人の終わり、不死人の始まり
ロイドの騎士。
呪われた化け物である不死を狩る英雄のような存在。
そして子どもというのは当然のように英雄に、強いものに憧れるものだ。
多くものがロイドの騎士をめざし体を、技を、心を鍛える。
青年もそんなロイドの騎士をめざすものの中の一人だった。
鍛えられた体は無駄な肉がなく引き締められており、それでいて数多くの騎士たちのように筋肉の鎧でも着ているのではないかと見まごう程に鍛え抜かれているわけでもない。
己の振るう武器と盾を持ち、鎧を着ていても重鈍な動きにならぬよう細心の注意を払い鍛え上げられた肉体である。
単純な力では鍛え抜いた鋼のような体を持つ騎士には敵わないが、そのかわり彼は鎧を着ていながら軽装をしているような素早い動きが可能であった。
青年のそのしなやかな動きは、まるで大地を駆ける狼のようであった。
いつか俺もロイドの騎士に…。
そんな小さな夢の終わりは唐突だった。
青年にダークリングが現れたのである。
ダークリング。
不死人の証であり例え死んだとしても蘇りやがて心をなくした亡者となる、呪われた化け物の証。
そしてこれは青年にとって……ロイドの騎士にとって、狩るべき対象そのものの証であった。
――だから青年はダークリングの事を家族にだけ話し、ロイドの騎士の称号を貰うと共に家を出る決意を伝えるのであった。
……しかし時代は、青年の望みなど関係がないと言わんばかりに進行する。
家族以外の誰にも話していないというのに、ロイドの騎士が家に踏み込んだのだ。
やって来たロイドの騎士に、両親は青年が不死だということを伝えていたのだ。
両親は青年をすぐに連れて行ってくれと言った。
だが、青年の祖母だけはそうではなかった。
祖母はいつも彼女がつけていた指輪とペンダントを青年に渡し、青年に諭すようにこう言った。
「役に立つかどうかわからないが持って行きなさい。私はずっとお前を見てきた。お前には才能がある。不死人? 化け物? 呪われたもの? そりゃぁんだい? お前はお前だよ。お前はお前らしく生きることのできる子だ。自分を失わなけりゃ、どこにいっても生きていけるさ」
青年は不思議な気分であった。
祖母は、まるで世界の終りまで牢獄に囚われることを決定づけられた彼がまだ生を楽しむことができるかのように話していたからだ。
……まるでそれが、約束されているかのように。預言者が予言を告げる時の様に、決定付けられた未来を言葉にして伝えているかのようだった。
祖母が話しを終えると同時に、祖母の部屋にロイドの騎士と両親がなだれ込む。
両親から感じるのは化け物を見る視線。
ロイドの騎士から感じるのは獲物を見つけた狩人の視線だ。
――俺は、こんなやつらになりたかったというのか。
青年はロイドの騎士をめざしていた事が急にばかばかしくなった。
こいつらは盗賊と変わらない。
寄ってたかって獲物を捕まえ、それを己の飯の種にしている。
それが公に認められていることなのか、そうでないかの違いしかない。
そんなことを考えながら騎士たちに取り押さえられると、いつも腰に差していた直剣が押さえつけられた衝撃で半ばから折れてしまった。
その剣は、ロイドの騎士になると口にした時に両親が買ってくれた物であった。
両親は青年のことを化け物を見るように見ていたが、青年は折れた剣を見て少しだけ悲しい気持ちになった。
ここに青年の……名も無き不死の、唯の人間としての生活は終わった。
プロローグ的な何かですので短いです。