大祖母の姿も」
「そうでありましたか」
「おや、驚かないのかね?」
「貴方方を頼まれましたから」
「つまり、君にも大祖母が見えたのか」
苦笑し、空のシガレットケースを右手で弄ぶ。
「ええ、実に腹立たしい笑みで」
「実に大祖母らしい」
冷悧と言える非常に整った顔が、さもありなんと笑う。
そして、ジャケットのポケットから取り出した手帳を、あきつ丸に手渡す。
「そこに全てが書かれている」
「ほう?」
「大祖母曰く、長門から引き剥がす事は出来た。しかし、完全に祓い切るには時間が掛かる。そして、彼奴らは最後に必ず悪足掻きをしてくる」
「それが、彼女だったと?」
「うむ。艦娘である命君から艦名を奪い、ついでと名前すら隠し、自身の証明を有耶無耶にしたところで、自分達が命君の魂に入り込む。そうすれば、嘗ての大戦の再開が可能となる。そういった仕組みを企てた訳だ」
「ただの亡霊がそこまで?」
「やるだろうさ」
あきつ丸が手繰る手帳のページを捲り、少年はあるページを指し示す。
そこには
「あの真っ黒黒助は絶対に油断しとる。自分らが何と戦って、戦った相手がどんなもんか。忘れてはおらんやろうが、終わったもんと油断しとる。やから、そこを突かれて憑かれとるやろうから、ちょいと一発小突いて落としたり。だそうだよ?」
「……ぷっ、はははは! これはしてやられたであります! まさか、あの大戦を知らぬ世代に言われようとは!」
あきつ丸は笑った。
可笑しくて、可笑しくて、とにかく笑った。
涙が出るまで笑い、一粒の涙が手帳に落ちたところで、涙を拭い手帳を少年に返した。
「龍驤先生、貴女はどこまで見抜いていたのでありますか……」
右手で顔を隠し俯き、背を丸める。
あの日、初めて会った日もそうだった。
こちらの事を見透かした様に話をして、煙に巻いてはいつの間にか事態の中心で解決に動いている。
死して尚、それをやってのけた。
本当に戦後生まれの艦娘なのか疑いたくなる。
「まあ、しかし解決出来てよかったであります」
「確かにそうだね。もし、命君が堕ちていたら、以前の大戦など比べる事のない悲劇になっていただろうからね」
「それはどういう意味であります?」
「考えてみ給え。命君は艦娘、人類の守護者たる存在だ。その艦娘を怨敵である深海棲艦に堕とす。そうなればどうなるかね?」
「……最悪の事態でありますな」
この世に再び深海棲艦が現れ、それが人類の守護者である艦娘の成れの果てだと知れ渡った時、人類は、いや現代の艦娘を含めて、冷静な判断が下せるだろうか。
ほぼ確実に疑心暗鬼に駆られ、三つ巴も生温い絶滅戦争へ向かう事になる。
少し考えれば判る事の筈だった。なのに、その考えに至れず、ただひたすら彼女を捕まえねばと行動していた。
「そこが君の付け入られた油断だよ」
「つまり、彼奴らは彼女を自分達に確保させ、最悪の決断に踏み込ませた上で、この艦連施設で彼女を深海棲艦として再誕させようとした。という事でありますか」
「うむ。大祖母曰く、まだお空に浮かんどる奴が残っとるんやから、そのくらい考えるやろ。という事だね」
「寒気がするでありますな」
そうなれば、今の体制は崩壊。予想通りの結果となる。
「しかし、いつの間に憑かれたのでありましょう?」
「それは命君が艦娘だと自覚を得た時だろうね。この手の事は早すぎても遅すぎてもいけない。適切なタイミングで、周囲に疑問を抱かせない事が肝心だ」
「ああ、成る程……。つまり、彼女に会った時の感覚がそれでありましたか」
まったく、嫌らしいものだ。
彼女に会った時、とにかく彼女を始末せねばと躍起に駆られながら、しかしそれが正しいのかと二律背反の思いで動いていた。
まさか、それが怨敵の亡霊の仕業によるものだったとは、今にして背筋が凍る思いだ。
「まあ、これで連中も祓われたに等しい。ひとまずは心配は要らないだろう」
「ひとまずはでありますか」
「ああ、そうだ。人に呪いは尽きぬ。ならば、再びと鎌首をもたげてくる可能性だってある。現に、命君はまだ艦名を思い出せていない」
「彼奴らがまだ残っていると?」
「いや、最後の最後の悪足掻きだろうね。命君の中に封じているのだろう。だが、命君は自分の名前を思い出した。時間の問題だろう」
であるならば、
「これから忙しくなるよ。命君」
「え? 健康診断終わっていきなり?」
「ああ、そうだとも! これから我々は君の艦名を取り戻しに行かねばならない!」
血色の良くなった少女の手を取り、少年は喜色満面の笑みを浮かべる。
「取り戻しにって、何処に?」
「まずは我が母に挨拶だ。我が母は大祖母と最後を過ごした艦娘。何か手掛かりになるものを知っているかもしれない」
「ええ! でもいきなり過ぎない?!」
「何を言う! 龍の血統は提督を任ずると言っただろう。私は君が何処に行こうとも、例え水底に沈もうとも見つけ出し、君の手を取る!」
「会話が成立してるようでしてない! ……あきつ丸さん!」
「ははは、後は若い二人に任せるであります」
そう言って、立ち去ろうとしたあきつ丸の肩をしっかりと掴む手があった。
少年の手だった。
「……あの?」
「はっはっはっ、何処へ行こうというのかね?」
「いやいや、もう自分の用は済んだでありますよ
?」
「おかしな事を言うね? 君は我が大祖母から頼まれたのだろう? 私達を頼むと」
「いやー、それはですな……」
「これより先、何が起きるか判らぬ道中。何かあれば、大祖母が祟りにくるかもしれぬ。そうならぬよう、私達が君にエスコートを頼もうではないか!」
「うわ、この強引さ。懐かしいであります!」
どうにか逃げようとするが、艦娘と人間の身体能力差を考えると、下手に強く出れない。
それを理解しているのか、少年はあきつ丸を力強く引き寄せる。
「それに、大祖母との話も聞きたい。……まあ、巻き込まれ給えよ」
「あきつ丸さん」
「み、命さん……!」
「……逃がさないよ」
「こ、このガキ共……!」
見れば、少女もあきつ丸の腰辺りにしがみついていた。
諦めたあきつ丸は溜め息を吐いて、軍帽の位置を直し言った。
「……仕方ないであります。少しの間なら、手助けをしましょう」
「はっはっはっ、では行こう!」
「何処へ行くの? 運命君」
「決まっている。百と十六年の後悔を祓った先にだよ!」
駆け出した少年の後を追う様にして、施設のドアを出ると、一面に広がるのは晴天としか言い様のない青い空。
それが眩しく目を細めると、彼は彼女に向き合いこう言った。
「さあ、命君。行こう。後悔を祓い、己を知り取り戻す日々に」
「うん、運命君。連れて行ってよ。自分を知って取り戻して、過去を祓う日々に」
さあ、この三人の行く末がどうなるのか。
それは誰にも判らない。
しかしまあ、なるようになるんちゃう?
何て言うても、あの子らはウチの子らやからな。